あなたは皆既日食を是非体験すべきである(12:16)

デイヴィッド・バロン(David Baron)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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本題に入る前に 私自身について 少々お話しておいた方が良さそうです 私は いわゆる神秘主義の スピリチュアルな人間ではありません 私は科学ライターです 大学では物理を学びました 以前はNPR(米公共ラジオ局)で 科学記者をしていました ここまでが前置きです NPRで ある話題の取材を進める中で ある天文学者から受けたアドバイスが 私の人生観に異論をとなえ 率直に言うと 私の人生を変えました

その話題は日食についてで 部分日食がアメリカを横断しようとしていた 1994年5月のことでした その天文学者をインタビューしていて 彼は日食がどう起こるのかや 観測の仕方を説明していましたが 力説していたのは 部分日食よりさらに珍しい皆既日食は 部分日食と同様に興味深いながらも 全くの別物であるということでした 皆既日食では2、3分間にわたって 月が完全に太陽の表面を遮断し 彼曰く 自然界において最も壮大な 光景を作り出すというのです 彼からのアドバイスはこういうものでした 「死ぬまでに皆既日食を 是非体験すべきだ」

正直言って 私は少し居心地悪く感じました よく知らない人からのアドバイスにしては 少し馴れ馴れしい気がしました でも興味をひかれたので ちょっと調べてみました 皆既日食というものは ただ起こるのを待っているだけだと 長い間待ち続けることになってしまいます 地球上の任意の場所で 皆既日食を観測できるのは だいたい400年に一度なんです でも移動をいとわないとすると そんなに長く待たなくてもいいのです それから数年後の1998年 皆既日食がカリブ海地域を 横断すると知りました

皆既日食は狭い帯に沿ってのみ観測できます 約160キロの幅の帯 そこに月の影が落ちるのです 「皆既帯」と呼ばれます 1998年2月に 皆既帯は アルーバを横断することになっていました そこで私は夫に相談し 私たちは「2月のアルーバなら どっちにしろ素敵だ」と思いました

(笑)

私たちは南へ向かいました 日光浴を楽しみ 太陽が一時的に隠れたらどうなるのか 経験するために

さて日食の日 私たちはたくさんの人々と共に ハイアット・リージェンシー・ホテルの裏の ビーチに出て ショーが始まるのを待っていました 私たちは厚紙のフレームでできた 日食眼鏡をかけていました 濃暗色のレンズで 安全に太陽を見ることができるのです 皆既日食は部分日食として始まります 月が太陽の前を ゆっくりと進むからです なので最初は太陽の輪郭に 小さなくぼみがあるように見えます それから そのくぼみはどんどん大きくなり 太陽は三日月の形になります その経過は大変興味深かったですが 壮観とは言えませんでした つまり 辺りは明るいままだったんです 上空で何が起こっているか知らなければ なんの異常にも気がつかなかったでしょう

さて皆既日食が始まる約10分前 奇妙なことが起こり始めました 涼しい風が強くふき始めました 日光もどこか変で 影もたいへん奇妙になりました 影が異様に鋭く見えたのです まるで誰かが テレビのコントラストを強くしたみたいでした 沖を見てみると ボートの走行ライトが見えたので 私の気がつかない間に 暗くなってきているのは明らかでした ほどなくして 暗くなっているのは明白になりました 視力が落ちたかのように感じました

それから突然 光が消えました その瞬間 ビーチから歓声が沸き起こり 私は日食眼鏡を外しました 皆既日食の この段階では 肉眼で太陽を見ても安全だからです 私は空を見上げ ただ唖然としました

この時私が30代なかばだったことを思えば 空がどんなものであるか 程度のことはもちろん知っていたはずです つまり

(笑)

青い空や曇り空 星空や荒れ模様の空 夜明けのピンク色の空を見たことがありました でも この時の空は見たことがないものでした

まず色です 上方は濃い紫がかったグレーでした 黄昏時のような でも 水平線はオレンジ色で 夕暮れ時みたいでした 360度です そして上方の黄昏のなかに 明るい星や惑星が出ていました 木星があり 水星があり 金星があり みな一列に並んでいました

そして この列に沿って こんなものがありました 壮麗で呆然としてしまうようなものが それは銀の糸で編まれた 冠のように見えました 輝きながら宇宙に ただ浮かんでいたのです それは太陽の外圏大気である 太陽コロナでした 写真では伝えきれません それは太陽の周りの単なる輪や暈ではなくて きめの細かい 絹糸でできたようなものでした そして普段の太陽とは全然違うものの もちろん紛れもなくそれは太陽でした 太陽があって惑星が並び 惑星が太陽の周りを 回転する様子が分かりました 私は太陽系を離れ 異界に立って 宇宙を眺めているような感じでした

私の人生において初めて その無限の空間の中で 宇宙とのつながりを 心の底から感じました 時間がとまったような 非現実的な感覚で 私がこの目で見ているものは 現実に見たというよりは 夢幻のように感じました そして私はこの涅槃に 174秒という3分にも満たない時間 留まっていましたが 突然終わりがおとずれました 太陽が急に現れ 青空が戻り 星、惑星、コロナが消えました 世界は通常に戻ったのです でも私は変わったままでした

これが私が日食マニアになった経緯です 日食の追跡者です

(笑)

このように時間と 苦労して手に入れたお金を費やしているわけです 数年ごとに月の影が落ちる場所なら どこへでも向かいます また数分間の宇宙の至福を 味わうために そして その経験を人々と分かち合うために オーストラリアの友達や ドイツの街中の皆さんとです 1999年ミュンヘンで 道路や屋上を埋めつくした数十万人の人たちと 太陽コロナが現れた時 一緒に歓声をあげました そのうちに私は変化を遂げました 日食の伝道者となったのです 何年も前に受けたアドバイスを 次の人に引き渡していくことが 私の使命だと思っています ですので言わせてください 死ぬまでに あなたは皆既日食を 是非体験すべきである 畏敬の念を感じる究極の体験です

「awesome(凄い)」 という言葉は使われすぎて 本来の意味を失っています 「awe」は正確には 壮大で崇高な何かに遭遇して感じる 驚嘆と敬服の感覚で 人生で滅多にないことです でも その経験はたいへん力強いものです 畏敬の念はエゴをなくし 私たちは つながりを感じることができます まさに共感と寛容さを促すといえます 皆既日食よりも「awesome」な ものはあり得ません

残念ながら 皆既日食を見たアメリカ人は少ないです なぜなら皆既日食が 最後にアメリカ本土をかすって以来 38年になり 最後にこの国を横断してから 99年になるからです でも それも変わろうとしています この先35年間に渡り 皆既日食が5度アメリカ本土にやって来ます そのうち3度は特に大規模です 今から6週間後の2017年8月21日

(拍手)

月の影はオレゴン州から サウスカロライナ州まで駆け抜けます 2024年4月8日には 月の影がテキサス州からメイン州へと北上します 2045年8月12日には 進路はカリフォルニア州から フロリダ州へと横断します

思うんですが その日は祭日にしたら どうでしょうか

(笑)

(拍手)

私たちみんなが一緒に できるだけ多くの人と共に 月の影の下に立つとしたらどうでしょう もしかしたら畏敬の経験を共有することで 私たちの分断は解消され お互いに もっと思いやりを持ち合うことが できるかもしれません

正直言って 私の伝道が行きすぎだと思う人もいます 取りつかれていて風変りだと ほんの短時間の出来事に なぜそこまで執着するのか なぜ世界中駆け回り 国境を越えるのか 3分しか もたないようなもののために? 申し上げたように 私はスピリチュアルな人間ではありません 残念ながら 神も信じていません 残念ながら 神も信じていません でも 自分の死ぬべき運命を思うとき 度々思うんですが 亡くした人みんなのことを考えるとき とりわけ母のことですが アルーバで畏敬の念を持った記憶が 私を慰めてくれます 自分があのビーチにいたことを思い浮かべ 空を見上げて 感じたことを思い出すのです 私の命は はかないものかもしれないが それもまた良し なぜなら 私は宇宙の一部なのだから

これが私の学んだ教訓なのですが 皆さんの人生にも当てはまるものです 経験の長さは影響力の強さと 同じではありません とある週末、ちょっとした会話 一瞬見たものさえ 全てを変える力があります 人々や自然界との深いつながりを感じた瞬間を 大切にしましょう そして それを最優先しましょう 私は日食を追いかけます あなたは別の何かを 追いかけるかもしれません でも それは 174秒間が目的ではありません 大事なのは その後に続く年月が どう変わるかなのです

ありがとうございました

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このプレゼンテーションについて

2017年8月21日、月の影がオレゴン州からサウスカロライナ州まで駆け抜け、自然界で最も壮大な光景とされる皆既日食が観測されました。日食マニアのデイヴィッド・バロンは世界中でこの珍しい事象を追いかけています。太陽コロナを目にする至福の喜びを語り、なぜあなたが皆既日食を是非体験すべきであるのか説明してくれます。

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