コラム・連載

ゴルフジャーナリストが見た、プロゴルファーの知られざる素顔

一人の少年を讃えたフリートウッドの想い

2022.7.15|text by 舩越園子

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2019年9月に英国の名門ウェントワースで開催されたDPワールドツアー(欧州ツアー)のビッグ大会、BMW―PGAチャンピオンシップの2日目のこと。

キャップの下からはみ出した“ロン毛”と優しい笑顔がトレードマークの英国人選手、トミー・フリートウッドは、自身のプレーを終えた後、18番グリーンに一人の少年を招き入れた。

フリートウッドは大観衆に向かって、「みなさん、彼は12歳。アーチー・クェルトゥルーくんです」と、大きな声で少年を紹介し始めた。

「アーチーくんは、親友を事故で失い、残された遺族への寄付を募るため、24時間ゴルフをし続ける“チャリティ・ゴルフ・マラソン”を5日間も行なって、何千ポンドという寄付金を集め、遺族に贈りました。とても勇気ある行ない、とても素晴らしい行動だと思います。そんなアーチーくんに僕は心からお礼が言いたくて、彼をこの場に招待しました。そして、彼と彼の行ないをみなさんに紹介したいと思いました」

そう言い終えると、フリートウッドは少年の手を固く握り締め、「サンキュー!サンキュー!」と何度もお礼を言った。

言うまでもなく、フリートウッドは、アーチーくんとも、事故で亡くなった彼の親友とも、知り合いだったわけでも何でもない。

アーチーくんがゴルフ・マラソンで集めた寄付金が、フリートウッドや彼の関係者に贈られたわけでは、もちろんない。

だが、とにもかくにもフリートウッドはアーチーくんの行動に感銘を覚え、「誰かのために素晴らしい行動を示してくれたことに感謝の念を抱かずにはいられない」と感じたからこそ、この少年に「ありがとう」と言い続けたのだ。

そして、フリートウッドはアーチーくんを同じ試合に出場していたローリー・マキロイやシェーン・ローリーといったメジャー・チャンピオンたちにも引き合わせ、アーチーくんは憧れのスター選手たちと握手を交わしながら夢のようなひと時を過ごした。

さらにフリートウッドは、アーチーくんを練習場へ連れて行き、小1時間、ゴルフの個人レッスンも授けた。

「わずか12歳にして、5日間もゴルフをし続けたアーチーくんの行動を、僕はできる限りのことをして讃えてあげたい」

そんなフリートウッドとアーチーくんの姿を目にした欧州ツアー財団は、「これからもさまざまなチャリティ活動を行って誰かの力になりたい」と言ったアーチーくんを支援するため、2000ポンド(約33万円)を彼に寄贈したそうだ。

幼少期の思い出

事故死した親友の遺族のためにゴルフ・マラソンというチャリティ活動を実際に行なったのはアーチーくんだが、アーチーくんの素晴らしい行動を讃え、その行動を人々に広め、認知や理解を広げたのはフリートウッドだった。

社会貢献には、いろいろなやり方があっていい。直接アクションを起こす方法がある一方で、誰かが起こしたアクションに共感し、賛同し、背後からサポートすることも、立派な社会貢献である。

英国のゴルフのメッカ、サウスポートで生まれ育ったフリートウッドは、幼いころからゴルフクラブを握り、めきめき腕を上げていった。だが、彼の家庭が経済的に恵まれていたかと言えば、そうではなく、練習の場は地元のムニシパル(公営)の庶民的なゴルフ場だけだったそうだ。

フリートウッドの父親は、そんな息子に英国の一流コースでプレーする感覚を少しでも味わわせたいと思い、父子は格式高いロイヤル・バークデールに夜な夜な忍び込み、こっそりプレーした日々もあったのだそうだ。

そんな幼少時代を過ごしたからこそ、フリートウッドは、懸命に頑張っていた少年に視線を向けたのだと私は思う。

昼間はムニシパルのゴルフ場で練習を重ね、夜にはロイヤル・バークデールでこっそり球を打ったフリートウッドは、やがて英国屈指のジュニア、アマチュアゴルファーとなり、数々のタイトルを獲得後、2010年にプロ転向した。

2011年には欧州チャレンジツアーのカザフスタン・オープンを20歳で制し、史上最年少優勝を飾ると、2013年にはDPワールドツアーのジョニー・ウォーカー選手権で初優勝、2017年にはアブダビHSBC選手権で2勝目を達成した。

その年の全英オープンの舞台は、あのロイヤル・バークデールだった。フリートウッドは幼少時代からほぼ20年の歳月を経て、思い出の地で予選通過を果たし、うれし涙をこぼした。

2017年は世界選手権のメキシコ選手権で2位になり、全米オープンでは4位に食い込んだ。世界ランキングでは初のトップ10入りを果たし、年末には欧州のポイントレース、レース・トゥ・ドバイで1位に輝き、「欧州一のプレーヤー」と讃えられた。

2018年からはPGAツアー(米ツアー)にも正式メンバーとして参戦を開始。全米オープンでは優勝争いを演じたが、惜敗に終わった。

以後、レギュラー大会でもメジャー大会でも何度も優勝争いに絡んだが、欧州を含む世界では6勝を挙げていながら、PGAツアーでは今なお未勝利。

そんなフリートウッドは「グッドプレーヤーでありながら勝利がない選手」の筆頭に挙げられている。

フリートウッドの想い

プロゴルファーである以上、優勝を目指していることに違いはないが、「勝つことだけがすべてではない」とフリートウッドは言う。今年31歳の彼は、妻クレアが連れてきた2人の子どもと、結婚後にクレアとの間にできた息子の3人の父親でもある。

「プロゴルファーである前に、夫として父親として誇れる人間でありたい。もちろん、プロゴルファーとしても胸を張れる存在でありたい」

2019年に「トミー・フリートウッド・ゴルフ・アカデミー」を故郷に設立。自身の子どもたちも、見知らぬ子どもたちも、「ゴルフが好きな子どもたちが存分に練習できるように」という彼の願いが込められている。

「ゴルフを愛する子どもたちが、夜な夜な、どこかに忍び込んだりしなくて済むようにしてあげたい」

きっと、フリートウッドのそんな想いも込められているのではないだろうか。

次回は8月15日公開予定!

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 61. 一人の少年を讃えたフリートウッドの想い
  3. 60. 母国を離れて戦うC・スミスの母国愛
  4. 59. コロナ禍の犠牲者のために尽くした素晴らしき選手
  5. 58. 親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー
  6. 57. 救った子供が未来を救う、だからこそ救いたい
  7. 56. 「みんなのハッピー」を目指す女子ゴルフのスター
  8. 55. バレステロスからラームへ、スペインのヒーロー誕生物語
  9. 54. マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー
  10. 53. 「小さな奇跡」を信じて戦う意味
  11. 52. クールなP・カントレーの温かい社会貢献
  12. 51. L・トンプソン流、ユニークな社会貢献
  13. 50. 母国への想いが奇跡を起こす!?
  14. 49. 無名の48歳の「好きな言葉」「嫌いな言葉」
  15. 48. B・デシャンボーの熱くて厚い義理人情
  16. 47. 絵を描き続ける「みんなのヒーロー」
  17. 46. 助けたからこそ、助けられたゴルフ人生
  18. 45. 夢を追いかけられる社会にしたい
  19. 44. 負けても笑顔を輝かせた意味
  20. 43. 優しく強くなったR・マキロイの社会貢献
  21. 42. ファンファーレで送り出したい全英チャンプ
  22. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  23. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  24. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  25. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  26. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  27. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  28. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  29. 34. それが「私の生きる意味」
  30. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  31. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  32. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  33. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  34. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  35. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  36. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  37. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  38. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  39. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  40. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  41. 22. 帝王の優しき野望
  42. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  43. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  44. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  45. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  46. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  47. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  48. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  49. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  50. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  51. 12. 選手もキャディも主役になった日
  52. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  53. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  54. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  55. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  56. 07. デービス・ラブの愛
  57. 06. 彼が国民的スターである理由
  58. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  59. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  60. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  61. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  62. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい

著者プロフィール

舩越園子 近影
舩越 園子(ふなこし そのこ)

ゴルフジャーナリスト

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。
百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。

在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。

『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。

アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。

最新の書籍紹介

『タイガー・ウッズ 復活の言霊』

タイガー・ウッズ 復活の言霊
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復活劇の裏にあったウッズの想い
すべての人の心を打つ48のメッセージ

誰もが憧れる絶対王者として
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不倫騒動、くり返された故障と手術、
まさかの逮捕劇……と、
人生の風雨にさらされたウッズ。

子供たちと向き合い、自分を見つめなおし、
見事に復活優勝を果たしたウッズ。
どれもタイガー・ウッズだが、
彼の言葉を追い、紐解いていくことで
人間・ウッズの実像が見えてくる。

そして逆境を乗り越えるために 一番大事なものとは……。

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 61. 一人の少年を讃えたフリートウッドの想い
  3. 60. 母国を離れて戦うC・スミスの母国愛
  4. 59. コロナ禍の犠牲者のために尽くした素晴らしき選手
  5. 58. 親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー
  6. 57. 救った子供が未来を救う、だからこそ救いたい
  7. 56. 「みんなのハッピー」を目指す女子ゴルフのスター
  8. 55. バレステロスからラームへ、スペインのヒーロー誕生物語
  9. 54. マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー
  10. 53. 「小さな奇跡」を信じて戦う意味
  11. 52. クールなP・カントレーの温かい社会貢献
  12. 51. L・トンプソン流、ユニークな社会貢献
  13. 50. 母国への想いが奇跡を起こす!?
  14. 49. 無名の48歳の「好きな言葉」「嫌いな言葉」
  15. 48. B・デシャンボーの熱くて厚い義理人情
  16. 47. 絵を描き続ける「みんなのヒーロー」
  17. 46. 助けたからこそ、助けられたゴルフ人生
  18. 45. 夢を追いかけられる社会にしたい
  19. 44. 負けても笑顔を輝かせた意味
  20. 43. 優しく強くなったR・マキロイの社会貢献
  21. 42. ファンファーレで送り出したい全英チャンプ
  22. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  23. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  24. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  25. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  26. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  27. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  28. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  29. 34. それが「私の生きる意味」
  30. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  31. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  32. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  33. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  34. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  35. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  36. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  37. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  38. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  39. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  40. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  41. 22. 帝王の優しき野望
  42. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  43. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  44. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  45. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  46. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  47. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  48. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  49. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  50. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  51. 12. 選手もキャディも主役になった日
  52. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  53. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  54. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  55. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  56. 07. デービス・ラブの愛
  57. 06. 彼が国民的スターである理由
  58. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  59. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  60. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  61. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  62. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい