厚生労働相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)は14日午前、2024年度の診療報酬の改定内容を決定し、武見厚労相に答申した。増加する高齢者の救急患者に対応する新たな病棟の創設などが柱となる。業務の効率化に向け、電子カルテなど医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進も後押しする。新しい診療報酬は6月から適用される。
診療報酬は原則2年に1度見直される。政府は昨年12月、医師や看護師らの人件費に回る「本体」部分を0・88%引き上げる一方、医薬品など「薬価」部分を1・00%下げることとし、全体で0・12%のマイナス改定を決めた。これを踏まえ、中医協が医療行為ごとの価格をまとめた。改定の施行時期はこれまで4月だったが、6月に変わる。
今回の改定では、高齢化とともに人口減少が進む「2040年問題」を見据えた対応を盛り込んだ。新病棟「地域包括医療病棟」の創設が大きな目玉だ。
高齢者の救急患者は、誤嚥性肺炎や尿路感染症など軽症・中等症が9割を占めている。新病棟は地域の中小病院を中心に設け、治療からリハビリ、栄養管理、退院支援まで一貫して提供し、重症度の高い患者を受け入れる大病院と役割分担する。
看護師は患者10人につき1人以上配置し、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士のリハビリ専門職を2人以上、管理栄養士は1人以上を常勤で置く。
勤務医の残業時間に上限を設ける「医師の働き方改革」が4月に始まるため、業務の効率化にも力を入れる。医療DXの普及を目指し、体制を整備した場合に加算する仕組みを新設する。マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」から得られた情報を診療に活用するほか、電子処方箋や電子カルテの導入が要件となる。電子処方箋は全国の導入率が6%にとどまり、普及が課題となっている。
患者の受診時にかかる初診料は2910円、再診料は750円と現行よりそれぞれ30円、20円高くなる。初診料の引き上げは消費増税に伴うものを除くと、06年度以来となる。初診患者が少ない一部の医療機関では、初診料がさらに上乗せされて、最大で730円高くなる場合がある。増額分は賃上げの原資にして、医療従事者の人材確保につなげる。
4月に始まる「医師の働き方改革」を前に、医療現場に苦悩が広がっている。読売新聞の調査では、違法残業で是正勧告を受ける病院は後を絶たず、病院側からは「医師が足りず、労働時間の削減は簡単ではない」と悲鳴が上がる。課題は山積している。(大阪社会部 田中健太郎、西井遼)
西日本の公立病院に勤務する30歳代の男性医師は「多くの医師が疲弊し、使命感で何とかやっている。働き方改革と言ってもほとんど変わらない」と漏らす。
昨年末のある日、男性は午前7時過ぎに出勤し、まもなく手術を始めて終了したのは午後11時過ぎだった。術後の患者の経過を見守り、帰宅したのは午前2時。3時間ほど睡眠を取って出勤し、また手術をこなした。
男性の病院は数年前、労働基準監督署から是正勧告を受けた。だが、申告する残業時間を調整するよう指示されただけで負担は変わらない。今も時間外の業務は毎月150時間を超える。男性は「日本の医療は医師の自己犠牲で成り立っている」と訴える。
本紙の調査では、2018年以降、都道府県と政令市が運営に関わる公的病院で医師の違法残業で是正勧告を受けた病院は42に上る。
今年4月以降、勤務医の残業時間に罰則付き上限が設けられる。原則年960時間、研修医など特別に認められた場合は年1860時間となる。医師は適用を5年間猶予されていたが、違法残業が続いている。
コロナ禍の20~22年は勧告を受けた病院は少なかった。労基署の調査が困難だったためとみられ、実際は多くの病院で違法残業が行われていた可能性がある。
原因として挙がったのが「医師不足」だ。
厚生労働省によると、医師数自体は増えている。しかし、勤務が不規則な外科や産科など一部の診療科はなり手が少なく偏在し、地方では確保も難しい。今回の調査でも、一部の専門医に業務が偏ったり、離島など他の医療機関が乏しかったりする病院が勧告を受けていたケースが目立った。
産科医3人の違法残業で18年に是正勧告を受けた愛媛県立新居浜病院は県東部の周産期医療や新生児の治療を一手に担う。医師を1人増やしたが、担当者は「妊産婦や
日米両政府が科学研究に特化したAI(人工知能)の開発で連携に乗り出すことがわかった。AIの学習に使うデータの共有や、開発に使うスーパーコンピューターの共同利用などを視野に入れる。AIの活用で研究が高速化し、科学的発見を巡る国家間の競争が世界的に激しくなることが見込まれており、同盟国で協力して開発を進める。
日米の連携は、文部科学省が所管する理化学研究所と、米エネルギー省傘下のアルゴンヌ国立研究所の政府系研究機関の連携が柱になる見通しだ。
理研は「富岳」、アルゴンヌ国立研究所は「オーロラ」と、ともに世界トップ級の高性能スパコンをもっている。AIの開発には大量の計算が必要になり、双方のスパコンを活用することを検討する。成果やデータの共有などでも協力を深める方向だ。今春の合意を目指す。
日米両政府はそれぞれ、独自の実験データや論文を読み込ませた研究に特化したAIの開発に乗り出している。日本では創薬などの生命・医科学分野と、新材料などの材料分野に絞って開発を進める方針で、企業や大学に開放し、日本の産業競争力の強化につなげる。文科省は2023年度の補正予算で開発費として約120億円を計上した。
米国もアルゴンヌ国立研究所が気候やがん、宇宙など科学研究向けに大規模なAIを開発すると発表した。高性能のAI開発には良質なデータが必要になり、お互いのデータや開発成果を共有することで、精度の高いAIを開発できる可能性がある。
AIは短時間で大量のデータを分析できる。理研の試算によると、研究向けAIが確立された場合、創薬で成果を出す期間を従来の約2年から約2か月に短縮したり、調べられる範囲を1000倍に拡大したりできる可能性があるという。
研究へのAI活用を巡っては科学的発見の急増がもたらす社会への影響が大きく、リスクも同時に議論すべきだとの声も出ている。研究者の創造性を奪うといった懸念もあるため、文科省は開発する研究向けのAIで、AIの関与を実験など一部の作業に限定する。
妊娠中に体重が過剰に増えた女性は、将来的に高血圧や糖尿病などの慢性疾患になる人の割合が高かったとする研究結果を、国立成育医療研究センター(東京)のチームがまとめた。高血圧を発症した人の割合は、体重増加が適切だった女性と比べて、約1・5倍高かった。
こども家庭庁の指針では、妊娠中の適切な体重増加量は、妊娠前の体格の指標となるBMIが「やせ」(18・5未満)の人は12~15キロ、「普通」(同18・5~25未満)の人は10~13キロが目安となっている。
研究では同センターに通院した妊婦の母親に協力を求め、1976~97年に出産した、妊娠前のBMIが「やせ」か「普通」だった女性318人(平均64・3歳)を対象にした。妊娠~出産時(同28・5歳)の体重変化について母子手帳のデータを収集し、現在糖尿病や高血圧などの持病があるかアンケートで尋ねた。
その結果、体重増加が目安を上回っていたグループは、目安内で適切だったグループと比べて、高血圧を発症した割合が約1・5倍高かった。糖尿病では約1・4倍、肥満(BMI25以上)になった割合も約1・8倍高かった。
同センター産科の小川浩平診療部長は、「適切に体重を増やすことは、赤ちゃんだけでなく、妊婦自身の健康を守るためにも重要だと確認できた。妊婦が痩せていると、低体重の赤ちゃんが生まれるリスクもあるので、主治医の指示をよく聞いてほしい」と話している。
増加する高齢者の救急搬送に対応するため、厚生労働省は、新たな受け皿となる「地域包括医療病棟」を創設する。地域に根差した中小病院を中心に設け、高度な医療を担う大病院との役割分担を図る。看護師などを手厚く配置し、治療からリハビリ、退院に向けた支援までを一貫して提供して、早期に自宅に戻れるようにする。2024年度の診療報酬の改定に盛り込む。
新病棟は、高齢者の救急患者の受け入れやケアに必要な体制を備えるのが特徴だ。高齢者に多い誤嚥性肺炎や尿路感染症などの患者を想定している。入院中は体力を維持するため、リハビリや栄養管理で支援し、退院後の生活相談、在宅復帰後に必要な介護サービスの調整までを包括的に提供する。
看護師は、患者10人につき1人以上、夜勤は2人以上を病棟に配置するという施設基準を設ける。リハビリなどを行う理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士を常勤で置くことも求める。診療報酬改定では、導入した医療機関に対する新たな入院料を設けて整備を進める。
近年、65歳以上の高齢者の救急搬送件数は増加傾向にある。総務省消防庁によると、22年は386万人に達し、10年前より100万人以上も増え、救急搬送全体の6割を占めている。搬送件数は35年にピークを迎えると見込まれている。
一方で、高齢者の救急患者のうち、9割が軽症・中等症患者だ。大病院に運ばれて治療を受けても、入院中にリハビリなどが十分に行われず、結果的に心身の機能が低下してしまうことが指摘されている。
厚労省はこれまで「団塊の世代」が全て75歳以上になる25年を見据え、治療後の在宅復帰を支援する「地域包括ケア病棟」を14年に新設し、拡充を進めてきた。23年5月時点で約2600病院に約10万床が整備された。高齢者の救急搬送受け入れにも対応してもらうことが期待されていた。
しかし、症状が安定した患者を想定した病棟であるため、病院側から十分に対応できない場合があるとの声が上がっていた。地域包括ケア病棟は看護師が患者13人につき1人以上配置されている。新病棟はさらに手厚くすることで、救急患者への対応を可能にする。
◆診療報酬 =医療機関や調剤薬局
関東甲信の大雪は6日未明にピークを過ぎ、同日朝には多くの地域で小康状態となった。鉄道などの交通機関の乱れは一部で続いているが、高速道路の通行止めも解消に向かう見通し。ただ、気圧の谷などの影響で6日も雪や雨が降る所があり、気象庁は路面凍結などによる交通障害に注意を呼びかけている。
東京消防庁によると、東京都内では5日から6日午前10時までに4~92歳の男女計109人が転倒するなどして救急搬送された。
関東甲信の9都県に出されていた大雪警報は6日朝までにすべて解除された。気象庁によると、6日午前8時現在の積雪は、前橋市7センチ、都心6センチ、さいたま市5センチなど。
高速道路は関東甲信越、東海地方の広い範囲で通行止めが行われ、国土交通省によると、6日午前5時時点で、41路線325区間に及んだ。周辺道路などでの大規模な立ち往生は発生しなかったという。通行止めは除雪作業が完了し次第、順次解除される見通し。
JR中央線の高尾―富士見間は始発から運転を見合わせ、6日午後1時に再開予定。西武池袋線などの一部の列車は運休している。そのほか都内を走る多くの在来線は一部で遅れはあるが始発から運行している。
医療機関が被害を受けた能登半島地震の被災地で、コンテナ型の医療救護所での診察が行われている。避難所では新型コロナウイルスなどの感染症患者を隔離するスペースが少なく、プライバシーに配慮した対応も難しかった。感染症拡大を防ぐためウイルスを室外に出さない機能を備えたコンテナもあり、活用が広がっている。(広瀬航太郎、小山内裕貴)
「喉に痛みがある」
石川県珠洲市の市立宝立小中学校に設置されたコンテナ型の医療救護所で、避難者の男性(61)がせきや鼻水などの症状を訴えた。高槻病院(大阪府)から支援に来た医師(49)は抗原検査をスタッフに指示し、新型コロナの陽性と診断した。
男性は受診する2日前に喉の違和感を覚えて避難所を離れ、倒壊を免れた自宅物置で寝泊まりしていた。解熱剤を処方された男性は、「かかりつけ医はどこも被災していて困っていた。近くで診てもらえてよかった」とほっとした表情を見せた。
厚生労働省と内閣府は被災地の医療態勢を補うため、コンテナを所有する病院などに派遣を要請。先月31日時点で珠洲市や輪島市、志賀町の3市町に計21基が設置された。さらに追加する予定もある。
宝立小中学校のコンテナは幅2・4メートル、奥行き6メートルほどで、医師2人を含む7人で運用している。長引く避難の影響で高血圧や歩行障害などの訴えが多く、片付け中のけがや、やけどの患者もいるという。
このコンテナは「発熱外来」としての使用を想定し、ウイルスや細菌を紫外線で不活性化する設備を備える。地震直後に駆けつけた医療チームは避難所を巡回し、避難者が行き来する廊下についたてを設置するなどして診察していた。
石川県医師会によると、能登半島北部の4市町にある診療所など約30か所のうち、通常診療を再開できたのは2日現在で輪島市と能登町、穴水町の計11か所で、珠洲市の6診療所は再開できていない。
NPO法人が運営する「空飛ぶ捜索医療団ARROWS」の一員として医療コンテナでの活動に参加した医師(救急医)は、「診療所が再開できるまで、医療コンテナが地域の医療を支えることになるだろう。在宅避難者もいるので、活動して