第2回

若い人こそ一度は!
臨床にも活きる基礎研究のススメ

2018.3.1(Thu)

新専門医制度

古閑
若い人に向けてということで、新専門医制度があるね。この制度で大きく変わったわけだけど、がん診療や緩和ケアはどうなっているの?
佐々木
実ははっきりとは固まっていないんです。日本内科学会の中に腫瘍内科医会があるのですが、そこでの情報からすると、やはり内科が基礎領域で、その上に今、日本臨床腫瘍学会で作っているがん薬物療法専門医というのが腫瘍内科の専門医として置かれるようです。問題なのはがん薬物療法専門医という名前になった理由なんですよ。それは外科の医師もいたし、産婦人科や泌尿器科の医師もいたからなんです。がん薬物療法専門医を取るのは合格率60%ですから、すごく難しいんです。症例も4領域以上で30例が必要です。立派なものが作られているにも関わらず、がん薬物療法専門医という名前だと分かりにくい。ということで、基本領域の内科専門医の二階建ての上の方に腫瘍内科で入れたいということになりました。感染症内科と同じような位置づけですね。しかし、外科系にはがん治療認定医というのがあるので、内科外科共通でそれを上には置けないということで、まだ決まっていません。
古閑
がん治療認定医という外科系の資格には薬物療法以外も入っているの?
佐々木
薬物療法以外も入っています。薬物療法に限らず、領域を跨がなくてもいいです。20症例のがん症例に携わったというのを出して、テストを受ければいいんです。これはがん治療認定医機構という第三者機関が作っています。がん治療学会が作っているように見えるのですが、あくまでもがん治療認定医機構が認めた認定医であり、専門医ではありません。それと、がん治療認定医との関係や内科学会、外科学会といった基本領域の学会の位置づけがまだ定まっていないんです。ただ、今回、専門医機構が代替わりしたので、学会主体になりそうです。がん治療認定医は学会ではないので、がん治療認定医としてだけ残るでしょう。二階建てや専門医制度の中には入ってこないのではないかと思います。
古閑
そういう感じなの。
佐々木
今のところ、そういうふうになるでしょうね。
古閑
欧米なら、オンコロジストだよね。これは薬物療法だけなの?
佐々木
欧米は内科ですよ。腫瘍内科です。婦人科だけは別です。
古閑
外科医はやらないんだね。
佐々木
やらないです。日本は外科の医師がやっているから遅れているんだという意見がありますが、僕はその意見には反対です。外科の医師もやっていいと思う。しかし、今の日本では急性期病院の主体は外科診療であり、手術が中心ですから、外科の医師はそのスキルを持っているわけで、そこに集中していただくことは必要ですね。肺がん領域ではケモ(※1)はほとんど内科がやっていますからね。 ※1 ケモ(Chemotherapy):悪性腫瘍に対する化学療法のこと
古閑
そうだよね。外科医としては手術に専念した方がいいね。
佐々木
そうなんですよ。脳神経外科もアメリカにはケモをする専門のニューロンオンコロジストがいますからね。脳神経外科の医師が手術をして、ニューロンオンコロジストがケモをする。そういうアメリカ的にしたいという臨床腫瘍学会の意見があまりにも強すぎたから、外科系から反発があって、がん治療認定医ができたのかもしれません。だけど、若い医師は困りますね。
古閑
そうなんだよね。

オンコロジストを育てる

佐々木
ただ、もう一つの面もあります。古閑先生は文部科学省がやっていた「がんプロ」って、ご存じですか。
古閑
あー、わからない。
佐々木
がん対策基本法ができたときに、厚生労働省が「これで、がんをきちんとやりなさい」と拠点病院を作りましたが、「そこで教育もやりなさい」ということになりました。ところが、教育にはやはり医育機関が必要なんです。一方で、文部科学省でもがん対策基本法を受けて、専門医を養成するプロジェクトを立ち上げろということで、「がんプロフェッショナル養成プラン」が作られました。これが「がんプロ」です。大きな予算がついて、それで腫瘍内科の教室が作られたんです。化学療法科や緩和ケア科も同様です。しかし、そういうプロジェクトは予算でできたものだから、永続性がありません。そこで、それが必要だと思った神戸大学などはそのまま講座を作りました。がんプロでできた特任教授の枠に化学療法科ができ、本物の講座になったんですね。そういった大学が腫瘍内科医の育成機関となり、本当の意味でのオンコロジストを育てています。北里にはまだありませんが、私立大学にも腫瘍内科ができ始めましたので、今後はどのがんのケアもできる化学療法と腫瘍内科的な考え方ができる医師としてのキャリアが積める場ができていくでしょう。
古閑
北里にもそのうちできるかな?
佐々木
個人的には腫瘍内科もしくは化学療法科を診療科として作っていただきたいと思って活動しています。既存の診療科、例えば血液内科に血液腫瘍内科として作るのか、また別に独立して作るのかになるでしょうが、現在、どの大学も新しいポストを作ることには慎重ですしね。どういう形でそれを実現するかですね。でも、立ち上げマニアにとってはこれも遣り甲斐はあります。僕が定年までには作りたいです(笑)。ただ、現状のシステムとしては、私がセンター長をしている集学的がん診療センターが面倒をみますよということになっています。外来化学療法を中心に、各診療科の患者さんの化学療法をローテーションしながら勉強できるようになっていますので、若い医師の勉強の場はあります。この方法だとサブスペシャリティを決めている人でないと勉強が難しいということが、課題としてあります。肺がんを主体でやっていきたいけれど、薬物療法も勉強したいというときにはいいのですが、本当の腫瘍内科医になりたい、全部を診られるようになりたいという人の受け皿がないんです。そこはやはり腫瘍内科が講座あるいは診療科としてある大学が強いですね。
古閑
あとでまた聞こうと思うんだけど、抗がん剤って、細胞の中の物質をターゲットにしているわけだから、共通性があるじゃない?
佐々木
その通りです。
古閑
その意味ではオンコロジストがまとまって、色々ながんを治療できると思うんだけど、がんが発生する部位によって特異性があるから、勉強が必要だよね。オンコロジストって、ものすごく勉強しないといけないね。
佐々木
本当にそうなんです。そういった話は放射線治療の医師と話すと、すごく通じますね。本物のラジエーションオンコロジストって、非常によく勉強されています。
古閑
放射線を色々なところにかけているからだよね。
佐々木
すごく詳しいです。でも、放射線ががんを殺すメカニズムはある程度、がん腫を超えて共通なのですが、抗癌剤はお薬ごとにがんを殺すメカニズムが違います。さらに、同じ薬剤でもがん腫で感受性に差があることがあり、その理由がまだわかっていないこともありますからさらに勉強が必要です。放射線治療の先生との話で勉強になるのは、部位別の考え方ですね。例えば、頭頸部だったら、交通の要衝ですから、小さいうちから放射線を当てておいた方がいいけれども、肝臓なら少し大きくなってから別の方法でもいいというような、臓器が持つ特性やがんの増大スピードといったことまで含めてマネジメントできないといけない。それは現場を味わわないとできないんです。がん薬物療法専門医が30症例をきちんとその診療科で研修しなさいという制度は厳しいですが、僕は必要だと思っています。僕もそれを取るために3カ月、血液内科にいたのですが、すごく勉強になりました。
古閑
今、新しい抗がん剤がどんどんできているじゃない?そうなると、抗がん剤のメカニズムや副作用も勉強しないといけない。あるいは複数の抗がん剤を併用することでのプラスマイナスがあるし、それも勉強となると、勉強の量はものすごいね。

基礎医学のススメ

佐々木
そうですね。あとの話とも絡むのですが、その意味では僕が大学院で4年間、留学も含めたら7年間、基礎で研究をしていたことはすごく大きいです。あの頃、実験に使っていたプロテアソーム阻害剤(※2)が今の臨床で使われているので、そのメカニズムが分かるのがいいですね。実験に使っていたものが実際に患者さんに投与されていると、この薬とこの薬を併用すると意味がないというのが分かってくるんですね。少し前まで、いやつい最近でも、Aという薬があって、Bという薬があったら、合わせたらいいのではないかとか、毒性のプロファイルさえ違えば効果があるのではないかという単純な発想での併用療法が臨床試験に組まれていると思います。しかし、メカニズムは何だろうという研究が何もされないまま、いい薬同士だから合わせようというのはもう時代遅れではないかと。これだけターゲットが決まって、薬ができてくる時代に、そのことを理解したうえで併用を考えていかないといけません。プレクリニカルなスタディとか、そういった解釈ができる能力が必要で、それは臨床だけやっていてもスキルアップが難しい。 ※2 プロテアソーム阻害剤
細胞周期に重要な役割を果たすプロテアソームという酵素を阻害し、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する薬。がん細胞の増殖等に関わる特定分子の情報伝達などを阻害することで抗腫瘍効果を表す分子標的薬となる(日経メディカルより引用
古閑
今の若い人たちは学位よりも専門医という感じになっているからね。僕も昔は学位なんてどうでもいいと思っていた(笑)。でも、基礎の勉強をして、サイエンティフィックなものの考え方やロジックを学ぶのは必要だよね。
佐々木
おっしゃる通りです。僕は若い人にそれをすごく言っています。昔は臨床系の論文だと学位が取れなかったりもしましたが、今はそんなことは全くありません。特に私立大学だと、臨床系の論文でも学位が取れますし、むしろインパクトファクターにもなります。だけど、学位を取ることに意味があるわけではなく、古閑先生がおっしゃったように、ベーシックなものの考え方や、ポジティブコントロールとネガティブコントロールがなぜ必要なのかという考え方が臨床に効いてくるんです。批判的吟味の力も育ちますし、若い人には少しの間でもいいし、齧るぐらいでもいいから、基礎の研究室に顔を出したりすると、すごく視野が広がるよという話をしています。

― 古閑先生は基礎が長いですよね。

古閑
僕は佐々木くんたちと佐谷ラボにいたあと、ドイツに行った。そのあと、日本に帰ってきて、自分の研究室を持つところまでは頑張ったんだけど、最終的には三流だと思ったから、研究を止めてしまった(笑)。
佐々木
基礎で残っていく人は一握りですよね。そこで止めることができるのも僕は能力だと思う。佐谷ラボにも基礎研究者になれるのではないかという人たちがいたじゃないですか。
古閑
確かにいたね。
佐々木
でも彼らはすごくいいところまでいっていたけど、基礎一本でやっていけるレベルではないと気づいて研究を止め、臨床に戻っています。彼らがそうなっていったのはよく分かりますね。
古閑
基礎できちんと研究した人って、ロジックがしっかりしているから、臨床に行っても、すごく優秀な臨床家になれるんだと思う。
佐々木
視点がサイエンティフィックですからね。臨床研究のプロトコールなんて、科学ですから。倫理は必要だけれども、科学的でないと倫理的ではない。新しい治療群は新しいゆえに簡単なんです。でも何と比較するかといったときの考え方に、基礎をやってきた人とそうでない人で差が出ます。
古閑
確かに。
佐々木
ですので、新しい治験や臨床試験のキックオフがある場合には、標準治療群(コントロール群)に入る患者さんが、現時点で最適・最良な治療であるかどうかを注意深くチェックしています。若い先生たちにもそのことに注意するように意見しています。やはり何がコントロールかというのを批判的にみる力が大事で、そこは臨床寄りの人とベーシックな考え方の人とで差があると思います。

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  • プロフィール
    古閑 比佐志
    (こが ひさし)

    岩井整形外科内科病院
    副院長/教育研修部長

【略歴】
1962年千葉県船橋市生まれ。1988年に琉球大学を卒業し、琉球大学医学部附属病院で研修。
国内の複数の病院で脳神経外科医として勤務ののち、1998年にHeinrich-Pette-Institut fur Experimentelle Virologie und Immunologie an der Dept. of Tumorvirologyに留学。2000年に帰国後は、臨床と研究を進め、2005年にかずさDNA研究所地域結集型プロジェクト研究チームリーダーを経てかずさDNA研究所ゲノム医学研究室室長。
2009年より岩井整形外科内科病院 脊椎内視鏡医長として勤務、2015年より現職。

  • プロフィール
    佐々木 治一郎
    (ささき じいちろう)

    北里大学医学部附属新世紀医療開発センター教授
    北里大学病院集学的がん診療センター長

【略歴】
1964年熊本県生まれ。1991年に熊本大学を卒業し、1998年に熊本大学大学院を修了。
2000年から3年間、米国MDアンダーソンがんセンターで肺がん基礎研究に従事する。2004年に熊本大学医学部附属病院に勤務する。
2007年に熊本大学医学部附属病院がん診療センター長に就任し、肺がんの診療に加え、がん診療地域連携やがんサロンの普及活動に従事。2011年4月に北里大学医学部に准教授として着任。2014年2月に北里大学医学部附属新世紀医療開発センター教授に就任し、北里大学病院集学的がん診療センター長を兼任している。

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