健全な経済は成長ではなく繁栄を目指しデザインされるべき(15:53)

ケイト・ラワース(Kate Raworth)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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赤ちゃんがハイハイを覚える様子を 見たことがありますか? 親御さんなら ご存知ですね とても興味深いものです まずは 床の上で体をよじります たいていは まず後ろへ 次に 前に体を引き寄せます そして体を引き起こし 立てるようになったら 拍手喝采です 前へ 次に上へと向かう シンプルな動き これは 我々人類の知る 最も基本的な成長の仕方です

人類の進化も同じです よたよたと歩く我々の祖先に始まり ついに直立したホモエレクトス そしてホモサピエンス つねに堂々と歩く男性として 描かれています

だから経済だって 同じような成長カーブを描き 永遠に成長が続くと 私たちが信じるのも無理はありません しかし 進歩のカーブを 見直す時がやってきました 現代の経済では 繁栄につながるかどうかはさておき とにかく成長が必要とされていますが 本当に必要なのは— 特に豊かな国ではそうですが 繁栄につながる経済であり 成長は関係ないからです ええ これは 本質的な発想の転換を隠した やや軽々しい発言かもしれません でもこの発想の転換は 人類が共に 今世紀に 繁栄するために必要なことです

では成長すべし という強迫観念は どこに始まったのでしょうか? GDP 国内総生産とは 経済活動により一年間に生産された 財貨とサービスの合計に過ぎません 1930年代に考え出された言葉で 間もなく政策立案における 最優先事項となり 現在でも 最も豊かな国の政府は 経済的な問題は成長によって 解決できると考えています

このような経済成長の流れは 1960年のロストウの古典的著書で 見事に語られています 私のお気に入りで 初版を持っています 『経済成長の諸段階― 一つの非共産主義宣言』

(笑)

政治的な臭いがしませんか?

ロストウが述べていることは いかなる経済も 5つの段階を経て 成長するというものです 第1段階は「伝統的社会」です 国の生産高は 技術、制度 考え方の制約を受けます 次の「離陸先行期」では 銀行業 それに作業の機械化が始まり さらには 成長というものが 必要性を超えて 国家の威信や 次世代の生活の向上のために 必要だという考えが芽生えます 「離陸」においては 経済的な機構に 複利という考えが組み込まれ 成長するのが当たり前という 状態になります 第4段階「成熟期」に入ると 天然資源基盤がどうあれ どんな産業でも作り出すことができます 最終の第5段階「高度大量消費時代」では 人々は欲しいままに 自転車やミシンといった 消費財を購入できます これは1960年の話ですから

この話には飛行機の比喩が 隠されているようです しかし 他に例をみない飛行機です 着陸することが 決して許されていないからです ロストウは 大量消費という方角へ向けて 我々を離陸させました 彼には分っていたのです こう記述しています 「その先は良く分からない 歴史で経験したことは ほんの一部でしかないからだ 実質所得の増加が魅力を失った時 どうしたらいいのだろう?」 彼は 答えを示さず質問だけを投げかけました 理由はこうです 1960年のこと 彼は大統領候補ジョン・F・ケネディの アドバイザーでした ケネディは選挙戦で 5%の経済成長を公約として挙げ この目標を達成することが ロストウの任務でしたから 「もし、どうやって、いつ着陸できるのか」 という質問は問題外でした

大量消費へ向け飛行を始めてから 半世紀以上が経った今 経済は限りなき成長を 期待し、要求し これに依存しています 財政的にも 政治的にも 社会的にも これに依存しているからです 経済が成長に依存するようになったのは 現在の経済システムが 金銭的なリターンの最大化を 追求するように設計され 上場企業には 売り上げや市場でのシェアの拡大や 増益というプレッシャーが 常に掛かっており しかも 銀行は貸したお金が増えて返ってくる 有利子負債という形で お金を生み出します 政治的にも成長に依存しています 政治家たちは税率を上げることなく 税収を増加させたいため GDPの成長こそが 解決策だと考えるからです 政治家はみな G20サミットの集合写真に 写りたいと思いますからね

(笑)

他の国が成長を続けている中 自分の国だけ成長を止めれば 新興勢力に 取って代わられてしまいます さらには成長に依存する 社会的な理由もあるんです エドワード・バーネイズによって生み出され 1世紀に渡り繰り広げられた 興味深い消費プロパガンダのお陰です ジークムント・フロイトの 甥だった彼は 叔父の精神療法を 消費を喚起し大儲けをする処方として 応用できると気づきました 物を買うたびに生まれ変われるのだと 私たち消費者に思わせることができれば

これらの依存はどれも 克服できないわけではありませんが 私たちの現状と行く末を考えると どれも 今以上に 注目する価値があります 世界全体のGDPは1950年に比べ 10倍の規模になっており 何十億人という人々に 繁栄をもたらしてきました しかし世界経済は ひどい二極化が進み その収益のほとんどが 世界人口の1%にも満たぬ 富豪に集まっています また 経済の質はひどく劣化し 微妙なバランスで成り立っている 我々の生命を支えるこの地球は 急速に不安定化しています 政治家たちはこれを認識していて 新たな成長の在り方を提案しています それには「グリーン成長」 「包括的な成長」 「賢明で、弾力性があり 均衡の取れた成長」があります 成長さえ伴うなら どの未来を選んでもいいわけです

しかし より崇高でずっと大きな野心をもって 選択すべき時がやって来たのです 人類が21世紀に対峙する 挑戦課題は明確なのですから すなわち たった一つの 生命に満ちた 素晴らしい この地球の恵みが許す範囲で 全ての人々の必要を満たし 人類 そして他の生物を 繁栄させるという挑戦です

このゴールに向けた進歩は 金銭で測られるものではありません 指標の一覧が必要です そこで どんな風になるか 机に向かって描いてみたところ おかしな話と思われるでしょうが ドーナツ状になったのです 期待外れですよね でもこのドーナツについて 説明させてください 我々にとって 実に良いものかもしれません 人類の資源利用が 中心部から放射状に広がっているとします 中心の空白部分は 暮らしに必須のものが 足りないことを示しています 食料、医療、教育 政治的発言の自由、住まいといった 尊厳と機会が与えられた人生を送るのに 誰もが必要とするものです まずは全ての人をこの空白部から救い出し 社会的基盤のある ドーナツの「グリーン」な部分に 導きたいのです しかし 「し・か・し」なんですが 資源の全体の利用量が 外側の円を突き抜けてはなりません これは環境的な限界です この並はずれた地球であっても プレッシャーを掛け過ぎると 調子が狂い始めるからです 気候の機能不全や 海洋の酸性化を引き起こし オゾンホールを発生させ 我々をこの地球システムの 許容範囲外に押しやってしまいます これは過去11,000年もの間 人類に優しい住処を提供してきた 生命維持システムです

地球の許容範囲内で 全ての人のニーズを満たすという 二重の課題に対応するため 新たな進歩の形が必要となります それは永続的な 右肩上がりの成長ではなく 人類にとってスイートスポットである 基礎的条件と地球の限界との間で 動的にバランスをとって繁栄することです この図を描いた後に とても驚いたことがあります 多くの古代文化における 幸福を表すシンボルが まさに同じく 動的バランスを 表していることに気づいたのです マオリ族のタカランギ図 道教の陰陽図から 仏教の無限のひもや ケルトの二重螺旋などです

では 我々も動的バランスを 21世紀に見出せるのでしょうか? これこそが鍵となる課題なのです 赤い部分で示したように 現在は均衡状態からかけ離れており 欠乏と 過負荷の問題が 同時に起きています 中央の空白を見ると いまだに 全世界の何百万、何十億という人々が 最も基本的なものを 必要としていることがわかります それなのに 少なくとも4つの要素が すでに地球の限界を超えており 気候の破壊やエコシステムの崩壊という 不可逆な影響を及ぼす リスクを負っています これが人類と 母なる地球の現状です この図は21世紀初頭に 生きる我々自身を 写し出しているんです

前世紀の経済学者たちは 予想だにしなかったのですから 彼らが作った理論で 問題が解決するなどと 誰が信じられるでしょうか? 新たな理論が必要です 我々は この問題に直面する 最初の世代であり 問題を回避するチャンスが残された 最後の世代だからです 20世紀の経済学は我々をこう信じさせました 「成長が不平等を生み出しても 再配分などしなくて良い 更に経済成長すれば 自然に平等になっていくのだから 成長が公害を引き起こしても 規制などするな 成長が進めば環境問題も解決するんだ」と

でも そうはならなかったし 今後もそうならないと 分かりました 我々は 欠乏と過負荷に 同時に対処する経済を 設計しなければなりません 再生可能で 正常な分配が行われる 経済を設計する必要があります 我々は 質が低下した産業を 受け継ぎました 地球上の資源を好きなように加工し しばらくの間だけ― たいていは一度だけ使って破棄し 自らをこの地球の限界へと 追いやりました だから 矢の向きを変えて 生命が活動する世界での循環の範囲で 機能する経済を作り上げ 資源を使い尽くすことなく 何度も再利用するのです 太陽光をエネルギー源とし 廃棄物が再び次の生産活動に 活かせるような経済です

このような再生的な設計が 様々な場所で生まれています 世界中の100を超える都市 ― キト、オスロ ハラレ、ホバートなど都市では 電力の内 70%以上を 太陽光、風力、潮汐発電で 賄っています ロンドン、グラスゴー、アムステルダム などでは循環型の都市設計を先駆けて試み 廃棄物を都市部で処理し 資源へと変える方法を 模索しています また エチオピアのティグレや オーストラリアのクイーンズランド州では 農家や森林の住人が ひとたび荒野と化した土地を 再び生命で満ちた場所に 還しました

しかし 再生的な経済にするだけでなく 設計によって分配的な経済に しなければならないし それを実現する 初めてのチャンスが訪れています 20世紀には 中央集権的な 技術や制度により 少数の手に 富や知識、権力が 集中していたのですから 今世紀 我々は技術や制度が 富、知識、力を 人々に分配するように 設計することが可能です 化石燃料や 大規模生産の代わりに 再生可能エネルギー、デジタルプラットフォーム 3Dプリンターを用います 200年もの間 企業が保有してきた知的財産が ボトムアップ、オープンソース ピアツーピア知識コモンズで置き換えられます 株主のために なおも投資利益率の 最大化を追求する企業は 突然 時代遅れと みなされるようになり 比して 社会的企業は 価値を様々な形態で創造し 彼らのネットワークをフルに活用して これを共有するように設計されます 現代の技術 ― 人工知能、ブロックチェーン モノのインターネット 材料工学といった現代の技術を 分配的な仕組みの設計に 活用することができるのなら 医療、教育、ファイナンス エネルギー、政治的発言が 最も必要とする人のもとに届き 力を与えるようになります このように 再生的 そして 分配的な設計は 21世紀の経済に 素晴らしい機会をもたらします

ではロストウの飛行機は どこに向かうのでしょうか? 中には永遠の成長が可能だとの希望を 抱き続ける人もいるでしょう 脱物質化によって 資源の消費量が低減し 指数関数的な GDPの成長が永遠に続くという考えです でもデータを見てください これは空想ですね そう 経済を脱物質化する 必要がありますが この終わりなき成長への依存を 資源利用から切り離し 私たちをこの地球の限界内に 立ち戻らせるのは とうてい無理です

こんな経済成長批判は 聞いたことがないでしょうね 経済成長は良いことだからですよね? 我々は子供たちが成長し 緑の土地が広がることを願います そう 自然界において 成長は 素晴らしく健康的な生命の源です それは一つの段階であり 現在のエチオピアやネパールは その段階にあるでしょう これらの国の経済は年7%で 成長しています でも もう一度自然を見てみましょう 子供の足のサイズだって アマゾンの森林だって 自然界のいかなるものも 永遠には成長しません 何事も成長の先には 成熟期が待っています それだけが 長期にわたって繁栄できる 唯一の条件なのです 皆さんが知ってのとおりです もし 私の友人が医者の診断を受け 腫瘍があると告げられたとします 腫瘍はとても異様に感じられます なぜなら 健康で活気があり 働きの良い器官の中に 成長を続ける何かがあるとしたら 全体の健康にとっての脅威であると 本能的にわかるからです 何故 私たちの経済システムが この法則に反して永遠に成長を続け 成功するだろうなどと 考えられるというのでしょうか? 財政的、政治的、社会的な改革が 緊急に必要です 成長依存の構造から 脱皮しなければなりません そうすればドーナツの 社会的、環境的な限界の範囲で 繁栄とバランスの追求に 集中することが可能になります

限界なんて考えは窮屈だ と思う人は もう一度考えてみてください この世界で最も創意工夫に 富んだ人たちは 限界を彼らの創造力の源に 変えてしまうのです モーツァルトの 5オクターブのピアノから ジミ・ヘンドリックスの6弦ギター テニスコート内の セリーナ・ウィリアムズまで 才能を解き放たれるのは 制約があればこそです ドーナツの限界こそが 無限の創造性 参画、帰属意識や意味付けによって 人類が繁栄する力を開花させます

ここにまでたどり着いた 人類の才能を 最大限に引き出すのです

ありがとう

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

持続可能、普遍的に有益な経済とはどのようなものでしょう?それは「ドーナツのようなものだ」とオックスフォード大の経済学者ケイト・ラワースは語ります。この傑出した開眼させるようなトークで、彼女は人々にとって最低限必要なものが不足している国々を危機から救い出し、この地球の環境的な限界の範囲で、再生的、分配的な経済を作り上げる方法について説明します。

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