気候変動について微生物が明らかにしてくれること(12:57)

アンジェリク・ホワイト(Angelicque White)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私は海洋生物学者です この立場を限りなく生かし 微生物の生態研究を 太平洋で行なっています 微生物については この後すぐに触れますが 皆さんにまずお伝えしたいのは 場所の感覚と 規模の感覚です

太平洋は地球上で 最も広く最も深い海盆です 総面積は約1億5千万平方キロメートルです 地球上の大陸を全てつなぎ合わせ 現代版パンゲア大陸を形成すると 太平洋の中にすっぽり収まり なおも余裕があります 太平洋は巨大な生態系で 青く見える外洋から 緑色の大陸縁辺まで網羅します 私はこの場所で 食物連鎖の基部を支えるものを 研究しています プランクトンです

私の研究の中で というより 分野としての 海洋微生物学全体を通じ あるテーマが浮上しています それは「変化」です 微生物の生態系で 現実に計測可能な形で変化が起きており それは はっきりと見てとれるものです 海は地球の7割を占めていますから 海の変化は すなわち地球の変化で それは微生物から始まります

今日お話しすることに関連して エピソードを2つ用意しています 微生物に捧げる 愛の物語のはずなんですが 正直言いますと 中には 本当に悪さをするヤツもいます でもいいですね 「愛」に注目していてください それを今日お話ししに来たんです

まず知っていただきたいのは 海の森は微生物で形成されていることです 何が言いたいのかというと 大抵の場合 外洋に生息する植物は微細なもので 私たちが思う以上にその数は豊富です ではここで その顔写真を いくつかお見せしましょう 私が何年もかけ集めたものです これらの生物は海の食物連鎖の 最下層に属しています これらのちっぽけな植物や生物は 形 サイズ 色は多様で 代謝作用もいろいろです わずか1ミリリットルの海水に 何十万もの微生物が生息しています なので 海水浴のときは例外なく 微生物と一緒に泳いでいることになります 微生物は酸素を放出し 二酸化炭素(CO2)を吸収し 食物網の基盤となっており 他のあらゆる海洋生物が それに依存しています

私は研究者としての生活のうち 約500日を洋上で それ以上の日々を研究室や パソコンの前で過ごしてきました ですから 皆さんに微生物について 話す義務がある気がしています

まずは太平洋岸北西部に 目を向けましょう ここは緑豊かで美しい場所です これは花咲く植物プランクトンを 宇宙から捉えた様子で 米国西海岸一帯に広がっています 驚くほど繁殖力が高い生態系です ここにはサケやオヒョウ釣り ホエールウォッチングで人が集まり 米国有数の美しい場所です この場所で 10年ほど研究を行い 中でも特に 元気がでそうなテーマ 有害藻類ブルームを研究しました 有毒な植物プランクトンが開花して 食物網を汚染し 魚類や甲殻類の体内に蓄積され それが人の食用に捕獲されます 私たち科学者は 有害藻類ブルーム発生の 原因 場所 時期を理解しようと努め 捕獲された魚などの品質管理をすることで 人々の健康を守ろうとしました しかし問題がありました 海では目標が常に移動することと 人と全く同じで プランクトンにも 毒が強いもの そうでないものがあることです

(笑)

わかりますよね こういった問題を回避するため 衛星リモートセンシングと併せて ドローンやグライダー技術を使い 定期的に表層水の サンプル抽出を行い 洋上で多くの時間をかけました オレゴンの海洋沖に浮かんだ 小型船上で過ごしたんです こんな経験をされた方が ここにいらっしゃるかわかりませんが 簡単ではないんです

[海洋学者も船酔いする]

気の毒な学生たちを 見てやってください

(笑)

素性がわからないよう 顔は隠しておきました

(笑)

きつい仕事場です そんな苦労を重ね 集めたデータです いいですね?

(笑)

集めた全てのデータを 共同研究者と集計し 20年分の毒物と植物プランクトンの 細胞計数を時系列にまとめました そのデータから藻類ブルームの 発生パターンを把握し 予測モデルを構築しました

そこからわかったのは 有毒藻類ブルームの発生リスクは 気候と密接な関係があることでした ここでの「気候」は 毎日のお天気のことではなく 長期的な変化を指します こんな現象について 聞いたことがある方も多いでしょう 例えば太平洋10年規模振動(PDO)や エルニーニョは 通常 この地域に 乾いた暖冬をもたらしますが 同時に カリフォルニア海流の 勢力を弱めます これは太平洋北部を 北から南へ流れる海流で 沿岸に暖流を送り込みます この図の赤い部分がそれですが 異常な水温上昇が PDO現象の発生を 強く示唆しています それから海流や気温に 変化があると 有毒藻類ブルームの 発生リスクが上昇するだけでなく 同時に サケの繁殖数は減少し ミドリガニといった侵略的外来種が 繁殖するようになります なので 気候の変化は生物学的にも 経済学的にも影響が出るのです

このモデルが正確だと仮定すると これらの現象の発生頻度と深刻度は 悪化の一途をたどるのみと見込まれ 異常な水温上昇を伴います それを物語る例として オレゴンは2014年 史上最悪の 有害藻類ブルーム発生を経験しました その年は 当時としては近代観測史上で 最高の平均気温も記録しましたが それが2015年 2016年 2017年 2018年と続きました 実のところ 近代の観測記録史上で 最も気温の高かった5年というのは 直近の5年なのです 有害藻類ブルームの発生には 好都合であっても 健全な生態系維持にとり 不都合な話です

さて皆さんは甲殻類には 関心がないかもしれませんが これらの変化は 経済面で重要性の高い 水産業に影響を及ぼします 例えばカニやサケの漁がそうで またクジラなどの海洋哺乳類の 健康にも影響が及びます その方がまだ関心が湧くでしょう 気持ちに訴えるでしょうね

太平洋の果てが舞台の 世界滅亡の物語ということです そうは言っても これらは 本当に回復力が高い生態系です チャンスさえ与えられれば 完全に復元だってできます 大切なのは 目にしている変化から 目をそらさないことです これが次のエピソードにつながります 私はその後 地球上で最も人里離れた ハワイ諸島に拠点を移し 「Hawaiian Ocean Time-series」という プログラムの主任となりました この時系列研究プログラムでは 過去31年間 観測点「Station ALOHA」へ 毎月 航海に出かけています この観測点は太平洋のど真ん中の いくつもの海流が渦巻く中心で 私たちが北太平洋亜熱帯環流と 呼ぶ場所にあります そこは地球最大の海洋生態系で アマゾン熱帯雨林の 4倍の規模があります いい意味で暖かく 水は青く澄み 思わず飛び込み 泳ぎたくなる 場所なのは間違いありません 研究船からは飛び込めないんですが そのー サメがいるんです ググってみてください

(笑)

美しい場所です ここで1988年10月以来 何世代にもわたり 研究者たちが 毎月 観測点を訪れました 研究分野は生物学 化学 外洋物理学です 海面から海底まで 温度の計測をしたり 海流を追跡して 波を追ったりしてきました ここで新種生物も発見されました 大規模なゲノムライブラリーが 作られもしました これは革命的なことで 海洋微生物の多様性に関する 考えを新たにさせてくれました プログラムは 発見の場であるだけでなく 時系列の重要な側面は 私たちに歴史感覚や事象の前後関係を 理解させてくれることです また30年分のデータから 季節変動を取り除き 自然界に残される人間の足跡を 観測できました

ハワイで観察した象徴的な時系列が もう一つあります それはキーリング曲線です ご覧になったことがあれば良いのですが この時系列では 大気中のCO2の 急激な上昇が記録されました

問題なのは値だけではなく その上昇率です このような大気中のCO2上昇率は 地球の歴史上 前例のないものです これは海にも重大な影響を及ぼしました 温室効果ガス排出から放出される熱の 実に 90パーセントは 海に吸収されます 二酸化炭素の40パーセントも同様です Station ALOHAでは その観測に成功しています この点は 各回の航海を示しており 30余年にわたり観測の試みをしてきた 科学者たちの生き様を物語るものです 見えてくるまで30年かかりましたが CO2レベルの上昇は大気中でも 海面でも確認されました 赤線で示しています

それにより起きたのは 海水の化学構成に生じた 根本的な変化です pHの減少です pHは対数目盛りで 青線で示しています 海面表層においてpHが 30パーセント減少していることが この時系列で確認されました 食料の摂取や殻の形成が必要な生物は この影響を受けており 成長率や代謝的相互作用などに 変化が現れています 影響はプランクトンのみではなく 珊瑚礁といった 大規模な生態系にも及びます

さて この時系列から 説明できることの一つは これは表層の状況に過ぎないことです CO2の上昇とpHの減少は 水柱の表層500メートルまでの域で 観測されています これは非常に深刻なことだと 私は受け止めています この地は本当に 地球上で最も 人里離れた場所の一つなのに 水柱の表層500メートルに 影響が’出ています

この二つのことー 有害藻類ブルームと 海水の酸性化だけが 全てを物語るわけでなく ご存知の通り 他にも 海面上昇 富栄養化 南極圏と北極圏での氷冠の融解 酸素極小層の拡大 環境汚染 生態多様性の損失 乱獲などの問題があります 大学院生の勧誘は至難の技です 売り口上がこんなじゃ 学生も寄り付きませんよね?

(笑)

(ため息)

何度も言いますが これらの微生物の生態系には とても高い回復力があると思うのです ただ これ以上悪化の道を 辿るわけにはいかないんです

個人的な意見ですが 海と地を持続的に観察することは 現代の科学者に行動を起こさせる 道徳的要請のようなものです 私たちは 地球の自然界にもたらされた 変化の証人となっており そのことは私たちに その気にさえなれば 世界を変革するための案を採択し 法を制定する機会を与えてくれました これらの問題の解決策は たくさんあります 例えば 解決策一覧の作成や 地域における変革から さらには 環境保護に熱心な政治家に 票を投じること これを世界を挙げて実践するのです

(拍手)

愛に話を戻しましょうね

(笑)

微生物は大切なものです これらの生物は小さくて 豊富で 古くから生息し 地球に住む人そして地球そのものの 存続に欠かせません にもかかわらず CO2排出量は 向こう50年のうちに 今の2倍にまで上昇する勢いです なので 例えて言えば 20代の時の食生活を その影響を鑑みず 続けているようなものですが 私は四十路過ぎの女性なので これが私の燃料消費に及ぼす 影響がわかっています

(笑)

海は本当に生きているのです 生態系はまだ崩壊していません いえ 北極は例外です その話をしてもいいんですが

(笑)

でも 今日お話しした 継続的な観察という 何世代もの科学者たちによる献身が 気づかせてくれたのは 海にもっと注意を向けることや 地球存続の助けとなる微生物を 育んでいく大切さです

それに関連して 私が英雄と呼ぶ一人である ある方の言葉を引用します ジェーン・ルブチェンコです このスライドにぴったりな言葉で 「海は大きすぎるからといって 破壊されないわけでもないし 修復不可能なわけでもないが 大きすぎるからこそ 見逃すわけにはいかないのです」と

ありがとうございました

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

海に変化が起こると、地球にも変化が起こり、そしてそれは微生物から始まる、と海洋生物学者のアンジェリク・ホワイトは言います。ホワイトは、数十年分のデータにより裏付けられた事実をもとに、どのように科学者らが古くから生息する微生物を海の健康状態の重要なバロメーターとして活用しているか、また海水温度が上昇する中、私たちがどのように微生物を再生しうるかについて話します。

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