意見の対立する者同士の会話をリードする方法(09:09)

イヴ・パールマン(Eve Pearlman)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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2016年の大統領選が 近づいてくると 私自身も含め 多くの人が 世間の雰囲気に不和や辛辣さが増し 嫌な感じになっていくのを 目の当たりにしました 異常なまでに 二極化が進みました 気が沈むような 痛ましい出来事でした そんな中 同じくジャーナリストの ジェレミー・ヘイと いかに新たな切り口で職務を 遂行できるかを考え始めました 分断の核心 つまり 対立の場に入り込むことは ジャーナリストの常ですが そこからさらに 一歩踏み込んだアプローチです ジャーナリズムの基本 つまり 情報の確認調査 入念なリサーチ 好奇心を持った取り組み 公共の福祉に貢献しようという思い 民主主義への貢献などをもとに 新たな試みをするのです そうした背景から 新たなプロセスを構築したのが 「ダイアログ・ジャーナリズム」です 社会的・政治的分断のさなかに赴き 意見が割れやすい諸問題について ジャーナリズムの介入のもとで 対立グループが 意見交換する機会を設けます

けれど 分断を深める一方の この世界で どう実行したらいいでしょう? 今や 親類同士でさえ まともな会話がままならず マスコミは右派・左派に分裂して それぞれ異なる情報を発信し 人々は意見の合わない者を 常に反射的に誹謗中傷したり 無視したりしている状態です それでも試したいと思いました そこで2016年の 大統領選の直後に 選挙が終わってから 大統領就任式までの間に アラバマ・メディア・グループの協力のもと 新たな試みを行いました アラバマに住む トランプ支持者25名と カリフォルニアのクリントン支持者25名を 一堂に集めたのです 両者を非公開で管理された フェイスブック・グループに集め 1か月間 意見交換の場としました 私たちが望んだのは 参加者が好奇心を持って オープンに 交流できる場を設けることでした また 参加者同士だけでなく 私たちジャーナリストとの 関係の構築も図りました それから 事実と情報の提供も 行いました 参加者が実際に受け止めて消化し 対話を進める助けとなる 事実と情報の提供です

対話を始める前準備として ダイアログ・ジャーナリズムの 第一段階では 相手グループが自分たちに対して 抱いているイメージを想像してもらいました アラバマのトランプ支持者に カリフォルニアのクリントン支持者の 自分たちへの印象はどうか聞くと こんな答えが返ってきました 「狂信的なキリスト教信者」 「時代遅れで愚鈍な田舎者」 「どの家にも 南部連合国旗が掲げられ 皆が皆 無学な人種・性差別主義者」 「靴も履かず 常に子供を身ごもり 家の前は舗装もされていない」 「揃いも揃って 気難し屋で 古臭い輪骨入りスカートで歩き回り 背景には綿花畑がある」

次に カリフォルニアの参加者に 全く同じ質問をしました 「アラバマの人々が皆さんに どんなイメージを抱くと思いますか」 すると 返ってきた答えは 「クレイジーでリベラルなカリフォルニア人」 「非国民」 「気取ったエリート主義者」 「無神論者で子に甘い」 「家族よりキャリアを優先する人たち」 「エリート主義で非現実的なインテリで 裕福で オーガニック食品を食べ とても非現実的な人たち」

対話をする前に こうした質問で 自分たちが抱くステレオタイプを 自覚し 共有してもらうと どちらの側の人々も 自分たちが 短絡的で 時に意地の悪い 戯画的イメージを持っていると分かります そこで そこから真の対話への プロセスへと進めるのです

カリフォルニア/アラバマ・プロジェクトの 発足から2年が経った今 各地で多くの対話を主催し 全米のメディアとも連携しました そこで取り上げられたのは 意見の最も割れるトピック 銃規制、移民、人種 そして教育問題です そこで分かったのは 驚くべきことに 真の対話を行うのは 実に可能であるということです また チャンスと場さえ 与えられれば 全員とは言わなくても 多くの国民が 意見の違う人と対話を したがっていることです

何かと ジャーナリストは 話題作りや読者稼ぎ 意見の主張といった大義名分のもとで 分断を加速させがちです また分断された両方の 両極端な意見を引用して 効果的なエピソードを含む要旨と 明快な引用文で 偏向報道を求める読み手に 訴えかけるのです ですが 私たちの対話型のプロセスは ペースが緩やかで重点が異なります また 私たちの取り組みを導く原則は 民主主義が機能するためには 意見の違いを超えた対話が不可欠であり ジャーナリズムや それに携わる者は それを支援する多くの役割を担うというものです

では どのように進めているかというと プロジェクトの各段階において 手法と動機について できる限りの透明性を保ちます それぞれの段階で 参加者からの質問を募り プロジェクト遂行の目的を説明します これは策略などではないし 参加者が馬鹿に されることもなければ 参加者の経験を 軽視することもないと伝えます また 参加者にはいつも 態度を改めて臨むように頼みます 反射的に罵り合うようなことは 避けてもらいます あまりに日常的になりすぎて 主義主張に関係なく 気付きもしないような行為ですが

参加してすぐは 怒ったような態度が見られがちです よく聞かれるのは 「Xだと考えるなんて理解不能だ」 「Y紙を読むなんて 正気の沙汰じゃない」 「なぜこんなことになったのか 分からない」などです けれど 嬉しいことに 大抵の場合 奇跡的に 皆が自己紹介を始めます まずは自分のこと 名前と職業や出身地から始まり お互いに質問を投げかけます そして ゆっくり時間をかけて 難しい話題に話を戻していきます その度に 相手への共感 細かなニュアンスの汲み取り 関心が強まっていきます ジャーナリストとモデレーターも 手を尽くして これを支援します なぜなら これは討論でも 喧嘩でもなく 日曜朝の討論番組でもないからです 論点をぶつけ合う場ではなく 言い分を立証してくれる画像や 記事の見出しを 引き合いに出す場でもないのです また 相手を引っかけるような質問で 政治的勝利を収める場でもないのです

ここで学んだのは 不和の状態は 誰の得にもならないと言うことです それは非常に不幸な状態です 多くの参加者が繰り返し 同じことを言います 相手に敬意と関心と 広い心で接することができる機会に 感謝しており そして 停戦状態になる機会が持て 嬉しく思うし ほっとしたと このプロジェクトは 今の我が国の政治的風潮に 直接疑問を投げかけるべく 行っています 意見の対立する人々が 意見交換するのを支援することが 至難の技であることは 承知の上で 実行に移しました 民主主義は 私たちが共通の問題を 共に解決していく能力に かかっていることも 念頭に置きました また ジャーナリズムのプロセスの 中核にコミュニティを据えました 自分のエゴを抑えて まずは相手の話をよく聞き 自分の先入観や考え方から 離れて耳を傾け 他の人たちも そうできるよう協力します また 私たちは 制度としてのジャーナリズムが 苦境に立たされており 現在もこれからも考えや見解の交換を 支援する上で果たすべき役割を担うからこそ この取り組みを行いました

グループ参加者の多くにとって 終了後も反響が続きました 多くの人が 政治的考えの違いを超えて フェイスブックや実生活で 友達関係になっています トランプ/クリントン・プロジェクトの 第1回目が終わった後 約3分の2の女性が フェイスブック・グループを作り 各州にモデレーターを置き 難しい話題について 意見の交換を続けています 参加者はプロジェクトに 参加する機会を得たことへの感謝を 繰り返し 口にします 意見が異なる人たちが 決して気が違っている訳ではないと分かり この機会がなければ 決して知り合わなかった人と 繋がりを持てたことへの感謝です

私たちが目にし 学んだことの多くは 「スペースシップ・メディア」という 団体名に反して さほど難しくありません 人を罵ったり レッテルを貼ったり 侮辱するようなことをすれば 相手は話を聞いてくれなくなります 人に対する皮肉や辱めや 見下すことで 解決にはつながりません 真のコミュニケーションには 実践と努力 自我の抑制と自己認識が必要です 今の状態を良くするための アルゴリズムなどありません 人同士の真の繋がりは 人が実際に繋がなければ成立しないのです ですから 相手に関心を示して 討論でなく議論を重んじ 殻を打ち破ってください 主義主張を超えて 相手と真に繋がることは 我が国の民主主義が 痛切に求めている特効薬なのです

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このプレゼンテーションについて

アメリカ国内で保守派とリベラル派の対立が深刻化する中、議論を呼びがちなトピックについて、どうしたら言葉のニュアンスを汲み取り、相手に対し関心を示し、尊重しながら、上手く会話を成り立たせることができるでしょうか。ベテラン記者のイヴ・パールマンが「ダイアログ(対話型)・ジャーナリズム」について紹介します。これはジャーナリストが社会的・政治的分断のさなかに赴いて、意見が対立する人々の話し合いを支援するプロジェクトです。カリフォルニアに住む25名のリベラル派と、アラバマに住む25名の保守派という、このような機会がなければ接点を持つこともなかった人々が集い、議論を呼ぶテーマについて意見を交換することになります。さて、どんな結果が待っているでしょうか。 「主義主張の違いを超えて他者と真に繋がることは、我が国の民主主義が痛切に求めている特効薬なのです」と、パールマンは訴えかけます。

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