Dr.豊川の解TED新書
健康維持の為に医師にお金を払ったらどうなるか?(10:41)

もしも、病気になった時にだけ医者にかかるのではなく、我々の健康維持を医師に動機づけられたら?Matthias Müllenbeckがいかにして、疾病ケアシステムから真の健康ケアシステムへの抜本的な変化が我々を不必要なコスト及びリスクの高い処置から救い、より長くより健康でいられる様にするのかを、説明します。

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ドクターズゲートオリジナル豊川 竜多Dr. 対訳テキスト
豊川Drプロフィール
医療法人社団秀雄会理事長 豊川竜多Dr.が翻訳。ドクターズゲートでしか読めない、医師だから書ける対訳文です。
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朝4時のことでした。私は、ボストンのホテルの一室で目覚め、一つの事しか考えられませんでした。―歯の痛みです。歯に詰め込まれていたセラミックのインレー(虫歯などに詰める合金等)が前の日の夜に取れてしまっていたのです。5時間後、私は歯医者の椅子に座っていました。しかし、歯科医は私の歯の痛みを取る為にインレーを替えるのではなく、チタンのインプラントの手術をしたのです。目先の利益にとらわれて。こんなひどい話、聞いたことありますか?

(笑)

痛んだ歯の代わりに、あごへネジを込んで人工の物と置き換える方法を取るのがインプラント手術です。インプラント手術はおよそ10,000ドルかかります。一方で、セラミックのインレーの交換は100ドル程度です。歯科医にとって関心があったのは、果たして私の健康だったでしょうか、それともお金の事だったでしょうか?

私の経験した事例は決して珍しくはありません。ある国内紙の研究によると、外科的処置(手術)の内の30%―ステントやペースメーカーの移植や、人工股関節置換、子宮除去も含めて―が、担当医によって他に取り得る非外科的選択肢の十分な利用も無しに行われているのです。ショッキングな数字ではありませんか?もちろん他の国では少しずつ数字は違うでしょうが、少なくともアメリカでは、医者にかかれば緊急に必要でなくとも、手術を施されうるのです。一体何故でしょうか?何故この様な不必要な処置を施す開業医がいるのでしょうか?

おそらく、ヘルスケアシステムそのものが、理想とは離れ、ある方法・治療を選択するかどうかを決めるにあたって影響を及ぼしてしまっているからでしょう。ほとんどのヘルスケアシステムは開業医に対し、行われた治療の種類と数によって、出来高払いに基づいて、払い戻しをしています。当然、開業医としては他の選択肢や治療法を試すよりも、高利益な治療法を選択したいと思うでしょう。もちろん、他国では質と有効性との基盤を固定させ、実績に基づいた払い戻しを始めていますが、ごくごく少数です。全体として、今日のヘルスケアシステムの構造が開業医に幅広く、積極的に疾病を初期の段階で防がせ、患者にとって最も効果的な選択肢のみを取らせるものではないのです。

では、私達はどのようにこの状況を修正するべきでしょうか。もし、ヘルスケアシステム構造の基本的な部分―つまりインセンティブの構造―を完全に再設計できたとしたら。必要なのは、開業医が患者の健康を保つ事に対して払い戻しをするヘルスケアシステムです。既に病気になった時にのみ支払うのではなく。今日の病気に対してのケアから健康に対してのケアにシステムを変形させていくべきなのです。「病気ケア」を「ヘルスケア」に変えるということです。病気になってから治療をするのではなく、そうなる前に健康維持で予防をするという発想の転換です。この変化は、全ての医療関係者―医師、病院、薬局、製薬会社―に医療業界全体が最終的に売っている商品に、焦点を当てさせることになるでしょう。―そう、健康です。

想像してみて下さい。もしヘルスケアシステムを患者に対して開業医が施した処置に払い戻さず、毎日個々人の健康を維持し、疾病を予防した医師、病院、薬局、製薬会社に払い戻すシステムに再設計したとしたら? 例えば公共の医療費への資本を個人が保険会社に健康を維持し、重要な医療行為を行わない為に使うとしたら。 もし個人が病気になったら、保険会社はその個人の治療に必要な医療行為に対してそれ以上の金融補償は受けられないでしょう。しかしながら、顧客を健康に戻す為に根拠に基づく治療法に対して、支払いをしなければならないでしょう。一旦、顧客が再び健康になれば、その個人への医療費が再び支払われるでしょう。

要するに、このシステムの中では、全ての関係者が自分の顧客の健康を維持する責任があるのです。同時に病気になる人の数を減らす事によって、不必要な医療行為も減ります。人々が健康になればなる程、病気を治療するコストも低くなり、それぞれが受ける経済的な恩恵も大きくなるのです。

このインセンティブ構造の変化によって、健康で長生きする為に何が役立つのかという全体的な観点から、状況にそぐわない奇妙な治療法は選択肢から消えます。

現在、効果的に健康を維持する為に、常にヘルスデータを共有する必要があります。共有する事で、ヘルスケアシステムが健康維持の為にどんな援助が必要か早期に知る事ができます。身体検査、生涯の健康データならびに遺伝子の配列のモニタリング、心臓代謝プロファイリングと画像に基づく技術が、ダイエットや薬品、身体活動の面で顧客をヘルスコーチや開業医と共に最適で、科学的な決断へと導くでしょう。そして、リスクが高い病気になる可能性を低めるでしょう。

人工知能(AI)も基づいたデータ分析と小型化センサーの技術が、個人の健康状態のモニタリングを可能にしています。この様なモニタリングの技術によって、心臓代謝パラメータや、血液中の腫瘍DNAの探知が行え、癌を発見することが出来ます。

癌を取る。腫瘍学的な病気の大きな問題の1つとして、大半の患者が早期に病気を発見していれば、今ある薬や治療法で治せたにもかかわらず、診断されるのがあまりにも遅すぎるという事があります。新しい技術は数ミリリットルの血液から腫瘍DNAを発見し、癌の存在を探知します。とても便利な方法です。早期での癌の発見はとても重要です。例えば、肺がんだとステージ1で発見した時の5年生存率は49%、ステージ4で発見した場合は1%以下です。この腫瘍DNAを探す血液検査の様にシンプルな方法である種の癌を対処可能な病気に変え、早期の発見で適切な治療を施し、多くの死を防ぐ事ができます。

2012年に、アメリカ人の50%が慢性病を患っており、国家予算の医療費(3兆ドル)の86%を慢性病に使っている事が判明しました。86%です。もし、新たな技術がこの86%を削る事が出来るなら、今までと同じヘルスケアシステムを用いる必要があるでしょうか?

今日の病気ケアシステムを予防と行動変化に焦点を当てた真のヘルスケアシステムに再設計するには、システムの中のアクター(行為者)が変わらなければなりません。予算と方針を予防と健康教育へ変えるという面で政治的な意欲も必要です。個人の健康データを収集・使用・共有する為の厳重な規制体制も必要となります。医師、病院、保険会社、薬局、製薬会社、医療に関わる全ての人が各々の手法を再構築しなければなりません。そして、何よりも、個人の「自分の生活をより持続的で、健康を優先し、その為に常に健康データを共有しよう」という意欲とモチベーションが無ければ、この変化は起こせません。

この変革は急には出来ません。しかし、ヘルスケア業界のインセンティブを再度、健康維持に向ける事で、私たちはより多くの病気を早期に防ぐだけでなく、今日より早くより簡易に予防可能な疾病の発病を探知し、より多くの人々が長く、健康な人生を送れるようになるでしょう。

この変革を成し遂げる為に必要な技術はもう、今存在しています。 しかし、これは技術の問題ではないのです。第一に、ビジョンと意志の問題なのです。

ありがとうございます。

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【監修者プロフィール】豊川 竜多Dr.について

医療法人社団 秀雄会 理事長 豊川 竜多
日本大学松戸歯学部卒。 ゆたか歯科クリニック開設
城北インプラントセンター開設
http://www.shuyu-kai.or.jp/

【略歴】
日本大学松戸歯学部卒
明海大学臨床研究所付属PDI埼玉歯科診療所勤務
河津歯科医院勤務
ゆたか歯科クリニック開設
医療法人社団秀雄会理事長就任
城北インプラントセンター開設

【所属】
日本歯科医師会、東京都歯科医師会、板橋区歯科医師会、日本顎咬合学会、米国歯周病学会(AAP)

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