礼節を実践する3つの方法(14:26)

スティーブン・ペトロウ(Steven Petrow)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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本題に入る前に まず 私自身について 2点お話しします ひとつは 私が作家そして 雑誌のコラムニストとして 20年以上にわたって 礼儀や礼節について 書いてきたということです もうひとつは 私の友人は私を夕食会に招待するのに 非常に慎重になるということ 食卓で起こった いかなるマナー違反も ネタにされる 可能性が高いからです

(笑)

後ろの席や会場外でご覧の皆さんにも 目を光らせていますからね

(笑)

さて 夕食会つながりで 2015年にさかのぼり 私が出席した ある夕食会の話をします これが いつ頃かというと ケイトリン・ジェンナーが 初めて女性としてカミングアウトし カーダシアン家の一員という アイデンティティを捨て トランスジェンダー活動家として 生き始めた頃です 私は当時『ピープル』誌のコラムで 名前の重要性について論じました また 名前がいかに 人のアイデンティティを表しているか 誤用したり 使わなかったりすると 自我がある意味消えてしまう とも ケイトリン・ジェンナーについては 本人を指す代名詞の選択についても 取り上げました 女性としての代名詞です

さて 食事も美味しく 素敵で楽しい夕食会の場で 主催者の女性が ケイトリンの文句を言いはじめました 「なんで私がケイトリン・ジェンナーを 新しい名前や新しい代名詞で 呼ばなきゃいけないの 失礼な話だわ 私は認めない」と 私はじっと聞いていました 瞑想も嗜んでいるので 発言する前に 厳かに一呼吸置きました

(笑)

「でも 君も結婚した時に 名前を変えて 夫の姓を名乗るようになったよね 今では誰もが君を その名前で呼んでいる 単に戸籍上の名前だからじゃなく それが礼儀だからだ ジェンナーさんに対しても同じことだよ」 女性は聞く耳を持たず 私たちは何年も口をききませんでした

(笑)

さてと 私は世間で「ザ・シビリスト」で 通っています 皆さんにはあまり 馴染みのない言葉だと思います 一般的な表現ではありません ラテン語やフランス語が 元になっています 道徳的な規範に沿って 生きようとする人 善良な市民であろうと 努める人を指します 「シビリティ」という言葉は ここから来ています シビリティとは もともと 市民として街の利益や国家の利益 公共の利益のために すすんで奉仕するという意味です

今日は皆さんに 「シビル」(礼儀正しい)であるための 新しい方法を3つ ご紹介します 「シビリティ」(礼節)の 本来の意味に即した内容です ただ 問題があって まず「シビリティ」は 廃れた言葉であり さらに この国では 忌み嫌われていることです その嫌われ方も 右派か左派かで 様子が違ってきます 理由の一端は この言葉が現代では 礼儀作法や 形式的な礼儀正しさ・振る舞いと 同じ意味で使われていることにあります 「市民として」という考え方から 離れてしまったのです

ここで 右寄りの考え方を持つ 友人たちについて少しお話しします いわゆる「ポリティカル・コレクトネス」と シビリティを混同している人たちで シビリティへの呼びかけを ジョージ・オーウェルの 『1984』に登場する「新語法」と ほぼ同一視しています 「新語法」は 自分たちが使う言葉を 強制的に変えることで 話し方を変えるという試みでした 言葉の意味を変えることで 思想も変えようというものです あの夕食会の主催者は そんな見方に 苛まれていたのかもしれません ただ 右派の人たちの シビリティに対する不満を 初めて実感できたのは 当時大統領候補だったトランプを 記事にした時です トランプが こんな発言をしたのです 「ポリティカル・コレクトネスに いちいち気を遣っていられない 私はおろか この国にも そんな時間はない」 非常にショックでした それは本当に — ネットが騒然としていたことは ご想像のとおりです ものすごい数の反響があり その中で ある発言が目に留まりました (右派の)代表的な意見だったからです 「ポリティカル・コレクトネスは 言論を支配し 反対する者にレッテルを貼り 悪者扱いして黙らせる力を 自由主義者に与えるという 病的な仕組みだ」 右派の人にとっては シビリティは けん責と同義のようです

これが右派の考え方です しかし 左寄りの友人も シビリティを嫌っています 例えば トランプ大統領提唱の 「国境の壁」を支持する政権当局者に 嫌がらせ行為をした人々は 無礼だ 卑劣だと責められ もっとひどい中傷も受けました これに類する ある出来事の後で 去年 あの『ワシントン・ポスト』紙が 左寄りでありながら 礼儀作法は大事だと 社説に書いたのです 当局員にも食事くらい 穏やかに取らせてやるべきだと うーん 「でも 国境の壁こそが 礼節を欠いているではないか 子供に催涙ガスを浴びせ 家族を分断して」と 抗議している人は言うでしょう

ではもし この国で 歴史の初めからずっと 礼儀作法や丁重さを 重んじてきたとしたら? 女性参政権論者のことが思い浮かびます デモ行進したり 人垣を作ったりしましたが 激しく非難され 逮捕されるなどの 扱いを受けました 1920年代に女性参政権を 主張したがためにです マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師 も思い浮かびます アメリカにおける 非暴力の市民的不服従の父ですね 人種間の平等と経済の平等を推し進めようと したがために「無礼者」呼ばわりされました これで シビリティがなぜ この国で問題視され 疎まれるように なったのかお分かりでしょう だからと言って 異論を述べたり 心の内を口に出してはいけないのかというと 断じて そうではありません

キャロリン・ルーケンスマイヤー博士と 最近 話しました アメリカでは シビリティの権威のような存在で National Institute for Civil Discourse (国立市民談話研究所)の理事長です 博士が言うには 「シビリティとは 妥協ではなく 大事な時に意見の対立を避けることでもなく 相手との違いについて 敬意をもって 耳を傾け 話し合うこと」だそうです 健全な民主主義においては 必要なことです 私はこれを 敬意ある対話と呼んでいます

しかし市民同士の談話には ルールや境界線も必要です 例えば 単に礼儀に欠ける言葉や 侮辱と区別すべきなのが 憎しみや排他性を刺激する発言です その矛先が向くのは 特定の人種や民族 LGBTQのコミュニティ そして障害者たちといった 集団です キレやすい左派が ヘイトスピーチと呼ぶ発言です ヘイトスピーチは 暴力に発展することもあります

例えば 2018年の秋 私は クリスティーン・ブラジー・フォード博士 についてコラムを書きました ご存知かもしれませんが 最高裁判事に指名された ブレット・カバノーを 性暴力で告発した 女性たちのひとりです コラムは反響を呼び 直接こんなメッセージが来ました スライドでご覧いただけますが あちこち塗りつぶされています

(笑)

このメッセージは 50単語中 10単語が放送禁止用語でした 民主党をなじり オバマ大統領をなじり 私も 卑猥で下品な言葉で 中傷されました あからさまな脅しが含まれており 担当編集者が 警察に通報したほどです パイプ爆弾が他の報道機関に 送りつけられる直前の出来事で このため 誰もが 警戒を強めていました 当時の状況をさらに付け加えると そのわずか数ヶ月前に メリーランド州の新聞社で 社員5人が殺害されたばかりでした 同社に恨みを持つ読者に銃撃され 亡くなったのです 「口をつぐめ さもないと—」 ということです

例のメッセージが 送られてきたのと同時期に 別の読者がネットで私を ストーキングし始めました 最初のうちは 些細ないたずらといったところでした 去年の今頃のことで 我が家はクリスマスの飾りが ついたままでした するとメッセージが送られてきて 「クリスマスの飾りを 外したらどうだ」と言われ ある時は 「お宅の犬 今つないでないだろう」 そして「今 買い物に出ているだろう」 そして こうも言ってきました 「もし お前が撃たれて死んでも 誰にも惜しまれないだろうよ」 これで終わればよかったのですが 数ヶ月後 その人物が いきりたって 玄関先まで押しかけてきて ドアを壊そうとしました 今 うちには棍棒に 防犯システムに プロ仕様の野球バットまであります

(ため息)

「口をつぐめ さもないと—」 というわけです

では シビリティを 暴力やドロ沼化から守るには どうすればいいのでしょう 私なりのルールは まず語気を荒くしないことです 執筆では 人を刺激する言葉を 避けるようになりました つまり「ホモフォビア」 「人種差別主義者」 「外国人嫌い」 「性差別主義者」 その他諸々の言葉です こういった言葉に 人はカチンと来やすいのです

感情を逆撫でし 歩み寄り わかり合う機会を 潰してしまう言葉です

例えば 2018年 ジョン・マケイン上院議員が亡くなった時 支持者たちは 氏について 個人攻撃を決してしない人だったと言い これには非支持者も同意しました これはすごいことだと思いました 確かに 政策に反対したり 不信任を唱えたりはしても 個人攻撃だけはしない人でした これが2つめのルールです

シビリティがはらむ問題点は アメリカだけの話ではありません オランダでは今「シビリティによる反撃」を 呼びかける声があります あるオランダの哲学者に言わせれば 今「verhuftering(粗悪化)」が オランダでは蔓延しているそうです 聞いたことのない言葉だったので かなり念入りに調べました 大まかに言うと「いじめ」や 「礼儀の消滅」という意味です 実際には もっとひどいことを意味しますが そこがポイントなのです そういう問題を一言で表す言葉が 存在するということは それほど問題が深刻だということです

イギリスでは2016年の EU離脱国民投票で 国の分断がいっそう進みました この現象について論じた ある人は 離脱派の人々をこう呼びました 絶妙な表現です 「怖がりで偏狭な イギリスの原始脳」 「怖がりで偏狭な イギリスの原始脳」です 人格攻撃ですよね 『ダウントン・アビー』の時代や 当時の古臭いシビリティを しのびたくなります

でも 3つめのルールは そこにあるんです 礼儀作法とシビリティを 混同しないこと たとえマギー・スミス女史並みに 高潔な伯爵夫人の前でもね

(笑)

[敗北主義はおやめ 中流階級の考え方よ]

最後にもうひとつお話しします 少し前に パン屋に行きました とても美味しいスコーンを売っている店で そこには長蛇の列と たくさんのスコーン そしてスコーンは ひとつずつ消えていき 最後の1個と私との間に 1人の女性が立ちはだかりました

(笑)

神のお導きか 女性は クロワッサンを注文しました

(笑)

自分の番が来たので スコーンを注文しました すると私の後ろにいた男性が— 振り向くこともなかったので 顔も見ていない人です— 声を張り上げ 「それは俺のだぞ 20分も並んだんだから」 と言いました 「はぁ?」と思いました 「こっちも20分並んでるし 私のほうが先じゃないか」 私はここニューヨークで育ち 出身高校もここから そう遠くありません この場では こんなふうに 礼儀正しくしていますが タクシー争いなら 皆さんの誰が相手でも体を張りますよ だからその時 自分の発言に驚きました 「半分こにしませんか」 そう言ったんです とっさに口をついて出た言葉でした 男性は戸惑っていましたが 表情が変わり こう言ったのです 「じゃあ 私が他のパンを買うので 両方 半分ずつ食べましょうか」 そして本当にそうしたんです 一緒に座って話しましたが 二人の共通点はゼロ

(笑)

国籍も性的指向も仕事も 共通点は一切ありせんでした しかし この時の思いやりと 心が通ったことがきっかけで 私たちは友情を育み 今でも連絡し合う仲です

(笑)

私が通称「ザ・シビリスト」だと 知った時は凍りついてましたが

(笑)

でも私にしてみれば これぞシビリティの醍醐味です 疑問も湧きました わざわざ無礼に振る舞う人は 面倒を避けているどころか 「善」を遠ざけているわけですが それは何なのか 「善」とはつまり 友情や心の交流や 1000カロリーぶんを 分け合って食べること 広い意味でも 同じことです コミュニティとして 国として世界として どんな機会を逃しているのでしょうか

現代人は思想とアイデンティティをめぐる 「内戦」のまっただ中にいます この戦いにはルールがないのです 戦争であればルールがありますよね 例えばジュネーブ条約 いかなる兵士も人道的な扱いを 受ける権利を保証しています 戦場の中でも外でも です はっきり言って シビリティにも 同じような条約が必要だと思います 対話のルールや境界線を 設定するためにも 国民や地域住民の振る舞いの 改善に役立てるためにも

そして 私ならこのルールを ラテン語とフランス語から来る シビリティという言葉の 本来の定義に沿った内容にします 「シビリティ」とは 街の利益や公共の利益のために すすんで奉仕する市民のこと この意味合いでは 忌み嫌われる言葉ではありません 「シビリスト」がこの先廃れず また 廃れたままでもないことを願っています ありがとうございました (拍手)

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このプレゼンテーションについて

何を以って「礼儀正しい」というのでしょうか。ジャーナリストのスティーブン・ペトロウは、「シビリティ」という言葉が本来持つ意味に答えがあると説き、言論を抑圧してしまう「ポリティカル・コレクトネス」や検閲などと混同して「シビリティ」を否定すべきではないのはなぜか、解説します。 私たちそれぞれがもっと礼儀正しくなるためにできる3つのこととは何かを学んで、 お互いの相違点を尊重して話すようにしましょう。

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