タトゥーシールで病院の診療が自宅でも受けられる(9:39)

トッド・コールマン(Todd Coleman)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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ジェーンを紹介します 彼女はリスクの高い妊婦です。
まだ妊娠24週間ですが 病院のベッドで 早産に結びつく筋収縮を モニターされています 決して幸せそうには見えませんね。その理由の一つは 技術者と専門家が 子宮の収縮を観察する重いベルトを 彼女に装着しているからです。
もうひとつの理由はジェーンは 不安だからです 特に心配しているのは 10日間の入院の後に 何が起きるのかです。
家に帰ってから 何が起こるのでしょう? もし彼女がこの段階で早産したら 非常に残念な結果になるでしょう。彼女はアフリカ系アメリカ人なので 早産や死産のリスクは 2倍になります。そこでジェーンには 二つの選択肢があります。
病院のベッドで安静にして 出産までの間 テクノロジーの囚人となり 入院費の支払いのため 残りの人生を費やす、もしくは10日間の入院後に帰宅し うまくいくよう祈るかのどちらかです。

どちらの選択肢とも 好ましいとは思えません。私がこのような話を考えはじめ 同じような話を聞くようになると 自問し 想像し始めました。
別の手段はないだろうか? 病院内の信頼できるパートナーと組んで 患者が自宅で 普段通りの生活を送りながら 高性能なモニターの利点を 活かせる方法はないだろうか?。
そう考えて 私は自身の研究グループのメンバーが 優秀な物質科学者と提携することを奨励し 全員で集まって ブレインストーミングを行いました。
そして長い過程を経て アクセサリーの様に身に付けられる あるいは 絆創膏の様に貼り付けられる 装着可能なシステムのビジョンと アイディアを得たのです。
そして試行錯誤の結果 この柔軟性のある電子シールを 完成させました。

これはコンピューターチップを 作るのと同じ工程で 製造されましたが この電子装置は 半導体の固いウェハーではなく 肌に直接触れられるような 柔軟な素材に変更されました。
これらのシステムは 人の髪の毛程の厚さで 我々が求めるタイプの情報を測定できます。
情報とは例えば体の動きや体温、身体の電気的リズムなどです。さらにこれらのシステムの設計もできます。電源を搭載することができて無線での送信も可能です。
これらのタイプのシステムを構築し 我々の研究グループで テストを開始しました。
さらに サンディエゴにいる 臨床パートナーに連絡し 異なる症例をもつ複数の患者を対象に テストを始めました。ジェーンのような、母親になる人も含めてです。

これは我々の大学病院の分娩室にいる妊婦が、従来のベルトで子宮の収縮を観察されている写真です。
加えて 我々の柔軟性電子シールも見えます。
この写真は 胎児の心拍数に関する波形を示し 赤い箇所は従来のベルトで 得られた数値です。青い箇所は我々の柔軟な電子システムと 我々の方式を使って予想した数値です。

この瞬間 我々は心の中で祝福し合いました 我々が想像したことの いくつかが成果を上げ始め 実際に臨床で目にすることができたのです。
しかしまだ問題が残っていました 問題はこれらのシステムを製造する方法は とても非効率的で 歩留まりは悪く エラーが発生しやすいということです。
さらに 病院の看護師たちと話をすると 我々の電子装置が 病院で使用されている 一般的な医療用テープでも 動作確認をするように勧められました。
ここでひらめきました。「待てよ 電子装置を接着シートで 貼り付けるのではなく 接着シートに装置を組み込めば 製造上の問題を解決できるぞ」。

ここにご覧いただく写真は テープをウェハーから剥がすだけで これらのセンサーをテープに 一体化できることを示しています。
継続的なプロジェクトにより 我々の研究グループは 柔軟性のあるテープに 集積回路を内蔵することで 信号の増幅やデジタル化 信号の処理や 無線通信のエンコーディングを 可能にしました。
これらの機能全てが 病院で使用されているのと 同じ医療用テープに 統合されました。

我々はこの段階に到達した時点で 設計と使い勝手の双方の観点から 実用性を高めようとしたのですが 更なる課題にぶつかりました。
多くの医療電子化の議論で人々が固く信じていることとは、我々はデータを単に電子化して無線で送信しクラウドに送りさえすれば、クラウドで有用な情報を抽出解析できるということです。
実を言うと 電源の心配さえなければ これらは全て実行可能です。

ジェーンの例を考えてみましょう 彼女が住んでいるのはパロアルトでも ビバリーヒルズでもありません。
どういう意味かというと 彼女のデータプランと 継続的なデータ送信にかかる費用を 考慮する必要があるということです。
他にも 医療の専門家の多くが あまり語ろうとしない 問題があります。
それはジェーンが医療機関を あまり信頼していないことです。

ジェーンや 似た境遇の人々や 前の世代の人々は 医師や病院 または保険会社から 手厚く扱われてきませんでした。
だからこそ個人情報の問題に 気を使う必要があるのです。
ジェーンにとって全てのデータが クラウド内で処理されることは 好ましい事ではないでしょう。
それにジェーンには分かっています 彼女は新聞を読んでいますから。
連邦政府やフォーチュン500企業を ハックできるなら 担当医師も例外ではないことが わかっているのです。

この事を考えていると 我々はひらめいたのです。
世界中の全てのハッカーを 負かすことはできませんが 攻撃対象となることを 最小限に抑えることはできるでしょう。
もしクラウド内で データを解析する アルゴリズムを動かすのではなく 接着シールに内蔵された 小型集積回路の上で 動かしたらどうでしょう?。
そしてこれらのものを統合した今こそ 我々は未来について 考えることができるのです。

ジェーンのような人が モニターされていても 日常生活を送ることができ、データプランの支払いの為に 別の仕事を見つけなくてもすむ形で 実現可能な上に、個人情報への不安に 対応できる―そんな未来です。現段階で 我々は大変自信をもっています 我々はこの問題を解決し 個人情報についての 幾つかの問題に対処し プロジェクトの最終章を 迎えていると感じます。
これで「めでたしめでたし」ですね? ただ そう簡単にはいきません (笑)

先程私が述べたように 思い出していただきたいのは ジェーンは医療機関に 高い信頼を寄せているわけではありません。
思い出さなければいけないのは 健康格差はますます広がり 適切な治療管理が 平等に行われていないことです。
つまり この図では ジェーンと彼女のデータを 簡単に表していて 彼女はデータが無線通信でクラウドに 送信されることや 必要であれば医師が関わることにも 満足していますが それが全てではないのです。
そこで我々が新たに始めたことは ジェーンの様な人々と 医療機関の仲介を務める 信頼できる第三者を置く 方法を考えることです。

具体的には 教会との提携や 教会という信頼されている コミュニティの一員である看護師が ジェーンの様な人々に 患者支援や健康指導をすることを 検討し始めています。
もう一つ 我々にとってラッキーなのは 保険会社からの問い合わせが 増えていることです。
彼らが気付き始めたのは 装着可能な装置と健康指導に 今1ドルを支払うほうが 早産の新生児が病院内で 最も費用の掛かる 新生児集中治療室に運ばれて 後で10ドルを支払うことになるより 良いということです。
ここまで理解するには 長い時間がかかりました。問題を解決すると 次の問題が見つかるという繰り返しは 決して楽なものではありませんが 次の問題を特定できれば 実際にテクノロジーで 革新するだけでなく 最も必要とする人が 確実に使える様にするという 我々の目標に導いてくれます。

他にもこの過程から学んだ事は 非常にささやかなことですが どんなにテクノロジーが進歩したとしても 人間がこのテクノロジーを 利用している事を思い出し 意識する必要があります。
つまり我々人間には 1つの顔―1つの名前―1つの命があることです。
そしてジェーンの場合は 2つの命になってほしいのです。

ありがとうございました(拍手)

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このプレゼンテーションについて

もし医師が自宅にいる患者を、入院時と同じ様に的確に観察することができたらどうでしょうか?バイオエレクトロニクス革新者であるトッド・コールマンが、革命的な健康医療と低侵襲治療を約束する、装着可能で、柔軟性のある電子健康管理シールを開発するまでの探究を紹介します。

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