教師のこころの健康をどうすればサポートできるか(11:31)

シドニー・ジェンセン(Sydney Jensen)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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多くの教師と同じように 毎年 学校の初日には 私は生徒たちと アイスブレイクを行います 私はネブラスカ州リンカーンにある リンカーン高校で教えています うちの学校は 州内でも有数の歴史を誇り また生徒の多様性が きわだって高い学校です さらに 私たちの知る限り 「Links」をマスコットにしている 世界でたった1つの高校です 鎖みたいなものですね

(笑)

うちのマスコットということで 校舎の前にある銅像といえば 鎖のようにつながった4つの輪です 1つ1つの輪に意味が込められています 伝統、優秀さ、団結 そして多様性です

ですから学校の初日 私は新入生に この輪の意味を教えて ひとりひとりに 細く切った紙を渡します その紙に 自分について書くように言います 大好きなものでもいいし 望んでいることでもいいし 自分らしいことなら なんでもいいんです そうして私はホッチキスを持って 教室を回り その紙を1枚1枚 ホッチキスで留めて 鎖を作ります そしてその鎖は教室につるします もちろん飾りとしてですよ? みんながつながっていることを 思い出すためでもあります 私たちは鎖なんです

ではこのうち1つの輪が 弱ったらどうなるでしょう? そしてその弱ってしまったのが ホッチキスを持って回っていた その人だったら? このつながりを 作る役目のはずの人です 教師です

教師として 私たちは毎日働いて 対人面でも 感情面でも 学習面でも 生徒をサポートします 多種多様で過酷な環境から 学校に通ってくる子たちをです たいていの教師のように 私の受け持ちの生徒には 毎日自宅に帰り キッチンテーブルを囲んで 健康的でバランスの良い食事を作る親と 過ごす子たちがいます 夕食の時間には その日高1の国語の授業で読んだ 物語を要約したり ニュートンの運動法則が どんなものか説明したりします でも別の生徒たちの帰る先は ホームレスのシェルターや グループホームです 家族がちょうど寝ている最中の 車に帰っていく子もいます そういった生徒は トラウマを抱えて学校に通っており 私が毎日帰宅するとき そのトラウマも持ち帰ります

いいですか これが 教師業の大変なところです 成績をつけるとか 授業計画とか 会議とかじゃないんです もちろんそういったものにも 時間とエネルギーを相当食われますけど 教師業の過酷さは 子供のために自分が手を出しようのない 事柄にあるんです 子供たちが下校してしまったらもう 変えてあげることのできない事柄です これはどうしようもないのでしょうか

ジョージア大学で訓練を受けていた 学生時代のことを思い返します 指導法の授業で こう教わりました よい指導法という概念は 変わってしまったと 私たちが育てているのは 工場のライン作業に従事する労働者となる 子供たちではなくて 生徒たちは 他の人とコミュニケーションが取れ 協力して問題を解決できる労働者に なっていくのです そのため教師と生徒の関係性は 知識の与え手と受け手というよりも より強力なものに変容してきたのです 教師と おとなしく並んで座る生徒たち という関係ではもうダメです 私たちは生徒と教師の間に さらに生徒同士の間にも関係を築き 彼らがよりどころとなる世界と つながっていると感じられるよう 援助できないといけません

教師2年目の頃を思い出します デイヴィッドという生徒がいました その年 私は 結構いい仕事ぶりだったと 悦に入っていました 「ほうら もう新米教師じゃないのよ ちゃんと仕事のこと分かってるわ」 それは学校の最終日のことでした デイヴィッドに 「良い夏休みを」と言いました 彼が廊下を歩いていくのを見て ひとり思いました 彼の声って どんなだったかしら 私はその時気づいたんです うまくなんてやれてなかったと それで私は 指導法を ほとんどすべて変えました 生徒たちが私と話す機会を たくさん作りました 生徒同士が話す機会もです 作文を読み合ったり 学びを言葉にしたりするんです そしてまさにそんな対話を通じて 私は生徒たちの声だけでなく 彼らの苦しみも 知るようになりました

その次の年も デイヴィッドの担任だったのですが 彼の父親は不法滞在者で 国外退去させられていたのです 彼は学校で 苦しみを行動で表し始めました 彼が求めていたのは 家族がもう一度一緒になることだったのです 本当にさまざまな形で 私は彼の苦しみを感じ取りました 私の話を聴いてくれる人が必要でした 私を支えてくれる人です 私が理解さえもできないこの状況にいる 彼を支えられるようにです

そういったニーズが 認められている職業には ぞっとするような犯罪現場を 目撃した警官や 患者を亡くした看護師があります でも教師については そこまで切迫したものだと 思われていません 私が最も大事だと思って疑わないのは 生徒も教師も 管理職も専門職助手も 生徒のためのあらゆるスタッフが こころの健康のためのサポートを 簡単に安価で利用できるようにすることです 常時誰かのために働くとき― その誰かとは たいてい 1日25~125人の生徒たちですが― 私たちのこころの元気は 常に消費されているのです しばらくすると すっからかんになって 立ち行かなくなりかねません これは「二次的トラウマ」とか 「共感疲労」と呼ばれるもので 生徒から語られるトラウマを 私たちは毎日 吸収しているということです しばらくすると 私たちのこころは その重さに あえぐことになってしまいます

ネブラスカ大学のBuffett研究所が 最近見出したことですが たいていの教師たち もっと言うと 幼児教育に携わる教師のうち 86%にあたる人たちが 直近1週間に 抑うつ症状を 経験していました およそ10人に1人は 治療が必要なレベルの 抑うつ症状を訴えていました 仕事仲間から聞いたことや 私自身の体験からすると これは担当する学年を問わず みんなに共通する苦しみだと感じます では何が足りないのでしょう? この連鎖を断ち切り 修復するにはどうしたら?

私が働いてきたなかで 2人の生徒と 1人のすばらしい教師の 自殺を経験しました その先生は 子供たちが大好きでした 数えきれない数の ホームレスの生徒たちにも会いました 法的機関のお世話になったり 出所してきた子供たちもです こういったことが起こると マニュアルには 「もし誰かに話したかったら…」と でもそれだけじゃ 十分じゃないんです 私はとてもラッキーです 優れたリーダーシップのもと すばらしい学校で働いています 大きな校区で 地域の機関との健康的な パートナーシップが多くあります そこからは どんどん多くの スクールカウンセラーや セラピストや サポートのためのスタッフが派遣され 生徒を手助けしています スタッフは無料カウンセリングを 受けることができます 福利厚生の一環としてです でも小さな校区では多くの場合 大きな校区でも一部のケースでは 資金援助がなければ 費用を賄えません

(息を吐く)

すべての学校が対人面・感情面の サポートスタッフ より正確には 学校にいる全員のニーズに対応できる 訓練された専門職が まず必要です 生徒や教師のニーズいずれかではなく 両方のです こうした専門家が必要な さらにもう1つの理由は トラウマに最も近いところにいる スタッフを積極的に見つけ 調子に気を配るためです 多くの学校はできるだけ サポートの不足を 解消しようとしています そういった学校は 私たちのしている仕事が とてもハードだと認め始めています

リンカーンにある別の学校 スクー中学校には 「健康づくりの水曜日」があります 地域のヨガの先生を学校に招いたり 昼休みに近隣を散歩するイベントを 支援したり 交流イベントを企画したりして みんなで一緒に 何かをできるようにしています ルイジアナ州ザカリーにある ザカリー小学校には 「週の真ん中集会」があり その日は先生たちと一緒にランチをとり 今うまくいっていることや 胸にわだかまっていることを 話すのです こういった学校は 対話という大事な場を作っています 最後に 私の友達であり同僚の ジェン・ハイストリートは 毎日5分使って 1人の同僚に 元気の出る文章を書きます ハードに働いていることや 愛情深く人に接している様子を ちゃんと見てるよと 彼女は分かっています この5分間で 学校中に かけがえのない パワフルな波及効果を起こせると

私の教室につるしてある鎖は 単なる飾りではありません このつながりは私たちの頭上にあって 生徒たちが廊下を歩く4年間 ずっとつるしてあります そして毎年 私の340教室に顔を出しに来る 最上級生がいますが 彼らは自分の輪がある位置を ちゃんと覚えています 彼らは何を書いたかも覚えています つながりと支えを感じるのです 彼らは希望も持っています これこそ 私たちに必要なものでは? 手を差し伸べて 大丈夫と保証してくれる誰かです 様子を気にかけてくれ 私たちはつながっていると 思い出させてくれます ときどき 私たちには ちょっとした手助けが必要です ホッチキスを持って

ありがとうございました

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

教師は子供たちのこころを支えます。しかし教師を支えているのは誰なのでしょう?この目を見張るようなトークでは、教育者のシドニー・ジェンセンが、いかに教師たちが「二次的トラウマ」の危険にさらされているかを探ります。つまり教師たちは生徒たちが経験しているこころの重荷を吸収してしまうというのです。そしてシドニーは、いかに学校があらゆる人のこころの健康を支えるために創造的なアイデアを生み出せるかを示してくれます。

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