第5回

論文を書くということ
若手へのメッセージ

2017.9.1(Fri)

徳田安春先生&古閑比佐志先生

論文を書くということ

古閑
徳ちゃんに会うことが決まってから、時間があるときに調べてみたら、徳ちゃんは英語の論文を160本も書いているんだよね。
徳田
全部私がファーストというわけではないですよ。
古閑
患者さんを診ることは大事だし、やらなきゃいけないこと。でも、診療をしつつ、これだけの論文をまとめ上げて、形にしてきたのはすごいよ。学会発表は意外に楽にできる面もあるけど、論文にまで高めるのは簡単にできることではないし、それも英語できちんと書いているのは素晴らしいと思った。
徳田
ありがとうございます。
古閑
論文を書くと、臨床経験がしっかりしたものになるよね。肉体が動くようになるだけでなく、頭の中でロジックができるから。
徳田
沖縄県立中部病院で指導医をしていたときは論文やジャーナルを読んで、最新の情報を研修医に伝えるのが私の役割でした。その頃は自分で書くという発想はなく、何年もやっているうちに、こういうのはどうかな、ああいうのはどうかなと、調べても見つからないものがあったりしたんです。そこで、もしかすると自分でも書けるかなと思って、チャレンジしました。最初は全然できなかったのですが、少しずつできるようになって、アメリカ人のメンターの先生と知り合いになり、その先生と一緒に書いたりしたんです。私の書き方の良くないところをその先生に指摘してもらったりして、上達するまで、何年かかかりましたね。今は私がアメリカ人の先生から受けたメンタリングのようなものや勉強してきたことを若手に伝えています。最近はファーストオーサーではなく、一番後ろか、後ろから2番目ぐらいのオーサーであることが多いですね。
古閑
自分がファーストオーサーでいたがる人は駄目だよね(笑)。僕もラストオーサーが多い。ラストはファーストの人の仕事に責任を持っているということだから。ファーストの人を育てることが素晴らしいんだ。
徳田
そうすると、やる気満々の若い人が出てくるんですよね。私もそうでしたけど、国際学会で発表したときの喜びは大きなものです。研修医が終わったときにこそ、そういう目標をセッティングした方がいいんです。病院の総合診療科にいますと、毎日が忙しいですし、その日々の繰り返しになると、バーンアウトのリスクが出てきます。そこにアカデミックな活動を入れることで刺激になり、モチベーションを高められます。病院の仕事をずっとするのはストレスになりますが、学会に行くと、元気になりますよね。
古閑
僕も論文を書くのは好きで、最近もまた書き始めたところなんだ。徳ちゃんの論文で多いのは症例報告。症例報告はとても大事だと思う。医師になりたての頃って、迷ったときに同じような患者さんの症例報告をすごく探すよね。そこで似ている症例報告があると、「こうやって診断したのか」とか、「ああ、こうやって治すんだな」と助かることになる。自分が経験したことを世の中に出すのは必要なことだよ。

― 弁護士さんが六法全書を引くのと同じですか。

古閑
症例報告は六法全書を作っていくようなものだよね。徳ちゃんは日本語の本も30本ぐらい書いていた。日本語のはエデュケーショナルなもので、中堅医師の仕事らしい感じを受けたけど、「英語のもあるかな」と探したら、ずらっと出てきて、驚いたよ。
徳田
ありがとうございます。若い人と仕事をしていると、研究ができることもいいことですが、気持ちも若くなるんですよね。新しいことにチャレンジしたくなります。

在宅医療

徳田
私はかなり早い時期から在宅医療を始めていまして、(沖縄県立)中部病院や八重山病院にいたときからしているのですが、在宅医療は医療の役割として、非常に貴重なものだと思います。患者さんの家に直接、乗り込んでいくわけですから、病院の外来で患者さんがいらっしゃるのを待っているときには分からないことが分かるようになります。冷蔵庫を開ける前にはもちろん断りを入れますが、開けてみると、どういう食生活かが分かりますし、家の中を歩けば、どこに転倒のリスクがあるのかも分かるんです。
古閑
そうだよね。
徳田
ご家族のサポート体制や、どういう地域なのかということなど、ナマの姿が見えますね。病院の勤務医であっても、プライマリケアに関わっている人ならば、在宅医療を経験してほしいですね。今の臨床研修制度になって、地域医療が必修になりましたが、初期研修医の皆さんには在宅医療をやっている病院や診療所で地域医療研修を受けてほしいと思います。先日、私は東京で在宅医療をされている3人の医師と「今後の在宅医療を語る」というテーマで座談会をしました。
古閑
聞こうと思っていたけど、残念ながら聞けなかったよ。
徳田
動画で配信されたんですよ。そこでは在宅医療のニーズはあるのに、供給が足りないという話になりました。医師も不足しています。特に東京はこれから急速に高齢化が進みますしね。

― 今後、在宅医療に関わる医師をどのように増やしていくのですか。

徳田
我々のベースは病院ですが、在宅医療を診療所だけに任せるのではなく、病院も在宅医療に積極的に取り組み、地域に出ていかないといけないですね。病院での治療を終えて、在宅に送るとなっても、受け入れ先がないことには送ることができません。病院が自分たちでも在宅医療をやって、そこに若い医師が入ってくるようにしたいですね。
古閑
僕たちが医師になった頃はそんな選択肢はなかったね。在宅医療で患者さんを診ないといけないと考えたこともなかったよ。介護に関してはもっとシステマティックにならないとね。
徳田
高齢者は増加しますが、一方で、テクノロジーも進化しています。古閑先生が始めようとなさっている遠隔診療もそうですし、在宅医療のバイオセンサーやエコーといった機器も病院のものに近いレベルになってきました。在宅では放射線は使えませんが、ポータブルのエコーはあります。診断キットも改善されているので、少しの検体があれば、それなりに測定できます。今後も発達していきますから、病院に行かなくても、病院に近い情報量を在宅で得られるようになるでしょう。
古閑
在宅医療も変わっていくね。
徳田
ハイテク在宅医療になりますよ。総合診療は3年の後期研修でマスターできるものではなく、生涯学習が必要です。新しいテクノロジーの使い方も勉強しないといけませんしね。
古閑
医師は少しでも勉強しなかったら、どんどん遅れてしまう。やはり生涯学習だね。でも、それだけに楽しい仕事だと思う。

若い医師へのメッセージ

古閑
徳ちゃんみたいに応援してくれる人は一杯いるから、是非、チャレンジをしてほしい。そして、立派な医師になってほしい。僕のところに来てくれたら、どーんと受け止めるけれど、僕のところは特殊な病院なので、専門医を取得後に来てください。

― 古閑先生のなさっている内視鏡手術は珍しいんですよね。

古閑
僕は背骨の手術に7ミリの内視鏡を使っているんだけど、これを日本でやっている人はあまりいない。 ※PELD(Percutaneous Endoscopic Discectomy)と言ってDoctors Gateで手技動画を配信中
徳田
7ミリだと、かなり小さい穴ですね。
古閑
この手術方法を今後も増やしていきたい。7ミリだと、筋肉、骨、靭帯を傷めないので、術後の回復が早いんだ。ヘルニアを取るときも便利だしね。手術が終わったあとにすぐに歩けるから、患者さんにも喜ばれている。今は整形外科と脳神経外科の医師に教えているよ。
徳田
スパインはアメリカでは脳神経外科の分野ですよね。
古閑
そうだよね。日本は整形外科が主流なんだけど、細い内視鏡は顕微鏡手術に近いから、どちらかと言うと、脳神経外科の医師の方がうまくなるよ。でも、医師免許と患者さんを治したいというやる気さえあれば、何科でもいい。
徳田
そうですね。
古閑
ただ、初期研修を終えても、その次の2年ぐらいはきちんと患者さんを診てほしい。その経験は大きいよ。僕たちが若い頃は医師数がまだ少なくて、何でも診なくてはいけなかった。でも、それを積み重ねていって、自分の専門を見つけていった。
徳田
古閑先生はロールモデルだと、改めて思いました。学生時代もそうでしたが、医師になってからもそうですね。学生の皆さんや若い医師はロールモデルがどういう活動をしていたのかを学ばないといけません。その意味で、ポッドキャストの「徳田闘魂道場にようこそ」も活用してください。古閑先生も出てくださいね。
古閑
出ますよ(笑)。
徳田
私が東京に出てきた理由の一つは日野原重明先生に弟子入りすることでした。以前から日野原先生のご本を読ませていただいていて、ずっとファンだったんです。日野原先生はやはり素晴らしい医師で、色々なことを勉強できました。ロールモデルにぶつかっていきながら、ロールモデルから学ぶことが大事ですね。
古閑
聖路加のあとで、水戸に移ったんだよね。
徳田
聖路加には3年いて、水戸協同病院に移りました。水戸協同病院は筑波大学附属病院水戸地域医療教育センターでもあります。地域医療をベースにして、総合診療を核にした研修医教育をするという位置づけのセンターなんです。私の新しいもの好きなところは古閑先生に似たのかもしれません(笑)。筑波大学は前身が東京教育大学ですから、教育の新しい取り組みを実験的にしようということになったんですね。私は今も回診とレクチャーに行っていますよ。ここにも色々な人たちがいて、皆さんに会うのも楽しみなんです。
古閑
僕のところの若い医師も皆、熱心だし、志が高い。徳ちゃんのところもそうだろうね。だから、教育も楽しい。
徳田
古閑先生の病院も是非、見学させてください。
古閑
是非。 ※後日、徳田先生が、古閑先生が院内で行っている医学英語研修の講師として来院したそうです
徳田
古閑先生も沖縄に手術にいらしてください。
古閑
浦添総合病院に行ったら、群星沖縄の事務所にも行くよ。
徳田
ウィンドサーフィンはまだされていますか。
古閑
全然していない。今やったら、流されてしまうよ(笑)。

《 トップドクター対談、第3弾は10/1公開予定!詳細は近日発表! 》

  • プロフィール
    徳田 安春
    (とくだ やすはる)

    臨床研修病院群プロジェクト
    群星沖縄臨床研修センター長

【略歴】
沖縄県南城市出身。1988年に琉球大学を卒業し、沖縄県立中部病院で研修する。2003年に沖縄県立中部病院内科副部長および臨床研修委員会副委員長に就任する。2005年に米国ハーバード大学大学院で公衆衛生修士号を取得する。2006年に医学博士号を取得する。2008年に聖路加国際病院に一般内科医長として勤務する。2009年に筑波大学大学院人間総合科学研究科医療医学系教授に就任し、筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター・水戸協同病院で教育にあたる。2014年にJCHO本部研修センター長、JCHO本部顧問に就任する。 2017年4月に臨床研修病院群プロジェクト群星沖縄臨床研修センター長に就任する。

【資格・所属学会】
医学博士
公衆衛生学修士
日本内科学会 指導医・総合内科専門医
日本プライマリケア連合学会 理事・指導医・認定医
日本病院総合診療医学会 理事・認定医
米国内科学会フェロー

  • プロフィール
    古閑 比佐志
    (こが ひさし)

    岩井整形外科内科病院
    副院長/教育研修部長

【略歴】
1962年千葉県船橋市生まれ。1988年に琉球大学を卒業し、琉球大学医学部附属病院で研修。
国内の複数の病院で脳神経外科医として勤務ののち、1998年にHeinrich-Pette-Institut fur Experimentelle Virologie und Immunologie an der Dept. of Tumorvirologyに留学。2000年に帰国後は、臨床と研究を進め、2005年にかずさDNA研究所地域結集型プロジェクト研究チームリーダーを経てかずさDNA研究所ゲノム医学研究室室長。
2009年より岩井整形外科内科病院 脊椎内視鏡医長として勤務、2015年より現職。

【資格・所属学会】
日本脳神経外科学会専門医
日本脊髄外科学会
内視鏡脊髄神経外科研究会
日本整形外科学会

岩井整形外科内科病院 PELDセンター

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