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筑波大付属病院(茨城県つくば市)は19日、同病院で約3年にわたり体外式補助人工心臓(体外式VAD)を装着し、心臓移植を待っていた10歳代の男児が昨年、移植に成功したと発表した。体外式VADには合併症を起こすリスクがあり、これを装着した子供が無事に移植に至ったのは県内初という。
同病院によると、男児は、本来なら二つある心室が生まれつき一つしかない心臓病を患っており、心臓移植のほかに治療法がない重症心不全となって同病院に救急搬送され、体外式VADを装着してドナーが見つかるのを待っていた。昨年にドナーが見つかって東大医学部付属病院で心臓移植手術を受け、現在は自宅で過ごせるまでに回復しているという。
補助人工心臓は、機能が落ちた心臓の血液の送り出しをポンプで助ける。大人はポンプを体内に埋め込めるが、体の小さな子供は埋め込むことができず、体外にポンプを設置する。胸部に穴を開けてポンプにつながる管を体内に通すため、傷口から細菌が入って感染症になるリスクがある。
さらに1台約4000万円と高額で、17日現在、国内で利用できているのは12施設の22人のみ。装置が少なく、希望しても着けられなかったり、着けても合併症で亡くなったりする例もある。
これまで移植医療の実績を積み重ねてきた筑波大付属病院では今回、医師や看護師、臨床工学技士や理学療法士ら他職種のスタッフが連携し、男児を24時間体制で見守ってきた。保護者は「医療チームの皆さんが、息子が前向きに過ごせるようにと心がけてくれたことは心の支えだった。安定して過ごせていることに感謝の気持ちでいっぱい」とコメントした。
同病院の平松祐司院長は都内で19日に開いた記者会見で、「移植医療は高度な技術が必要で不安も伴うが、国や自治体からのサポートは少ないと感じる。今回のことが、(社会全体が)移植医療を考えるきっかけになってほしい」と述べた。
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科学的根拠の乏しい再生医療が自由診療で広がっている問題で、日本再生医療学会は19日、有効性が検証できる再生医療を、自由診療の中でも「検証型診療」として推奨することを決めた。検証ができない再生医療を減らして信頼を回復する狙いで、学会が検証型診療を認定し、公開する制度の創設も検討する。
再生医療は、人の細胞を加工して人体に投与し、失われた組織や臓器の機能を回復させる。有効性を科学的に検証した17の再生医療製品が国に承認されている。
一方、利用者が全額自己負担で受ける自由診療には有効性の審査がなく、「がん予防」「抗加齢」などをうたい効果が不明な再生医療が行われている。国際幹細胞学会は今年2月、厚生労働省に監督の強化を求める異例の声明を発表し、日本への批判も高まっていた。
そこで同学会は、自由診療の中でも医療機関が治療成績などを第三者機関に登録し、有効性を検証する再生医療を「検証型診療」とし、その他を「無検証診療」として明確に区別する方針を決めた。無検証診療は、個別の医療機関で▽専門外の医師が治療している▽誇大な効果など誤解を招く情報を出している――なども該当するとした。
岡野 栄之理事長は横浜市で開いた記者会見で、自由診療でも「安全性や有効性を統計的に議論できれば再生医療の底上げにつながる」と語り、無検証診療を実施する医療機関に対しては「早く検証型に移行すべきだ」という考えを示した。
区分の基準は学会で議論し、指針を策定する。一般市民が、受診したい再生医療が検証型か無検証かを調べられる仕組み作りも検討する。保険会社と連携し、検証型診療を対象とする保険商品を作ることも視野に入れているという。
日本再生医療学会は約6000人の医師や研究者が所属している。研究発表などを行う学会は20~22日、同市で開かれる。
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患者本人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)を全自動装置で作製する「my iPSプロジェクト」を進める京都大iPS細胞研究財団(山中伸弥理事長)は18日、4月にオープンする細胞製造施設を報道陣に公開した。細胞製造に関する国の許可を近く取得する見込みで、高品質の医療用iPS細胞の作製を始める。
総工費約15億円の新施設(約1400平方メートル)で、最先端医療の国際拠点「中之島クロス」(大阪市北区)内に完成。ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長からの寄付を基に整備され、「Yanai my iPS製作所」と命名された。
患者一人ひとりの血液からオーダーメイドのiPS細胞を約3週間で作製可能といい、財団の塚原正義研究センター長は「患者に届けるための第一歩だ。iPS細胞の自動製造技術を世界に広げていきたい」と話した。
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厚生労働省は14日、全国約5000か所の定点医療機関から3~9日の1週間に報告された新型コロナウイルスの感染者数が1医療機関あたり4・07人だったと発表した。前週(4・42人)の0・92倍となり、5週連続で減少した。
一方、インフルエンザは1医療機関あたり2・02人で、前週(1・89人)の1・07倍と、8週ぶりに増加に転じた。
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厚労省は、10~16日の1週間分の定点報告について、24日に発表する。20日が祝日となり集計作業が難しいとして、変更した。
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【ベルリン=工藤彩香】ドイツの有力紙ツァイトと南ドイツ新聞は12日、ドイツの対外情報機関が2020年、新型コロナウイルスが中国・武漢のウイルス研究所から流出した可能性が高いとの極秘報告書をまとめ、独首相府に提出していたと報じた。
報道によると、独連邦情報局(BND)は、19、20年に執筆された新型コロナウイルスに関する未発表論文などを入手して分析。報告書では、武漢のウイルス研究所が、人間に感染しやすいようウイルスを改変する実験を行っていたと指摘した。ウイルスの扱いはずさんで、多くの安全規則違反があったとし、ウイルスが研究所から外部に流出した可能性が「80~95%」で非常に高いと結論付けた。
ウイルスの発生源を巡っては、研究所から流出した説と、動物を介して人間に感染したとする説とで論争が続き、23年6月公表の米政府の報告書でも原因特定には至らなかった。BNDの報告書は米中央情報局(CIA)にも共有されたといい、今後、論争に影響を与える可能性もある。
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微小な穴が規則正しく並んだ「結晶スポンジ」と呼ばれる物質を使い、従来は難しかった大きな分子の構造解析に成功したと、東京大の藤田誠・卓越教授らのチームが発表した。次世代薬の材料を探す研究に応用が期待されるという。論文が5日、科学誌ネイチャーケミストリーに掲載された。
医薬品の材料になる物質の分子構造は、効果などに影響するため、X線を使った正確な解析が求められている。解析には分子が規則正しく並んだ「結晶」を作る必要があるが、難易度は高く、時間もかかっていた。
チームはこれまで、結晶化したスポンジ状の物質に、解析する試料を染みこませる「結晶スポンジ法」と呼ばれる手法を開発。一つ一つの穴に試料の分子を整然と並べることで、結晶化した時と同様の解析ができる。
チームは今回、この手法を改良した。従来の手法は、サイズの小さい「低分子」しか解析できなかったが、分子をとらえる穴をかご状にすることで、より大きい「中分子」の解析も可能になった。
さらに従来は難しかった水に溶けやすい試料の解析も可能になり、活用の幅が拡大。1試料あたりの解析時間も1か月から1日に短縮し、100種類超の構造を数か月で解析できたという。
中分子の化合物を使った「中分子薬」は、既存薬で治療が難しい病気にも効果のある次世代薬として研究が進む。藤田氏は「(自然界には)薬の元になる無数の宝がある。通常は検知さえ難しい物質を解析し、創薬につなげたい」と話す。
藤田氏は、分子がひとりで組み上がる「自己組織化」という現象を利用し、様々な形状の物質を作り出す研究を進めてきた。結晶スポンジ法も、この研究の応用で開発され、藤田氏は一連の成果でノーベル化学賞の有力候補にも名が挙がる。
河野正規・東京科学大教授(結晶化学)の話「解析例はまだ少ないが、今後様々な中分子に適用できれば、創薬の効率化などに貢献すると期待できる」
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医療費が高額になった場合に患者負担を抑える「高額療養費制度」の見直しを巡り、政府が示した修正案通りに負担の上限額が引き上げられると、制度の対象となっていた患者の7割以上で自己負担が増えるとの試算を、東京大の五十嵐中・特任准教授(医療経済学)が26日、明らかにした。がんだけでなく、循環器疾患や糖尿病など幅広い病気に影響が及ぶとした。
試算は、健康保険組合と国民健康保険に加入する70歳未満の約4900万人について、2022年度の診療報酬明細書(レセプト)データから推計した。同年度に1回でも制度の対象になったのは約187万人。修正案通り見直しが進むと、少なくとも約8万4000人(4%)が制度の対象外になるなど、約136万人(73%)が現行制度より負担が増えた。疾患別にみると、大腸がんや乳がんなど固形がんが約28万人、循環器疾患が約78万人、糖尿病が約41万人だった。
政府は昨年末、制度の上限額を今夏から段階的に引き上げる見直し案を示した。これに対し患者団体が反発。今月14日、長期治療が必要な患者の負担を軽減する「多数回該当」を現行制度のまま維持する修正案を示した。
26日、東京都内で記者会見した全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は、今回の試算について「負担増となる患者が、様々な病気でこれほどいるのは深刻だ。いったん立ち止まり、見直しを凍結、修正する必要がある」と訴えた。
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胃カメラで採取した液体を調べることで早期の膵臓がんを高精度に発見する手法を開発したと、大阪大などのチームが26日、発表した。5年後の実用化を目指すという。論文が国際医学誌に掲載された。
胃カメラで採取した液体を調べることで早期の 膵臓すいぞう がんを高精度に発見する手法を開発したと、大阪大などのチームが26日、発表した。5年後の実用化を目指すという。論文が国際医学誌に掲載された。
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2024年に実施された脳死下の臓器提供130件のうち、過去最多の83件が休日に集中していたことが読売新聞のデータ分析でわかった。前年に続き高止まりしており、移植施設の人員や病床が逼迫し、臓器受け入れの見送りにつながっている可能性がある。厚生労働省は、患者が登録する移植施設を複数にするなどの対策を進めており、効果が上がるか注目される。
厚労省の調査によると、院内態勢が整わないことを理由に臓器受け入れを見送ったのは23年で26施設、患者数は延べ803人に上った。理由の一つとして、臓器の摘出手術が休日に偏り、移植施設への臓器の受け入れ要請が休日に集中したことが挙げられる。
日本臓器移植ネットワークの発表資料を本紙が集計し、独自分析したところ、24年の臓器提供件数は130件で、前年(132件)に次ぎ2番目に多かった。そのうち、摘出手術が土日祝日に行われたケースは過去最多だった前年より2件多い83件(64%)に上った。
休日への集中は年々増加傾向にある。19年までの5年間の平均41%に対し、24年までの5年間は同61%に拡大した。結果として、同日に複数の摘出手術が行われた日が24年は27日(うち休日は22日)と過去2番目に多かった。
背景には、平日はがんや心臓病など通常の手術予定で埋まっており、予定外に入ってくる臓器摘出手術は休日に回されるケースが多いほか、休日の方が脳死者の家族が看取りのために集まりやすいことがある。
特に、心臓、肺、肝臓は一部の医療機関に移植手術の受け入れが集中する傾向にある。本紙の分析では東京大、京都大、東北大の上位3機関で移植手術の51%を占めた。
厚労省は、移植施設が臓器受け入れを見送っても、移植を待つ患者が別の施設で移植を受けられるように、患者が登録する施設を複数化する対策を進めている。
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患者一人ひとりの血液からオーダーメイドのiPS細胞(人工多能性幹細胞)を全自動で作る京都大iPS細胞研究財団(理事長=山中伸弥・京都大教授)のプロジェクトが4月、大阪市北区にある最先端医療の国際拠点「中之島クロス」で始動する。年内にも大学や企業に試験的に細胞の提供を始め、将来は年間1000人分の作製を目指す。
山中教授は2019年に「my iPSプロジェクト」を提唱。「みかん箱くらいの密閉された装置の中で、iPS細胞を全自動で作れるようにする」と構想を語った。その後、国内外の企業と研究を進め、装置がみかん箱より一回り大きい点を除けば、ほぼ実現可能な段階にきたという。
中之島クロスではドイツ製の自動培養装置を4台から14台に増やし、iPS細胞を安定して作製できるラインを構築する。日本製の装置の開発も進んでおり、1人分で5000万円かかるとされた製造コストを、100万円以下に抑える目標を掲げる。
再生医療に使うiPS細胞は、健康な人の血液から作って財団が備蓄する細胞が大半を占めている。山中教授らは、これまでに日本人の4割に適合する細胞をそろえたが、さらに増やすには珍しい型の細胞を持つ人を見つける必要があり、難しいという。今回のプロジェクトで患者本人から安くiPS細胞を作れるようになれば、理想的な形で補完できる。
財団の塚原正義・研究開発センター長はプロジェクトについて「患者の治療に使われなければ意味がない、という思いで進めてきた。医療現場に届けるまでやり遂げたい」と話している。