第2回

AIやITの発展で医療や
教育はどう変わる?

2017.6.1(Thu)

先進医療

古閑
生活習慣病に関しては徳ちゃんたちのような考え方を持っている人がどんどん増えていって、バックグラウンドを作って進めていくと思うけど、がんなどの先進医療はどうなるんだろう。阻害薬は新しいものが出てきたけど、高い。これを皆がやったら、大変なことになるよね。

古閑比佐志先生

徳田
プレシジョン・メディシン※1には私も興味があります。プレシジョン・メディシンの第一段階としては、この人に使った方が価値が高いだろうという見極めが必要でしょうね。PD1阻害薬※2などは誰に効くのかなどがまだ分かっていないみたいですが、古閑先生のご専門でもあるゲノム医学が発達して、本当のテーラーメイド医学、パーソナライズド医学といった形に絞り込んで進んでほしいと思っています。※1 細胞を遺伝子レベルで分析し、患者の個人レベルで適切な薬のみを投与し治療を行うこと。精密医療とも。※2 T細胞ががん細胞を攻撃する機構を妨害する経路のひとつである「PD-1/PD-1L経路」を遮断するための薬剤。奏功すると、がんは自己防衛力を失い、免疫細胞が正常に機能すると言われている
古閑
そうだよね。
徳田
一方で、肺がんに関しては、国全体の医療リソースやコストを考えると、喫煙への介入は避けられません。東京オリンピックではレストランなどの飲食店を含むパブリックスペースが禁煙になると言われていますが、これはやむを得ない流れでしょう。

― 高額医療を受けられる人と受けられない人の格差が開き、健康格差とも言われています。

徳田
貧困の問題もありますね。特に沖縄は深刻です。今までの日本は一億総中流で皆がミドルクラスという良さがありましたが、グローバリゼーションの影響で格差が生まれ、この波は世界中に広がっています。これを医療政策で何とかしていかないといけません。

コミュニティデザイン

徳田
もう一つは地域の皆でということですね。地域社会の中でコミュニケーションがうまく取れていない地域があります。そこで、こういった地域にプライマリケアの医師も参加して、コミュニティデザインを一緒にやっていこうという動きが出てきました。最近、面白い活動をしている人たちを見つけたんです。コミュニティデザインをする人が病院をデザインしよう、病院のデザインをするときにコミュニティの人たちの意見を聞こうという活動で、中心になっているのがstudio-Lの代表である山崎亮さんです。山崎さんはもとは建築デザイナーなのですが、今はコミュニティデザインを中心に仕事をされています。病院はパブリックな役割を持つところなので、病院を新しく作るときには職員だけでなく、コミュニティの人たちにも一緒に参加してもらおうということで、どんな病院であってほしいか、どんなデザインがいいかというアンケートや聞き取り調査をしているんですよ。

徳田安春先生

古閑
病院がコミュニティの場になるということだね。
徳田
病院の近くに広場があるといいという話も出たりします。

― 古閑先生が勤務されている病院はどのようにコミュニティに溶け込んでいますか

古閑
僕の勤務先は60床という規模だし、脊椎の治療に特化した、ものすごく特殊な病院だけど、二次救急もしている。僕も当直して、夜に来た患者さんを診ているよ。でも、メインは脊椎の手術で、僕一人で年間500例をしている。僕がこだわっている低侵襲手術だと今まで1週間の入院だったのが2日で帰れるから、医療経済にもプラスになっている。医療費削減にはこういう取り組みも大切だから、特化した病院も悪くないと思う。
徳田
日本はアメリカと比べると病院の数が多いです。その中でも比較的、中規模や小規模の病院が多いから、役割をうまく分担できるといいですね。大きな医療センターに全部の機能を揃えるよりはそれぞれの得意な病院同士が連携した方が効率的です。
古閑
僕のところはプライベートホスピタルだから、地域の大きな病院と連携していて、何かあれば診てもらっているよ。

AIで医療や教育はどう変わる?

古閑
これからは人工知能、AIの時代だと言われているけど、徳ちゃんの分野はどうなっている?
徳田
私は総合診療の中で診断推論に興味があって、研究もしています。その中でAIを用いたシステムがクリニカルディシジョンサポートシステム、CDSSですね。欧米にはもともと色々なソフトウェアがあって、コマーシャルベースで出ているものもありますが、それらの改善が進んでいます。例えば、患者さんの症状、検査データ、バックグラウンドなどを入力したら、鑑別診断のリストが出てくるイザベル(Isabel)というソフトウェアがあります。また、イギリスのスマホには「Your MD」というアプリがあります。これは音声入力だけで、「早めに病院に行ってください」などのアドバイスを送ってくれるものです。アプリの中にいくつかのアルゴリズムが入っており、病歴などを読み込んだうえで、アドバイスを出せるんです。夜中に救急車を呼んだり、ERに行っていた人もこういうテクノロジーを使えば、「病院に行くほどではないな」という判断ができるようになり、必要なときだけに病院に行くようになります。そうすれば受診抑制に繋がるかもしれません。
古閑
そういうシステムはデータを取り込めば取り込むほど精度が上がってくるから、将来的にはアプリが示せる可能性の数も上がってくるね。そうなると、診断学のプロとしての医師の価値がすごく下がる。そういう時代には医師の仕事はどうシフトするんだろう。
徳田
我々はもともと医療面接と身体診察などのヒューマンな部分をやってきました。これは恐らく残るでしょうね。色々な問診や診察を機械とともにすることはあると思いますが、患者さんの話を聞くというエリアにはAIは最後まで踏み込めないのではないでしょうか。AIが入りやすいのは検査データから鑑別を取ってきたり、CTやMRIといった画像診断ですね。将来はオーダーした画像が出てきたときに、その下に診断のアドバイスが出てくるでしょう。今、放射線科の読影医が書いているリポートがAIによって撮像と同時にリアルタイムで出てくるようになります。

― それでは放射線科の医師の仕事はどうなるのですか。

徳田
最近の『JAMA』に出ていたのですが、放射線科で読影をする医師の仕事は情報をマネージメントするものになるだろう※1とのことです。全身などのCTを最初から最後まで読影するのは大変な作業ですが、AIがそれをメインで行い、医師はAIの仕事をダブルチェックしていくようです。イギリスやアメリカでは病理診断の精度が高いのですが、人間の病理診断医がダブルチェックしています。患者さんにとって、がんという診断を下されるのは大きなものですから、なおさらダブルチェックが必要なんですね。AIが発達すると、病院内や地域内に放射線の読影医や病理診断医がいなくても大丈夫になります。今、我々も「ヒフミル君」というアプリを使っていますよ。※1 Adapting to Artificial Intelligence - Radiologists and Pathologists as Information Specialists
古閑
すごい名前だね(笑)。
徳田
最近、「ヒポクラ」という名前に変わったんです(笑)。皮膚のこの病変がよく分からないという場合に、その病変をスマホで撮影して、アップロードするんです。それを全国の何千人という皮膚科医が見ていて、自信のある人が答えを入力します。5分以内に答えが返ってきますよ。
古閑
それはすごい。
徳田
これが将来は恐らくAIになるでしょう。多くの皮膚の写真を読み込ませれば、機械学習して、複雑なディープラーニングができるようになります。何百万枚という皮膚の写真を読み込めれば、皮膚科のフェローよりもレベルの高いAIになりますよ。我々は皮膚科医がいない離島などでも皮膚科診療を完結させることができる可能性があります。アプリを持って、そこに乗り込めばいいんですからね。

― AIは医師の地域や科目といった偏在を助けてくれるものになりますね。

徳田
古閑先生がなさっている手術のような、特化したスキルをお持ちの医師は大丈夫ですが、画像や数値で診断するスキルはAIに取って代わられます。むしろ、それを我々が利用すれば、その医師がいなくてもプラクティスできるようになります。それに、患者さんの心配事を聞いたりする話し相手はいないといけませんから、我々の仕事は最後まで残ると思います。今はPepperくんというロボットが人気です。楽しそうなロボットではありますが、告知などのシリアスな場面では人間の医師でないと務まらないでしょう。

徳田安春先生・古閑比佐志先生

― AIの登場で、医学教育や臨床教育はどう変わるのですか。

徳田
欧米では「ポケモンGO」で話題になったオーグメンテッドリアリティ(AR/拡張現実)を使った開発が始まっています。これまでテキストブックで見ていたアナトミーがコンピューターのテクノロジーによって、3Dイメージで見て、勉強することができるようになります。グーグルグラスのような眼鏡をかけて画面を見ると、現実に仮想現実を重ねたイメージが出てくるんです。これまで医学教育は座学メインで、蘇生や診察など、部分的にシミュレーターを入れていましたが、これからはバーチャルリアリティやARが入ってきますので、その意味では学習のあり方が変わってきますね。トレーニングとしてはいいのかなと思います。
古閑
前回の福永哲先生との対談でも話したんだけど、外科系の医師にはとてもいいよ。バーチャルリアリティを使った練習で、外科医の上達は早まる。これからは教育が変わってくるね。

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  • プロフィール
    徳田 安春
    (とくだ やすはる)

    臨床研修病院群プロジェクト
    群星沖縄臨床研修センター長

【略歴】
沖縄県南城市出身。1988年に琉球大学を卒業し、沖縄県立中部病院で研修する。2003年に沖縄県立中部病院内科副部長および臨床研修委員会副委員長に就任する。2005年に米国ハーバード大学大学院で公衆衛生修士号を取得する。2006年に医学博士号を取得する。2008年に聖路加国際病院に一般内科医長として勤務する。2009年に筑波大学大学院人間総合科学研究科医療医学系教授に就任し、筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター・水戸協同病院で教育にあたる。2014年にJCHO本部研修センター長、JCHO本部顧問に就任する。 2017年4月に臨床研修病院群プロジェクト群星沖縄臨床研修センター長に就任する。

【資格・所属学会】
医学博士
公衆衛生学修士
日本内科学会 指導医・総合内科専門医
日本プライマリケア連合学会 理事・指導医・認定医
日本病院総合診療医学会 理事・認定医
米国内科学会フェロー

  • プロフィール
    古閑 比佐志
    (こが ひさし)

    岩井整形外科内科病院
    副院長/教育研修部長

【略歴】
1962年千葉県船橋市生まれ。1988年に琉球大学を卒業し、琉球大学医学部附属病院で研修。
国内の複数の病院で脳神経外科医として勤務ののち、1998年にHeinrich-Pette-Institut fur Experimentelle Virologie und Immunologie an der Dept. of Tumorvirologyに留学。2000年に帰国後は、臨床と研究を進め、2005年にかずさDNA研究所地域結集型プロジェクト研究チームリーダーを経てかずさDNA研究所ゲノム医学研究室室長。
2009年より岩井整形外科内科病院 脊椎内視鏡医長として勤務、2015年より現職。

【資格・所属学会】
日本脳神経外科学会専門医
日本脊髄外科学会
内視鏡脊髄神経外科研究会
日本整形外科学会

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