消えた音楽を探し、文化的遺産を保護するレコード収集家たち(14:30)

アレクシス・シャーペンティア(Alexis Charpentier)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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レコードに執着し始めたのは 12歳頃でした 両親からは食べ物を買うようにと よくお小遣いをもらいましたが 食べ物を買わずに貯めて 週末にレコードを買っていました これは 足の長さの半分ほどもある 巨大ウォークマンと私ですが

(笑)

どちらかというと ビデオデッキみたいですね

(笑)

それで10代の頃は カセットやレコード、CDを収集したい欲求が どんどん高まっていきました 何年もの間 レコード店で 働いたこともあり アルバイト代はレコードでした 集めたレコードを全部聞くのは 一生かけても無理だと ある日 気がつきました 私も 仲間の多くと同じように レコード中毒 あるいは 私たちが自称するところの レコード発掘者になりました

レコードの発掘は その名のとおり — 手の汚れる作業です つまり 何時間も費やして 倉庫を探し回ったり 教会の地下室や ヤードセールやレコード店を 探し回ったりして 何十年も忘れ去られていた レコードを発見します それらは文化的に不要となった レコードです 最初にレコード収集を始めた 1930年代から60年代の人々のおかげで お蔵入りの可能性があった重要なレコードが 多数見つかり 保管されました 当時 文化施設や 公共施設のほとんどは そういったお宝の保管に 関心がありませんでした 多くの場合 そんなレコードは ゴミ箱行きだったのです レコード発掘はある種の生き方です 私たちが執着しているのは 無名のレコードや 高価なレコードや激安レコード 変わったアートワークや サブ・サブジャンルです リリース毎の微妙な変化も 見逃しません

メディアが ここ最近起きている レコード人気の再燃を語る場合 レコードや伝統や文化を ここ30年間守り続けてきた — レコード発掘者のコミュニティーには 触れ忘れていることが多いです 結束は固いものの 多少の対抗意識があるコミュニティーです 非常に珍しいレコードを探していて その機会を失うと もうお目にかかれないかも しれませんから でも レコード収集家に対して 強い感動を覚える唯一の人物は 別のレコード収集家でしょう 外の世界にとって 私たちはとても奇妙で 風変わりな集団なのです そして —

(笑)

大抵の場合 正解です 私が知っているレコード収集家は 全員が強烈なオタクです 誰もが何かしら常軌を逸しています でも 私たちのイメージは こうあるべきだと思います

(笑)

私たちは音楽の考古学者で 失われた芸術品を捜し当てています 私たち全員 どうしても手に入れたい レコードのリストがありますし 何年も探しているのです このリストは 「渇望の品々」と呼んでいます

レコードを発掘していると 自分が聞いたことのない音楽に 囲まれています 謎の事柄やあらゆる夢など レコードに込められた人々の思いに 囲まれることになります 巨匠になる運命にありながらも あらゆる理由で見過ごされた— 何千ものミュージシャンを 想像してみてください こうしたレコードの多くは ほんの少ししか残っておらず 未発掘のものや 聴いた人がいないものもあります まさに絶滅危惧種といえます

ある物語をお伝えしましょう 個人的には レコード発掘者の価値を 端的に伝える物語ともいえます モントリオールの才能溢れる ミュージシャン兼作曲家の物語です アンリ=ピエール・ノエルは ハイチで生まれ育ちましたが 少しだけ アメリカとベルギーでも 暮らしていました 2週間の予定で モントリオールに立ち寄りましたが その後40年間 モントリオールで暮らしました 若い頃にピアノを習得した彼は とても変わった演奏方法を 身につけました 超速の演奏スピードで まるで打楽器です 彼が生まれた頃から耳にしていた ハイチ音楽の影響や アメリカのフォーク音楽の影響が 混ざり合ったようなスタイルでした ファンクとジャズが混ざった ハイチ音楽コンパのミックスを作り上げたのです 若い頃の彼は ライブバンドと一緒に演奏しながら 欧米でツアーをしましたが アルバムや曲のレコーディングをしたのは カナダに渡ってからでした 1979年 モントリオールで 最初のアルバム『ピアノ』を リリースしました アンリ=ピエール・ノエルレコードという プライベートレーベル名で出されました 彼が生産できたレコードは たったの2千枚でした このレコードは 数回ラジオで放送されました カナダやハイチからの わずかな支援のおかげです でも 大手レーベルの バックアップがなかったため 売り上げにかなり苦戦しました その当時 自分のレコードが 人気ラジオ番組で紹介されなかったり ジュークボックスになかったり テレビ出演がなかったりすると 非常に不利だったのです 大手レーベルに所属せずに アルバムを発売するのは 今に比べ とても厳しかったのです 聴いてもらうことも 販路に乗せてもらうことも それから またすぐに 2枚目のレコードを発表し 市内のさまざまなクラブで 積極的にピアノ演奏をしていましたが 彼のレコードはだんだん 忘れ去られるようになりました 2千枚のアルバムは 30年の期間を経て あっという間に散り散りになり とうとう世界中で ほんの数枚しか残らなくなりました

それから2000年代半ば モントリオールのレコード発掘者で 通称コバルという男性が 毎週恒例のレコード探しを していたときのことです 彼はフリーマーケットにいて 汚くて 埃だらけで カビの生えた 何千枚ものレコードに囲まれていました この場で『ピアノ』を見つけたのです お目当ての品とは違いましたが ある意味 レコードが 彼を引き寄せたのです 20年間 毎週続けてきた レコード発掘のおかげで お宝を見つける第六感が磨かれたとも 言えるでしょう 彼はレコードを手に取り 入念に調べました 前面のアートワークに 後面のライナーノーツ そして 彼を惹きつけたのは 70年代後半ケベックで ハイチ人が作ったという事実でした それで 興味が湧いたのです 彼が取り出した プラスチック製の 小型ターンテーブルは 発掘中にいつでも聴けるように 持ち歩いている品です では 私たちも聞いてみましょう

(音楽)

彼は 一瞬にして この音楽に夢中になりましたが レコードの背景を 調べなければと感じました 出所もわかりませんでしたから 彼が知っていたのは ミュージシャンが 当時 モントリオール在住だったことです 数ヶ月かけて 本人を探そうとしました レコードケースには ノエルの名刺まで入っていました アンリ=ピエール・ノエルは それほどDIYが好きだったのです レコードケースから見つけた 名刺に書かれた連絡先に もちろん電話をかけましたが 30年という月日の中で 繋がらなくなっていました 結局 ノエルが かつて住んでいたベルギーで コバルは本人を直接知る人物を なんとか見つけ 自分の連絡先を渡しました

ついにアーティストと 対面したコバルは いつか アルバムを再発表する方法を 見つけだすと約束しました それから イギリスのレーベル Wah Wah 45sを手配して 2枚のアルバムを再発売しました このような再発売のプロジェクトで よくあることなのですが セッション当時の音源である マスターテープを見つけるのが とても難しくなるのです アート作品は火事や洪水 地震などで壊されたり ゴミ箱に捨てられたり 永久に見つからなかったりします しかし 幸運にも ノエルのテープは無事で いつでもリマスターが可能でした

レコードはついに再発表となり 音楽評論家やDJ、世界中のリスナーから 好評を得ました 本来であれば 1979年に得るはずだった反響です ノエルはこれをきっかけに 再び音楽に携わる決断をし 再び舞台に立ち 新たな観客のために 演奏することにしました 現在 60代となった彼は 私にこう言いました 「このおかげですべてが変わった 退職後の生活を計画していたが ロンドンやカナダなどのラジオ番組で 演奏するようになったよ」 また このことがきっかけで 彼は3人の息子の前で 初めて演奏する機会も得ました

これは レコード発掘者の活躍が 最大限に活かされた物語だといえます 希少価値や金銭価値以上に — 正直に言うと それも非常に大事ですが 真の素晴らしさとは アート作品にもう一度チャンスを与え 忘却のふちから救ってやることです

優秀なレコード発掘者の仕事は 次の3段階をひたすら繰り返すことです まずは発掘作業です 何時間、何日、何年という時間を費やし 汚くて 埃くさいレコード棚を 引っかき回します お宝を見つけるためには こういった作業が必要です レコード探しは オンラインでもできますが 真のお宝を見つけるには ソファから降りて 荒野を巡る必要があります だから レコード検索でなく レコード発掘と呼ぶのです

(笑)

私たちは 音楽の考古学者です でも 次はみんなで集まります 好みや専門知識 各々が目指すことに基づいて 保存に値し 私たちにとって 意味のあるレコードを入念に選びます そして レコードに関する大事な情報を 一つ残らず見つけようとします アーティスト名やレーベル名 また とても重要なのは 「3曲目のトランペット奏者は誰か」 といった情報です そしてレコードを整理し 関連性をまとめ 保管しておきます 私たちは音楽の記録人です

そして 活動の最後には レコードを共有します 私が知るほとんどのレコード発掘者は 発見したことを人々に知ってもらう― 何らかの方法も知っていて アーティストの紹介を アルバムの再発表や ネットへの投稿、ラジオ番組を通して 行っています レコードを音楽史における 相応な位置に戻してやるのです 私たちは仕掛け人で キュレーターで 音楽学者です ですから 私や 私が過去20年に出会った ほとんどのレコード収集家は 自分の発見を紹介する方法を 何かしら持ち合わせていると思います そうすることで 自分たちの正気を保ち 飽くなき執着への目的意識を 保てるのだと思います 発掘は孤独な作業でもありますからね でも 文化的な知識を伝えたいという 人間的な欲求を叶える作業だとも思います

キュレーションの必要性について言うと 圧倒的な数の選択ができる現代では 選択肢がありすぎると発見が阻害される ということが実証されています 例えばの話ですが Netflixで何かを 見ようとしているときには 6千本分のリストに 目を通すだけでいいのです では これをSpotifyと比べます 聴きたい音楽を探す場合 3千万曲分のリストに 目を通すことになります ですから おわかりのように 選択する感覚の麻痺という概念は 映画よりも音楽に強く影響を及ぼします いくつかの研究では このことに関する影響が データで出ています イギリス音楽市場での 最近の推移として 上位1%を占めるアーティストは 音楽業界の総収益の77%を稼いでいます これは2013年の話です この状況は着実に悪化している — あるいは進んでいるといえます とにかく 上位1%の人は さぞ幸せでしょうね

(笑)

私にとって重要なのは これまでより音楽を聴くのが 簡単になったということです 自由に聴ける音楽は 今まで以上に増えましたが 選ばれる音楽は 今まで以上に画一的なのです 悲しいことですね

音楽の研究やレコード発掘 キュレーションへの情熱をきっかけに 「Music Is My Sanctuary(音楽は私の聖域)」 というウェブサイトを2007年に始めました 私たちの合言葉は常に 「未来の最高傑作と忘れられたお宝」です 音楽を発見し 古くて新しいものを 紹介することへの情熱を言い表しています 当初は小規模でしたが 世界的なプラットフォームとして 多数の利用者を抱えるほどになり 協力者は100名を超えました コンテンツ数は1万を超え 音声によるコンテンツも 500時間を超えました 利用してくれる人々は 大手の音楽チャンネルの音楽より もっと多く聴きたいだけなのです 彼らが望むのは もっとニッチな音楽ですが 私たちオタクのように 毎週20時間も費やせるとは限らないので その役目を私たちに任せてくれています 私たちのあらゆる活動の中心は キュレーションです アルゴリズムよりも 人間によるオススメを信じています

レコード発掘への情熱は 何日でも語ることができますが 次の話をして終わりたいと思います 何年もレコード発掘を行うと 収集家が集めたレコードの数々は その人の自伝のようになるのです 昨年 私はポーランドで DJをしていました 私をもてなしてくれた人々は 素晴らしい数々のレコードを持っていました もちろん 私は興味を持ち 「これは売り物ですか?」と尋ねると 彼らは 持ち主のことを教えてくれ 数ヶ月前に亡くなった 親しい友人メイシオのものと知りました 彼らは さまざまな人を招待して プロジェクトを行っており このコレクションを使って 新たなサウンドを作り サンプリングでも DJミックスでも 音楽に新たな命を 与えるというものでした 私もこのコレクションを 数時間かけて いろいろ聴き DJミックスを作りながら メイシオ本人とは対面の機会が なかったものの 私と彼は特別な方法で レコードについて数時間 話したように感じました ですから レコード発掘者にとって 発掘作業やレコードのコレクションは 次の世代に伝えるためにあります

美しいアートは大切にされ 共有され 再発見される価値があります キュレーターを利用してください 私たちは大手の音楽チャンネルに代わる 音楽の代弁者です デジタルでもそれ以外でも アルゴリズムの先を行きましょう どんな音楽をお好みでも ウェブサイトやラジオ番組、DJ レコード店などあらゆる媒体があります どれも あなたと音楽を共有しようと 待ち構えています 発掘作業は私たちがやります 皆さんは 耳を澄まし 思い切って聴いてみるだけです この音楽が人生を変えるでしょう

ありがとう

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

何世代にもわたり、レコード収集家は知られざるアーティストによる無名の音楽を「発掘」し、音楽的・文化的遺産の保護に重要な役割を果たしてきました。アレクシス・シャーペンティアはレコードへの愛を語り、忘れられた音楽にもう一度聞いてもらうチャンスを与えた収集家たちの物語を教えてくれます。楽しくて爽快なこのトークで、レコード発掘の文化についてもっと知りましょう(そして、新たな趣味にできるかもしれません)。

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