母になっていくことへの新しい考え方(6:16)

アレクサンドラ・サックス(Alexandra Sacks)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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皆さんは ホルモンバランスが乱れて 気分屋になった時期を覚えていますか? 肌に吹き出物ができて 身体のパーツが変に大きくなったり 急速に成長したり そして同時に 周りは 皆さんが新しい身体に見合う 大人になったと期待していました そう ティーンエイジャーですね?

女性が妊娠した際には これらと同じ変化が起きます ティーンエイジャーの情緒不安定さは 普通のことだと知られています ではなぜ 私達は妊娠について 同様に考えないのでしょうか? 思春期青年期の成長曲線について 1冊丸ごと書いている教科書はあります しかし 母への移行を表わす単語を 私達は1つも持ち合わせていないのです 私達にはその単語が必要です

私は 妊娠中や産後の女性を 対象とした精神科医です この分野で10年働いてきた中で 私はあるパターンを見つけました 次のようなものです ある女性が私に電話をしてきます 彼女は出産したばかりで 悩んでいます 彼女は言います 「私は育児が苦手で楽しめません 私は産後うつなのでしょうか?」

私は産後うつの症状を確認しますが 明らかに彼女は うつと診断される状態ではないので 彼女にそう伝えます しかし彼女は安心しません 「こんな風に感じるのはおかしい」 彼女は主張し続けます だから私はこう言います 「どんな風に感じると思っていたの?」 彼女は「母になれば 満たされて 幸せな気持ちになると思っていました 本能的に 何をしたらいいか 自然にわかり 常に赤ちゃんを第一に 考えるだろうと思っていました」

これは 母への移行が どのようなものかについての 非現実的な期待です それは彼女だけではありません 何百もの女性から 同じような質問の電話を受けました みんな 何かおかしいと悩んでいました あるべき姿に達していないからです 私は 彼女達を助けられる方法を 知りませんでした なぜなら あなたは 病気ではないのだと伝えても 彼女達の気持ちは軽くならないからです 不愉快に感じることと 病気なのとは 必ずしも同じではないと説明するために この移行を 正常なものと理解してもらえる 方法を見つけたいと思いました

それで 母になることへの心理について 更に学び始めました でも実際には 医療系の教科書には あまり情報がありませんでした 医者はたいてい 病気のことしか 書かないためです そこで 私は人類学を学ぶことにしました 2年かかりましたが 1973年にダナ・ラファエルが書いた 今は絶版となっている論文に このような対話で役立つ枠組みを ようやく見つけました マトレセンス(母への移行期)です マトレセンスがアドレセンス(思春期)と 響きが似ているのは偶然ではありません どちらも 身体の変化や ホルモンの変化によって その人の感情のあり方や 世の中への適応の仕方が 大きく変わる時期です そして思春期のように マトレセンスも病気ではありませんが 医療用語には存在せず 医者が人々に このことを 教育していないので より深刻な状況に陥る 産後うつと 混同されています

私は 人類学の文献に基づいて 研究してきました そしてマトレセンスについて 患者さん達と話してきましたが その際「押しと引き」と 呼ばれる考え方を用いています

「引き」のほうはこうです 人間の赤ちゃんは 珍しいことに他者を頼ります 他の動物とは異なり 私達の赤ちゃんは歩けません 自分で食べることもできません 彼らの面倒を見るのは とても大変です 進化と オキシトシンというホルモンが 人類を助けてくれました それは赤ちゃんが生まれた時や スキンシップの時に放出されます だから このホルモンは 子供を産まなくても上昇します オキシトシンは 人間のお母さんの脳が 1つのことに集中できるよう 注意を引き 赤ちゃんが 彼女の世界の 中心になるように 作用します

しかし同時に 彼女の心のほうは 押しのけられています 自身のアイデンティティには 他の要素があると 知っているからです 他の人との関係 仕事 趣味 精神的生活、知的生活 もちろん 身体的な欲求もです 睡眠、食事、運動 セックス それからトイレに行くこと 1人だけで―

(笑)

可能であればです

これがマトレセンスにおいての 感情上の綱引きです これが私に電話をかけてきた 女性達の葛藤です これが彼女達が 病気を疑った理由です もし 女性達がマトレセンスでの 自然な経過を理解していたら もし 大半の人が この押しと引きの間で 生き辛さを感じていると知っていたら もし このような状況下では 相反する気持ちがあるのが普通で 恥じるものではないと知っていたら 彼女達の孤独感は和らぎ 周りから非難されると 感じることも減るでしょう 産後うつの割合を下げることさえも できるだろうと思います いつか それについて ぜひ研究したいです

私は 対話による治療の効果を 信じています もし 私達の文化における 母への移行の捉え方を 変えるのであれば 女性達はお互いに 話し合う必要があります 私とだけではありません ですからお母さん方 ご自身のマトレセンスについて 他のお母さん達、友人達と 話してください もしパートナーがいるなら 話してください 彼らも 自身の移行を理解することで 皆さんを よりサポートできます

しかし これは単に 皆さんの 人間関係を守るだけではありません 皆さんが 自身のアイデンティティの一部を 切り離して残すことで 子供にも 自分のアイデンティティを 育むための余地を与えられるのです

赤ちゃんが生まれると同時に お母さんも生まれます お互い それぞれの事情で 不安定な状態です マトレセンスは 大きな変化をもたらしますが 同時に辛い時期でもあります それが私達を 人間らしくしてくれるのです

ありがとうございました

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

赤ちゃんが生まれる時、お母さんも生まれます。しかし、自然な(そして時に不安定な)母への移行過程は羞恥心によって沈黙させられたり、産後うつと誤って診断されることがよくあります。この短く有益なトークでは、妊娠や出産にまつわる問題を専門とする精神科医のアレクサンドラ・サックスが、新しく母になることへの感情上の綱引きについてかみ砕いて説明し、その移行を説明するのに役立つかもしれない用語「マトレセンス」を紹介します。

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