笑わせ、そして考えさせる科学賞(13:12)

マーク・エイブラハムズ(Marc Abrahams)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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ジョージとシャルロッテ・ブロンスキーは ニューヨークのブロンクスに住む夫婦で ある発明をし 1965年に特許を取得しました。
その名も― 「出産する女性を助ける装置」です。
この装置は 大きな丸いテーブルと 附属する器具で構成され 女性が産気づくと その上に仰向けに寝かせ テーブルに固定します。そして テーブルを高速回転させると 子どもが飛び出てくるというわけです 遠心力を利用したんですね。
この特許をよく見ていただくと 特に技術的な素養や才能をお持ちなら すぐに この設計に 1つや2つ 不備があるのが お分かりでしょう(笑)

カリフォルニアのイヴァン・シュワブ博士は ある問いの答えを見つけるのに 大きな貢献をされました。
「なぜ キツツキは頭痛にならないのか?」 この答えは― キツツキの脳は 頭蓋骨の中に入っているわけですが そのおさまり方が 私たちの脳―人間の脳とは 違うというのです。
キツツキは 一般に 木をコンコンとつついて 毎日 何千回も頭を木に打ちつけます 毎日です! 知られている限り キツツキは それでも何ともありません なぜでしょう? キツツキの脳は 人間の脳のように 中で動かないのです 脳がキチキチに詰め込まれていて 少なくとも 頭の正面からの衝撃には 耐えられます。
この研究が 脚光を浴び始めたのは ここ数年のことです 特に ここアメリカで 頭を何度も打ちつける― アメフト選手の脳は どうなっているのか 関心が持たれるようになったからです。
キツツキに似ているところがあると 思われたんですね。

数年前 イギリスの 医学雑誌『ランセット』で ある論文が発表されました。
「ケガした指が 5年間 腐敗臭を放ち続けた男性」 キャロライン・ミル博士は チームで この患者を受け入れましたが どう治療すべきか見当もつきませんでした。
この男性は 鶏肉の加工作業中に 指を切ってしまったのですが その後 ひどい悪臭を放ち始めます。
彼が部屋に入ると そこにいた医者や看護師が 逃げ出してしまうほどの悪臭でした。本当に耐えがたいのです。
考え得る限りの 薬や治療を施しましたが 1年経っても まだ臭く― 2年経っても まだ臭く― そして 3年 4年が経っても まだ臭いままでした 5年後 自然と臭いはなくなりました まさにミステリーです。

ニュージーランドの リアン・パーキン博士らは 地元に古くからある習わしが妥当か 検証しました。
地元の街には 大きな丘が多数あります サン・フランシスコ級の丘です 冬には本当に寒くなり 凍てつくようになるので たくさんのケガ人も出ます。
パーキン博士らは 検証にあたり 朝 通勤途中の人たちを呼びとめて あることをしてもらいました。
2つの条件のいずれかを試してもらいます この街の習わしでは 冬は ブーツの上から靴下を 履くものとされています 実験でわかったのは― 一目瞭然なのですが― それは本当だということです。
ブーツの中より 上に靴下を履いた方が 滑って転ばずに歩きやすくなります。

さて ご賛同いただけると嬉しいのですが これまでご紹介したようなことは すべて 表彰に値します(笑)
事実 皆さん受賞されています。「イグノーベル賞」の受賞者なのです。

1991年 私は仲間とともに イグノーベル賞の授賞式を始め 毎年 10の個人・団体に 賞を贈呈しています。
選考基準はたった一つ とてもシンプルです。人々を笑わせ そして何かを考えさせたかです。

あなたのしたことで 皆が笑い そして考えるのです。何であれ ここが大事なのです 初めてそれを知ったときは ただただ笑うしかなく 一週間経っても まだ 頭の中で ぐるぐる回っていて 友だちに話したい衝動に 駆られるようなものです。
それが私たちが求めるレベルです。

毎年 私たちは イグノーベル賞の候補者として 新たに約9千名の推薦を受けます。このうち 常に10%から20%は 自薦の候補者なのですが こうした自薦候補者は まず受賞しません。
統計上 狙って賞を取るのは かなり難しいのです。狙っていなくても 数字の上では かなり難しいです。イグノーベル賞受賞者の選考について このことは 知っておいてください。

私たちは受賞者に こっそりと 連絡を入れます。この栄誉を辞退する機会を ご提供しているわけです。幸いにも ほぼ全員に 受賞をお受けいただいています。

イグノーベル賞の受賞で 何がもらえるのでしょう? いくつかあります。イグノーベル賞の正賞― [ “緊急時 ハンマーでガラスを割ること” ]。
毎年 デザインは違いますが [ “緊急時 ハンマーでガラスを割ること” ] 非常に安い素材で手作りされます。こちらの写真は 2013年に授与された賞です。

世の中では たいてい副賞として 受賞者に賞金を贈りますが 私たちはお金がないので そんなことは できません。
むしろ 受賞者には自腹で 授賞式に出席を お願いしているくらいですが ほとんどの方が 来られています。
ただ昨年は 少しお金を捻出できたので、10のイグノーベル賞 受賞者には それぞれ10兆ドルを贈りました。ジンバブエの10兆ドル札1枚です(笑)

ジンバブエは 数年の間で ちょっと激しい― インフレを経験することになり 額面が最高で100兆ドルの 紙幣を印刷するまでに至ったのです。
ちなみに ジンバブエ準備銀行の総裁は イグノーベル数学賞を受賞しています。それから受賞者には 授賞式への招待状が贈られます。
場所はハーバード大学で そこに着くと ハーバードで最大の講堂に行きます。

1100名を収容できる講堂は 人でごった返しています。ステージ上では あなたと握手をし イグノーベル賞を渡そうと ノーベル賞受賞者が待ち構えています。
これが授賞式の肝なのですが 彼らには その瞬間まで 秘密にされていて― ノーベル賞受賞者は 握手を交わしますが 発表まで相手が誰か 知らないのです。

さて これから 医学分野で受賞した他の研究について ほんの少しご紹介しましょう。
これまでの授与した賞は230ですから 皆さんの周りにも 受賞者はたくさんいます。あなたも受賞者かもしれません。

およそ30年前に「落下するココナッツによる負傷」という論文を ピーター・バルス博士が発表しました。カナダ人である― バルス博士は授賞式で このように説明しました。

若い医者だった頃 世界を知ろうと パプアニューギニアに行き そこの病院で働きました。
彼は 患者さんたちが 何が原因で病院に来たのか 関心を持ちました。記録を調べてわかったのは その病院にやってくる患者さんの 驚くほど多くの方たちは 落ちてきたココナッツで ケガをして来院していたのです。
典型的な例はこうです。ココナッツの木があまりない高地に住む人が ココナッツの木がたくさんある沿岸部の 親戚を訪ねます。
彼らは ちょうどいいと思って ココナッツの木のそばで 休んだり 寝転がったりします。でも ココナッツの木は 30メートルほどの高さに 1キロほどの実をいくつも付けていて その実はいつ落ちても おかしくないのです。

ヨーロッパの医師チームが 大腸内視鏡検査に関する 一連の論文を発表しました。
皆さん 大腸内視鏡検査はご存知ですね。いろんな方法があります。場合によっては 同時にします。
これらの論文では 同じように大腸内視鏡検査をする 医師に向けて 大腸内視鏡検査をしたとき どうすれば 患者さんが― 爆発するリスクを減らせるか 書かれています(笑)。
エマニュエル・ベン=スーサン博士は 著者の一人で パリから授賞式に駆けつけ この経緯について語ってくれました。

1950年代、大腸内視鏡検査が 一般的になりつつあったころ 誰もが よい検査方法を 試行錯誤していました。
当初はいくつか課題がありました。ご承知のとおり 基本的に 長くて狭く 暗い場所を見るのですから、スペースをもっと広げたいのです ガスを入れて ふくらませることで 中が見やすくなります。
元々 大腸内にあるメタンガスに ガスが追加されるわけですが、当初は 多くの場合 酸素が使われていました。メタンガスに酸素を追加したのです そして中を見るには 光が必要ですから 光源を中に入れました。当時の光源はかなり熱くなります つまり 可燃性のメタンガスに 酸素と熱が加えられました。

すぐに酸素の使用は止められました(笑)
患者が爆発することは まずありませんが それでも起きることがあります。

最後にご紹介する受賞研究は エレナ・ボドナー博士のものです。エレナ・ボドナー博士が発明したのは 緊急時に 素早く変形させて 一対のガスマスクにできるブラジャーです。
一つは あなたの命を救い もう一つは 幸運にも そこに居合わせた人の命を救います(笑)
そんなことする人いるものかと 思われるかもしれません。エレナ・ボドナー博士は授賞式で 説明してくれました。彼女はウクライナで育ち― チェルノブイリ原子力発電所事故の 被害者を 仲間の医師と治療してきました。

彼らが のちに発見したところによると、非常に重い医学的疾患の多くは 患者が吸い込んだ粒子が原因でした。
ですから 彼女はいつも 不測の事態が起きたとき どこでも簡単なマスクが使えるように できないものか考えていました。
数年後 アメリカに移住した彼女に 子どもができます。ある日 彼女が床に目をやると 乳児の息子が 彼女のブラを拾い上げて ブラを顔にかぶせていました それでアイデアをひらめいたのです。

イグノーベル賞の授賞式で ボドナー博士は そのブラの試作品を 実演して紹介しました。

観衆:(笑)(拍手)

[ “ポール・クルーグマン 2008年ノーベル経済学賞受賞者” ]
[ “ヴォルフガング・ケターレ 2001年ノーベル物理学賞受賞者” ]
私も 非常用ブラを持っていますよ(笑)

お気に入りのブラで 何かあったら 喜んで どなたかに1つお渡ししますよ。

ありがとうございました。

観衆:(拍手)

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このプレゼンテーションについて

イグノーベル賞の創設者であるマーク・エイブラハムズは、世界で最も風変わりな研究の数々を紹介します。この示唆に富み―時に抱腹絶倒を巻き起こすトークで、彼は、真におかしな科学の話を紹介します。そして、バカげたことこそ、科学への関心を高めるのに欠かせないのだと言います。

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