第5回

未来は明るい!これからの「外科医」

これからの外科

金平永二先生・稲木紀幸先生

― 外科医を取り巻く環境についてはいかがですか。

金平
勤務が厳しかったり、合併症から訴訟の問題があります。外科、麻酔科、婦人科は訴訟が多いですね。しかし、国民はそういうことで自分たちが不利益になっていることに気づくべきですね。優秀な外科医の芽を摘んでしまうのは残念です。国民的な教育をして、意識を変えていかないといけません。
稲木
大変なのは変わらないですが、大変なことに対する保障が給与やプラスアルファのインセンティブといった形で出るように、制度として変えた方がいいです。インセンティブが目的というわけではありませんが、それに見合ったものに変えられるのはこの時代に重要なことでしょう。患者さんへの教育に関しては、患者さんが「○○先生に手術をしてもらって、外来も何もかもしてもらって」と思われるのは分かるのですが、僕らも全員の患者さんに時間を捧げることはできません。交代制が当たり前という診療体制にしていきたいですし、時間帯によって、この医師はいるけど、この医師はいないということを容認できる制度がないと、僕らも息が保たないですね。

若手医師へのメッセージ

― 若手医師の皆さんにメッセージをお願いします。

金平
僕が院長をしているメディカルトピア草加病院には初期研修医は来ませんが、後期研修医は見学に来たり、アミーサ道場に来たりします。彼らを見ていると、未来は明るいと思いますね。僕らの世代は物怖じしたり、シャイなところがあり、遠慮していました。既存のできあがったことに対して、それを踏襲しながらやらないといけないという固定概念もあったんです。しかし、最近の若い研修医は発想が自由で、縛られていません。「こういうことを言われていますが、エビデンスになっていませんから、実はこういうこともオプションとしてあるんじゃないですか」という発想ができます。ガイドラインはありますが、エビデンスレベルもうまく利用して、そこにクリエイティブなアイディアが入る余地があると察知しているんですね。とても羨ましいです。今のハッピーな環境を活かして、稲木先生のようにクリエイティビティを養ってほしいし、一見、決まっているように見えることにも疑問を投げかけて、ぶっ壊して、本物を探していってほしいです。
稲木
僕自身が学んできた時代と違って、色々なメディアを使って、情報を簡単に収集できる時代です。手術にしても、僕が助手として、開腹手術を覗き込んでいた時代ではなく、ビデオやイメージで分かりやすく、学びやすい時代になってきました。そういったものを積極的に利用して、僕らが時間をかけて成長してきた分をどんどん早く成長してもらいたいです。ただ、その中で若い医師と一緒に患者さんのところを回りながら言っているのは、患者さんのために一番いいことを考えてこそ、新しい技術が活きるのだということです。とにかく患者さんのことを考え、一番いいことが答えです。例えば、同じステージのがんで、同じ年齢、同じ性別、同じ進行度の胃がんの方でも患者さんのご家族の背景が違うことによって、治療方針が変わることもあります。ところがコンピューターだと同じ答えしか出ません。テクノロジーを使えるようになる一方で、そういったことも絶対に忘れずに、僕らにしか出せない答えを探していきましょう。

稲木紀幸先生

― そういうスキルをどうやって磨いていけば、いいのですか。

稲木
やはりベッドサイドに行くことです。ベッドサイドで患者さんの顔を見ていたら、おのずと答えは出ています。僕は今、昔のように足繁く通うことはできないですが、若い医師は足で稼ぐことが大事だと伝えています。
金平
稲木が言ったように、パソコンに向かっていれば、世界中の情報をひょっとしたら現地に行くよりも詳しく、正確に手に入れることができるかもしれません。机に座っていれば、十分すぎるぐらいの情報を得られる環境なのは羨ましいですね。逆に、そういう環境が外国に行って勉強するといったモチベーションを下げている可能性もあります。海外の研究室に行ってみると、中国の方や韓国の方は非常にパワフルに活躍していますが、日本人は減っています。パソコンからどれだけ情報が入ってきたとしても、現地に行き、その分野で一生懸命頑張っているトップクラスの人たちと肩を並べて、息遣いを感じながら、毎日働くというのは素晴らしい環境なんです。ネットからは決して伝わってこないものが伝わってきますので、日本、世界を問わず、そういった場所で一時期を過ごして、何かを汲み取ってほしいです。それが日本全体がグローバル化していくために必要なエンジンになります。

― 初期研修医の皆さんに是非、外科をお勧めください。

稲木
外科医は頭だけの勝負ではなく、自分の腕で患者さんを救える仕事です。大変だけど、遣り甲斐がある診療科だと思います。頭と身体をフルに使って、力を発揮していただきたいです。
金平
その通りです。外科医はすごく分かりやすい職業です。病変を敵と言ってはおかしいですが、「こいつを俺の手で取って、治す」という分かりやすさがあります。病変が取れなかったり、合併症だったりと、きつくて辛いこともありますし、責任の重さから外科を嫌う人もいますが、僕は外科医になって良かったです。生まれ変わっても、絶対に外科医になりたい。達成感がありますしね。患者さんを幸せにするという綺麗事を言っているけれど、ハッピーになっているのは実は自分自身なんです。

― 内視鏡外科は女性に向いているとも聞きます。

稲木
金平先生の奥様は外科医ですよね。
金平
そうです。
稲木
昔は機械も大きく、自動縫合器も大きな外国製のものだったのが、今はボタン一つで自動的にできるようになりました。そういうテクノロジーの進歩で、女性でも十分できるようになってきていますし、女性でも働きやすい手術環境になっています。しかし、男女平等の世界とは言え、男らしさ、女らしさはどこかにあるものだと思います。繊細なことであったり、女性らしさが発揮できるフィールドがまだ開拓されていませんので、女子医学生や女性研修医の皆さんがご自身で見つけていただきたいですね。
金平
私の妻は外科医で、よく一緒に手術をしています。とても楽しそうですし、彼女自身もハッピーな人生を歩んでいると思います。稲木が言ったように、テクノロジーの発達で、ものすごいマッスルパワーでやらないといけないことが少なくなりました。むしろ、物事は脱力してやった方が正確にできるんです。特に長時間の手術では冷静さを失わないためにも脱力していた方が耐えられます。どちらかと言うと、男性の方がマッスルパワーを使いがちです。僕はその典型でした(笑)。彼女を見ていると、力を抜いて、淡々とやっていることが幸いして、一定のリズムでしなやかに手術をしているので、女性に向いている仕事なのかもしれませんね。

金平永二先生

脱力が大切

― アミーサ道場でも脱力とおっしゃっていましたよね。

金平
私のテーマでもあります。去年ぐらいから脱力を意識するようになりました。腰や足を壊している人もいますし、僕も一時期、腰痛に悩まされたんです。かなり際どいところを剥離していかないといけないときに、変な力が入っているんですよ。楽にやらないといけないのに、ふと気づくと、ガチガチに力が入っているんです。これは良くないと思いました。怪我をせずに、長く働きたいですから、ふーっと息を吐きながら、意識して脱力しています。

― 腰痛は改善されたんですか。

金平
劇的に良くなりました。痛みは全くありません。
稲木
僕も息の長い外科医でありたいです。かつては体重コントロールをしない生活で、丸い時期もあったんです。最近は自分のフィットネスを心がけるようにしています。40代半ばになってくると、年齢とともにガタが来ますし、なおさら体調管理が必要ですから、脱力が大事です。僕が最初から教えられたのはハンドリングです。握り込むのは絶対に良くないので、もう握らないですね。手の平で鉗子操作をやっています。ぐーっと握り込むと、指先から全部、力が入ってしまうので、手の平で優しく握るようにコントロールすると、全部が柔らかくなるんです。私自身はある程度、身につけていますが、若い人の姿を見て、脱力ということを常に言っています。
金平
かなり昔の話だけど、力を入れて握っていると痺れてくるので、2人でそれを科学的に証明して、どうしたら防げるかを研究していた時期があったね。
稲木
神経伝達速度を計りましたね。
金平
今から思えば、それが脱力しようと思った始まりかもしれません。
稲木
実験結果は有名なジャーナルにも載りました。10年ぐらい前でしたね。親指を器具の輪っかの中にくっと入れると痺れると昔から言われていました。内視鏡外科医の親指、laparoscopic surgeon’s thumbと言われる有名な痺れの症状です。これに対し、力を入れることによって、神経が損傷されるということを科学的に測定して、指を入れない方が、あるいは指を入れるにしても、そこが柔らかいゴムである方が痺れを防げることを論文にしたんです。。
金平
稲木は脱力仲間でもあります(笑)。
  • プロフィール
    金平 永二
    (かねひら えいじ)

    メディカルトピア草加病院 病院長
    AMG内視鏡外科アカデミー 代表

【略歴】
京都府出身。1985年に金沢大学を卒業し、金沢大学医学部附属病院や関連病院で外科の研修をする。1991年から1992年までドイツTuebingen大学医学部外科 Gerhard Buess教授の指導のもと、内視鏡外科手術を学ぶ。2002年4月からフリーランス外科医として、患者や病院からの依頼を受け、内視鏡外科手術を行った。依頼手術を行った病院は全国60カ所以上にのぼる。2008年12月に上尾中央医科グループでAMG内視鏡外科アカデミーを発足させる。2012年1月に同グループが新たに建設したメディカルトピア草加病院に院長として着任。また、内視鏡外科道場「アミーサ」を主宰し、若手医師を育てている。

【資格】
日本外科学会専門医
日本消化器外科学会指導医
日本消化器内視鏡学会指導医
日本内視鏡外科学会技術認定医 など。

  • プロフィール
    稲木 紀幸
    (いなき のりゆき)

    石川県立中央病院消化器外科診療部長
    金沢大学先進総合外科臨床准教授
    金沢医科大学一般・消化器外科非常勤講師

【略歴】
1971年福井県生まれ。1997年に金沢大学を卒業し、第一外科(現 先進総合外科)に入局し、金沢大学医学部附属病院で研修医となる。 2004年6月にドイツTuebingen大学医学部外科最小侵襲外科部門 のGerhard Buess教授の指導を受けるほか、、新しい内視鏡手術機器の開発など、様々な活動を展開。 2006年の帰国後は金沢大学大学院医学研究科地域医療学講座助手を経て、2007年に石川県立中央病院消化器外科診療部長に就任。
また、金沢医科大学一般・消化器外科非常勤講師と、2017年からは金沢大学先進総合外科臨床准教授を併任している。

【資格】
日本消化器外科学会がん外科治療認定医・専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・学術評議員
日本がん治療認定医機構認定医・暫定教育医・暫定胃腸科指導医
日本消化器病学会専門医
日本内視鏡外科学会技術認定医・評議員 など多数。

内視鏡道場 AMESA(アミーサ)

CONTENTS(全5回)
トップドクター対談 バックナンバー
ページトップ