政府を正すには(11:51)

チャリティ・ワユア(Charity Wayua)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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ケニアで育った私は 生化学の研究をしたいと ずっと思っていました 罹患率の高いマラリアなどの病気が 及ぼす影響を目の当たりにし 病気の人を治す薬を 開発したかったのです 私は必死に努力して 奨学金を受けてアメリカに渡り そこで がん研究者となりました とても嬉しかったです 病気を治したいと考える人にとって この上なく やりがいのある仕事です。

10年後 それを実施すべく ケニアに戻りました 博士号を取得したばかりで この恐ろしい病気と闘う 準備は万端でした ケニアでは この病気は 死刑判決とほぼ同じなのです しかし私は 製薬会社や 病院に落ち着くことなく 違った種類の研究所で 違った種類の患者を治すことに 引き込まれていました その患者の病気はとても深刻で 国民全員に 影響を及ぼしており 早急に健康になってもらう 必要がありました その患者とは 我が国の政府です。

観衆:(笑)

今は 不健全な政府が多いと お思いの方も多いでしょう。

観衆:(笑&拍手)

ケニアも例外ではありませんでした 2014年にケニアに戻ったとき 若年者失業率は17%でした またビジネス中心都市のナイロビは 世界生活環境調査で 住みやすさは177位と評価されており 厳しい状況でした。

経済の健全さは それを構成する主体の健全さに比例します 従って 政府という 最も重要な主体が 弱く不健全であるとき あらゆる人や ものが 蝕まれてしまうのです 人は 怪我をした箇所に 絆創膏を貼って 一時的に痛みを止めようとします この中にも参加者が いるかもしれませんが アフリカ諸国でも 絆創膏型の事業が行われ オルタナティブ・スクールや病院 井戸などの建設がされています 政府がこれらの施設やサービスを 国民に提供しない または出来ないからです。

私たちはこれが 一時的な解決だと知っています 絆創膏では 治せないこともあります 例えば 事業をうまく始め 運営できるような 平等な機会が与えられていると 事業者が安心できるような 環境を提供することや 事業で生み出された財産を 守るための制度があることなどです 私が言いたいのは 唯一 政府だけが 経済を繫栄させるのに必要な これらの条件を作り出せることです。

起業が迅速かつ容易にできれば 経済は繫栄します 事業主は新たな収入源を作り出し 新たな雇用が生まれ 経済に加わり 支払われる税金も増え 公共事業の資金になります 新しい事業は 誰にとっても良いことです 経済成長のとても大事な指標で 世界銀行が順位付けする 「ビジネス環境ランキング」があります これは 世界各国の ビジネスのしやすさを 評価したものです 皆さんが想像するように 病んでいる政府をもつ国で 事業を展開するのは ほとんど不可能です。

ケニアの大統領は このことを知っており 2014年に研究所を訪ね 私たちに手を組むよう頼みました ケニアの経済成長の活性化を 後押しするためです 彼の掲げた目標は 野心的で さきほどの世界銀行のランキングで ケニアを50位以内にするというものでした 彼が研究所に来た2014年 ケニアの順位は 189か国中136位でした 難しい仕事が 私たちを待ち構えていました。

幸い 彼は正しい場所を訪れました 私たちは絆創膏を貼るだけの チームではありません 私たちは コンピュータ科学者 数学者 エンジニア がん研究者から成るチームです 政府ほど大きいシステムの 病気を治療するためには 全身をくまなく調べ 臓器から細胞組織にまで さらには 一つ一つの細胞にまで 掘り下げていく必要があり それにより 私たちは 適切な診断ができると考えていました。

私たちは 大統領自らの進行指示のもと 最も純粋な科学的方法に 着手しました データ収集 私たちが入手できる 全てのデータを集め 仮説を立て 解決策を生み出す これを次々に行いました。

私たちは 政府機関で働く 何百人もの人たちと接触しました 税務当局や土地管理局、公益事業会社 企業登記所などで働く人たちで それぞれが顧客に対応する様子を 観察しました そして これらの過程を ほとんど手作業で文書化しました また 彼らがこれまで作った書類を さかのぼって調査し 実際に どの機能がおかしくなり 世界銀行のランキングで 136位となってしまったのか 理解し 診断しようとしました。

結果はどうだったでしょう? 当時 ケニアでは 事業主が不動産登記を行うのに 72日もかかっていました 一方 ニュージーランドでは たった1日ででき 世界銀行のランキングで 第2位でした ケニアでは新しく電気を配線するのに 158日もかかるのに対し 韓国では18日で終わります また 建設許可を得て 建物を建て始めるのに ケニアでは125日もかかっていました 世界ランキング1位のシンガポールでは たったの26日しかかかりません ケニアで 契約の履行をめぐって 紛争解決のために 裁判所に行くなんて とんでもありません なぜなら このプロセスだけで 465日もかかるからです さらに悪いことに 訴額の40%は 手数料で持って行かれます 弁護士費用、執行手数料、法廷費用です。

皆さんが考えていることはわかります アフリカ諸国で このように 非効率なことがあるということは 汚職があるに違いないと 仕事を仕切る機関が 骨の髄まで腐敗しているのだと 実際 私も そう考えていました この仕事に着手したとき 私は 多くの汚職を 見つけるだろうと考えていました この仕事の過程で 文字通り死ぬか 殺されるだろうと。

観衆:(笑)

しかし私たちが 問題を掘り下げて行っても そこには 伝統的な意味での 汚職はありませんでした 暗闇に潜み いつ仲間を買収しようかと ギラギラしているような悪人は いませんでした ただ そこにあったのは どうすることもできない無力感でした 政府が病んでいたのは 政府職員が 無力に感じていたからでした 彼らは 自分たちには 変化を引き起こす力はないと感じていました 人は行き詰まり 無力に感じるとき 自分の役割を大きなシステムの中で 捉えることを止め 自分の仕事は変化の推進に 何の関係もないと考え始めます これが起きるとき 仕事は遅滞し ミスが発生し 非効率性が生まれるのです。

想像してみてください 今 ある手続きを 進めなければなりません ほかに選択肢はありません しかも この手続きは 非効率で複雑な上に ものすごく遅いです どうしますか? おそらく 外部で委託できる人を 探すことから始めるでしょう そうすれば 代わりに 手続きを処理してくれます もし それでもダメなら お金を払うことで 誰かに「非公式に」処理させることを 考えるかもしれません 誰にも気づかれないと 考えていたなら尚更です 悪意や私欲からではなく 単に あなたが必要なものを 確実に得ることで 先へ進むためです しかし残念ながら これが汚職の始まりです この行為が まかり通るようになると システム全体に蔓延していき 気づいたときには 機関全体が病んでいるのです。

私たちは このことを踏まえ 私たちの目指すところに向けて 連携する利害関係者の全員が 確実にビジョンを共有することから 始めることにしました ですから 一人一人と話しました 申請書の束から ホチキスの針を取り除くことを 唯一の仕事とする事務官や 法務省の法律起草者 また 行政サービスを 利用しに来た事業主を 応対する担当者など様々です 私たちは 彼らの日々の行動が 雇用創出と投資誘致する国の能力に どれほど影響を与えているか 彼らに確実に理解してもらいました 取るに足らない仕事などなく 一人一人の役割が重要でした。

すると どうなったでしょう? 変化を起こすことに高ぶり やる気あふれる政府職員たちが集まり グループを形成し 拡大していったのです 私たちは彼らと共に 改革を実行に移し これが国のサービス提供のあり方に 影響を与えました。

結果ですか? たったの2年で ケニアの順位は 136位から92位に上がりました。

観衆:(拍手)

また このような短期間で 重大な改革を実現したことが 認められて ケニアは 世界的な改革者として 世界のトップ3に 2年連続で選ばれました。

観衆:(拍手)

ケニアはすっかり健康でしょうか? いいえ 私たちにはまだ 重大な仕事が残されています 私はこの2年間を 減量プログラムのように考えています。

観衆:(笑)

ジムで過酷な運動をする あの辛い数か月間です そして あなたが初めて 体重を測るときに 9キロも痩せていたら もう自分を止められないでしょう。

さて この話は自分には関係ないと 考えている方もいるかもしれません ケニア出身ではないし 起業家になるつもりもないとか でも 私と一緒に考えてみてください あなたが最後に 政府のサービスを利用したのはいつですか? 免許証を申し込みに行ったかもしれないし 確定申告に行ったかもしれません この政治的で世界的な経済の中では 政府改革を諦めたくなるのも分かります 政府とは とても非効率で 腐敗していて どうしようもない そんな事実や考えに 屈してしまうのは簡単です 私たちは 政府の極めて重要な職務を 他のセクターに委ね 一時しのぎをすることも 諦めて途方に暮れさせることも できません しかし システムが病んでいるからといって 死にかけているわけではありません 私たちは諦めるわけには いかないのです 私たちの政府を正す取組みなのですから。

結局 何が政府を健全にするかというと 健康的な細胞である― あなた方や私が 地に足を着け 共に気合を入れ 決して無力だと思わず 必要なのは 健康な細胞が 成長し繁栄するためのスペースを 作ることだと 時に 信じることなのです。

ありがとうございました。

観衆:(拍手)

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このプレゼンテーションについて

チャリティ・ワユアは、がん研究者としての自身の能力を思いもよらない患者のために使います。それは母国ケニアの政府です。彼女は、いかに政府を手助けして、経済の健全性と成長の要となる起業手続きを大幅に改善させることで、ケニアに新たな投資を招き、世界銀行に「世界的改革国」と言わしめるに至ったのか紹介します。

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