生態学についてシスターが科学者に教えられること(13:50)

ヴィクトリア・ギル(Victoria Gill)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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素敵で好奇心旺盛な皆さんに 私の世界一お気に入りの 動物をご紹介します 両生類界のピーター・パン アホロートルです サンショウウオの一種ですが 他とは異なり 幼形成熟し 水中でのみ生息します 他とは異なり 幼形成熟し 水中でのみ生息します この子には X-メンみたいなパワーがあるんです というのも 手足の一部を失っても また元どおり生えてくるのです 驚異的です ずっと笑顔を絶やさない この顔をみてください

(笑)

顔は 羽のようなえらで縁どられ なんとも 愛おしいではないですか

近縁種である この特定の種のアホロートルは アチョケの名で知られていますが 同じくらい愛らしく メキシコ北部の1か所のみで とある湖に生息しています その湖はパツクアロ湖といい ご覧の通り 息を呑むほどの美しさです でも残念なことに 魚の乱獲と酷い水質汚染のため アチョケは絶滅の危機に瀕しています そしてこれは 地球のあちこちで  起こっている状況です 私たちは絶滅の危機を 乗り越えようとしています 中でも特に影響を受けやすいのは 進化の関係上 1か所の湖のように 限定的な生態的地位にいる種です

でも TEDトークは 大きなアイデアや解決案を 共有するための場ですよね では この独特な変わった生き物を どう絶滅から救えるでしょうか? その答えは 少なくとも私が出した答えは 技術だのみの 崇高なものではありません 意外と 実にシンプルです それは この生物のことを よく知る人たちを探し出し 質問をし 話をよく聞くのです その人たちが乗り気であれば 共に取り組みをすることです

私はこれまで 科学において 特に保護に関して 科学者が 学術誌に 掲載されない経験知だけど 非常に貴重な知識を有する― 地元住民の協力を仰がないために 的外れになるのを目にしてきました 科学者 また活動としての科学が 最初のハードルでつまずくのは 専門家が一番偉いと 性急に考えたときです けれども 科学者が学問上の こだわりを払拭し 保護活動に対する考え方は 全く違えども 非常に重要な視点を持つ人々に 目を向ければ 真に世界を救うことが可能で 同時に驚くほど変わった 両生類も救えます

アチョケの場合ですが チームに必要なのは こちらの方々です

(笑)

「われらが健康の聖母教会」の シスターの皆さんです この方たちはパツクアロに住み 地元の女子修道会に所属しており アチョケと共に 歴史を歩んできました 驚異的な素晴らしい話なので 私は魅了されて現地に赴き ドキュメンタリーを制作しました この写りの悪い自撮りが その証拠です 女子修道院の建物の中央部に このような部屋があります とても不思議な光景です 淡水がなみなみと張られた水槽が並び アチョケが何百匹も飼育されています アチョケは その再生能力から それを摂取すると 治癒効果があると信じられており シスターたちは アチョケの成分を 配合した薬を製造販売しています 私も1本買ってみました これが実物です ちょっとハチミツに似た味がしますが シスターの考えでは あらゆる病気 特に呼吸器系疾患に効果があります シスター・オフェリアの言葉を お聞きください

シスター・オフェリア : (スペイン語)

(通訳)「当女子修道院は ドミニコ会のシスターにより ここパツクアロに 1747年に設立されました その後しばらくして シスターたちが アチョケシロップ作りを始めました アチョケの特性を 発見したのは私どもではなく 古代からここにいる 先住民たちによるものでした けれど 私たちもシロップ作りを 始めたのです それを知った地元民たちが アチョケを 提供してくれるようになりました」

ヴィクトリア・ギル:「なるほど では アチョケはシロップ作りの 一部なのですね シロップは何に効果があるのですか?」

シスター・オフェリア: (スペイン語)

(通訳)「咳や喘息や 気管支炎、 肺や背中の痛みに 効きます」

ギル:「ではその治癒力を活かし シロップというか 薬にするのですね 作り方を教えていただけますか? 首を横に振って笑っておられますね」 (笑)

ええ 何百年にわたり伝承された 秘伝レシピを教える気はないそうです

(笑)

けれども アチョケの数が減少したため 実は 薬作りを全てやめなければならぬ 一歩手前の状態にまでなり それがシスターたちが 立ち上がった理由です 世界初のアチョケの養殖場です シスターたちが望んだのは 健全かつ持続可能な数を維持し 薬作りを続けられることが 全てだったのですが それと同時に出来たのが 絶滅寸前種を 飼育下繁殖するプログラムでした 数年が経つと こちらの写真に 写っている科学者たちは 私の地元にも近い 英国チェスター動物園より 遠路はるばる来られた皆さんと メキシコはモレリアの ミチョアカナ大学の皆さんで 何年にも渡る 慎重な交渉術で シスターたちを説得し 研究協力に参加して もらえることになりました こうして シスターたちは 生物学者たちに いたって健康で頑強な パツクアロ・アチョケの育て方を伝授し 科学者は 研究資金から 水槽、ろ過機、ポンプを支出し この変わっているけど素晴らしい ちぐはぐな部屋に提供しました これこそが生物種を救える そんな協力関係なのです

でも 私はこんな関係について まだ聞き足りず この仕事をしていて とてつもなく幸運に思います 私は多くの土地を訪れ とにかく 科学を利用し 大きな問題の答えを出し その解決を試みる優秀な人たちを 追いかけてきたのです ご一緒した科学者の中には 更年期の原因に関する謎を 太平洋北部沖における シャチの追跡により 解明した方がいます また 私が追いかけた別の科学者は 南極ペンギンのコロニーに カメラを仕掛け 気候変動の影響をまさにその場で 捉えようとしていました

でも 私の印象に強く残っているのは このアチョケ保護のチームです 私に繊細だけど 非常に重要な 関係が与える影響について 示してくれました また このチームが 私の心に残るもうひとつの理由は もの珍しさからだと思います 珍しいという理由のひとつは 従来のやり方の場合 研究成果のヒエラルキーにより あらゆる点で 謙虚な姿勢をもち 科学者が科学者でない人から 情報を求めることなど 厳密には奨励されないからです それどころか 慣習として 特に西洋社会では 学問至上主義からくる 視野の狭い尊大さのせいで 科学は歴史的にエリートの活動に とどまってきました 変わりつつあるとは思いますが それが時に 私たちが 身を滅ぼす要因となっているのです

ですから 歴史から学ぶ例として 私の科学界の英雄を詳しく ご紹介しましょう サー・アーネスト・シャクルトンと 彼が100年以上前に試みた 南極横断探検の話です 有名ですが 不運に見舞われた探検です 寄港地で 彼は サウス・ジョージア島の 捕鯨員の話に耳を貸しませんでした その地をよく知る捕鯨員たちは 「今年は氷を突破するのは困難だ 氷の範囲が広く北に押しやられて 危険だ」と言いました その後の話はご存知ですね 確かに 偉大なる冒険でしたが 今だ語り継がれる あの英雄的リーダーシップで 探検隊員をひとり残らず 救出したエピソードは 彼が忠告を聞き入れ 母国に引き返していたら 語られなかったでしょう でも 結果として船は沈没し 相当数の隊員が凍傷にかかり PTSDを発症した人も 多かったでしょう 隊員が生き残るために 船の猫のチッピーは餌をもらえず やむなく銃殺されたのです

さて この話は遠い昔のものですが このトークの準備にあたり 私が取材した記事を見直してみると 珍しい協力関係により プラスの変化が 生まれたケースがありました 元密猟者の方との取材では 以前 密猟をしていた場所についての知識が 同所で行われる 現行の保護プロジェクトに 非常に重要になっているとのことでした また メンタルヘルスに悩んだ― 素晴らしい芸術家の方との取材では 精神を病んだことで 院内に新しく 刷新的で素晴らしいメンタルヘルス病棟を デザイン・制作することに つながったということでした

直近では チェルノブイリの 立入禁止区域で 科学者のチームと 何十年も協働しました その実験のひとつ 区域内で作物を育てる試みは このようになりました 初のチェルノブイリ産ウォッカです

(笑)

結構美味しいんですよ 味見したのでわかります これはニッチな商品のように 見えるかもしれませんが 原発事故以来 立入禁止区域で生産された初の 消費者向け商品となります 実のところ これは 長年にわたり 放棄された土地の周辺に 住み続ける地域住民との 話し合いの結果です いつになれば この地で食物を安全に 栽培できるのか そもそもそれは可能か 事業を起こし 地域社会や生活を 再建したいと思っている住民たちです これは 謙虚な姿勢で 相手の話を聞くことの産物であり 私がパツクアロを訪れた時 このような姿勢を確実に目にしました

私が目にしたのは 何十年もの経験を持つ保全生物学者の ヘラルド・ガルシアが 慎重に見聞きする姿でした 修道服に身を包んだシスターが ゴム手袋をして アチョケの頭にそっと触れると 口を開いて 素早く綿棒でDNAを採取するのを 見せてくれていたのです

(笑)

科学者が 研究にとって 非常な貴重な視点を持ちながらも 見解が全く異なる人たちと協力し 関心を向け 知識に従うと とても特別なことが起こるのです

さて これを国際レベルで 非常に意欲的に取り組んでいる例が 生物多様性及び生態系サービスに関する 政府間科学・政策プラットフォームです 洒落た名称とは言い難いですが どうぞ聞いてください この団体は 130か国以上を会員にもち その目的は 世界中で自然界が 置かれている状況を 査定することに他なりません 世界における自然の状況の査定報告が 最近発表されましたが これを世界協定のたたき台とし 加盟各国がそれに調印すれば 今まさに 地球で起きている 生物多様性の危機にようやく 取り組むことが可能でしょう

さて 私は こうした査定報告書について 大勢の視聴者に伝えており これらの大きな国際団体は高尚で 手の届かない 雲の上の存在に 思えるかもしれませんが でも 団体の核にいるのは人間であり 報告書の作者たちです 彼らは生物学的見地や 生態学的情報を まとめるという困難な課題をこなし 自然界が置かれている状態を わかりやすく正確な図式に 表してくれた人たちです この識者たちが報告書を まとめ始める10年も前に 「文化概念的枠組」と 呼ばれるものを生み出しました これは基本的には文化概念を 解釈するための辞書のようなもので 私たちが自然界について語る 色々な表現を定義しています そこでは例えば 「母なる地球」と「自然」が同等に 分類できることが正式に認識されました それが意味するのは 先住民や地域住民が持つ知識は 同一文書上で扱うことができ 自然環境の状態を査定するにあたって 影響力や価値があると 見なされるということです これは非常に重要です なぜかというと イヌイット族の猟師は 学術誌に研究発表することはないでしょうが 気候変動が地元の北極地域に 与える変化について 誰よりも詳しいと 誓って言えるからで ひとりの科学者が 長期にわたり 彼の地を行き来し計測したデータより ずっと確かな情報だからです 全体として先住民の人々は 全世界の地表の 推定25%を見守る管理人で その地には地球上で最も生物の 多様性に富んだ場所も含まれます 地球の仕組みや保護する方法を 解明するうえで この文化の壁を越えたり 最低でも越えようと試みなければ どのくらいのことを 見落とすことになるのか 想像してみてください

どの研究計画も まさにそれを実践する新しい機会です もしも 研究プロジェクトの 提案をするたびに 参加してもらいたいような 個人または団体― つまり地元の農家や 先住民族のリーダー シスターの提言を盛り込んで 耳を傾けなければならないとしたら どうでしょう?

シスター・オフェリアが なぜここまで突き動かされ 熱心にアチョケの保護に 取り組んでいるのか ちょっとお聞きください

ギル:「シスター・オフェリア アチョケを絶滅の危機から救うことは 神への奉仕のひとつとお考えですか?」

シスター・オフェリア:(スペイン語)

(通訳)「全ての人類が責任を持って 身近な生命を 傷つけないように しなければなりません 生ける全てのものに対し そうするのです 私たちは 長生きするだけでなく 幸せになり 他人も幸せにするよう作られました ここにいる者たちは アチョケの保護により皆を幸せにし ひいては 神を喜ばせるのです」

(シスターによる賛美歌斉唱)

シスターの歌声があまりにも美しく 歌いかけるので こっそり立ち去りたい気分です でも お聞きになりました? 「私たちは幸せを与えています」 プロジェクト提案書の 概要説明によくありがちな 慣習などではありません

(笑)

でも この思いがきっかけとなって 世界でもっとも成功した 絶滅の瀬戸際にいる生物の 養殖プログラムが生まれたのです 何とも素晴らしいと思いませんか?

ありがとうございました

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

アチョケと呼ばれる、メキシコ北部のとある湖に生息する外来種の(そして愛らしい容姿の)サンショウウオを救うべく、科学者たちは思いもよらないパートナーと協力関係を結びました。それは「われらが健康の聖母教会」という修道院のシスターたちです。この愉快なトークで、BBC科学担当編集委員のヴィクトリア・ギルが、珍しい協力関係がどのようにアチョケを絶滅の危機から救い、地元住民や先住民がいかに地球に存在する奇妙かつ素晴らしく、最も絶滅の危機に瀕した生物を救う鍵を握っているかについてお話しします。

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