偽物のハンドバッグがテロや組織犯罪の資金源となる仕組み(12:49)

ホセ・ボーエン(Jose Bowen)
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対訳テキスト
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このトークのために 私が初めに考えたタイトルはこれです 『ベートーヴェンは昔のビル・ゲイツ』 意味分かりますか? 分かりませんよね OK 考えてみましょう 私は教育者ですから これについてお話ししましょう そうすれば よく分かってもらえるでしょう

その次に思ったのは 音楽の流通の歴史について お話ししようということです 石を打ち鳴らしていた当初から ロック音楽に至るまで これに関する良い知らせは 初めの1万年は― あっという間ですが― 音楽を楽しみたければ 文字通り 石を拾い 後には楽器を使い 実際に演奏せねばなりませんでした これは非常に長い間続きました 西洋では次第に 演奏を専門とする層が生まれました つまり石を鳴らすのが 非常に上手な人たちです 18世紀までは依然として 基本的にこの形でした 専門家やプロの人たちがいて 主に とても高価な楽器を 演奏するのです オルガンなど 複雑な楽器です 18世紀に音楽を聴きたいと思ったら それはライブです 演奏会に行かねばなりません 教会や市民イベントに 誰かのライブを 聴きに行かねばならなかったのです ですから音楽は常に 人との交流を伴いました ヘッドフォンもなければ iPhoneも レコードプレーヤーも ありません 音楽を聴きたければ 家を出ていかないといけませんでした 基本的に 自分の家の中には 音楽は存在しなかったのです

当初から18世紀まで この状況が続きました それが初めて… 崩壊する時が来ました 2つの崩壊的変化が同時に起きました ピアノの登場 そうでしょう? ピアノは18世紀に始まった 新しいテクノロジーで その後 安価で大量生産することが 可能になっていきました これで ほどほどの価格の楽器を 誰でも所有できます 皆さんの家にも置けるわけです これはある種の崩壊を招きましたが それも第2の崩壊が 同時に起きなければ 起こり得なかったでしょう それは楽譜を安く印刷する 技術の発見です

グーテンベルクその他の印刷技術を 思い返して下さい 音楽の場合はもう少し複雑です 印刷の楽譜を流通させる 安価な方法を編み出すには もう少し時間が必要でした アメリカ独立戦争の頃の ロンドンには 楽器店が12店舗だったのが 1800年には30店舗 1820年には150店舗になりました このように インターネットの前にも こういうことが起こっていたのです なぜなら考えてみて下さい 突然こんなことになったら? 「音楽を聴きたくなったら バッハや モーツァルトの所に行かなくちゃ」 モーツァルトの頃は 実際にそうだったのですよ モーツァルトのCDを買ったり ダウンロードしたりするのではなく 楽譜さえも入手困難だったり 高価だったりして買えません モーツァルトやバッハを聴くには ドイツまで行かねばなりませんでした

しかしベートーヴェンの場合は違います ベートーヴェンは新しい市場が できたことに気がついたのです ベートーヴェンは起業家だったのです まるでビル・ゲイツのようです 彼はこんな起業家でした 「僕は実際にロンドンに行く必要はない 楽譜を売りさえすればいいんだ 印刷して大量に売りさばけばいい 僕は至るところで有名になり 皆が僕の曲を演奏するだろう」 これはあらゆる人の 音楽経験を変えました それは多様性や 世界のピラミッド構造を変え あらゆる物事を変えました これは新しい層の音楽家を生み出しました 作曲家や演奏家です つまり労働分業です もし結婚式にバッハの曲を流したいなら 誰が来るでしょう? バッハです

(笑)

彼はそうやって生計を 立てていたんですよね? 彼には事業を広げる術が 何もありません しかしベートーヴェンにはそれが可能でした

それはまた起きました 百年後にです 1つのパターンが見えてきましたね 世紀の変わり目頃には 音楽の流通にとって 面白い時代になっていました 百年後 レコードや蓄音機 自動ピアノが現れました ラフマニノフの楽譜を 買うことはできても もしラフマニノフを聴きたければ 実際にコンサートホールに 行かねばならなかったのが もうしなくていいのです ラフマニノフのレコードを買うか 自動ピアノを買うか あるいは他の記録媒体に合う 紙ロールを買えばよいのです その後 ラジオも登場しました

これを考えてみましょう あなたがテキサスでバンドをしている ドク・ロスだとしましょう テキサスのビッグバンドとして あなたは成功を収めています そこに突然 「ラジオ」と呼ばれる 新たな物体が現れます カウント・ベイシー、デューク・エリントン、 ベニー・グッドマンを 誰でも聴けます この競争は最悪です 突然 競争がグローバル化したのです 百年後の iPodやインターネットとデジタルファイル GarageBand によるものと同様 全ての事象は繰り返されるのです

この2人についてお話ししましょう 初めに 2人とも起業家でした 2番目に  2人ともソフトウェアデザイナーでした ベートーヴェンもそうだったのですよ 彼が書いたのは あのハードウェア上で 動作するソフトウェアです

(笑)

あれは一種のハードウェアです 私の楽譜があれば あなたはあれを使って演奏できます 楽譜があれば それでバッチリですか? いいえ それは単なる紙です それだけではあまり役に立たないのは フロッピーと同じです コースターには使えると 思いますけどね しかし楽譜だけでは あまり役に立ちません ベートーヴェンもビル・ゲイツも ソフトウェアデザイナーです

面白いのは 彼らはまた ハードウェアが非常に急速に変化する 時代の人だったことです 一定以上の年齢の方は 思い出せるでしょう 90年代のWindows...何とかに 立ち戻ってみて下さい あなたの喜びやビル・ゲイツへの愛を 思い出して下さい そしてその頃は 新しいソフトウェアが現れるたびに コンピュータを買うはめに なりましたね 想像してみて下さい ベートーヴェンが作曲を始めた頃 彼はこの上の画像のように 5オクターブの楽器を使っていました 下の画像のピアノは もっと大きく ペダルの数も増えました 音も大きく もっと多くの 演奏法が使えます ベートーヴェンが作曲を始めた時 彼にはこんな演奏ができるピアノがなく こんなのは 実はできなかったんです (和音) これができなかったのです 1803年にフランスの あるピアノメーカーが― これがいかに賢いか 考えてもみて下さい― もしあなたがピアノ製作者なら そのピアノを 誰に使ってほしいですか? 作曲家です 芸術家がそのテクノロジーを使うと 残りの人々はそれを 取り入れざるを得ません メーカーが ビル・ゲイツに最速最新の コンピュータを送り込むのも同じことです 彼が直ぐメモリを満杯にしてくれることを 知っていますからね

(笑)

1803年 エラールはベートーヴェンに 新しいピアノを届けました それは鍵盤が多く 先ほどのようなことができたのです ベートーヴェンの最初の仕事は あの和音が演奏できる曲を書くことでした ですからもしあなたが ドイツやウィーン製のピアノ あるいは イギリス製のを使っていたら あの和音は演奏できないのです ではあなたはどうしますか? あなたは楽器店に行って ベートーヴェンの最新の ピアノソナタを買って帰ります あなたは去年発売されたばかりの 最新テクノロジーである― 5オクターブのピアノを 持っています 新しいベートーヴェンのピアノ曲を 弾き始めると何が起きるか? 鍵盤が足りない! はみ出てしまうんです ビル・ゲイツとユーザーの関係と 同等のものを ベートーヴェンは 観客との間に築いたのです 彼はソフトウェアの製作者であり かつハードウェアも 扱わねばなりませんでした

ここで面白いのは ベートーヴェンは 実は ビル・ゲイツよりも賢かったことです ベートーヴェンが新しい エラール・ピアノを入手した頃 彼は第3のピアノコンチェルトを 書いていました そしてコンサートを開き 増えた分全ての鍵盤を使ったのです しかしそのコンサートのために 彼は何をするでしょうか? ピアノを持って いかないといけません 全部の音を出せるピアノは ウィーンには それ1つだったからです 彼はそのピアノでコンチェルトを 弾きます 素晴らしい しかし彼は悟ります 「待てよ 誰もが最新の物を持っている訳じゃない」 ベートーヴェンは ピアノソナタを何曲も出版していますよね 彼は待ちました 遅らせたのです 10年間は 余分な鍵盤を使わない ピアノソナタを出版しました 彼は待ったのです なぜなら― ベートーヴェンの目論見とは? 皆さんが彼について知っていることとは 全く違うでしょうが ベートーヴェンは非常に抜け目のない 起業家でした 彼が一般向けに書いた音楽は 自分が演奏するためのものではなく イタリア南部の家で去年買ったような ピアノの鍵盤で収まる― ピアノソナタだったのです

音楽テクノロジーにこれらの変化が 及ぼした影響は何でしょうか? 作曲家や人々は どう反応したでしょうか? これまでに3つの崩壊的変化があり 実際にはその全てが同時に働きました 最初は 印刷とピアノに関してでした これによって起こった最初の現象は そこで生み出されるものの再定義です 生み出されるものは 楽譜になりました 家に持って帰れる冊子にです 20世紀になると レコードになりました これも家に持ち帰れるものです 21世紀にはデジタルファイルです 生み出されるものの 性質は変わっていくのです

2つ目が 労働の分業です もしバッハの曲を聴きたければ 実際に聴きに行く必要がありました 他に方法はありませんでした 19世紀には 演奏家や作曲家といった 1つのことを専門に 行う人たちが現れました 先に見たように 今では聴き手が 音楽をアレンジすることもできます それは質への期待も変えます 一度カウント・ベイシーや ベニー・グッドマンを聴いたら 地元バンドの演奏はもう そんなに心地よく思えないかもしれません 今ではもう こうなりました 「ベニー・グッドマンを聴きに行きたい」 今や市場はグローバルです 今まで触れたことのなかったものも 聴けるのです こういったことが起こるたびに 人との交流は薄くなっていきます ベートーヴェンの時代には 家で彼の曲を演奏できるようになりました モーツァルトの時代には 彼の曲を家で演奏はできませんでしたが ベートーヴェンなら楽譜を買って 家に帰ればよいのです ドアを閉めて ピアノを弾いたらいい そこには あなただけです 今なら ヘッドホンを使って 同じことができます

これら1つ1つの崩壊によって 対人交流の量は変わりました 毎回が新しい 個人仕様の経験です 自分の思うように ベートーヴェンを演奏し テンポを上げたり 下げたりできます 今や 経験を個人化できるのです 消費者の選択の幅は広がり 市場は拡大しています 楽器店で売られるタイトルの数は 増加しています しかし選択肢は減ってもいます グローバル・ピラミッドでは 何が欲しいか分からない時もあるからです 選択肢がありすぎて 選び方が分からないのです そこでマーケティングが 始まります 「その月の流行りは?」

リストにはありませんが もう1つ 挙げるべきことがあります 海賊版です ハイドンやショパンの 最大の悩みの1つは 人々が偽物のショパンの曲を書いて 彼の名をかたることでした ショパンもこれを聞いたら 慰められたでしょうかねえ 「じつは 偽物のショパンを 買った人のうち 20%は 本物のショパンも 買う可能性が高いんだよ」 どうでしょうねえ

(笑)

ショパンも抜け目ない起業家でしたが 彼は何をしたのでしょうか? 彼は自曲をイタリア、フランス、 それからドイツやイングランドで 同じ日に出版しました 国際著作権がなかったからです だから彼は全てを同じ日に 出版する必要がありました そして彼は国ごとに アレンジを加えました つまりショパンを演奏する時 国が違えばアレンジも 異なるように意図したのです 誰が剽窃しているか 追えるようにするためです これはソニーにも 考えつかなかったことです 問題は… この新しいテクノロジーでした それは人々の選択肢を広げ その影響は世界中にまで及びますが これはまた海賊版の増加にも つながるのです それにテクノロジーは 人々が物を買う時に 選別フィルターをかけます 人々は交流するけれども それは直接的な交流とは限らないわけです 次の機会に誰かが こう言ったらー 「インターネットのようなものは 今まで存在しなかった」 まあそうですが 音楽テクノロジーにおける インターネットに匹敵する変化は それ以前にありました

そしてこれらの 崩壊的変化のモデルは 他のビジネスで 見るのと同じです それは製品の性質を変えます もし書籍出版業界なら 書籍を扱っていることを理由に 自分がその業界にいると言えますが 書籍以外の方法で 小説を売ることもできます レコード業界にいなくても 音楽ビジネスを することもできます 今までは 音楽を売るのに レコードというテクノロジーしか なかっただけだからです 新聞業界は死んでも ジャーナリズムは死にません

最後に 学校です 学校は次の大きなフィールドです 学校が何を提供できるか 考えてみましょう かつて学校教育は ガソリンや食べ物を買うのと同様に そこら中に供給地を 点在させることが必要でした しかし今や インターネットがあれば 新たな流通方法が使えます ですから学校は何を「売りにするのか」 考えねばなりません しかし対面による交流は なくならないでしょう それは有意義なものです  ここにいる我々のように なぜなら我々は このTEDという場で 互いを知ろうとしているからです

ありがとうございました

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このプレゼンテーションについて

音楽をより商業的で、個人的なものにし、また海賊版をより簡単に作れるようにもした革命が、19世紀初頭に始まりました。ホセ・ボーエンは、新しい印刷技術とピアノの改良が、どのようにして最初の音楽産業を生み出したのか、そのあらすじを語ります。

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