大混乱の時代に生かす、先を読む力(13:10)

ビナ・ヴェンカトラマン(Bina Venkataraman)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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2012年の冬に 祖母の家を訪ねたときのことです インド南部なのですが そのあたりの蚊は アメリカ生まれの血が 大好物なようで―

(笑)

もう本当に

滞在中 私は思いがけず ある物を譲り受けました こちらのアンティークの楽器です 1世紀以上前に 貴重な木材から 手彫りで作られたこの楽器は 真珠が埋め込まれ 金属弦が数十本 張られています 家に代々伝わる物で 私の過去と未来 つまり 両親が生まれた国と 私がこれから選ぶ地を つなぐものです

それを手にしたときは 分からなかったのですが 後に私の研究にとって 重要なメタファーになりました

こんな格言がありますね 「今ほど良い時はない」 でも今はむしろ 「今しか存在しない」ではないでしょうか 目の前で起こる一瞬の出来事に 私たちは自らの人生や 経済そして政治を 支配されているように思えます その日に自分がした何でもないことや その時 有名人が流したツイートで すぐ頭がいっぱいになります ビジネスも同じで 目の前の利益を追求するあまり 将来の成長に必要なことを すぐ蔑ろにしてしまいます 政府も同じで あっという間に傍観者となり 次世代のために 漁場や農地を守るのではなく 枯渇されるがままに してしまいます 私はこう感じています このままだと私たちの世代は 良き祖先になれないのではないかと 人間は 進化して 先を読む力を身に付けました 星図を描き 来世を夢見ますし 後で収穫するために 種を植えます この類まれな力は 科学界では 「メンタルタイムトラベル」とも呼ばれ 人類文明の ほぼすべてを 支えるものです 農業からマグナ・カルタ インターネットまで どれも最初は 頭の中から生まれました

でも現実に目を向けて 今の私たちの行動を見ると この素晴らしい能力をどうも あまり使っていないようです いったい なぜでしょう? コミュニティやビジネス 制度の在り方に 問題があるのです 私たちが先を読むのを阻む 仕組みになっているのです ここで 私たちが犯しつつある 3つの重大な過ちについて お話ししましょう

1つ目は 評価対象を 誤っていることです 企業を見るとき 四半期毎の利益や 目先の株価に注目していては 長期的に見て 市場シェアを上げられるか 新たな価値を生み出せるか 見極めるのは おそらく難しいでしょう 相手が子どもの場合 親がテストの点数ばかり気にするのは その子の長期的な学習や好奇心に 良いこととは限りません 私たちは 将来 重要になることを 評価していないのです

先読みを阻む2つ目の過ちは 何に対して報いるか にあります 政治やビジネス界のリーダーが 惨事に対処し そのことを公表すると 私たちは賛辞を送りますが それで リーダーに対して そもそも惨事自体が起こらないよう 資金を投入することを促す訳でも 洪水からコミュニティを守り 不平等と戦い 研究や教育に資金を提供して 将来への投資を促す訳でもありません

先読みを阻む3つ目の過ちは 想像が及んでいないことです 私たちが未来について考えるとき 注目しがちなのは 具体的な予測です 占星図を使おうが アルゴリズムを使おうが それは同じです それに比べ 未来の様々な可能性を 想像することは ぐっと少ないでしょう 2014年に西アフリカで エボラ出血熱が流行したとき 世界中の公衆衛生に関わる専門職員は 初期の危険信号に気づき 予測ツールは 流行が どう拡大するか 可能性を示していたにもかかわらず 大流行になることを見抜けませんでした 早期に介入がなされなかった結果 流行は拡大し 1万1千以上の命が奪われました たくさんの情報と正確な予報があるのに 最大級のハリケーンに 備えようとしないのは 往々にして それがどれだけ危険か 想像できていないからです

さて こうした過ちの話を聞くと お先真っ暗のように 感じるかもしれませんが どれも避けられないものではありません すべて避けることができます 未来に向けて より良い決断を するのに必要なのは 先読みを助けてくれるツール 先のことを考えやすく してくれるものです 昔の船長が水平線を見渡すのに使った 望遠鏡のようなものです 距離の離れた海の先を見る代わりに 時間的に離れた未来を 見通すためのツールです いくつかご紹介しましょう 研究の中で見つけたもので 先を読むのに役立つと思います

最初にご紹介するツールは 長期的な取り組みをしつつ 今も利益を生み出すというものです こちらは 農家のウェス・ジャクソンです カンザス州でご一緒しました ジャクソンは気づいていました 現在 世界では ほとんどの作物が 次世代が食べていくのに必要な 肥沃な表土の養分を 食い尽くす形で育てられています ジャクソンは科学者たちと 力を合わせて 多年生の穀類を育てることにしました 深く根を張るので 農場の肥沃な表土を守り 浸食を防ぐとともに 将来の収穫を守ることができます とはいえ 今 農家の人たちに こうした作物を育てさせるには 年間収穫量を上げるとともに その穀物でシリアルやビールを作ってくれる 会社を見つける必要がありました 農家が 明日のために働きながら 今日の利益も得るためです

この戦略は実証済みです ジョージ・ワシントン・カーヴァーが 20世紀初頭に 南北戦争後のアメリカ南部で 使った戦略です カーヴァーが ピーナッツの 3百もの利用法を考案した話は有名です 彼が思いついた商品やレシピのお陰で ピーナッツの人気は高まりました でも なぜそうしたかは さほど知られていません 彼は 綿花の収穫減少にあえぐ アラバマの貧しい小作農を 助けようとしていました 綿花畑にピーナッツを植えれば 土壌が改善され 数年後には綿花の収穫高は 改善しますが 農家を動かすには目先の利益も 必要だと考えたのです

では 先読みのための もう1つのツールをご紹介します 過去の記憶を生かすことで 未来を想像できるようにするものです 私は福島県を訪れました 2011年の東日本大震災と津波で発生した 原発事故から6年を迎えたときでした そこで私は女川原子力発電所のことを 知りました 女川原発は 皆さんご存知の 福島第一原発よりも 震源地にもっと近い場所にあります でも 女川原発は 周辺住民の 避難場所となっていました それほど安全だったのです 津波の影響も受けませんでした これは 平井弥之助という技術者が 先読みをしたお陰でした 1960年代 平井は 女川原発の建設にあたり 建設地を海岸線から離れた― より高い場所にし 高い防波堤も設けさせました 彼は 故郷の神社が 869年に津波で 被害を受けたことを 知っていたからです 歴史を知っていたことで 平井は 他の人が想像しえなかったものを 想像することができたのです

さて もう1つご紹介します 皆で共に代々伝えていくものを 創ることです こちらの メキシコ太平洋岸で ロブスター漁をする人たちが 私に教えてくれました 彼らは その地での ロブスターの漁獲量を 1世紀近くも維持してきました ロブスターを 皆の子どもや孫たちに受け継ぐ 共有資源と捉えることで守ったのです どのロブスターを獲るか 注意深く評価し 繁殖に必要なロブスターまで 獲り尽くさないようにしています 北米の30以上の漁場で これと似たような取り組みが なされています 「漁獲枠」と言われる 漁場における長期的権益を作ることで 今 海にあるものをただ獲るのではなく 長期的な漁場保存に向かうよう 漁業関係者を導くのです

皆さんにご紹介したい 先読みのためのツールは もっとたくさんあり いろんな場面で使われています 例えば 投資会社が 目先の株価より先を見据えていたり 国政選挙が 選挙資金提供者の目先の利益に 左右されないように していたりです 私たちは こうしたツールを できるだけ多く集めないといけません そして 評価対象を見直し 報いる対象を変え 先にあるものを想像する勇気を 持つのです

ご想像のとおり これは簡単なことではありません 自身の生活の中で 使えるツールもあれば 会社やコミュニティの中で あるいは社会全体で 行うべきこともあります 未来には それだけの価値があります

私自身がこの努力を続けられるのは 先ほどご紹介した楽器があるからです 「ディルルバ」といいます この楽器は 曾祖父のために 特別に作られた物です 曾祖父は 20世紀初頭に インドで名を馳せた― 音楽・芸術の批評家でした 曾祖父は 先を読んでいたようで 曾祖母が全財産を質入れしようとしたときも この楽器を守りました それは さておき― 曾祖父は 次世代に 引き継ぐことで楽器を守りました 曾祖父は楽器を祖母に譲り そして祖母は私に譲りました

この楽器の音色を 初めて耳にしたとき 憑りつかれたようになり ヒマラヤ山脈に立ち込める霧の中で さまよう者の声 過去からの声を聞いているか のように感じました

(音楽)

(音楽終わり)

これは 友人のシムラン・シンによる演奏です 私が弾くと 猫の金切り声のような音に なってしまうので 遠慮しておきました

(笑)

この楽器は今 私の家にありますが 私の物ではありません 私はしばらくの間 預かっているだけです 私には そのほうが ただ所有するより意義深く思えます この楽器の前では 私は 子孫でも祖先でもあります この楽器は 自分がより大きな物語の 一部だと感じさせてくれるのです

私は信じています 私たちが先を読む力を取り戻す ただ1つの最強の方法は 自らを 憧れの良き祖先だ と考えることです 自身の子どもに対する祖先 というだけではなく 全人類に対する祖先です 受け継がれるものが何であれ その大小を問わず 守ってください それが奏でる音楽は 世代を越えて共鳴するはずです

ありがとうございました

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

前向きな語りで、執筆家のビナ・ヴェンカトラマンが現代に不可欠な問いに答えます――私たちの未来を守り、これからの世代のためになる行いをするには、どうすればよいか? ビナは、私たちが自らの人生やビジネス、コミュニティの未来を想像するときに犯している過ちを説明し、生来備わった先を読む力を生かすための方法を紹介します。そこには驚くほど希望があり、私たちが憧れる「良き祖先」になる道も見えてきます。

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