太陽系第9惑星の探索(13:43)

マイク・ブラウン(Mike Brown)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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まずは 200年前の話から始めましょう 1820年 フランスの天文学者 アレクシス・ブヴァールは 惑星発見者として名を残す 2人目の人物となるところでした 古い星表を参考にして 夜空に見える天王星の位置を 追跡していましたが 彼の予測とは ちょっと違った振る舞いで 太陽の周りを回っていたのです 時に 動きが少しだけ速すぎたり 遅すぎたりしていました ブヴァールは 自分の計算は完璧だと思っていました だから 古い星表が 間違っているに違いないと思い 当時の天文学者に言いました 「もっと正確な観測を行ってくれ」 すると 再測定が行われました 天文学者は その後20年をかけて 天王星の位置を 細心の注意を払って追跡しましたが なおも ブヴァールの予測と 一致しませんでした

1840年までには 問題は 星表にあるのではなく 予測にあることが 明らかになりました 天文学者には 理由が分かっていました 天王星軌道の外に 巨大な惑星があるに違いないと 気づいたのです それが天王星の軌道に 影響を及ぼし 時には 天王星の速度を少し速め 時には 遅くしているのだと

1840年当時は 苛立たしかったに違いありません その彼方にある巨大惑星の 重力効果が観察できるのに 実際にその巨大惑星を探し当てる方法が 無かったのですから 本当です 本当に 苛立たしいんです

(笑)

しかし 1846年に 別のフランス人天文学者 ユルバン・ルヴェリエが 計算を行い この惑星の位置を突き止める方法を 見つけ出すと 予測結果を ベルリン天文台に送りました 天文台が 望遠鏡を稼働させた 最初の晩に かすかな光を放ち 空をゆっくりと移動する点が 見つかりました 海王星の発見です ルヴェリエが予測した位置から 本当に近い所にありました

これは 予測、予測との不一致 新たな理論 そして発見という大勝利に至る 非常に典型的なストーリーであり ルヴェリエが一躍 有名になったので 他の人々も 直ぐに真似しようとしました 過去163年間に 何十人もの天文学者が 軌道が食い違っているとして 太陽系にある未発見の惑星の存在を 予言しました

全て 誤りでした

その中でも 最も有名なのが パーシヴァル・ローウェルの予言です 彼は 天王星と海王星のすぐ先に これらの軌道に影響を与えている ― 惑星があるはずだと確信しました そして 1930年に冥王星が ローウェル天文台によって 発見されると 誰もが これはローウェルが予言した 惑星に違いないと思いました これは間違いでした 天王星や海王星は あるべきところに あることが 今では判明しています その理解に100年かかりましたが ブヴァールは 結局のところ 正しかったのです 天文学者は もっと正確な測定を する必要があったのです 再測定を行い より正確なデータを用いた結果 天王星や海王星の軌道のすぐ外側には 他の惑星が存在しないということが分かり 冥王星がこれらの惑星の軌道に 影響を及ぼすには 数千倍の質量が 必要だと分かりました

冥王星は 当初予言された惑星とは 異なるものだと判明したものの 惑星群の外側にある 今では何千もあることが知られている 小さな氷でできた天体の 最初の発見になりました ご覧になっているのは 木星、土星、天王星、海王星の軌道です 中心近くの小さな円の中には 地球と太陽と 皆さんが知り 親しまれている ほとんどすべてがあります また 縁辺部にある黄色の円は 惑星群の外側にある 氷でできた天体です 氷の天体の軌道は 惑星の重力場により 完全に予測可能な仕方で 影響を受けています 太陽を周回するあらゆる天体は 正確に理論通りに運動しています

ほぼ正確にですが

さて 2003年のこと 私は 太陽系の中で 当時としては最も遠いところにある 天体を発見しました この孤立した天体を見ると 言いたくなります ああ ローウェルは 間違ってたんだ 海王星のすぐ先に 惑星はなかったけど これこそ新惑星かもしれないと まず解明すべき問題は 太陽の周りをどんな軌道で 回っているのかです 惑星ならばそうあるべき 円軌道なのか? それとも この帯状に分布する 氷の天体の一員にすぎず 少しだけ外側にはじき出されて 戻ってくるところなのか?

これはまさに 天文学者が200年前に天王星について 解明しようとした問題と同じです 彼らは それまで見過ごされていた ― 天王星発見の91年前の 観測記録を用いて その全軌道を明らかにしました 我々は そこまで過去に 遡れませんでしたが この天体に関する13年前の 観測データを見つけたので 太陽周回軌道を 導き出すことができました

問題は 惑星のような円軌道なのか それとも 氷の天体のような軌道で 戻ってくる途中にあるのか? その答えは どちらでもありません

この天体は ひどく細長い軌道を描いており 1万年かけて 太陽の周りを回ります 我々はこの天体を 「セドナ」と命名しました 常に氷の世界にいることに 敬意を表し イヌイットの海の女神の名前から 取りました セドナについて分かっているのは 冥王星の3分の1ほどの 大きさで 海王星の先にある氷の天体群の 比較的典型的な一員だということです 比較的というのは 奇妙な軌道を描いている点が例外だからです この軌道を見たら 「ああ 奇妙だな 公転周期が1万年なんて」 と思うかもしれませんが 奇妙なのは そのことではありません 奇妙なのは その1万年の間に セドナが 他の太陽系の天体に 接近することがないことです 太陽に最も近づいた時でも セドナと海王星の間の距離は 海王星と地球の間の距離よりも 離れています

もし セドナが このような軌道を描き 1回公転する間に 海王星の軌道に触れるのであれば 説明は簡単だったことでしょう 元々氷の天体の領域にあって 太陽の周りを円軌道で 回っていた天体が ある時 海王星に接近しすぎたために 軌道からはじき出され 現在 戻ってくる途上にあるということです

しかし セドナには はじき出したはずの天体が 太陽系において 知られる限りでは存在しません それは海王星ではあり得ず 何か別の天体があったはずです 影響を及ぼしている天体が 不明な重力効果が 外太陽系(木星以遠)において 観測されたのは 1845年以来 初めてのことでした

私は その答えなら 分かると思いました 外太陽系の遠く離れた場所に 巨大惑星があるという見方もありますが その頃までには これは 馬鹿げた考えで 全く信憑性がないと されていたため 私自身 真剣に とらえていませんでした しかし 45億年前 何百という恒星の幼生を宿す 誕生の場から太陽が形成されたとき その中の1つの恒星が偶然に セドナにほんの少し 近づきすぎたことで 現在の軌道へと 押しやったのかもしれません 一連の恒星が 銀河系の中へと散らばっていくと セドナの軌道は 太陽の初期の歴史を まるで化石のように 記録として残したのでしょう

私は太陽の誕生の歴史を 化石化された記録として考察できる という考えにワクワクし その後の十年間 セドナのような軌道をもった 天体をさらに探しました 十年かけて見つけた数は 「ゼロ」です

(笑)

でも 同僚のチャド・トルヒーヨと スコット・シェパードはもっと上手くやって セドナのような軌道をもった天体を いくつか発見しています 本当にワクワクします

しかし さらに興味深いことに 彼らの発見によると これらの天体は全部 他から隔たった細長い軌道を もっているだけではなく 天体運動を表す 知名度の低い 「近日点引数」という軌道要素が 同じような値を示しているのです 近日点引数が 近い値にあると知ると 彼らは すぐさま 非常に興奮して 「遠方にある巨大な惑星の影響に 違いない」と語り合いました とても興奮する話ですが ただ 筋が全く通らないんです

そのわけを たとえを用いて説明します ある人が広場を歩いていて 進行方向の45度右に 顔を向けています そうなる理由は 色々と考えられるので 説明はとても容易です では 大勢の人がいて 皆 バラバラの方向に向かって 広場を歩いていますが 皆が進行方向の45度右を 向いているとしたらどうでしょう? 皆が違う方向に向かって歩き 違う方向に顔を向けているのに 進行方向に対する顔の向きは 揃って45度なんです そんなことが どうしたら起きるのでしょう? 私には全く分かりません そんなことが起こる理由を 考え出すのは簡単じゃありません

(笑)

近日点引数が近い値に なっているというのは まさに そういうことなのです

たいていの科学者たちは当惑し 単なる偶然か 観測ミスに違いないと考えました 彼らは天文学者に対し 「もっと正確な観測を行ってくれ」 と伝えました 私は観測データを とても注意深く調べましたが 正確なデータでした これらの天体は たしかに 同じ近日点引数を もっていたのです あり得ないことです 何かがこの現象を 引き起こしているに違いありませんでした

パズルの最後のピースが 2016年に見つかりました 3つ離れた部屋で働いている同僚の コンスタンティン・バティーギンと 私が 皆を困惑させている原因に 気づいたのです それは 近日点引数は 現象の 一部を見ているに過ぎないということです これらの天体は 正しい見方をすれば 実際には 軌道は宇宙空間で 同じ方向を向き 同じ方向に傾いているのです まるで 広場で全ての人が 同じ方向に向かって歩き 進行方向に対し 揃って 45度右側を見ているようなものです それなら 説明は簡単です みんな何かを見ているんです 外太陽系のこれらの天体は 全てあるものに反応しているのです 一体 何でしょうか?

コンスタンティンと私は 外太陽系の遠方の巨大な惑星に 依存しない説明を探そうと 1年をかけました 惑星の存在を予言し またもや間違いだと指摘される 33番目と34番目の人間には なりたくなかったのです しかし 1年経ってみると 他に選択肢はありませんでした 唯一考えられる説明は 太陽系の他の惑星の軌道面に対し 傾斜した軌道上を運行する 巨大な惑星が遠くにあり 外太陽系にある これらの天体の向きを 特徴づけている ということでした

そのような惑星は他に どんな影響を及ぼすのでしょう? セドナは ある方向に向け 太陽から遠ざかるような 奇妙な軌道を描いていましたが このような惑星はたえず そういう軌道を生み出すものです 何か答えが得られそうでした

そして今に至ります 私達は いわば1845年の パリにいるんです

(笑)

彼方の巨大な惑星の影響を観察し 徹底した計算を行って この惑星を見つけるためには 望遠鏡をどの方向に向けるべきか 言い当てようとしています

大がかりなコンピュータ・シミュレーションを 何度も行い 解析的な計算に何か月も費やした結果 今の時点で申し上げられることは

まず第1に 我々が「第9惑星」と呼ぶ天体は ― そのまんまの名前ですが 地球の6倍の質量を持っています 冥王星よりちょっと小さいので 惑星と呼ぶべきかみんなで議論しよう— というようなものではなく 太陽系で5番目に大きい 惑星となります 比較のために 惑星の大きさを示します 後ろにあるのが 巨大な木星と土星です その横に やや小さめの 天王星と海王星があり 上の端にあるのが地球型惑星である 水星、金星、地球、火星です 海王星軌道の外にある ― 冥王星を含む氷の天体から成る(カイパー)ベルトが見えます よかったら冥王星を 探してみてください そして これが第9惑星です 第9惑星は大きいんです とても大きいので なぜ まだ見つからないのか 不思議に思われることでしょう 第9惑星は大型ですが とても遠い場所 ― 海王星までの距離の 15倍ほど離れた場所にあります そのため明るさは海王星の 5万分の1程度です 空はとても広大なので この惑星がどこにあるか 比較的狭い範囲に絞り込みましたが それでも その範囲を望遠鏡で 系統立てて調査するには 何年もかかるでしょう このように遠く 暗い惑星を観測するには 大型望遠鏡が必要になります 幸い そうする必要は ないかもしれません

ブヴァールは 天王星発見の91年前の そうとは知らずに観察された 記録を用いましたが 同様に 第9惑星の位置を示す 撮影済みの画像がきっとあるでしょう 古いデータを徹底的に探索し かすかに光りながら移動している ― この惑星を見つけ出すのは 大がかりな計算になります 作業は進行中で 完了が近づいていると思っています

心の準備をしてください ルヴェリエが達成した 「位置を予測して 一晩のうちに 予測した場所の 非常に近くに惑星を見つけた」 という記録にはかないませんが 私は確信しています 数年以内に どこかの国で 天文学者の誰かが 空をゆっくりと移動する かすかな光を見つけ出し 新たな惑星を見つけたという 勝利の雄たけびを上げることでしょう それはきっと 太陽系における真の惑星の 最後の発見とはならないでしょうけどね

ありがとう

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

太陽系内でもはるか遠くにある小さな天体の奇妙な軌道が、大きな発見に繋がり得るのでしょうか? 惑星天文学者のマイク・ブラウンは、太陽系の奥深くに隠れた未発見の巨大惑星の存在を提唱し、その存在の痕跡が既に明らかになっている可能性を示します。

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