発明より、マーケティングが大変(05:39)

ダニエル・シュニッツァー(Daniel Schnitzer)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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まず あまり美化せずに 想像してみてください 毎晩 灯油やろうそくで 家を照らし 木炭で 料理を すべてこなすところを 世界で最も貧しい 20億の人々が このようにして 毎日料理をし 明かりをつけているんです これは不便なだけでなく 効率が悪く お金がかかり 人間の健康や 環境に有害ですし 生産性がありません これが「エネルギー貧困」です

いくつかの例を挙げましょう 私はハイチで働いています そこでは 人口の約8割が エネルギー貧困の中で生きています 平均的な家庭は 収入の1割を 明かりに使う灯油に 費やしています アメリカの一般家庭が 家の電気照明に費やす額より 1桁多いですよね 2008年のハリケーンの季節に ハイチでは 約10億ドルの損害が出ました GDPの6分の1に相当します 損害が あまりに ひどかった理由は ハイチの主な燃料は木炭で 木を原料にするため 国のほとんどの森林が 伐採されていたからです 木がないせいで 大雨と大洪水を 吸い上げることができません 先進工業国では エネルギー利用の副次的影響から 自分たちを守る壁を作り 激しい環境災害を 乗り越える余裕があり また 気候変動のような 長期的な状況に適応する 余裕もあります でも ハイチは違います 余裕なんかありません エネルギー貧困から脱する 唯一の方法は より効率的で より低価格の 人間の健康や 環境により良く 生産性のある燃料を使うことです

実は そういった燃料や テクノロジーが存在しています これがその一例です これは 太陽電池式LED電球で ハイチの田舎では 小売価格 約10ドルで売っています ハイチの一般家庭で 三か月以内に 原価償却できます エネルギー貧困を解決する処方箋は とても単純に見えます 投資に対する大きなリターンが得られる こういったテクノロジーを発展させれば 人々はそれに飛びつくでしょう でも 実際にはそうはなりません

私が 最初にハイチに降り立ったのは 2008年の8月でした 気まぐれの訪問です ハイチ南部の田舎で 現地調査をしていました エネルギー貧困の程度を 評価するためです 夜には歩きまわったり 屋台商人と話したりして 太陽電池式LED電球の購入に 興味がないか 聞いたりしました 出会ったある一人の女性は 私の提案を断り “Mon chéri, c'est trop Cher.” と言ったんです 「あら ちょっと高すぎるわ」 という意味です でも 私は説明しようと必死でした 「いや これでたくさんお金が節約できるし あなたが今使っている その灯油のよりも ずっといい明かりだよ」 電球は売れませんでしたが 本当に大事なことを学びました それは テクノロジーや商品では エネルギー貧困を 解決できない ということです テクノロジーや商品へのアクセスが 問題を解決します

具体的には エネルギー貧困を終わらせるには 二種類のアクセスがあります 物理的アクセスと 財政的アクセスです さて 物理的アクセスとは どういう意味でしょう? 発展途上国の低所得世帯だと 商業の盛んな場所まで行くのは お金がかかり過ぎます しかも商品をアマゾンで注文するなど 基本的に不可能です 「最後の1マイル」というフレーズが よく 電気通信産業と 関連付けられます 顧客と提供者を つなぐのに必要な 最後のつながり部分のことです エネルギー貧困を解決するのに 必要なものとは 人々にクリーンエネルギーを提供する 最後の1マイルを担う小売業者です 灯油と木炭の流通チェーンは すでにこれを解決しました これらの燃料は 国中 どこにでもあるということです ハイチの最も辺ぴな村に行っても 灯油や炭を売っている人に 出会えるということです

もう一つのアクセスは 財政的なものです 私たちは クリーンエネルギーの 商品やテクノロジーは 初期費用は高くても 運用コストは極めて安価になる 傾向があることを知っています ですから 工業化した国々には そうした初期費用を 抑えるよう 設計された 非常に有利な助成金制度があります ハイチにはそういった 助成金制度がありません 彼らにあるのは 小規模金融(マイクロファイナンス)です でも もしハイチの人が 少額ローンの融資を受け 小売店に行き クリーンエネルギー商品を買う ということを期待しているのなら クリーンエネルギー商品の価値を 著しく下げてしまうでしょう

ですから エネルギー貧困をなくす 処方箋は 単なる商品などではなく ずっと複雑です 財政的アクセスを 新しい 革新的な流通モデルと 直接に統合する必要があります どういうことでしょう? 消費者クレジットと小売店を 一つにする ということです これはブルーミングデイル百貨店には 容易でも ハイチの 地方販売代理店にとっては 簡単なことではありません 私たちは お金の流れを 変える必要があります 今はアメリカ各地に住むハイチ人が ウェスタンユニオン銀行の 電信為替を使って送金しますが 直接クリーンエネルギー商品の 支払いに当てて ハイチの友人や家族が配達してもらうか 受け取れるようにするのです

ですから 次回 世界を変えるという テクノロジーや 商品の話を耳にしたとき 少し疑ってみてください セグウェイを開発した 発明家のディーン・ケイメンは— どこから見ても天才ですが— かつてこう言いました 「自分の仕事である発明は簡単だ 難しいのは テクノロジーを 普及させることだ」 つまり こういったテクノロジーや商品を それを最も必要としている人々に 届けるのが 難しいのです

ありがとうございました

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このプレゼンテーションについて

太陽電池式LED電球は僻地に住むハイチ人の生活は変えることができますが、放って置いても売れるという訳ではないことにダニエル・シュニッツァーは気付きました。TEDxPittsburghで、彼はどんなに「スマートな」健康商品やエネルギー商品でも、市場がうまく機能しない限り、発展途上世界では役に立たないことを教えてくれます。

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