コラム・連載

2020.4.15|text by 中島 貴子

第5回 腫瘍内科医に求められるもの

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腫瘍内科医に求められるもの

腫瘍内科医に求められるものについて、お聞かせください。

大きく分けて二つあります。これは私たちの講座の方向性とも一致するものですが、一つはエビデンス以外の実力を磨くこと、もう一つは探究心です。腫瘍内科はエビデンスの移り変わりが激しいですし、エビデンスベースドメディスンをしている典型的な職域ですが、そのエビデンスを目の前の患者さんにフィットさせるには薬物療法の裏に隠れている支持療法や緩和ケアへの理解が必要です。そして、コミュニケーションスキルですね。そういったものがないと、目の前の患者さんがハッピーになりません。しかし、エビデンス以外の実力を磨くことに関して、実はあまり教育システムがないんです。もちろん、当院では緩和ケアの講習やスピリチュアルケアの勉強会などを受講することはできますし、経験に左右されるところも大いにありますが、やはり努力をすること、センサーを持つことを意識してほしいです。

どのようなセンサーですか。

自分がそういうケアができているのかどうか、常に振り返ることのできるセンサーです。若いときはうまくいかないこともありますし、私のようにキャリアを重ねたとしてもなかなかうまくいかないときもあります。でも、そのようなときこそ、自分はきちんとできているのか、患者さんのニーズを十分に満たしているのか、患者さんとコミュニケーションをしっかり取れているのかを感じるセンサー、そして考えるセンサーを持っていてほしいですね。

もう一つの探究心について、お聞かせください。

がんはいまだに患者さんが亡くなっていく病気です。早く見つけなければ亡くなってしまう典型的な病気として残っています。したがって、腫瘍内科医には与えられているエビデンス、黙っていても出てくるエビデンスに満足することなく、より良い治療に繋げるための探究心や興味を持ってほしいです。医師全員が臨床試験に参加する必要はないですし、臨床試験を計画する必要もありません。しかし、たとえ小さい病院で地域医療に打ち込んでいる医師であっても、そういう興味を持ってほしいと思っています。

若手医師へのメッセージ

若手医師の皆さんにメッセージをお願いします。

腫瘍内科は全人的医療の最たる領域です。死にゆく患者さんをいかに支え、いかに伴走するのかを考えなくてはいけません。もちろん、長期生存する人、治癒する人を増やすことも私たちがしなくてはいけない仕事ですが、現実はそんなに簡単には変わらないものです。やはり、お亡くなりになっていく患者さんの伴走者として全人的医療をすることの意義深さを日々感じる領域です。人に興味のある方に是非、飛び込んできていただきたいと思います。

今後、がんは制圧に向かいますか。

もちろん向かっていくでしょうし、向かっているところです。ただし、がんの制圧とは何なのかということも一方で考えなければならないことだと思います。がんになった人が100人中、100人治ることが人類にとって本当の幸せなのでしょうか。私は疑問を感じます。治る人は増えるべきです。でも、人間はいつか死ぬんです。死にゆく人にいかに穏やかな最後を迎えていただき、いかに見送るのかということががん制圧のもう一つの柱だと思います。だからこそ、オンコロジーと緩和ケアなどの融合が大切なのです。私はがん制圧に向けて、こうした融合にも挑戦していきたいですし、若い先生方にも色々な考え方を吸収していってほしいです。

ありがとうございました。

著者プロフィール

中島貴子教授 近影

著者名:中島 貴子

京都大学医学部附属病院 次世代医療・iPS細胞治療研究センター 教授

聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座教授、聖マリアンナ医科大学病院腫瘍内科部長、
腫瘍センター長

  • 1971年 東京都江東区に生まれる
  • 1990年 東京大学教養学部理科II類に入学する。
  • 1991年 横浜市立大学医学部に再入学する。
  • 1998年 横浜市立大学医学部を卒業後、大森赤十字病院で研修を行う。
  • 2000年 神奈川県立足柄上病院内科に勤務する。
  • 2002年 国立がんセンター(現 国立がん研究センター)中央病院にレジデント、がん専門修練医として勤務する。
  • 2007年 国立がん研究センター東病院臨床開発センターにリサーチレジデントとして勤務する。
  • 2007年 国立がん研究センター中央病院消化器内科・外来化学療法科に医員として勤務する。
  • 2010年 聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座講師に就任する。
  • 2012年 聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座准教授に就任する。
  • 2016年 聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座教授に就任する。

 
日本内科学会認定医・総合内科専門医指導医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医・指導医、日本癌治療学会認定医、消化器病専門医、日本消化器内視鏡専門医。

バックナンバー
  1. シリーズタイトルが入ります
  2. 05. 腫瘍内科医に求められるもの
  3. 04. 緩和ケアについて
  4. 03. 聖マリアンナ医科大学で臨床腫瘍学講座を立ち上げる
  5. 02. 腫瘍内科に出会う
  6. 01. 総合内科を学ぶ

 

  • Dr.井原 裕 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
  • Dr.木下 平 がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
  • Dr.武田憲夫 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
  • Dr.一瀬幸人 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
  • Dr.菊池臣一 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
  • Dr.安藤正明 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長
  • 技術の伝承-大木永二Dr
  • 技術の伝承-赤星隆幸Dr