第4回

女性医師は内視鏡に向いている(2/2)

― 外科に興味を持てない初期研修医がローテートしてくることもありますよね。

福永
そういう人たちはモチベーションが異なりますね。でも、僕は「ほかの科に行くからと言って、外科の手術を見ることや外科の手技を覚えることは無駄にはならない。絶対にためになる」と話しています。医療の一環として、外科がどういうことをしているのかを知ったうえで、ほかの科の内容を学ぶのはとても大切です。我々にも言えることですが、同じ患者さんが外科の疾患と自分の専門である内科の疾患に罹っていることは少なくありません。決して切り離すことはできないんですよ。

― 福永先生は本院と浦安の両方で手術をされているんですか。

福永
本郷の本院の方は我々が診療を行う病棟が6月にできたばかりなので、そこから本格的に手術を始めたんです。6月からは本院と浦安で週に2日ずつ手術にあたっています。2チームを作り、1チームずつ本院と浦安に置いていますが、僕は本院と浦安を行ったり来たりしているんです。僕は食道がんと胃がんを週に4件から6件ぐらいしていて、それ以外の小さな手術は若手だけでしています。食道がんは1日がかりの手術になりますので、体力も必要ですね。

女性は内視鏡に向いている

― 最近は外科に進む女性医師が増えてきたように思います。

福永
女性は多くなってきましたよ。これは強調したいことなのですが、腹腔鏡手術は女性に向いています。昔の開腹手術だと、術者がいて、前立ちの第一助手、拘引きをする第二助手がいました。第一助手は術野が見える場所にいますが、第二助手からは見えないんです。術野が見えないうえに、拘引きには大きな力が必要なので、第二助手は大変な仕事でした。しかし、腹腔鏡手術は拘引きが不要です。力をかけることがなくなったんですね。さらに、腹腔鏡手術ではポートという穴を通して鉗子を入れていきますから、力が全くいりません。だから、女性に向いているんです。

― ほかに女性に向いている点はありますか。

福永
カメラを持つスコピストも女性だと丁寧です。男性は動かし方が雑だったりするので、場合によっては酔うんです。女性はじっくり待っていてくれます。その意味でも、術者、助手、あるいはスコピストとして、女性向きの仕事ですね。僕の弟子の中には腹腔鏡手術で有名になっている女性医師もいますし、女性の初期研修医にも勧めているところです。
古閑
僕の分野には女性はほとんどいない。ほかの病院でも見たことがないよ。でも、内視鏡は女性の方がいいと思う。力がいらないし、繊細な仕事だから。昔の外科にあった徒弟制度とも違う。ビデオで見る勉強ができるから、女性が成長しやすい分野だよね。
福永
座ってできるしね。立ちっぱなしではないから、体力がなくてもできる。僕がもう一つ強調しているのは女性のキャリアプランにもいいということ。腹腔鏡手術をきちんと覚えておけば、結婚、出産、子育てで休職するにしても、復帰しやすい。子育ての期間は腹腔鏡手術の教育にだけ携わって、早く帰ることもできる。腹腔鏡手術に限らず、何かの技術を身につけていることはキャリアアップに役立つと思う。

― 休んでいる間にスキルが衰えないものなのですか。

福永
僕も最初はそう思っていたことがありました。僕は海外に2年弱、留学したのですが、帰国して復帰するときにそれが一番、怖かったんです。でも、すぐに取り戻せますよ。行けるところまで行っていたら大丈夫です。休んでいる間にビデオを見て勉強することもできますしね。

内視鏡は高齢になってもできる

古閑
腹腔鏡も含めて、内視鏡の術者は高齢になってもできる。僕は最近、老眼になってきて、近くは見えない。哲もそうだと思うけど。
福永
そうだね。でも腹腔鏡手術は外科医の寿命を伸ばすと思うよ。
古閑
僕も70歳ぐらいまでできるはずだ(笑)。
福永
腹腔鏡手術では拡大した映像を見るので、お腹や皮膚の抜糸ができなくなっても大丈夫なんだよね。
古閑
そう。僕はもう抜糸は無理だ(笑)。形成外科でやっているような抜糸なんて、できない。ルーペがあった方がいい。
福永
僕は手術でも拡大鏡を使っているし、手術用の眼鏡は違うものを使い分けている。
古閑
僕も拡大鏡はたまに使う。でも重いし、あまり好きではない。
福永
開腹手術の拡大鏡は2.5倍なので、腹腔鏡手術の拡大鏡とは違うのだけれど、腹腔鏡手術ではモニターをきちんと見たいので、拡大鏡が必要なんだ。比佐志の眼鏡は遠近両用なの?
古閑
そうだよ。
福永
僕もそうなんだけど、手術のときは視力を上げたいし、モニターに合わせて、少し高めの倍率にしている。手元が見えなくても関係ないしね。映像がとても良くなっているので、外科医にとって腹腔鏡手術は本当にいい。
古閑
内視鏡によって外科医の寿命が伸びていることも考慮に入れたうえで、医学生や初期研修医が外科を選んでくれたら嬉しいね。

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  • プロフィール
    福永 哲(ふくなが てつ)
    順天堂大学医学部
    消化器・低侵襲外科 教授

【略歴】

1962年
鹿児島県奄美市生まれ。
1988年
琉球大学を卒業
順天堂大学医学部附属順天堂医院外科で研修を行う。
1992年
順天堂大学医学部附属浦安病院外科勤務(助手)。
1994年
米国ピッツバーグ大学 麻酔・集中治療部に留学(リサーチフェロー)。
1996年
順天堂大学医学部附属浦安病院 勤務。
2004年
癌研究会附属病院消化器外科 勤務。
2007年
がん研有明病院消化器外科 勤務。
2008年
徳島大学医学部臓器病態外科学臨床教授
2009年
聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科臨床教授 併任。
2010年
聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科教授 就任。
2015年
順天堂大学医学部附属順天堂医院消化器・低侵襲外科教授 就任。
聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科客員教授 就任。

【資格・所属学会】
日本外科学会指導医・専門医
日本消化器外科学会指導医・専門医
日本内視鏡外科学会技術認定医
日本がん治療認定医など。

  • プロフィール
    古閑 比佐志(こが ひさし)
    岩井整形外科内科病院
    副院長/教育研修部長

【略歴】

1962年
千葉県船橋市生まれ。
1988年
琉球大学卒業。琉球大学医学部附属病院で研修。
1988年
9月に沖縄赤十字病院
琉球大学医学部脳神経外科研究生
1989年
琉球大学医学部脳神経外科助手
1990年
沖縄県立八重山病院脳神経外科
1991年
琉球大学医学部附属病院脳神経外科
1992年
新潟大学脳研究所神経病理学講座に特別研修生として出向
1994年
北上中央病院脳神経外科
琉球大学医学部附属病院
1995年
豊見城中央病院脳神経外科
熊本大学大学院研究生
小阪脳神経外科病院脳神経外科 勤務
1998年
Heinrich-Pette-Institut fur Experimentelle Virologie und Immunologie an der Dept. of Tumorvirologyに留学
2000年
ヘリックス研究所第3研究部門主任研究員
新潟大学医学部脳研究所非常勤講師
2001年
湘南鎌倉総合病院脳卒中診療科 勤務
かずさDNA研究所主任研究員
2005年
かずさDNA研究所地域結集型プロジェクト研究チームリーダー
2006年
かずさDNA研究所ゲノム医学研究室室長
2008年
千葉大学大学院分子病態解析学非常勤講師
2009年
岩井整形外科内科病院 脊椎内視鏡医長
2012年
中国福建省厦門の漳州正興医院で微創脊椎外科主任医師
2014年
岩井整形外科内科病院教育研修部長
2015年
岩井整形外科内科病院副院長

【資格・所属学会】
日本脳神経外科学会専門医
日本脊髄外科学会
内視鏡脊髄神経外科研究会
日本整形外科学会

岩井整形外科内科病院 PELDセンター

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