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閉経が脳に及ぼす影響(12:55)

ホットフラッシュ、寝汗、不眠、物忘れ、うつ、不安といった更年期の症状の多くは脳が原因となって起こります。閉経は実際に認知能力の健康にどのような影響を及ぼすのでしょうか?神経科学者リサ・モスコーニが研究から得た画期的な発見を紹介し、ホルモンレベルの低下が脳の老化に及ぼす影響を明かしたうえで、生涯にわたって脳の健康を促進する、簡単にできる生活習慣の改善方法を示します。

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女性は1人1人が芸術品です 外見だけではなく 内側もです 私は神経科学者なので 内側 特に女性の脳に重点的に取り組んでいます

女性と男性の脳の違いについては 諸説あります 私はこの20年 多くの脳を見てきましたが 脳の構造に性差はないと保証できます ピンクか青か バービーかレゴか これは全て人が作り上げた話で 脳の構造とは無関係です

とは言うものの 女性の脳は いくつかの点で 男性の脳とは異なっています 今日は この違いについて お話しします なぜなら 女性の健康を 考えるうえで大切だからです 例えば 不安症やうつと診断されるのは 女性の方が多いと言われています もちろん 頭痛や偏頭痛も同じです それだけでなく 私の主な研究テーマである アルツハイマー病の罹患者も 女性が男性を上回っています アルツハイマー病は世界的に 認知症の原因として最も多いもので アメリカだけでも ほぼ6百万人もが アルツハイマーと診断されています ですが 実のところ 患者のほぼ3分の2は 女性なのです つまり 男性のアルツハイマー病患者が 1人いるごとに 2人の女性患者がいるわけです いったい何が理由でしょうか? 年齢? 寿命? 他に考えられる理由があるでしょうか?

私は 2017年に この疑問を解決すべく ニューヨーク市のコーネル大学医学部に 「女性の脳のためのイニシアティブ」を 設立しました 今日は これまでに分かったことを いくつかご紹介します

実は 脳の年の取り方に男女差があったのです 女性の場合 閉経が重要な役割を 果たしていたのです 大抵の人は 脳を ブラックボックスのような 体とは切り離されたものと考えています ですが 実のところ 脳は体の全ての部位と 絶えずやりとりしています 驚かれるかもしれませんが 脳と生殖器系の間の情報のやりとりは 女性の脳の老化にとって 極めて重要な役割を果たしています このやりとりには ホルモンが介在しますが ホルモンには性差があることが分かっています

男性はテストステロンが多く 女性はエストロゲンが多いのですが ここで非常に重要となるのが これらのホルモンの寿命が違うという点です 男性のテストステロンは高齢期まで 使い果たされることがないので 変化も緩やかで ご想像どおり 症状もほとんどないプロセスです

(笑)

その一方 女性のエストロゲンは 閉経期になると 分泌量が減少し始め 無症状とは程遠い状態になります 閉経は 卵巣に結び付けて 考えられていますが 女性のホットフラッシュや 寝汗、不眠、記憶力の衰え うつ、不安といった症状の原因は 卵巣にあるわけではありません 脳から来ているものです 神経症状なのです まだ耳慣れない考え方だと思います どういうことでしょう? なぜ閉経が女性の脳に 影響を与えるのでしょうか?

そもそも 女性の脳と卵巣は 神経内分泌系に属しています 神経内分泌系の働きの中で 脳と卵巣は 情報を送り合います このやりとりは女性の体内で 毎日起こっています つまり卵巣の健康は 脳の健康に影響し 卵巣は脳の影響を受けます それだけでなく エストロゲンなどのホルモンは 生殖機能だけではなく 脳の機能にも関係しています エストロゲンの中でも 特にエストラジオールは 脳のエネルギー生成にとって 極めて重要です

細胞レベルで見ると エストロゲンは ニューロンにグルコースを燃焼させて エネルギーを生成します エストロゲン分泌量が多いと 脳のエネルギーも高くなります 一方 エストロゲンの分泌量が下がると ニューロンのスピードが下がり始めて 老化が加速します このとき アミロイドプラークの形成に 至ることすらあるという研究結果があります 別名アルツハイマープラーク アルツハイマー病の特徴となるプラークです

こうした影響は 脳の特定の領域で大きく出ます まず影響を受けるのが 体温の調整を担当する視床下部です 視床下部がエストロゲンによって 正しく活性化されないと 脳は体温をうまく調整できません 女性が経験するあのホットフラッシュは 視床下部が原因です また 睡眠と覚醒を司る脳幹も影響を受けます 脳幹がエストロゲンによって 正しく活性化されないと 睡眠障害が起こります 影響は扁桃体にも及びます 扁桃体は 脳の感情中枢であり 海馬 すなわち 脳の記憶中枢の近くにあります この領域のエストロゲンレベルが下がると 極端な気分の変化や 物忘れが始まります 閉経期の脳を解剖学的観点で見ると こんな具合になっているのです

ここで 実際の女性の脳を 一例としてお見せしましょう この脳スキャンは PET(陽電子放射断層撮影)です 脳のエネルギーレベルを観察できます これが40代の女性の理想的な脳の状態です 明るくて非常に良い状態です この脳は 43歳の女性のものです 更年期になる前に 初めてスキャンしたときの画像です これは8年後の同じ女性の脳で 閉経後のものです 横に並べてみると 明るい黄色だった部分が オレンジや ほぼ紫に なっていることが 容易に見て取れます これは脳のエネルギーの 30%の低下に相当します

通例 この低下は 同じ年齢の男性には 起こらないようなのです 何百人もの協力を得て研究した結果 中年男性の脳のエネルギーレベルは 概して高いことが分かっています 通常 女性の脳のエネルギーレベルは 更年期前には良好な状態です それが閉経移行期になると 徐々に下がり始めます これは年齢に関係しないことが分かっており 40代であるか 50代、60代であるかは 関係ありません 一番の決め手は更年期に 入っているかどうかです

もちろん 今後も研究を重ねて 確認する必要がありますが 中年女性の脳は 実年齢が上がることよりも ホルモンの老化に大きく左右されるようです この点を知識として知っておくことが大切です 多くの女性はこの変化を体感するからです これまで 多くの患者から 自分の頭が暴走して 自分をコントロールできない感じ そんな類の言葉を聞きました 現実に起こることなので しっかりと明確にしておきたいのですが そんな風にあなたが感じていたとしても 頭がおかしくなったわけではありません

(笑)

(拍手)

ありがとうございます

これは重要なことです 気が狂ったのかもしれない と心配する女性は少なくありません ですが 実際には 脳が移行期にあるのかもしれません あるいは 移行期に入った脳が 順応するのに時間と支援を 必要としているためなのです 中年の女性は働きが悪いのでは? そんな懸念をもつ人も いるかもしれませんので 認知能力を確認したことにも ここで少し触れておきます とんでもない!

(笑)

やめてくれ!と言われそうですが いずれにしても 認知能力を確認した結果 女性と男性の間には全く差がないことが 明らかになりました 閉経前も閉経後も性差はありません この点は 他の研究でも 確認されています つまり 一般的に 私たち女性は 疲労感があっても 頭の切れ具合は影響を受けないのです

(笑)

では本題に戻しましょう

実はこれ以外にも より深刻な 注目に値する事柄があります 先ほどお話ししたように エストロゲンの低下は アルツハイマー病に特有のプラーク形成を 促進する可能性があります まさにこのプラークを観察できる 別の脳スキャン方法を使うと 中年の男性には このプラークが ほとんどないことが分かりました いいニュースです 一方 女性の場合は 更年期へと移行する中で かなりの増加が見られます 1つ誤解のないように強調したいのは 全ての女性にプラークができるわけではなく プラークのある女性でも 認知症にならない人がいる点です プラークの存在は危険因子ですが これで診断ができるわけではありません 特にこの段階なら なおさらです

それでも アルツハイマー病と閉経を 結び付けた見方は大きな進展です 閉経期は中年のもの アルツハイマーは高齢者のもの と考えられています ですが 実際には 私の研究をはじめ 多くの研究によって アルツハイマー病は 症状が出始める 何十年あるいは何年も前に起こる脳の変化に 端を発することが分かっています そして女性の場合は 中年で経験する更年期に始まるようなのです これは重要な情報です こうした変化の確認を始めるべき時期の 手がかりとなるからです

年齢で見ると ほとんどの女性は50代初期に 更年期に入ります ですが 早く来る場合もあります 医療行為を受けたことで早まることも 少なくないのです よくあるのが 子宮や卵巣を外科手術で切除する 子宮摘出や卵巣摘出といった 医療行為です 残念ながら 閉経前に子宮を摘出すると あるいは卵巣を摘出した場合は なおさら 認知症発症リスクが上がる というデータが存在します 衝撃的なニュースですし 気が滅入る情報であることは 分かっています ですが 話す必要があります なぜなら ほとんどの女性は この関連性を知りませんが 知っておくことが とても大切な 情報だと思うからです

医療処置が必要なときに 手術を拒否しろと 言っているのではありません 重要なのは それが自然であろうと 医療処置によるものであろうと 更年期に 脳に何が起こるかを よく理解しておく必要があるという点です また脳を守るための知識も大切です

では どうすれば 脳を守れるのでしょうか? ホルモンを摂取すべきなのでしょうか? なかなか良い点を突いた 質問だと思います 現時点での答えを簡潔にお伝えすると ホルモン療法は ホットフラッシュといった 数々の症状の緩和に役立ちますが 今のところ 認知症の予防としては 推奨されていません 現在 多くの研究者が さまざまな製剤や 投与量と投与スケジュールを実験しています こうした努力が実って 推奨内容が変更される日が 来るといいと思っています

その一方で 今すぐ始められることもあります 薬を使わなくても ホルモンを整えて 脳への影響を抑えることはできます ですが このためには ライフスタイルの棚卸しが必要です なぜなら 私たちが口にする食べ物 運動量 睡眠時間や睡眠不足 生活の中で受けるストレス こうした全てのことは 良くも悪くも 実際にホルモンに影響を及ぼすからです

例えば 食生活を見ると 世の中にはいろいろな食習慣がありますが 特に地中海の食事法が 女性の健康を 促進するという研究結果があります 地中海料理を常食する女性は 認知能力の低下、うつ、心臓病、脳梗塞 ガンのリスクが非常に低いだけでなく ホットフラッシュの回数も少なめです この食習慣の興味深い点は フィトエストロゲンと呼ばれる 植物エストロゲンを含む食物の 摂取量が多い点です これは体内で 弱いエストロゲンのように作用します 一部のフィトエストロゲンには 発ガンの危険性が指摘されていますが この食事法で摂取するものは 当てはまらないので 安全です 特に安全なフィトエストロゲンは 亜麻、胡麻、干しアンズ マメ科の植物や多くの果物に含まれています また うれしいことに ダークチョコレートにも フィトエストロゲンが含まれています

食生活はエストロゲン増加法の1つです 同時に エストロゲンを抑制するものを 避けることも同じくらい大切です 特にストレスは大敵です ストレスはエストロゲンを 本当に奪ってしまいます 主なストレスホルモンであるコルチゾールは エストロゲンと反比例の関係があります コルチゾールが増えるとエストロゲンが減り コルチゾールが減ると エストロゲンが増えて元に戻ります ストレス解消は とても大切なことなのです その日の気分が良くなるだけではなくて 脳を助けることにもなるのです

脳のためにできることは 今ご紹介した例だけではなくて 他にも たくさんあります ですが ここで重要なのは 女性の脳についての理解を改めることで 脳のケアの仕方が大きく見直されて 女性の健康に対する捉え方が 変わることにあります この情報を求める女性が 増えれば増えるほど 閉経にまつわるタブーを打ち破って 実効性のある解決策を見出せる タイミングが早まります アルツハイマー病だけでなく 女性の脳の健康全体についての解決策です 脳の健康は女性の健康なのです

以上です

(拍手)

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