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血液細胞の元となる造血幹細胞を体外で効率的に培養することに成功したと、筑波大などのチームが発表した。造血幹細胞は白血病などの治療で移植に使われていて、人工的に増やす技術が確立されれば提供者(ドナー)不足の解消につながるという。論文が科学誌ネイチャーに掲載された。
造血幹細胞はさい帯血(へその緒などの血液)や骨髄の中に存在し、赤血球や白血球などの血液細胞に変わる。正常な血液細胞がつくれない白血病患者らの移植治療に不可欠だが、さい帯血に含まれる量は少なく、骨髄の移植はドナーの負担が大きいのが課題だった。
そこでチームは、さい帯血から集めた造血幹細胞を人工培養する方法を研究。増殖を促すと考えられてきた、体内にもある「血清アルブミン」と「サイトカイン」と呼ばれるたんぱく質の代わりに、同じ働きをもつ複数の化合物を培地の材料にした。この培地で造血幹細胞を培養したところ、1か月間、安定的に増え続けたという。
チームは2019年、マウスの造血幹細胞の体外培養に成功しているが、人で効率良く増やすことができたのは今回が初めて。チームの山崎聡・筑波大教授(幹細胞生物学)は「大量培養が可能な体制を整え、医療現場での実用化を目指す」と話す。
新井文用・九州大教授(幹細胞再生修復医学)の話「人工合成した物質を使うため、品質にばらつきのない造血幹細胞が安定的に供給できるようになる可能性がある」
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千葉大と理化学研究所のチームは、顔や首にできる「頭頸部がん」患者の治療のため、人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った免疫細胞「ナチュラルキラーT(NKT)細胞」と、この細胞の活性化を促す別の免疫細胞を投与する臨床研究を年内にも始める。治療効果を高める狙いがあり、厚生労働省の専門部会が16日、了承した。
頭頸部がんは鼻や口、喉、あごなどにできるがんの総称で、毎年約1万5000人が発症するとされる。
計画ではまず、他人のiPS細胞を変化させ、がんを攻撃するNKT細胞を作製する。さらに患者本人の血液から、NKT細胞を活性化させる別の免疫細胞「樹状細胞」を取り出して培養し、前もって患者の鼻から注入。5日後、NKT細胞をがんがある患部に動脈を通じて投与する。
チームは2020年から、NKT細胞のみを投与する治験を進めている。今回の臨床研究では、さらに免疫を活性化させる方法として、患者2~6人を対象に安全性や有効性を検証する。チームの本橋新一郎・千葉大教授(腫瘍免疫学)は「相乗効果を確認し、治療としての提供を目指す」と話す。
田野崎隆二・慶応大教授(血液内科学)の話「他人の細胞を入れることによる拒絶反応の影響を慎重に確認するべきだ」
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厚生労働省は13日、新型コロナウイルス感染症の名称について、感染症法上の分類が「5類」に引き下げられる5月8日以降も、当面は継続して使用する方針を決めた。名称の変更により国民の警戒感が緩むことを懸念したためで、厚労省の専門家部会で了承された。
5類移行後の名称を巡っては、「コロナウイルス感染症2019」とする案が先月、検討された。ただ、一般の風邪を引き起こすコロナウイルスに比べると「新型」であることや、感染力が高く、感染後に亡くなる人もいる実情を踏まえ、名称変更で国民に「感染対策をしなくてもよい」と受け取られるのは望ましくないと結論づけた。
厚労省は、省令を改正し、季節性インフルエンザと同様に、5類感染症として「新型コロナウイルス感染症」を明記する。ウイルスの病原性や感染力に大きな変化があれば、改めて名称の変更を検討する。
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政府は10日、新型コロナウイルスの感染症法上の分類引き下げに伴う医療体制と公費支援の見直し策を決定した。季節性インフルエンザと同じ5類となる5月8日以降、外来医療の窓口支払い分は原則自己負担とし、インフルエンザ並みとする。入院に対応する医療機関を拡大し、国内の全病院での受け入れを目指す。
持ち回りの政府対策本部(本部長・岸田首相)で決定した。コロナ医療への行政の関与を段階的に縮小し、「幅広い医療機関による自律的な通常の対応に移行」すると明記した。診療報酬の上乗せも見直し、来年4月の診療報酬改定に合わせ、新たな医療提供体制に移行するとしている。
2類相当の現在、陽性確定後にかかる医療費の窓口支払い分は無料だが、5類移行後は原則、自己負担となる。ただし、9月末までの経過措置として、コロナ治療薬は高額なため、公費負担とする。入院医療費は年収などに応じて上限が決まる高額療養費制度を適用した上で、最大月額2万円を減額する。経過措置の10月以降の扱いは、夏の感染状況を見て再検討する。
2類相当の新型コロナは、特定の医療機関が入院や外来診療に対応する仕組みだ。入院については現在、約3000医療機関がコロナ病床を確保しているが、コロナ病床としての位置づけを廃止し、国内全病院(約8200)での受け入れを目指す。外来は約4万2000の発熱外来が担っており、これをインフル並みの約6万4000医療機関に拡大したい考えだ。
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新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に移行した後を想定し、厚生労働省の助言機関のメンバーらは8日、身近な感染対策について新たな見解をまとめた。「外出時はマスクを携帯し、必要に応じて着用」など、場面に合わせた対応を呼びかけている。
見解では、重症化しやすい高齢者に感染が及ばないようにする配慮が必要と指摘。感染防止の五つの基本として、〈1〉体調不安・症状があれば自宅療養か受診〈2〉流行や混雑状況などに応じたマスク着用〈3〉換気と3密の回避〈4〉手洗いの習慣化〈5〉適度な運動と食事――を挙げた。
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新型コロナウイルスワクチンについて、厚生労働省は7日、高齢者など重症化リスクの高い人を対象にした先行接種を5月8日に始める方針を決めた。昨秋から12歳以上を対象にオミクロン株対応ワクチンを使って進めてきた現行の接種は5月7日に終了する。
2023年度の接種スケジュールが、7日に開かれた厚労省の専門家分科会で了承された。24年3月まで、無料で受けられる「臨時接種」に位置づける。
先行接種は、65歳以上の高齢者や持病のある人、医療・介護従事者が対象で、オミクロン株対応ワクチンを使う。
9月からは、年末年始に想定される感染拡大に備えるため、全ての世代を対象に実施する。使用するワクチンは変異株の状況などを踏まえて決める。年1回接種が基本だが、高齢者らは先行接種と合わせ、2回接種できることになる。
一方、従来型ワクチンで2回目までの接種を終えた5~11歳を対象に3月8日からオミクロン株対応ワクチンの追加接種を始める。米ファイザー製の小児向けワクチンが2月末に特例承認されたことを受けたもので、前回接種から3か月以上の経過が条件となる。
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子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐ新しいワクチンについて、厚生労働省は4月に始まる定期接種での接種回数を、原則2回とする検討に入った。これまでのHPVワクチンは3回の接種が必要だ。回数が減り、接種を受ける人の負担軽減が期待される。7日に開く専門家分科会で議論する。
新しいワクチンは、9種類のウイルスの型に対応した9価ワクチン。公費で受けられる定期接種で現在使う2価や4価のワクチンより感染予防効果が高いとされる。
厚労省の案では、9価ワクチンの定期接種は、小学6年~高校1年(11~16歳)の女子を対象とする。このうち、臨床試験で2回接種の効果が確認できた11~14歳は、6か月の間を空け、2回接種となる。15、16歳は3回の接種を受ける。
9価ワクチンは2020年7月、3回接種する方法で承認された。このため厚労省は、定期接種の回数も3回で予定していた。
厚労省の専門家部会は先月下旬、9~14歳の女子に限り2回の接種も可能とすることを了承。近く2回の接種が承認される見通しになったため、予定を変更する検討を始めた。
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新型コロナウイルスの感染症法上の分類引き下げに伴い、政府が検討している医療体制と公費支援の見直し案の全容が判明した。5月8日の5類移行後は、外来の医療費は原則自己負担とする。高額の治療薬のみ9月末まで公費負担を維持し、10月以降の扱いは感染状況を踏まえて検討する。高齢者施設に対しては支援を当面継続する。
政府は見直し案について都道府県や医師会などと調整した上で、10日にも政府対策本部(本部長・岸田首相)で決定する。
見直し案は、基本的な考え方として「限られた医療機関による特別な対応から、幅広い医療機関による自律的な通常の対応に移行する」と明記した。激変緩和の経過措置期間を経て、2024年4月に新しい医療体制に移行させるとしている。
原則公費で賄われるコロナ患者の医療費窓口支払い分は、他の疾病との公平性の観点などから公費負担を縮小。厚生労働省の試算では、窓口負担が3割の70歳未満なら、現在は陽性確定前の初診料など計2590円程度が自己負担となる。5類移行後は季節性インフルエンザと同等の3710~4170円程度となる見通しだ。治療薬の公費負担を続けるのは、自宅療養向けのものでも1回10万円近くと高額なためだ。
入院費用は高額療養費制度の対象とし、年齢や年収に応じた限度額までが自己負担となる。9月末まではさらに最大2万円を補助する。10月以降は、感染状況を踏まえて決める。
一方、高齢者施設は重症化リスクの高い入所者が多いことから、無料でのウイルス検査や協力医療機関の確保、施設内療養への補助金などの支援を続ける。
医療提供体制も段階的に正常化し、外来は現在の約4万2000の発熱外来での対応から、最終的に約6万4000医療機関で対応する体制を目指す。
入院患者は、全病院(約8200か所)での受け入れを目指す。約3000の重点医療機関などは重症患者に重点を置くこととし、それ以外で入院受け入れ経験のある約2000医療機関に軽症・中等症患者の受け入れを促す。都道府県が4月中に、入院受け入れの「移行計画」を策定する。
自治体が担ってきた入院調整も段階的に、病院間での自主的な調整
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厚生労働省は、脳死下で臓器移植できる機会を広げようと、臓器提供を希望する患者が入院する医療機関で脳死判定が行えない場合、他施設に転院搬送する実証事業を始める。病院の体制が不十分で脳死判定できないケースは以前からあったが、コロナ禍が拍車をかけた。2023年度から全国数か所で試行し、24年度以降の本格実施を目指す。
脳死判定は、大学病院など高度な医療を提供できる施設で行うよう、厚労省が指針で定めており、全国に908施設(21年度末時点)ある。しかし、うち半数の459施設では判定に十分な経験を持つ医師など必要な体制が整っていない。
さらに、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、対応可能な施設でも、〈1〉集中治療室(ICU)が確保できない〈2〉判定に携わる医師らを集められない――として、見送られるケースが起きた。
日本臓器移植ネットワークによると、脳死下での臓器提供は19年に97件だったが、新型コロナが流行した20年は68件、21年は66件に落ち込んだ。
こうした事態を受け、厚労省は、やむを得ない事情がある場合に限り、転院搬送の試行に踏み切る。現行ルールでは、通常の重症者と比べ、搬送中に容体が急変するリスクが高いため、「控えるべきだ」とされており、原則として認められていない。
23年度は、患者の搬送や脳死判定がスムーズに行えるかなどを検証する。対象は、厚労省の指針で定める医療機関に限定し、連携して事前に搬送体制を整えた病院間で行う。
転院搬送では、患者の容体について、医師が脳死の可能性が高いと判断した場合、両病院で情報を共有。患者の家族には、搬送中の危険性などを説明した上で転院の同意を得て、最も安全だと判断した方法で搬送する。転院した病院で脳死判定を行い、臓器の摘出手術を進める。
救急医学が専門で移植医療に詳しい横田裕行・日本体育大教授は「脳死判定は患者がいる病院で極力行うべきだが、困難な場合は患者や家族の希望をかなえるため、転院搬送は選択肢となる。搬送中の急変リスクを十分に評価した上で実施するべきだ」と話している。
◆脳死判定= 臓器移植法に基づく法的な脳死判定では
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小児のがんや難病の治療薬の国内承認が海外より遅れる「ドラッグラグ」の解消に向け、厚生労働省は新たな制度の導入を検討する。小児用の薬を大人用と同時に開発することを求める米国の法制度などを参考に、厚労省研究班が3月末にもまとめる提言を踏まえて、開発促進につなげる。
小児のがんや難病は患者数が少なく、承認を目指す治験を進めるのが難しい。市場規模も小さく、製薬企業にとって採算性が低い。米国では2017年、製薬企業に対し、がんの分子標的薬を開発する際は小児用も同時に進めることを義務付ける法律が成立した。同年以降、米国では34種類の小児がん治療薬が承認されたが、このうち27種類が日本ではまだ承認されていない。
研究班は今年1月に設置された。鹿野真弓・東京理科大教授ら医薬品開発に詳しい専門家が、小児の薬の開発を促進する欧米の法規制などを調査。米国のような法制度を導入する際の課題などを洗い出す。企業や医師にも、開発の動機付けとなる取り組みについて意見を聞く。
厚労省は、企業に小児の薬の開発を促すため、承認審査の期間を短縮したり、薬価に加算を設けたりするなどの優遇制度をとってきた。だが、ドラッグラグは深刻なままだ。厚労省医薬品審査管理課の担当者は、「研究班の提言をもとに、実効性のある制度を迅速に検討したい」と話している。