さまよう心を鎮めるには(18:08)

アミシ・ジャー(Amishi Jha)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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次のことについて考えてみましょう 「人間は脳の10%しか使っていない」 神経科学者の立場から申し上げると 名優モーガン・フリーマンは 得意の重々しい口調で このセリフを言ったのですが これは完全な間違いです

(笑)

正しくは 人間は脳の100%を使っています 人間の脳はとても効率的で エネルギーを必要とする器官です 脳の全部を活用することができますが その全てが活用されても 情報過多という問題が発生します 外界には 脳が処理しきれるよりも ずっと多くの情報が溢れています そこでこの情報過多を解決するため 進化の過程で解決策が出てきました それは 脳の「注意システム」です

私たちは注意を払うことで 情報を認識し 選択し 脳の処理リソースを 一部の情報にだけ向けることができます 注意は 脳のリーダー的存在であると 考えられます 注意の向けられる先に 脳の残りの部分もついていきます ある意味で 脳のボスとも言えます この15年 私は人間の脳の 注意システムを研究してきました 研究する中で ある一つの問題について 特に関心を持っています それは もし注意が脳のボスだとすると 良いボスか? ということです ちゃんと私たちを導いているのでしょうか この大問題に取り組むのに 次の3つについて知りたいと思いました 1つ目に 注意がどのように 認識をコントロールしているか 2つ目に どうして それがうまくいかず 私たちをぼんやりさせたり 気を散らせたりするのか? 3つ目に ぼんやりすることに対して 何かできるのかー 脳を訓練して より注意を払えるようになるか つまり 日常での作業に より強い 安定した注意を向けられるか ということです

ここでみなさんに 我々がこれにどのようにアプローチするか お見せしたいのです とても心に訴えるような例で 私たちの注意が どう活用されるか示します 私がよく知っている人を例に 説明したいと思います 彼は最終的に 私たちの研究の 多くの協力者のひとりになります これらの協力者にとって 注意は生死にかかわります 例えば医療従事者や 消防士 兵士や海兵隊員です

ここからは海兵隊大尉の ジェフ・デイヴィスについてお話します そしてこれからみなさんにお伝えするのは ご覧の通り 戦地での話ではありません 彼はこのとき フロリダで 橋の上にいました しかし周りを見て きれいな景色を味わったり 涼しい海風を感じる代わりに 彼は車を飛ばして 橋から転落することを考えていました そして それを止めるには全力を尽くす 必要があったと 後日教えてくれました 彼は当時 イラクから帰還したばかりで 彼の身体はその橋の上にいたものの 心や 注意は 何千マイルも遠くにあったのです 彼は苦悩にとらわれていました 不安で 上の空で つらい記憶を持ち そして将来への恐怖を感じていました 彼が命を絶たなくて 本当に良かったです 彼はリーダーだったので 苦しんでいるのは自分だけではないと 知っていました 彼の海兵隊の同僚も 苦しんでいたでしょう

2008年 彼は私たちの それまでにない 新しいプロジェクトに参加しました 私たちは 現役の軍人のための マンドフルネス訓練を 試し 提供したのです マインドフルネス訓練の内容や 研究結果についてお話しする前に まず 脳で注意がどう機能するか 理解することが重要と思います

私たちが研究室で行う 注意に関する研究では しばしば脳波を記録します 脳波を記録するには このような 面白い格好の帽子を使います 水泳帽のようで 電極がついています この電極は脳の電気活動を拾い上げます その時間的正確さは 1000分の1秒レベルです これにより 私たちは微小ながら検出可能な 電気的変動を追うことができます またとても正確に 脳の活動のタイミングを記録できます 被験者に スクリーンに顔を投影して見せた後 およそ170ミリ秒で 確かな脳の反応を 捉えることができます この動きが見られるのは 頭皮の後ろ側ー 顔認識の機能を持つ脳の上の部分です この反応が 脳の顔検出機能として 確実に かつ ぴったりのタイミングで起こるので 私たちはこの脳波成分に名前をつけました N170成分 と呼んでいます そして私たちはこの成分を 多くの研究で使います 注意が認識に対して持つかもしれない影響を 見ることができます

研究室で 私たちが実際に行う 実験の雰囲気を お見せしましょう まず被験者にこのような画像を見せます 顔と風景が重なったものです そして私たちは被験者に このような重複画像を連続で見せて 注意に関わる作業をしてもらいます ある実験では 被験者に 顔の方に注意を向けてもらいます それを確認するため 被験者にボタンを押して 顔が男性か女性か回答してもらいます 別の実験では 風景について 屋内か屋外かなどを 質問します このように 私たちは注意を操作し 被験者が私たちの指示を正しく実行しているか 確認します 注意に関する私たちの仮説は 次のとおりでした もし注意が本当に機能して 認識に作用するなら それは増幅装置のような働き方であろう つまり 私たちが顔に注意を向けると 顔はよりはっきり 目立って見え 見やすくなる というものでした しかし私たちが風景に注意を向けると 顔はほとんど認識できなくなります これは風景の情報を処理しているからです

私たちが期待していたのは 顔検出の脳波成分であるN170を観察し 注意を風景に向けるか 顔に向けるかによって N170に何らかの変化があるか 知ることでした そして実際はこうなりました 被験者が顔に注意を向けると N170は大きくなります 一方で風景に注意を向けると 赤色で示すように 小さくなります 青色と赤色の動きの差は とても明確です ここから読み取れるのは 注意だけを変化させることで 同一の画像を見ていても 認識が変わるということです そしてその変化はとても速く 実際に顔を見てから170ミリ秒以内です 続きの実験で どうすれば この効果を混乱させたり弱めたりできるか すると どうなるかを 知りたいと思いました 直感的には 人々は極度のストレス下に置かれたり 不安を与えるようなネガティブな画像ー 例えばニュースで見るような 苦しみや暴力の画像を見せられて 動揺させられたりすると 注意にも影響があるのではないかと 考えていました 実際その通りの結果でした

実験中に 精神的な負荷のかかる 画像を見せた場合 この注意による差が縮まり その力も弱まります いくつかの我々の研究では 脳に対するストレスの影響が とても良いのか 大した事ないのか 悪いのかを見ようと考えました でも もしストレスが 気を散らすような外部の要素として 注意に大きな影響を与えるとして 外部からの邪魔を必要とせず 自分の中で気が散っているとしたら? これを知るため 新しい実験では 被験者自身が 気が散った状態になる必要がありました つまりある作業をしているときに その作業と関係ないことを 考えてもらいます 人の気を散らせるには 退屈させればよいのです 会場のみなさんは 気が散っていないと良いのですが 退屈させると 人々は喜んで 別のことを考え始めます そこで私たちは ある意味 世界で最も飽き飽きする実験を 考案しました 被験者はスクリーンに投影される 一連の顔を 次から次へと見ます 顔を見るたびに ボタンを押します それが実験の内容です ここでの仕掛けは 顔の画像がときどき上下逆転することです そしてそれはごくまれに起こります そのときには ボタンを押さないよう指示されます すぐに 被験者が 気が散った状態になったと分かります なぜなら顔が上下逆転した画像に対しても 被験者はボタンを押すからです 上下逆転していることは 容易にわかるにも拘らず です 続いて 人々の気が散ると 何が起きるのかを調べました その結果わかったのは 環境にある 外的なストレスや 邪魔が入る場合と ほぼ同様に 気が散るといった 内的に注意散漫な状態でも 注意による差は縮まるということです 注意の力が弱められるということです

これらの研究から何がわかるでしょうか? まず 注意は我々の認識に影響するという点で とても力強いと言えます しかし 力強い一方 もろく 影響を受けやすいことです ストレスや気が散ることで その力は低減されます しかしこれらはどれも 研究室内の 制御された条件下で導かれた結論です 現実の世界ではどうでしょう? 日常生活ではどうでしょう? いま現在 どうでしょう? あなたの注意は 今 どこに向けられていますか? みなさんの注意をここに戻すため 私の発表の残り時間に みなさんの注意がどうなるか 予測したいと思います 準備はいいですか? 予測はこうです このあと8分間のうち4分間は 私の言うことに注意を向けません

(笑)

これは挑戦ですから ちゃんと注意して聞いていてください なぜこんなことを言うかというと みなさんは座ったままで 私が話す間 私の方を見て下さっていますが 実際には 私たちが起きている時間の およそ半分は 気が散った状態であり 目の前のタスクに 注意が向いていないことを示す文献が 次々と出てきています これは私たちが 個人の考えを持って行ってしまう 小旅行のようなもので このように気が散ると 問題になる可能性があります いまここで 座っているのなら 重大な結末に到るとは 考えられませんが 例えば軍隊のリーダーが 軍の報告を4分間 聞き逃したら あるいは裁判官が 証言を4分間 聞き逃したら または外科医や消防士が 何分 逃しても 結果は重大になりかねません とすると なぜ気が散るのか 尋ねたくなります なぜ頻繁に気が散るのでしょう?

一つの回答は 私たちの心が 優れたタイムトラベラーだから とても簡単に タイムトラベルができるというものです もし心を音楽プレーヤーに例えると こうなります 私たちは心を巻き戻して過去に遡り 過ぎ去った出来事を思い出します また 早送りして未来に向かい これから何がしたいかを考えられます そしてこのように 過去や未来へのタイムトラベルを とても頻繁に行います しばしば意識せずに 大抵の場合 気が付かずに 注意を払いたいにもかかわらず 旅立ちます 思い出してみてください 本を読もうとして ページの最後まで読んで 何が書かれていたか思い出せなかったことを よくあることです そしてこのとき 私たちの心は 知らずのうちに遠くをさまよい その結果 間違いを犯します 時々 重要な情報を逃します そして判断するのが難しくなります さらに問題なのは ストレスを感じるとき 圧倒されているとき 私たちは巻き戻した過去を 思い出すだけではなく すでに起きてしまった出来事に 思いを馳せ 追体験し あるいは後悔するのです

または ストレス下では 心を早送りするかもしれません 建設的な計画を立てるためだけでなく まだ起きていないこと あるいは起きそうもないことを 悲観し 心配します こう言うと 皆さんは 「気が散るのはよくあるのだ」と 思っているかもしれません しばしばこれは意識せずに起こります そしてストレス下ではより悪いことに もっとひどく 頻繁に気が散ります

これに対処する方法は あるのでしょうか 嬉しいことに 存在します 私たちの研究から 明らかになっているのは ストレスを受けたり気が散ることの反対は マインドフルな心だ ということです マインドフルネスは 現在の自分の状況に意識的に 注意を払うことと関係があります そして何が起きても 感情で反応しないことです それは正しい(プレイ)ボタンを押して 一瞬ごとに私たちの生活が 展開するのを感じることです マインドフルネスは概念ではなく 実践されるべきものです 良い変化を得るには 日々マインドフルな状態を実現することです 私たちの研究の多くでも 被験者に 毎日一連の訓練をしてもらう プログラムを提供しています 生活の中でマインドフルな状態を 増やすためです そして私たちと一緒に取り組んでいる 多くのグループは 兵士や医療従事者といった 高ストレスのグループですが 彼らにとって気が散ると 本当に重大な結果を招きかねません したがって私たちは 訓練を最適化するために 簡単で 時間に制限されないよう配慮し こういった人々に 効果が得られるようにしました また私たちは変化を観察するにあたり 彼らの日常生活のみならず 最もストレスの多い状況においても どうなるかを追跡しました

何故この試みをするかというと? 例えば期末試験の時期の学生にも 利用してほしいですし 税申告で繁忙期の会計士や 配備される兵士や海兵隊員にも 実践してほしいからです なぜでしょうか? このような状況で ストレスや気が散ることにより 彼らの注意が 最も影響されやすいからです そして こういった状況においてこそ 彼らの注意を最大に高め パフォーマンスを高めてほしいからです 私たちの研究では 彼らに 一連の 注意に関するテストを受けてもらいます ストレスの高い時期の始まりに 彼らの注意を記録し 2か月後また記録することで 違いがあるかを見ようとします マインドフルネスの訓練によって 改善があったかどうか ストレスの高い時期に 注意が途切れることを 防ぐことができるか そしてこれが結果です

ストレスの高い期間では もし私たちが何もしなければ 実際に注意は弱まります 特にストレス期の終わりには 悪化しています しかしマインドフルネスの訓練を実施した場合 これを予防することができます 訓練を実施すると 高いストレス下でも 他のグループと同様 安定していました そしてもっと素晴らしいことに もし人々が訓練を継続して 例えば8週間続けて 毎日のマインドフルネスの訓練を 完璧に実行すると 現在のありのままの自分であることを 学ぶことができ ストレスの高い中にあっても 時と共に改善します そしてこの最後の点に気づくことが 実は重要なのです なぜなら それによって マインドフルネスの訓練が 身体トレーニングに似ており やらなければ効果がないと わかるからです 一方で マインドフルネスを実践すれば やればやるほど 効果があります

ここで ジェフ・デイヴィス大尉の話に戻ります 冒頭お話ししたように 彼の部下の海兵隊員が 私たちが提供した マインドフルネス訓練の 最初の参加者でした とても嬉しいことに まさにこのパターンを示しました 彼らがイラクに派兵される直前に マインドフルネスの訓練を 実施しました 帰還したとき デイヴィス大尉は こう言いました いま感じていることは マインドフルネスの成果だ と 彼によると 前回と違い 今回の派兵から戻ってきたとき 彼らの意識には 現実感があり 洞察力を持ち 前回ほど受け身ではありませんでした そして時には ともに働く人同士 互いに 前回より もっと思いやりを持ちました 彼はいろんな言い方で 私たちの提供した マインドフルネスの訓練が とても役に立ち 心的外傷後ストレス障害を 予防したり 逆に心的外傷を受けたあとに 成長できたと言いました 我々には大変説得力がありました

そのあとも デイヴィス大尉と私はー ちなみにこれは10年ほど前の 2008年だったのですがー ずっと連絡を取り続けています そして彼自身は マインドフルネスの実践を 毎日継続しました 彼は少佐に昇進し そして海兵隊を退役しました そのあと離婚して 再婚し 子供ができ MBAを取りました そしてこういった 人生における 挑戦や転機 喜びを経験する間も マインドフルネスの訓練を 継続していたのです 運命の定めか 数か月前 デイヴィス大佐は46歳で 広範囲の心臓梗塞に襲われました そして彼は数週間前に 私に連絡をくれました 彼は言いましたー 「言いたいことがあるんです 私の医者は私の心臓を救いました しかしマインドフルネスが 私の命を救いました 救急車を呼ぼうという はっきりした心の状態があったから 病院に運ばれることができました」 はっきりとした心を持って 恐怖と不安の中でも その状態を保てたことが 彼によると マインドフルネスの成果でした 私は彼が無事であったことに ほっとするとともに 彼が自分の注意を変えられたことを知り 本当に勇気づけられました 彼はかつて とてもひどいボスである注意システムを持ち あやうく橋から転落するところでしたが いま 彼のボスは素晴らしいリーダーとして 彼を導き 彼の命を救いました

最後にみなさんに 行動を呼びかけたいと思います こちらです あなたの注意に 注意を向けてください いいですか? あなたの注意に 注意を向けてください さまよう心を鎮めるために 日々の健康維持の取り組みの 一部としてマインドフルネスを行い あなたの注意を 人生における頼れるガイドにしてください

ありがとうございました

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

アミシ・ジャーは、私たちがどのように注意を払うか、つまり、脳が常に受信している情報の流れから、重要なものを選び取るプロセスについて、研究しています。外部からの妨害(ストレスなど)と内部からの動揺(気が散ることなど)は、ともに私たちの注意力を弱める、とジャーは説明します。しかし簡単な方法で、注意力を増強させることが可能です。ジャーは、「あなたの注意に注意を向けなさい」と言っています。

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