コラム・連載

2019.12.20|text by 塩尻 俊明

『病院総合診療科の未来について』連載開始!

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若手医師を教育する

今の若手医師をご覧になって、いかがですか。

昔とは変わっていますよね(笑)。今の若い人たちは何かを軸足にして、それ以外をしっかり診られるようになりたいようです。どこにも軸を置かないで、全部を診るという人はやはり減ってきています。例えば腎臓内科をメインにして、それで専門医を取るけれど、それにとどまらず、周辺領域の内科をなるべく診たいという人が当院のようなサブスペシャリティが確立されている病院に来ると、活躍の場が少なくなります。小規模、中規模病院だと広く診られますが、当院は逆に専門医が多いので、難しいです。しかし、そこで何かを軸足にすることができるかもしれません。マインドがあれば、こういう病院でもいいでしょうし、「これだ」と思っている人もいるでしょう。要するに、自分の目の前にある事象を解決していきたいというマインドを持った人たちが集まった世界ですから、どこまでやってもゴールはありません。したがって、到達できたという感じがあまりないので、分かりにくいのでしょうね。

消化器科の内視鏡などは到達できたという感じがしますよね。

「できるようになった」というのはありますよね。総合診療科だと、何がいつできるようになったかというのが分かりません。「マインドはあるけど」みたいな感じです。しかし、結果的に診られるようになったというところに到達してほしいです。私が総合診療に傾いていったのは吉田象二先生というロールモデルがいたからであって、今は私がその役割を担わないといけません。私の背中を見てもらって、「先生みたいになりたい」と思われるようなパフォーマンスをしていく立場にあると考えています。

素晴らしいことだと思います。

今後の問題としてはこれだけ専門性が高くなると、病棟で専門以外の合併症が起こったときなどにプロブレムを解決する時間的な余裕がなくなってくることが挙げられます。アメリカのジェネラルメディスンやホスピタリストは日本とはかなり違う意味なので、あまり使いたくはないのですが、アメリカではそうした医師が問題の解決にあたります。日本でも消化器内科の病棟は総合診療科が診る、循環器内科のカテーテルといったスキルが必要でない患者さんは総合診療科が診るといった形になると、医師が2人や4人で済むことになるので、医師が少ない病院でも専門に専念できるという相乗効果が期待できます。私たちがよくある心不全や肺炎、消化管の問題を診られれば、専門医が専門性をより高められるのです。ただ、そうしたときに総合診療科は下働き的、下請け的になってきますので、そこに携わる医師が腐らずに達成感を得られるようにしないといけません。これがないと、こちら側で働きたいという人が出てこないのではないでしょうか。

中小規模の病院にはメリットがありますね。

大きいですよ。

それでも病院での総合診療がそこまで広がっていない現状をどうご覧になっていますか。

病院内の意識改革が進んでいない面があります。総合診療的なことについていけなかったんですね。それと、病院の総合診療医を引っ張っていく医師が少ないことも挙げられます。ただ、大きい病院の方が専門医が揃っているので、困ったときに助けてもらえたり、より高いレベルの診療を患者さんに提供することに参画できたりします。そこで、総合診療医に必要なのはガラパゴス化しないこと、境界線の引き方を理解することです。

先生は境界線をどのように引いていらっしゃるのですか。

私は総合診療科の部長として、アレルギー・膠原病科の部長と常に相談しています。「ここまではうちで診るけれども、ここから先は声をかけるね」と言ったり、「不明点が出てきた場合はうちで診て、何か分かったらアレ膠に渡すね」と言って、ラインをしっかり引いています。こうした境界線があれば、他科とうまくコラボレーションしていけるのですが、この意識改革が難しいです。どこかの病院で院長によるトップダウンで総合診療科を作り、総合診療医を呼んだのに、従来科の医師とうまくいかずに辞めてしまったという話もあります。総合診療を一生懸命する医師を呼んでも、他科とうまくやれないと難しいです。

研修医を教育する

先生は研修医教育にも力を入れていらっしゃいますが、総合診療をしていきたいと希望する研修医をどのように教育されているのですか。

漠然とした言い方になりますが、ロールモデルでありたいですね。サッカーの澤穂希さんが「苦しいときは私の背中を見て」と言ったように、それをなくして、人はついていかないものです。とんでもなくできるようになるのはなかなか難しいですが、リーダーとして、かっこいいところは見せたいです。いくら語っても、言葉では人はついてこないですよ。

研修医気質も変わりましたか。

未開の荒野を自分一人で開拓するパイオニア的な人よりは引っ張っていってほしいなという人が多くなりました。今は目標があって、たどり着ける道筋があった方がやりやすいみたいです。だからこそ、背中を見せる立ち位置の医師が必要ですし、私がその役割をできたらと思っています。その中で総合診療をしたいという人が増えるかどうかがポイントですね。

総合病院国保旭中央病院の初期研修医の中から総合診療医を目指す人は増えてきましたか。

毎年のようには出ませんが、少しずつ出てきました。今、総合診療科に卒後4年目の人、7年目の人がいます。日本医療政策機構の黒川清先生がホスピタリストを応援するとおっしゃっていますが、考え方は似ています。私たちがやっていることはアメリカのホスピタリストとイコールではないので、私たちは病院総合診療医といっていますが、日本には必要な存在だと思います。

著者プロフィール

塩尻副院長 近影

著者名:塩尻 俊明

総合病院国保旭中央病院 副院長、総合診療内科部長、臨床教育センター長

  • 1963年 茨城県に生まれる。
  • 1989年 奈良県立医科大学を卒業する。
  • 1997年 総合病院 国保旭中央病院に入職する。
  • 2011年 院長補佐を兼任する。
  • 2016年 副院長に就任する。

 
日本内科学会総合内科専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会指導医、日本神経学会神経内科専門医、日本神経学会指導医、日本病院総合診療医学会認定医など。

バックナンバー
  1. 病院総合診療科の未来について
  2. 05. 総合診療科と病院経営
  3. 04. 総合診療科の未来について
  4. 03. 若手医師を教育する
  5. 02. 総合診療内科紹介
  6. 01. 総合診療科を志す

 

  • Dr.井原 裕 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
  • Dr.木下 平 がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
  • Dr.武田憲夫 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
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  • Dr.菊池臣一 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
  • Dr.安藤正明 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長
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