騒がしい海の危険性―海をどのように静かできるのか(12:54)

ニコラ・ジョーンズ(Nicola Jones)
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対訳テキスト
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これは バンクーバー沖の シャチの鳴き声です

(シャチの甲高い鳴き声)

この素晴らしい鳴き声は 会話だけでなく 時々エコロケーションで 食べ物を探しあてるのに 使われることもありますが でも それが難しい時もあります なぜなら 船舶が通り過ぎるときには 水中ではこんな音がするからです

(甲高い振動音)

海洋汚染を考えるとき 通常 頭に浮かぶのは プラスチックや 有害化学物質や 気候変動による海洋の酸性化の ことだと思います 私は科学ジャーナリストで 環境問題の記事をよく寄稿しますが それらは10年以上も前から 取り沙汰されてきた問題です でも 私は最近 科学雑誌『ネイチャー』の 特集記事を書いていた時 騒音が別の主要な公害だと 気付きました 騒音問題は 見過ごされがちです

皆さんは 光害対策について ご存じでしょうか? 光害問題への認識を高め 夜間に照明を使わない場所を作ることで 人間や動物が 光と闇、昼と夜という より自然なサイクルを享受できるのです これと全く同じように 騒音公害への認識を高め 海の中に静かな場所を作ることで 海洋生物がより自然な音風景を 享受できるのです

これは重要です 騒音は単に不快なだけでなく 慢性的なストレスや 肉体的損傷の原因になります 海洋生物が 食べ物やつがいを見つけたり 捕食者などを察知したりする能力に 影響を与えます 海に放出した すべての音を考えてみてください おそらく最も大きな音の 1つに挙げられるのが 石油・天然ガスの探鉱に使う 地震調査でしょう エアガンでは大きな衝撃音が 何か月にもわたり 10~15秒おきに 延々と続くこともあります そして 音の反響を使って 地質図を作ります このような音がします

(爆発音)

そして 石油やガスを掘削する音や 洋上風力発電などの建設 ソナー 当然 5万隻以上の国際貨物船からは 低音のブンブン音が絶えず出ています

さて 海は自然の状態にあっても 音を発しています 海の中に頭を突っ込むと 氷の割れる音、風の音、雨の音 クジラの歌声、魚の低い声 テッポウエビの音さえ聞こえます すべて合わせると いつ どこで聞くかにもよりますが 50~100デシベルの音景になります

そこに 人間が出す大きな音が 加わります 船舶は ここ数十年間 推定で10年ごとに3デシベルの割合で 海に放出する騒音を増大させています 大きな音でないかもしれませんが デシベルとは対数目盛で 地震のリヒタースケールと同じです そのため 数値が小さくとも 実際は大きな変化となります 3デシベルとは 海洋の雑音強度を倍にしたものです 2倍です

推定の域をこえません なぜなら誰も実際に世界中の海の 騒音を記録していないからです IQOE(国際静寂海洋実験)という組織があり 目的の1つが データの穴を埋めることです 例えば 昨年 GOOS(世界海洋観測システム)が 行う監視の 必須変数の1つに 騒音を追加する要望が叶い 元々計っていた温度や塩分と共に 測定することになりました

そして分かったのは ソナーは海底火山と同等程度に 騒がしいことです 超大型のタンカーの音はシロナガスクジラの 鳴き声と同じ大きさです 私たちが海へ放出する騒音は あらゆる周波数にわたり またとても遠くまで届くことがあります アメリカ東海岸沖での地震調査は 大西洋のど真ん中でも聞こえます 1960年代の実験では オーストラリアのパース沖の 大きな騒音は 2万キロ先の遠く離れた バミューダでも 探知できました

音は どんな風に 海洋生物の耳に入るのでしょうか? 何が聞こえるのでしょうか? 説明するのは少々難しいです 水中の音は 空気中よりも 遠くまで伝わり速く伝わります そのため 効果がまた違ってくるのです だから 同じ圧力の音でも 空気中または水中で測定するかにより 音のパワーが違うのです クジラには実際 人間のような耳がありません 動物プランクトンなどの生物は 耳そのものがありません これが何を意味し どんな影響を 海洋生物へ与えるのでしょうか?

科学者にとって 測定が一番簡単なのは 急激に生じる騒音の影響です 大きな突然の爆発は 肉体的損傷や聴覚消失をまねく 恐れがあります 例えば オオギハクジラは 大きな騒音がすると パニックを起こして潜水し 潜水病に似た症状が 起きることさえあります 1960年代 より高出力のソナー技術の導入後 オオギハクジラの集団自殺の件数が 急激に上昇しました 海洋哺乳類だけでなく 魚も 群れからはぐれ 大きな音源に近づいてしまった場合 浮袋が破裂するかもしれません 地震調査のエアガンの衝撃音は 小さな動物プランクトンなど 食物連鎖の底辺の生き物を 全滅させたり 成長中のホタテの稚貝を 変形させたりします

船舶からの影響で 暗騒音が大きくなる広域の 慢性的な騒音問題は どうでしょうか? それにより自然の音風景が かき消されます クジラの中にはそれに反応し 文字通り音域を変えたものもいます 騒がしいナイトクラブで 声を張り上げる人みたいな感じです 魚の中には 警戒するかのように 縄張りの見回りに長時間を割き 稚魚の世話をあまりしなくなるものも 出てくるでしょう

無論 慢性的な騒音は 人間にも影響を与えます 研究によると 発着便数の多い空港付近や 交通量の多い高速道路の付近では 住民が心疾患に罹る リスクが高くなる可能性があり 便数の多い飛行経路の下で 暮らす学生の テストの成績は 悪くなる可能性があります 私がこのテーマを 研究している時でさえ 私の自宅兼事務所の向かいの土地で 新築の家を建てるため 3メートルもある硬い花崗岩を 爆破しており ロックハンマーが 絶えず小刻みに動くので 私は 気が変になりそうでした そして 一瞬でも作業が止むと 肩の緊張がほぐれるのを感じました

この影響はクジラにも見られます アメリカ同時多発テロ事件後 アメリカ東海岸沖の海路の 広い領域において 国際輸送が しばらく中断されました その間 研究者は その地域の絶滅寸前の セミクジラの排泄物サンプルからの ストレスを示すバイオマーカの量が 減っていることに気付きました 私が話した研究者の1人は 「人間はストレスに苦しむが クジラは違う」という見解でした

しかし 留意してほしいのは 私たちは 視覚を進化させてきたことです 明らかに視力に頼っています しかし 海洋生物は音に頼るのです 私たちが視力に頼るように だから 騒がしい海は海洋生物に 混乱を引き起こすものですし 危険でもあります 私たちが濃霧の中にいるのと 同じことです だから 時々ストレス気味になったり あまり稚魚の世話を しなかったりします 適応できる種類も いるかもしれませんが すでに瀬戸際にいる絶滅危惧種は 騒音により絶滅すると 懸念する研究者もいます

例えば 北太平洋の定住型のシャチは 私の地元のバンクーバーの海で 生息していますが この個体群に残っているのは 75~76頭のみです 様々な難題に直面しています この海域は化学物質で汚染されており シャチが主食とする サケが減ってきています そこにきて騒音です 研究者が 同種および類似種の シャチの研究をしたところ 船舶の騒音のもとでは 採餌にかける時間が 18~25%も少なくなるのです じゅうぶんな餌の確保に 苦労している生物種にとっては 大きな減少率といえます

私が話した研究者全員が言うには 嬉しいことに 海洋雑音の対策は 比較的簡単なのだそうです 気候変動や海洋の酸性化のような 厳しい問題と違って 海洋雑音は 音量ボタンの要領で 簡単に小さくでき すぐに影響を見ることができます 例えば 2017年 バンクーバー・フレイザー港湾管理委員会は 船舶にハロ海峡を低速で航行するよう 要請を始めました ハロ海峡は定住型のシャチの 晩夏の餌場です 低速にすると より静かになります カナダですから 自発的な協力を要請すれば良いのです カナダですから 自発的な協力を 要請すれば良いのです

(笑)

(拍手)

あの2017年の取り組みで 大半の船舶が 30分程度航行時間を延長して 約1.2デシベル つまり雑音強度の24%を 削減しました 今年 さらに航行時間を延長し 低速での航行を要請する地域を 拡大することに決めました 願わくは シャチに良い影響を 与えてほしいものです

2017年 バンクーバー・フレイザー港湾管理委員会は 物理的により静かに航行するよう 設計された船舶に対する 入港料の軽減も導入しました このように船舶の騒音の多くは 不思議なことに スクリューの後に生じる小さな泡が原因です 単に 泡の発生を少なくするような 設計をすることで 騒音を低減できます 国際海事機関は 船舶をより静かにする方法を 膨大な量のリストにまとめました そして 2050年までの 海運分野での 二酸化炭素の排出量削減目標を 50%に設定しています これらが関連して起こるのは 素晴らしいことです 概して より効率的な船舶は より静かに航行します

このような巨大な風力タービンの 巨大な支柱をより静かに打ち込む方法や 静かな地震調査の方法も考案しました より静かな技術を使うことには メリットもあります 例えば EUには 2020年版の健全な海洋システムに関する 指令があります 健全な海洋システムと 定義する方法の1つは その海域に放出される 騒音の量ですが 海洋雑音の場合については 概して ほとんどの海域が 全く規制されていません

繰り返しますが 私が話した科学者の大半は 「今 政策担当者たちの間で 実に機運が高まっており この問題に注目し 何か行動に移せるかもしれない」と 言っていました より静かな海がより健全な海だと ご理解いただけたと思いますが 現在 科学者は具体的な内容を 決めるために奮闘しています どの程度の静けさが必要なのか? 騒音の低減 また静けさの維持に 最善の場所は? 騒音を抑制する最良の方法は?

騒音が地球上や海で 最大の環境問題であると 言うつもりはありません 肝心なのは人類が環境システムに 多大な影響を与えていることです これらの影響は単独のものではなく 同時に作用したときの相乗効果があります 顕著な問題でなくても 注目する必要があるのです

最新の実験についてお話しします 実に素晴らしいものです ロブ・ウィリアムという 定住型のシャチの 観察をしている研究者は バリでも研究を行なっています バリでは ヒンズーの伝統行事として ニュピという静寂の日を祝います この日は厳密に祝われているようで 空港から離陸する航空機も 釣りに出かける船もなく 観光客はビーチをはなれ ホテルの自室へ戻るよう丁重に促されます ロブ・ウィリアムが その海域に水中聴音器を入れて 影響を調べてみると 驚くものでした 騒音レベルが6~9デシベルほど 落ちていました 同時多発テロ事件後の 海域で見られたのと同じ傾向です ウィリアムのような 自称「音源発掘者」にとって まさに沈黙は金なりといえるでしょう ウィリアムと他の研究者は ニュピのバリ島を再訪すれば 魚たちが より静かになった場所で どんな反応を示すのか 見届けることができるでしょう

(柔らかい泡の音)

私は魚が自分たちの祝日を祝ったり ご馳走を食べたり つがいを見つけたり 騒がしい日常と違った 静寂を楽しんでいると 想像するのが好きです

ありがとうございました

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

「海は生来クジラの歌声、魚の低い音、 テッポウエビ、氷の割れる音、風の音や雨の音などに溢れています。けれども海洋生物にとって、船のエンジン音から石油掘削の音にいたるまでの人工音が深刻な脅威となっています。」と科学ジャーナリストのニコラ・ジョーンズは語ります。海の騒音公害に直面した海洋生物に起こった知られざることを論じ、直接的な影響を調べるために騒音を減らす簡単な方法を共有するビデオをご視聴ください。

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