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米製薬会社ギリアド・サイエンシズは28日、エイズの原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症の治療薬「ツルバダ」を、感染予防でも承認するよう厚生労働省に公知申請した。予防投与を認める国では新規感染者が減少しており、HIV流行を終結させる切り札として期待される。
公知申請は、国内の臨床試験を省略し、医薬品の製造販売を承認申請できる制度。欧米での使用実績などの条件がある。予防投与は、世界保健機関(WHO)が推奨し、欧米やアジア諸国で承認されている。
ツルバダは飲み薬で、HIV感染症のパートナーがいるなどして、医師が性行為でHIVに感染するリスクが高いと判断した人らが対象となる。適切な服用で感染を99%防げるとする海外の報告がある。
厚労省は、予防投与については、公的医療保険を適用しない方針だ。国立国際医療研究センター(東京)エイズ治療・研究開発センターの水島大輔治療開発室長は「承認されれば、医師らが予防法として情報提供しやすくなる。感染リスクが高い人が確実に服用するには、公費助成の仕組みも必要だ」と話している。
国立感染症研究所によると2023年に新たにHIV感染が判明した人は943人(速報値)だった。 -
季節性インフルエンザの感染拡大が続いている。昨年12月にピークを迎えた後、一度は減少したが、年明け以降に急増し、1シーズンで二つのピークができる異例の事態となった。専門家は「昨年流行したA型に代わってB型の感染が広がり、2度かかる恐れもある」と警戒を呼びかける。
インフルエンザは例年、年末前後に流行入りし、ピークが一つできる。しかし、今シーズンは昨年9月から流行が拡大した。大阪府の本村和嗣・感染症情報センター長は「コロナ禍ではインフルエンザがほとんど流行せず、十分な免疫を持たない人が増えた。(対策が緩和された)昨春以降、社会経済活動が活発化し、3、4か月早く感染が広がった」と指摘する。
厚生労働省は、全国5000の定点医療機関からの報告を基に1機関あたり1週間の患者報告数が10人で「注意報」、30人で「警報」とする基準を定めている。
秋からの流行は12月初旬に報告数の全国平均が33・7人と警報レベルとなった。その後は注意報レベルの12・7人にまで下がったが、年明け以降は5週連続で増加し、2月初旬に23・9人となった。地域別では福岡、佐賀、熊本、大分、宮崎、奈良、京都の7府県が警報レベルとなり、大阪、愛知など4府県で29人を超えて警報レベル寸前だ。
「患者の増加が止まらない」。大阪府東大阪市のクリニック「藤戸小児科」の藤戸 敬士ひろし 院長は話す。2月初旬の1週間の患者数は1か月前の10倍近い108人にまで急増したという。
2回目のピークができた背景には、昨年末にかけて2種類のA型(H1N1型、H3N2型)が流行した後、1月以降に新たにB型が拡大している現状がある。
感染症に詳しい菅谷憲夫・慶応大客員教授によると、B型ウイルスはあまり変異を起こさない。多くの大人では一度かかって得た免疫が保たれて重症化しにくいが、この4年間、B型の流行がなかったため、子どもはほとんど免疫を持っていないという。2月初旬の患者の約7割を15歳未満が占めた。
菅谷氏は「B型でこの規模の感染の山ができることは珍しい。異なるウイルスが順番にピークを引き起こすのも異例だ」と指摘。「結果として、(推計感染者数約1458万人と -
ジェネリック医薬品(後発薬)の供給不足を解消するため、厚生労働省は2024年度にも、製薬会社が薬の生産量を増やす際に行う製造方法の変更について、審査手続きを迅速化する。最長で1年余りかかっているものを1か月程度に短縮できるようにし、増産しやすくする。まずは薬の種類などを限定し、試行的に導入する。
厚労省は、製造会社が薬の原料の種類や量、加工方法などを変更する場合、品質の確保に問題がないか審査している。しかし、現行の制度では、審査に時間がかかるケースが多く、製薬会社が不足する薬を増産しようとしても、すぐに対応できないなどの問題点が指摘されていた。
現在の審査では、製造方法の変更が薬の品質に与える影響の大きさによって、2種類の手続きで対応している。「高リスク」に分類されると審査には数か月~1年余りかかるが、「低リスク」なら届け出だけでいい。今回、この中間にあたる「中リスク」という区分を新たに設け、審査期間は1か月程度にして、製造方法を変更しやすくする。これまで「高リスク」として審査されていた4~5割は「中リスク」に該当する可能性がある。
海外に依存している薬の原料が入手困難になった場合でも、入手先の変更が迅速にできることも期待される。厚労省は試行状況を見ながら、本格導入していきたい考えだ。 -
政府は4月1日以降、新型コロナウイルスに関する公費支援を全面撤廃する方針を固めた。新型コロナ治療薬の公費負担をなくし、患者の保険診療の負担割合に応じて1~3割の窓口負担を求める。入院医療費の公費支援なども打ち切り、コロナ禍の緊急措置から通常の診療体制に移行する。
近く全国の自治体に、厚生労働省が通知する。新型コロナへの公費支援は、2021年10月から、治療薬の全額公費負担が始まった。昨年10月に縮小され、治療薬は現在、年齢、収入に応じて、3000~9000円を自己負担している。
4月からは、重症化予防に用いるラゲブリオを使う場合、1日2回5日分の1処方あたり約9万円のうち、3割負担であれば約2万8000円を自己負担することになる。入院医療費に対する「最大月1万円」の公費支援やコロナ患者用病床を確保した医療機関に支払われる「病床確保料」(空床補償)も終了する。
新型コロナの感染状況は、定点1医療機関あたりの感染者数が13・75人(2月5~11日)と12週ぶりに減少し、今後も低下が予想されている。次の感染症危機に備え、公的医療機関などに入院受け入れなどを義務づける改正感染症法が4月から施行されることもあり、通常の診療体制への移行が可能と判断した。 -
急激に症状が進み、致死率が高い「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)」について、2023年に報告された患者数が、現在の調査方法となった1999年以降、最多となったことが国立感染症研究所の集計で分かった。前年と比べ209人多い941人(速報値)に上った。
STSSの原因となる「溶血性レンサ球菌(溶連菌)」は、ありふれた細菌で、子どもの咽頭炎を招くA群溶連菌がよく知られている。通常は感染しても風邪の症状で済むが、まれにSTSSを発症する。
症状は発熱や手足の痛みなどから始まる。数十時間で腎不全や呼吸不全などを引き起こし、ショック状態に陥って亡くなることがある。手足の壊死を伴うことがあるため、「人食いバクテリア」とも呼ばれる。致死率は菌のタイプで異なるが、3割程度とされる。
感染研によると、これまでの患者数の最多は2019年の894人だった。今年も2月4日時点で、前年同期と比べ155人多い239人に上っている。飛沫や接触によって感染し、患者は高齢者が多いが、23年後半から50歳未満も増えている。
厚生労働省の担当者は「世界的に患者数は増加傾向だが、理由は分かっていない。手洗いやマスク着用などが予防策となる。体調の急変時はすぐに医療機関を受診してほしい」と話している。 -
新型コロナウイルスの感染状況について、厚生労働省は16日、全国約5000か所の定点医療機関から5~11日の1週間に報告された感染者数が、1医療機関あたり13・75人だったと発表した。前週(16・15人)の0・85倍で、12週ぶりに減少に転じた。都道府県別では、能登半島地震で被災した石川(21・91人)が2週続けて最多で、愛知(20・06人)、群馬(19・89人)が続いた。41都道府県で前週より減少した。
インフルエンザは1医療機関あたり23・93人で、前週(22・62人)の1・06倍となり、5週連続で増加した。 -
風邪薬など身近な薬の不足が長引く中、厚生労働省は4月から、医薬品の供給停止や出荷制限の情報をウェブサイトで公表することを決めた。医療機関や薬局が代替薬確保などの対策をとりやすくする狙いがある。
対象は、医師が処方する全ての医薬品。厚労省は〈1〉製品名〈2〉企業名〈3〉代替できる薬〈4〉改善が見込まれる時期〈5〉企業の問い合わせ窓口――などの情報について、企業から報告を受ける。製薬企業が供給を停止したり、注文に応じきれずに限定出荷にしたりした製品が即時に分かるようになる。
また、抗菌薬や免疫抑制剤など、不足すると病院などの医療現場に大きな影響が出る薬については、半年以内に供給不足が起きる恐れがあると企業が判断した場合に、報告させる。厚労省は生産量や在庫量などを迅速に把握し、代替薬を扱う他の会社に増産を依頼するなどの対策をとる。
薬の供給不足は2020年末以降、ジェネリック医薬品(後発薬)メーカーによる不祥事が相次ぎ、業務停止命令などで生産量が減少したことが引き金となった。日本製薬団体連合会(日薬連)の調査では、供給停止や限定出荷となった医薬品は、1月末時点で4629品目。処方薬全体の25・9%で、毎月調査を始めた昨年4月以降で最も高い水準になっている。
日薬連は毎月1回、供給状況を発表しているが、医療現場からは「情報が遅く、代替品の準備が間に合わない」などの声が出ていた。 -
厚生労働相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)は14日午前、2024年度の診療報酬の改定内容を決定し、武見厚労相に答申した。増加する高齢者の救急患者に対応する新たな病棟の創設などが柱となる。業務の効率化に向け、電子カルテなど医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進も後押しする。新しい診療報酬は6月から適用される。
診療報酬は原則2年に1度見直される。政府は昨年12月、医師や看護師らの人件費に回る「本体」部分を0・88%引き上げる一方、医薬品など「薬価」部分を1・00%下げることとし、全体で0・12%のマイナス改定を決めた。これを踏まえ、中医協が医療行為ごとの価格をまとめた。改定の施行時期はこれまで4月だったが、6月に変わる。
今回の改定では、高齢化とともに人口減少が進む「2040年問題」を見据えた対応を盛り込んだ。新病棟「地域包括医療病棟」の創設が大きな目玉だ。
高齢者の救急患者は、誤嚥性肺炎や尿路感染症など軽症・中等症が9割を占めている。新病棟は地域の中小病院を中心に設け、治療からリハビリ、栄養管理、退院支援まで一貫して提供し、重症度の高い患者を受け入れる大病院と役割分担する。
看護師は患者10人につき1人以上配置し、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士のリハビリ専門職を2人以上、管理栄養士は1人以上を常勤で置く。
勤務医の残業時間に上限を設ける「医師の働き方改革」が4月に始まるため、業務の効率化にも力を入れる。医療DXの普及を目指し、体制を整備した場合に加算する仕組みを新設する。マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」から得られた情報を診療に活用するほか、電子処方箋や電子カルテの導入が要件となる。電子処方箋は全国の導入率が6%にとどまり、普及が課題となっている。
患者の受診時にかかる初診料は2910円、再診料は750円と現行よりそれぞれ30円、20円高くなる。初診料の引き上げは消費増税に伴うものを除くと、06年度以来となる。初診患者が少ない一部の医療機関では、初診料がさらに上乗せされて、最大で730円高くなる場合がある。増額分は賃上げの原資にして、医療従事者の人材確保につなげる。4月に始まる「医師の働き方改革」を前に、医療現場に苦悩が広がっている。読売新聞の調査では、違法残業で是正勧告を受ける病院は後を絶たず、病院側からは「医師が足りず、労働時間の削減は簡単ではない」と悲鳴が上がる。課題は山積している。(大阪社会部 田中健太郎、西井遼)
西日本の公立病院に勤務する30歳代の男性医師は「多くの医師が疲弊し、使命感で何とかやっている。働き方改革と言ってもほとんど変わらない」と漏らす。
昨年末のある日、男性は午前7時過ぎに出勤し、まもなく手術を始めて終了したのは午後11時過ぎだった。術後の患者の経過を見守り、帰宅したのは午前2時。3時間ほど睡眠を取って出勤し、また手術をこなした。
男性の病院は数年前、労働基準監督署から是正勧告を受けた。だが、申告する残業時間を調整するよう指示されただけで負担は変わらない。今も時間外の業務は毎月150時間を超える。男性は「日本の医療は医師の自己犠牲で成り立っている」と訴える。
本紙の調査では、2018年以降、都道府県と政令市が運営に関わる公的病院で医師の違法残業で是正勧告を受けた病院は42に上る。
今年4月以降、勤務医の残業時間に罰則付き上限が設けられる。原則年960時間、研修医など特別に認められた場合は年1860時間となる。医師は適用を5年間猶予されていたが、違法残業が続いている。
コロナ禍の20~22年は勧告を受けた病院は少なかった。労基署の調査が困難だったためとみられ、実際は多くの病院で違法残業が行われていた可能性がある。
原因として挙がったのが「医師不足」だ。
厚生労働省によると、医師数自体は増えている。しかし、勤務が不規則な外科や産科など一部の診療科はなり手が少なく偏在し、地方では確保も難しい。今回の調査でも、一部の専門医に業務が偏ったり、離島など他の医療機関が乏しかったりする病院が勧告を受けていたケースが目立った。
産科医3人の違法残業で18年に是正勧告を受けた愛媛県立新居浜病院は県東部の周産期医療や新生児の治療を一手に担う。医師を1人増やしたが、担当者は「妊産婦や日米両政府が科学研究に特化したAI(人工知能)の開発で連携に乗り出すことがわかった。AIの学習に使うデータの共有や、開発に使うスーパーコンピューターの共同利用などを視野に入れる。AIの活用で研究が高速化し、科学的発見を巡る国家間の競争が世界的に激しくなることが見込まれており、同盟国で協力して開発を進める。
日米の連携は、文部科学省が所管する理化学研究所と、米エネルギー省傘下のアルゴンヌ国立研究所の政府系研究機関の連携が柱になる見通しだ。
理研は「富岳」、アルゴンヌ国立研究所は「オーロラ」と、ともに世界トップ級の高性能スパコンをもっている。AIの開発には大量の計算が必要になり、双方のスパコンを活用することを検討する。成果やデータの共有などでも協力を深める方向だ。今春の合意を目指す。
日米両政府はそれぞれ、独自の実験データや論文を読み込ませた研究に特化したAIの開発に乗り出している。日本では創薬などの生命・医科学分野と、新材料などの材料分野に絞って開発を進める方針で、企業や大学に開放し、日本の産業競争力の強化につなげる。文科省は2023年度の補正予算で開発費として約120億円を計上した。
米国もアルゴンヌ国立研究所が気候やがん、宇宙など科学研究向けに大規模なAIを開発すると発表した。高性能のAI開発には良質なデータが必要になり、お互いのデータや開発成果を共有することで、精度の高いAIを開発できる可能性がある。
AIは短時間で大量のデータを分析できる。理研の試算によると、研究向けAIが確立された場合、創薬で成果を出す期間を従来の約2年から約2か月に短縮したり、調べられる範囲を1000倍に拡大したりできる可能性があるという。
研究へのAI活用を巡っては科学的発見の急増がもたらす社会への影響が大きく、リスクも同時に議論すべきだとの声も出ている。研究者の創造性を奪うといった懸念もあるため、文科省は開発する研究向けのAIで、AIの関与を実験など一部の作業に限定する。