お婆さん達にうつ治療の訓練をする理由(12:24)

ディクソン・チバンダ(Dixon Chibanda)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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ハラレの ある8月の暖かい朝 ファライという 24歳で 2人の子供達の母親が 公園のベンチに向かって 歩いています 彼女は 惨めで 意気消沈した様子です さて 公園のベンチには 「ジャック婆さん」として コミュニティでは有名な 82歳の女性が腰かけています ファライは ジャック婆さんに クリニックの看護師からの封筒を手渡します ジャック婆さんは ファライに座るよう促し 封を開け 手紙を読みます 彼女が手紙を読む間 3分程の沈黙が流れます 長い静寂の後 ジャック婆さんは 深い溜め息をつき ファライを見て こう言います 「あんたには 私がいるよ 話を聞かせてくれないかい?」

ファライは 目に涙を 一杯溜めながら こう話し始めます 「ジャック婆ちゃん 私 HIV陽性なの この4年間 HIVと共に生きてきたの 夫からは 1年前に棄てられたわ 私には5歳にならない 2人の子供が居て 職もなく 子供達の面倒も 殆ど見られないの」

涙が頬をつたっています それを見て ジャック婆さんは ファライに近寄り 彼女に触れ こう言います 「ファライ 泣いていいのよ とても大変だったんだから もっと話を 聞かせてもらえない?」

するとファライは続けます 「この3週間 何度も 2人の子供達を道連れにして 自殺しようと思ったの もうこれ以上耐えられないわ クリニックの看護師が あなたに 会うようにと言ってくれたの」 2人の会話は およそ30分間続きます そして最後に ジャック婆さんは言います 「ファライ あんたには kufungisisaの 全ての症状があると思うよ」

"kufungisisa"という言葉が 涙の水門を開きます つまりkufungisisaとは 私の国では 「うつ」と同じ意味の言葉なのです 文字通りの意味は 「考えすぎ」です WHOの推定では こんにち 世界中の3億人を超える人達が うつで苦しんでいます つまり 我が国で言う "kufungisisa" によってです WHOは こうも言っています 40秒毎に 世界のどこかで 誰かが 自殺していて その理由は 主にうつ つまり kufungisisaにより 幸せと感じられないからだと― これらの死の殆どは 低所得国から 中所得国で起きています

実際 WHOはここまで言っています 15歳から29歳の 年齢層を見ると 彼らの主な死因は 現在 自殺であると しかしうつや ときに自殺の原因になる 様々な出来事があるのです それは 虐待 紛争、暴力 孤立、孤独等々といったもので 枚挙にいとまがありません しかし 私達の知る唯一の事柄は うつは治療が可能で 自殺は防げるという事です

しかし困った事に 世界中にその仕事を行う 精神科医や臨床心理士が 十分存在しないのです 例えば 低所得国、中所得国の殆どでは 人口に対する精神科医の割合が 150万人に1人といった具合です それはつまり 我が国で 精神衛生のサービスを必要とする 90%の人々がそれを受けられない という事です 我が国では 12人の精神科医が存在していて 私もその1人ですが この人数で およそ1400万の人口を担当しています

さて これは どういう事でしょうか ある夜 私が家にいると 救命救急センター(ER)から 電話を受けました そこは私の住む所から 200数キロ離れた町にあります ERの医師はこう言います 「先生が4ヵ月前 治療を行った患者の1人が 薬物の過剰摂取をしました ERにいます 血液動態的には 大丈夫のようですが 精神神経科の診察が必要と思います」 真夜中に車に飛び乗り 200キロの道のりを 運転することは 当然できません ERの医師の電話を聞きながら 最善を尽くし 私達は病状の判断を行います 自殺防止の体制が 敷かれている事を確認します 私達はこの患者が服用してきた 抗うつ剤を 再検討し始める事を確認し こう結論を出します この26歳のエリカという娘が ERから退院したらすぐに 母親と一緒に 直接私の所へ来て 必ず診察を受けてもらい 何ができるかを 検討することにしましょうと

それには およそ1週間かかると 想定していました 1週間経ち 3週間経っても エリカは現れません ある日 エリカの母親から 電話がかかります 彼女はこう言います 「エリカは3日前に自殺しました 家の庭にあるマンゴーの木で 首を吊ったのです」 私は ほぼ反射的に こう訊かずにいられませんでした 「何故ここハラレに 来なかったのですか? ERを退院したらすぐに 私の所に来ると約束しましたよね」 彼女はそっけなく言いました 「ハラレに行く 15ドルのバス代がなかったのです」

自殺は精神衛生の世界では 珍しい出来事ではありません しかしエリカの死に関しては 正に私という存在そのものの核に 打撃を与える何かがあったのです エリカの母親の言ったあの言葉― 「あなたの所に行く15ドルのバス代が ありませんでした」 それを聞いて気づいたのです 患者が私のところへ 来ることを期待しても うまくいきっこないのです 私はアフリカの精神科医としての 自分の役割を真に発見しようとする 「自分探し」の状態になりました

相談をし、自分探しをし 同僚、友人、家族と話をした後 私は突然 思いつきました 実際アフリカにある 最も信頼できる資源の1つは お婆さんなのだと そう お婆さんです こう思いました お婆さんは あらゆるコミュニティに 何百人もいる それに―

(笑)

お婆さん達は 緑の草原を求めて 自分達のコミュニティを離れない

(笑)

唯一離れるのは 天国という より素晴らしい 緑の草原に行く時です

(笑)

そこで 私は考えました お婆さん達に 根拠に基づいたトークセラピーの 訓練をしてみてはどうかと それをベンチで行うのです 傾聴して共感を表すなど 認知行動療法に根差したスキルを教え お婆さんに能力を与えるのです 行動活性化や活動スケジューリングの スキルも教え そしてデジタルテクノロジーで 彼女達をサポートするのです 携帯電話のテクノロジーは ご存知ですね アフリカでは こんにち ほとんど皆が持っています

そこで 2006年に お婆さんによる 初めてのグループを 立ち上げました

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ありがとうございます

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こんにち 70を超えるコミュニティで 活動を行っている 何百人もの お婆さん達がいます そして昨年だけで ジンバブエのあるコミュニティでは 3万人を超える人達が フレンドシップベンチで お婆さんから 治療を受けたのです

(拍手)

そして最近 私達は『米国医師会雑誌』 (JAMA) で このお婆さん達の 行ってきた仕事を 発表しました そして―

(拍手)

私達の報告した結果によると お婆さんによる治療後 6か月たっても 依然 患者は無症状でした うつはなく 自殺念慮は完全に減少し 実際 私達の結果は 臨床試験で得たものなのですが 実際 この臨床試験では お婆さんは 医師よりも うつの治療において効果的であると 分かったのです

(笑)

(拍手)

ですから 私達は 現在 このプログラムを 拡大する方向で 動いています 世界中には現在 65歳を超える人が 6億人を超えます 2050年までには 65歳以上の人口が 15億になるでしょう 世界中のあらゆる主要な都市で お婆さんのグローバルな ネットワークを作れたらと 想像してみてください 彼女達は 根拠に基づいた トークセラピーの訓練を受け ネットワークで繋がった デジタルプラットフォームを通じて 支援を受けるのです 彼女達はコミュニティに 変化をもたらすでしょう 精神、神経学的障害や 薬物使用障害にも拘らず 治療を受けられない人を 減らすでしょう

最後に これは ジャック婆さんの 写真のファイルです ファライは 彼女とベンチに座って 6回の面接を受けました 現在ファライは雇用されており 2人の子供達は 学校に行っています ジャック婆さんはと言うと 2月のある朝 ベンチでの257人目の 患者との面接を予定していましたが 現れませんでした 彼女は天国という 緑の草原へ 行ってしまったのです しかし私は ジャック婆さんが 天上から 多くの人達の人生に違いをもたらし ますます増え続けている 他の数多くのお婆さん達を きっと応援してくれていると 思います そして私は確信しています 彼女が先駆けとなって 手助けしたものが 今や他の国にまで 例えば マラウィ、ザンジバル島 そしてここアメリカのニューヨーク市にまで 広がっていると分かった時 きっと彼女は 畏敬の念を持つだろうと 彼女の冥福をお祈りいたします

ありがとうございました

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このプレゼンテーションについて

ディクソン・チバンダは、人口が1600万を超えるジンバブエに僅か12人しかいない精神科医の内の1人です。彼は自国が精神衛生の問題に対する昔ながらの治療方法を現状に見合う規模に拡大できないであろうことを分かっているので、お婆ちゃんという「無限の資源」によって推進される、素晴らしい解決策を展開させる手助けをしました。この驚くべき感動的なトークの中で、お婆ちゃん達に根拠に基づいたトークセラピー(話し合い療法)の訓練をし、これらを必要とする人たちにケアや希望をもたらす「フレンドシップ・ベンチプログラム」についてもっと学びましょう。

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