第4回

ロボットとAIが変えていく 最先端の内視鏡外科

新専門医制度の一番の目的は?

― 新専門医制度がまもなく始まります。

金平
新専門医制度はノリの方が関わりがあるよね。
稲木
2018年にようやく始まると言われていますが、メディアでは制度の背景であるとか、機構の重鎮の先生方の問題などが取り上げられています。しかし、何が一番の目的なのかをもう少しはっきりさせてほしいというのが僕の率直な意見です。国民や患者さんにとって、分かりやすい専門医を見つけるための制度であるべきだし、それが国民にとっての最大のメリットでないといけません。既存の学会はたくさんありますが、それぞれが歴史を持って、専門医を作ってきたのです。これを改めて共通のものにすることが簡単にできるのかなという不安や心配がありますね。現時点で、僕らが維持すべき専門医はたくさんあるのですが、今の診療をやっていくうえで、本当にこの専門医を維持しておくことが必要なのかという疑問もあります。逆に、絞り込んだ専門医だけでも本当にいいのかという疑問もありますから、今後も混沌としていくのではないでしょうか。
金平
難しい問題ですよね。例えば、外科、消化器外科とくくっても、色々なタイプの働き方があります。一つの臓器に特化して、世界の誰にも負けないぐらいの道を歩きたいとか、ワイドなスペクトラムで何でもできて、地方の基幹病院のような場所で働きたいとか、教育はせずに淡々と診療をしたいとか、教育をしたいとか、色々な種類の働き方やキャリアを通じてのプランがあると思うんです。そうした一人一人のキャリアの展望が違うことに対応していかないといけないんですよね。最終的にはどこで働きたいという、地理的な問題もあります。こうした中で、医師の偏在といった問題まで解決していこうというのは難しいでしょう。一人一人のニーズに合わせて、「あなたはここだ」というのは現実的に無理だし、今は紆余曲折しているところでしょう。我々は80床の街なかの病院ですが、「小さな病院では教育は無理だ」と決めつけるような先入観も止めてほしいです。

― アミーサ道場は日本内視鏡外科学会のクレジットポイントが付与されますよね。

金平
できることとできないことがありますが、規模ではなく、そこにいる医師の教育のレベルを見ていただきたいですね。そういうところにマッチする人もいるのだということをオプションの中に入れていただければと思います。

金平永二先生

― 発信も大事ですね。

金平
稲木が言ったように、最後は「専門医を取ったら、何がいいんだ」となるでしょうが、今は専門医を取っている人でも取っていない人でも手術のスキルがどうであっても、何も加算がないんです。最終的にはそういうことですよね。クオリティの高い医療を提供する者に関してはそれに見合った、価値のあるペイをもらえることがモチベーションになるべきです。その辺を見据えた制度を作ってほしいと希望しています。
稲木
今までの僕らは内視鏡などの内科的なことなど、色々なジェネラルな診療技術をやりながら、外科の専門医を持ってきました。しかし、今の若い医師は外科を目指すのであれば、胃カメラの技術などを学ぶ機会がほとんどなくなってきています。内視鏡の胃カメラの粘膜切除は内科の内視鏡医師の仕事であり、我々外科医の仕事ではありません。「つぶしが利く」という言葉は適切ではないかもしれませんが、外科医として勤務していた人が開業するにあたっては内視鏡ができるというのはつぶしが利いていたんですね。僕たちの世代の外科医は若いときに内視鏡をやってきていますから。それが今後はできなくなるのではないでしょうか。外科を目指すのなら外科ばかりをしなくてはいけなくなります。しかし、全ての外科医が外科ばかりを専門的に続けていくわけではありません。開業医になることもあれば、小さなクリニックに勤めることもあるでしょう。そうした曖昧な部分が認められなくなる可能性があります。胃カメラができない、外科で育った人がクリニックに行きたくなったら、どうするんだろうと思いますね。専門医制度は一人の医師に対して、寛容な部分を持ってほしいものです。ドイツでは卒後5、6年目で専門医か、家庭医かの分かれ道がありますね。
金平
そうだよね。
稲木
そこで専門医を目指すか、家庭医を目指すかが決まるのですが、日本の専門医制度もその部分を真似したのかもしれません。

― ドイツでは変更はきかないんですか。

金平
きくかもしれないですが、現実的には難しいでしょうね。
稲木
一旦ジェネラルに行くと、難しいですね。
金平
スペシフィックなところには戻れないでしょう。

金平永二先生・稲木紀幸先生

最先端の内視鏡外科

― 内視鏡外科の最先端のお話もお聞かせいただけませんか。

稲木
腹腔鏡の延長として、僕の勤務先でもダ・ヴィンチを使って、胃がんのロボット手術を始めたところです。まだ保険外の状況ですが、新しい技術ですし、未来を感じる手術です。しかし、現行では一般化しないなと思っています。

― 一般化への障害はどんなところにあるのでしょうか。

稲木
やはり大がかりな機械ですし、ロボットには得意なところと不得意なところがあると感じています。ロボットは1カ所だけを細かくやるのであればいいのですが、大きな視野で自由にばーっと動くようなものは苦手です。そこで、僕らが使っている腹腔鏡の技術の延長として、ロボットをうまく、簡便に使えるようなものがあるといいなと思います。実はそういったコンセプトのもとでラディウスという多自由度鉗子が開発された経緯があるのですが、操作性が完全にマニュアルだと難しくなって、追いつかないところもあるんですね。将来的には、簡単でありながら、ロボットとマニュアルがうまく融合した技術ができればいいですね。
金平
稲木が言ったことが大きな問題なんです。2、3年前の国際学会で、アメリカの有名な外科医が「最先端のテクノロジーを医療に導入すれば、何でもできる。スペースシャトルのような航空技術の一部を何百億ドルかけて医療に投入すれば、すごい機械ができるが、それでいいのか」と発言したことがありました。どんどんオートマティックになって、人間の力を使わなくなると、コストが高くなるばかりです。その外科医は人間として、技術を磨いていかなくてはいけない、何でも電気じかけにしたり、ディスポーザブルにしていったことに反省する言葉を述べていましたが、稲木が言ったことがまさにそうですね。一つの方向として、ダ・ヴィンチができることをもっと安く、メカニカルにして、人間の力を加えながら改良していかなくてはいけません。

金平永二先生

稲木
もう一つはAIですよね。
金平
AIは今後の医療には出てくるものです。既にAIに近いものが導入されつつありますが、正確ですし、安全ですから、それを使わない手はないと思います。必ずしもロボットで自動的にやることではなくて、我々が培ってきた経験を活かしていきます。例えば、「この動脈がここにあるから、ここを剥離するんだ」ということを人間の力でもって、それをフィックスし、セッティングしたら、あとはAIがプログラミングされたことをやってくれるというような、AIと人間のハイブリッドになってくるのではないでしょうか。これからの10年、20年、そこへの投資は増えてきますし、面白いところですね。それからヴィジュアル系、イメージ系の進化です。人間の目で見るものに近くなっていきます。4Kのように、どんどん解像度が高くなるだけではなく、全体を俯瞰したり、関心領域だけをスポット的にクローズアップするなど、顕微鏡レベルで見られるようになるでしょう。
稲木
僕たちの診断レベルだとAIに簡単に置き換えられる可能性は高いと思いますが、手術がどこまでヒューマノイドロボットに置き換えられるのかということは想像つきませんね。手術中の出血のような場合、その瞬間の判断をAIが本当に獲得して、やっていけるのかは分かりませんので、結局はAIを僕たちの便利なツールにしていく必要があります。最終的な判断をオーガナイズするのは人間であり、僕たちがAIをいかに利用するかで、手術が安全になったり、正確になっていけばいいですね。手術全部がAIに置き換えられたくはないですよ(笑)。
金平
AIを構築していくのは別のフィールドのエンジニアですが、医師はAIの応用範囲や安全性の検証に関わっていくべきですね。例えば、手術中にヒューマンエラーでうっかり忘れたというところにAIが導入されて、ハイブリッドになっていれば、そうした事故がなくなる可能性もあります。ただ、解剖を認識したり、稲木が言ったように、突発的に起こったことに対して、AIが判断し、リカバリーしていくようになるには相当な時間がかかるでしょう。人間の力がどうしても必要です。そのコンビネーションをどのぐらいにしていくかというのは難しいところでもあるし、面白いところでもあると思います。

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  • プロフィール
    金平 永二
    (かねひら えいじ)

    メディカルトピア草加病院 病院長
    AMG内視鏡外科アカデミー 代表

【略歴】
京都府出身。1985年に金沢大学を卒業し、金沢大学医学部附属病院や関連病院で外科の研修をする。1991年から1992年までドイツTuebingen大学医学部外科 Gerhard Buess教授の指導のもと、内視鏡外科手術を学ぶ。2002年4月からフリーランス外科医として、患者や病院からの依頼を受け、内視鏡外科手術を行った。依頼手術を行った病院は全国60カ所以上にのぼる。2008年12月に上尾中央医科グループでAMG内視鏡外科アカデミーを発足させる。2012年1月に同グループが新たに建設したメディカルトピア草加病院に院長として着任。また、内視鏡外科道場「アミーサ」を主宰し、若手医師を育てている。

【資格】
日本外科学会専門医
日本消化器外科学会指導医
日本消化器内視鏡学会指導医
日本内視鏡外科学会技術認定医 など。

  • プロフィール
    稲木 紀幸
    (いなき のりゆき)

    石川県立中央病院消化器外科診療部長
    金沢大学先進総合外科臨床准教授
    金沢医科大学一般・消化器外科非常勤講師

【略歴】
1971年福井県生まれ。1997年に金沢大学を卒業し、第一外科(現 先進総合外科)に入局し、金沢大学医学部附属病院で研修医となる。 2004年6月にドイツTuebingen大学医学部外科最小侵襲外科部門 のGerhard Buess教授の指導を受けるほか、、新しい内視鏡手術機器の開発など、様々な活動を展開。 2006年の帰国後は金沢大学大学院医学研究科地域医療学講座助手を経て、2007年に石川県立中央病院消化器外科診療部長に就任。
また、金沢医科大学一般・消化器外科非常勤講師と、2017年からは金沢大学先進総合外科臨床准教授を併任している。

【資格】
日本消化器外科学会がん外科治療認定医・専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・学術評議員
日本がん治療認定医機構認定医・暫定教育医・暫定胃腸科指導医
日本消化器病学会専門医
日本内視鏡外科学会技術認定医・評議員 など多数。

内視鏡道場 AMESA(アミーサ)

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