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画期的ながん治療法の開発を目指し、京都大は来年4月、国立がん研究センター(東京都中央区)内に新拠点を開設する。京大の最先端の基礎研究の成果を、国内で最もがん治療の実績が豊富な同センターで活用し、治験を加速させる狙い。同センター内に大学の出先機関ができるのは初となる。(編集委員 今津博文)
京大は、がん免疫療法の開発に貢献した本庶佑特別教授がノーベル生理学・医学賞を受賞するなど、基礎研究に定評がある。こうした成果の実用化を促すため、2020年4月、本庶氏をトップとする「がん免疫総合研究センター」を設立するなど、がん治療の進歩に注力している。
だが、学内の京大病院はがん治療に特化した病院ではなく、単独で治験を行う場合、患者の募集や企業など関係機関との調整に時間を要し、治験開始まで1年以上かかるのが課題だ。
一方、国立がん研究センターでは、治験開始までの準備を半年以内に完結し、スムーズに患者を募集するノウハウが確立。患者から採取したがん組織や血液などの検体、臨床データを多数保有し、研究段階の治療法の有効性を事前に調べる体制も整っている。
日本が世界のがん治療をリードするには、基礎研究の成果を迅速に治験につなげる必要がある。そこで京大と同センターは来年4月、共同治験の実施拠点として、京大の研究室を同センター内に開設することを決めた。
同センターの間野博行・研究所長が京大の客員教授を兼任。今後は、京大が構想する新規のがん免疫療法の治験を同センターと共同実施することを計画している。また、同センターの医師が新拠点で学び、京大の学位を得ることも可能だ。
拠点の責任者を務める西川博嘉・京大教授は「米国の主要ながん研究センターは、大学と一体化して成果を上げている。今回の連携で、国内でも世界トップレベルの体制を整えたい」と意気込む。
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政府の生命倫理専門調査会は16日、人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚性幹細胞)などから作った精子と卵子を受精させる研究を条件付きで認める方針を決めた。研究は現在、国の指針で禁止されているが、調査会は培養期間を14日までとするなど条件を定め、指針改定に向けた報告書をまとめる。
受精卵を使う研究は不妊症や先天性疾患の原因解明などに役立つことが期待され、不妊治療で使われずに余った受精卵(余剰胚)が使われてきた。一方、iPS細胞などから作製した精子や卵子を受精させる研究は、そもそも精子や卵子を作製したという報告例がなく、国も禁止している。
ただ、近年はマウスのiPS細胞由来の精子と卵子から別のマウスが誕生するなど研究が急速に進展。人でも応用される可能性が高まったとして調査会が議論を本格化させている。
この日の議論では、幹細胞由来の精子と卵子を受精させたものは「人の受精卵(余剰胚)と同じく、胎内に移植すれば胎児となり誕生し得る存在」と位置付けた。その上で、受精を認めるかどうかについては「科学的・社会的に意味がある研究についてのみ認めるべきだ」として一致した。
さらに、余剰胚研究と同様の規制を設ける方針も確認。具体的には、〈1〉培養期間の上限は苦痛を感じる神経が発生するとされる14日までとする〈2〉人や動物の胎内への移植を禁じる――ことなどで、罰則を設けるかどうかなどは今後の議論で決めるとしている。
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幹細胞から生殖細胞をつくる研究に取り組む京都大の斎藤通紀教授(細胞生物学)は「早ければ5~10年以内には、人の幹細胞から精子や卵子が作られるようになるだろう」と推測。「不妊症や先天性疾患の原因解明には人の発生初期の状態を知ることが非常に重要で、受精容認は適切な判断だと思う」と話した。
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厚生労働省は来年度、深刻な介護職員の不足を受け、東南アジアで介護人材の獲得を強化する。日本の介護事業者が現地で採用活動を行う経費の一部を補助し、インドネシアでは介護の教育プログラムの創設に着手する。高齢化の進展で介護が必要な高齢者が増えるため、外国人材の受け入れに戦略的に取り組む必要があると判断した。
出入国在留管理庁によると、介護の仕事に就くために、在留資格「特定技能」で入国した外国人は2万8400人(2023年末時点)で、政府目標の5割強にとどまる。先進国を中心に高齢化が進む中、国際的な福祉人材の獲得競争が起きていることが背景にある。
厚労省の獲得強化策の一つは、特別養護老人ホーム(特養)を運営する法人や介護福祉士を養成する専門学校などを対象にした渡航費の補助だ。ベトナムやミャンマーなど東南アジア各国の日本語学校や「送り出し機関」を訪問し、勉強や研修をしている若者らを対象に、日本の介護現場の魅力や待遇を伝える説明会を開いたり、面接などの採用活動を行ったりする費用に充てられる。
1法人あたりの補助額は国と都道府県から計100万円。厚労省は来年度、最大約100事業所の参加を見込む。今年度補正予算案に関連経費を盛り込んだ。
公益財団法人「介護労働安定センター」(東京)の23年度調査によると、特養など6割の介護事業所が職員の不足感を訴える一方、外国人材を受け入れたのは1割だ。厚労省は「外国人材の採用に一歩を踏み出す後押しをしたい」(福祉人材確保対策室)とする。
また、海外への人材送り出しに意欲的なインドネシアでは、来年度から3年をかけ、介護技術の教育プログラム「KAIGO」を策定する。厚労省と国際協力機構から、日本の介護保険制度や高齢者ケアの専門家ら計3人を派遣する準備を進めている。
KAIGOは、現地の公的な看護師養成校で学ぶ若者らが対象で、指導教員も養成する。ドイツなどは人材確保に向け、すでにインドネシアで動き出しているという。
海外からの介護人材は介護福祉士の資格試験に合格すると日本で働き続けることができる。日本大学の塚田典子教授(社会老年学)は「国は資格取得を費用面で後押しし、働きやすい
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福岡厚生労働相は13日の閣議後記者会見で、マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」の利用率が、2~8日の1週間は28・3%だったと発表した。11月時点の18・5%から10ポイント近く増加した。
政府はマイナ保険証の利用を基本と位置づけ、2日から従来の健康保険証の新規発行を停止している。マイナ保険証への移行当初の利用状況を把握するため、今回は特別に集計した。
マイナ保険証の利用登録数も増加し、11月時点で前月比約127万件増の約7874万件。前月比の増加幅は3月時点の3倍を超えた。福岡氏は「全ての方が安心して保険診療を受けられる環境整備に取り組んでいく」と語った。
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厚生労働省は13日、全国約5000の定点医療機関から2~8日の1週間に報告されたインフルエンザの感染者数が1医療機関あたり9・03人で、前週(4・86人)の1・86倍だったと発表した。都道府県別では福岡の20・3人、大分の13・41人など13府県で注意報の基準となる10人を超えた。
一方、新型コロナウイルスは1医療機関あたり3・07人で、前週(2・42人)の1・27倍と2週連続で増加した。秋田の9・31人が最も多く、北海道の9・27人、岩手の8・21人が続いた。
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緊急性がないのに大規模病院に救急搬送された患者から徴収する特別料金「選定療養費」が2日に茨城県内で導入されたことを受け、県は10日、2~8日の1週間に対象の22病院へ搬送された1527件のうち、約5・8%にあたる88件で徴収が行われたと明らかにした。一方、同じ1週間における県全体の救急搬送件数が前年同期比で15%以上減っていることが分かり、県は関連を注視している。
同日開催された県議会保健福祉医療委員会で報告した。県によると、選定療養費を徴収したのは22病院のうち15病院で、半数近くの41件が65歳以上の高齢者のケースだった。18歳未満の子供で徴収されたのは13件あった。
該当する主な事例では、軽い擦り傷や、数日前からの腰痛による救急搬送などがあった。県の担当者は徴収について「大きなトラブルはなかったが、小児では緊急性の判断を慎重に行っている病院が多い」と説明した。
県全体の救急搬送件数は8日までの1週間で2586件にとどまり、前年同期より約15・4%減少。担当者は「期間が短く分析は難しいが、不急の救急利用が抑えられた可能性がある」とした。
また、救急車を呼ぶか迷った際に県が利用を呼びかけている「#7119」や「#8000」といった救急電話相談は同期間に2515件あったが、前年同期比で約18・5%減った。新型コロナの相談が少なくなったことなどが影響したとみられるという。
県は今後、病院や医師会、消防などとオンライン会議を月に1度行って検証を進め、今年度中に検証結果を公表する方針。県議からは「検証の透明性が重要だ。議事録も含めて公開してほしい」との要望が出た。
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航行中の船舶で発生した傷病者を、医師らが乗った海上保安庁などのヘリコプターや飛行機で搬送する「洋上救急」の訓練が10日、海保羽田航空基地(東京都大田区)で行われた。医師・看護師と、今年から新たに出動対象となった救急救命士を加えた7医療機関の38人が参加した。
制度は1985年10月に始まり、今年11月末までに海保と自衛隊の航空機による救助件数は全国で1004件、1037人に上る。日本最南端・沖ノ鳥島や最東端・南鳥島より遠い海域もカバーしており、いったん出動すると、医療従事者が勤務先に戻るまでに平均7時間以上を要する。
参加者はこの日、羽田基地でヘリに乗り込み、海保の機動救難士と一緒に心肺蘇生や点滴、気管挿管などの手順を確認。ヘリや飛行機に搭載されている救助資機材の点検なども行った。午後には駐機場でヘリのエンジンを起動して騒音の度合いを体感しながら、ヘッドセットを通じた意思疎通を練習する。
同僚の看護師らと参加した日本医科大学付属病院・高度救命救急センターの下西颯医師(28)は「思ったよりスペースが狭く、普段と違って座りながらの処置になるが、傷病者とのポジショニング(位置取り)を含め、あらかじめ確認できてよかった」と話していた。
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厚生労働省は9日、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」を利用し、意識不明に陥った救急患者らの医療情報を、本人の同意なしに病院が閲覧できるシステムの運用を始めた。処方薬や手術歴などを救急医らが把握し、的確で迅速な治療につなげることで、救命率の向上や後遺症の軽減を目指す。
現在、マイナ保険証で受診する患者が同意すれば、過去5年間の受診歴や処方薬、特定健診の結果を医療機関は閲覧できる。これらの医療情報は、レセプト(診療報酬明細書)などのデータを活用している。
新システムでは、意識不明や会話が困難などで意思確認ができない場合、医師が救命や回復のために必要と判断すれば、本人の同意なしに情報を閲覧できる。
救急用にまとめた情報も確認できる。直近3か月に限定した受診歴や薬の情報などで、関係学会の助言を得て厚労省が絞り込んだ。
医師は新システムの導入で、患者の医療情報を速やかに把握できる。例えば、血を固まりにくくする抗血栓薬の使用がわかれば、出血しやすい点に注意して治療を進められる。
厚労省は2025年度、マイナ保険証を利用する患者の電子カルテ情報を、医療機関同士で共有する仕組みを導入する方針だ。導入後は、アレルギーの有無や感染症の検査結果も、新システムで閲覧できる。
厚労省によると医療機関や薬局でのマイナ保険証の利用率は今年10月時点で15・67%にとどまっている。
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移植医療体制改革を検討してきた厚生労働省の臓器移植委員会は5日、移植希望者が移植を受ける施設の複数登録を可能にし、臓器あっせん機関の日本臓器移植ネットワーク(JOT)から業務の一部を新設法人に移行する最終案を了承した。脳死下の臓器提供数の増加で、移植施設が人員や病床の不足などから臓器の受け入れを断念している問題などを受け、抜本的に見直す。
1997年の臓器移植法施行後初の大幅な改革となる。国内の待機患者は今年10月末現在で約1万6500人いる。移植施設が臓器受け入れを断念しても別の施設で移植を受けられるよう患者が登録する施設を現在の原則1か所から複数にする。今年度中にJOTのシステムを整備し、当面は登録できる施設を2か所までとする。
患者が施設を選ぶ手がかりとして施設ごとの待機患者数や移植実施数なども公表する。移植後の患者の生存率といった移植成績に関する情報については、関連学会で検討を進めるとした。
JOTから、臓器提供者(ドナー)家族への臓器提供の説明や同意取得などを切り離し、地域ごとに置く新設法人に移譲する。
臓器提供の経験が浅い施設を支援する拠点施設を大阪府や北関東、甲信越などに設置する。
また、知的障害などで意思表示が困難な15歳以上の人について、家族の臓器提供の同意があっても提供を見合わせるとしている臓器移植法の運用指針も改正する。本人の意思を丁寧にくみ取り、臓器提供の可否を判断するように見直す。
同委員会での議論や障害者団体などからの意見を踏まえ、厚労省は、障害があっても意思の推定が可能であれば、臓器提供を可能とする方針を示した。今後、改正への意見を募るパブリックコメントを実施する。
厚生労働省は5日、今年9月に公表した臓器受け入れ断念の初の実態調査結果について、2023年に人員や病床の不足など院内態勢が整わないことを理由に臓器の受け入れを断念したのは25施設から26施設に、移植が見送られた患者数は、のべ509人から803人に訂正すると発表した。
集計ミスに加え、左右に一つずつある肺と腎臓について集計方法を変えたことが理由としている。
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iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った網膜の細胞を移植する臨床研究を進めてきた神戸市立神戸アイセンター病院は、早ければ来年1月にも、この治療を入院や検査の費用に公的保険を利用できる「先進医療」として厚生労働省へ申請することがわかった。認められれば、iPS細胞を使った細胞移植治療では初となる。
神戸アイセンター病院の栗本康夫院長らのチームは、網膜を支える色素上皮細胞の層が変性して視力が低下したり、視野の中心部がゆがんだりする「網膜色素上皮不全症」の患者の目に、iPS細胞から作った網膜色素上皮細胞を、髪の毛ほどの太さのひも状に加工して移植する治療法の開発を進めている。
この方法は手術が比較的容易で、移植した細胞が定着しやすいと期待されている。これまでに30~60歳代の男女の患者3人の網膜に移植を行い、安全性などが確認できた。見え方が改善した人もいるといい、栗本院長らは6日から大阪市で開かれる学会で、3人の治療後の詳しい経過を報告する。
先進医療は、まだ実施例が少なく、保険適用されていない先駆的な治療や検査について、費用負担を抑えることで実施例を増やし、将来の保険適用を目指す仕組みだ。治療そのものの費用は患者や医療機関が負担するが、入院費など関連する医療費の一部は公的保険を使うことができる。
チームは、移植する細胞の数を増やして患者15人に実施する新たな臨床研究を計画している。
厚労省の再生医療の専門部会は昨年以降、この計画について先進医療の申請を認めるかどうかの検討を行っており、申請後は同省の先進医療に関する専門家会議で議論される。
栗本院長は「先進医療になれば多くの施設で移植ができるようになり、より一般的な治療に近づく」と話している。