花が仕掛ける美しい罠(13:48)

ジョナサン・ドローリ(Jonathan Drori)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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花を咲かせる植物が どれぐらいあるか ご存知ですか?少なくとも わかっているだけで25万種です。25万種の植物が 花を咲かせるのです。本当に大したものです。花を作るのは 植物にとって大仕事です。大量のエネルギーと資源が必要です。なぜ そこまでするのでしょう。ありがちな話ですが 答えは性です。この写真 あるものを想起させますね。生殖が非常に重要なのは - 植物には繁殖の方法が他にもたくさんあります。 例えば挿し木は 言わば 自らと交わるようなもので 自分自身を受粉させます。 でも 他の遺伝子と受粉して 生態系への適応を進めるためには 自らの遺伝子を広く飛ばすことが必要です。進化はそのようにして起こります。

植物は 花粉を通じて 遺伝情報を伝えます。これらの写真をご存知の人もいるでしょう。家には電子顕微鏡を置くべきです。こうしたものが見られますから。 花を咲かせる植物の数と同じぐらい 花粉の種類も多岐にわたります。法医学などでも役立つぐらいです。花粉症を引き起こす花粉は ほとんどが 風を使って花粉を広める 植物のものです。とても非効率的な方法なので 私たちの鼻にもたくさん飛んできます。花粉に包まれた雄しべの生殖細胞が 偶然にでも何とか 他の花に届くようにと 膨大な花粉を送り出すのです。全ての穀物と ほとんどの木は 花粉を風で飛ばします。でも他の多くの種では 昆虫を使って受粉します。ある意味 より賢い方法です。花粉が少なくて済みますから。昆虫や 他の生き物は 花粉を身につけ 直接目的地に運ぶことができます。

もちろん私たちは 昆虫と植物の関係を知っています。ハエでも鳥でも蜂でも よく見られる関係は 花粉を運ぶ代わりに 花蜜をもらうというものです。その共生関係は 時に素晴らしい適応を生みます。これはスズメガの一種で 美しい適応をしています。植物が何かを得て スズメガが花粉を他の場所に運びます。植物は 道に迷った蜂のために あちこちに小さな着地場所を作るよう 進化してきました。多くの植物には 昆虫のように見える模様があります。これはユリの葯(やく)です。巧みに作られています。何も知らない昆虫が ここにとまると 葯が跳ね上がって虫の背中を打ちます。その虫は花粉をたっぷり積んで別の花へと行くのです。ある種のランは 顎を持っているように見えます。ある意味 本当の顎です 昆虫は這い出さねばならず 花粉に包まれて別の場所に行くことになります。

ランには 少なくとも2万種あります。本当に驚くほど多様で いろいろな仕掛けを持っています。花粉の運び手を惹きつけて 受粉しなければなりません。これはダーウィンのランとして知られています。ダーウィンがそれを見て研究し 素晴らしい予測をしたからです。ランの花から とても長い花蜜の管が 下に伸びているのが おわかりですね。ここは花の中ですが 昆虫は 小さな口吻を 真ん中に突き立てて 管をずっと下っていかないと 花蜜のところには たどり着くことができません。ダーウィンは この花を見て言いました「何かがこれと共に進化してきたはずだ」その通りで こんな昆虫がいます。通常はぐるぐる巻きの口吻ですが 真っ直ぐに伸ばすと こんな姿になります。

想像してみて下さい もし花蜜が とても貴重で 作るのが大変なもので たくさんの運び屋を惹きつけるものならば 人間の場合と同様に こんな風に欺くかもしれません。 「うちにたくさんの花蜜があるよ 来ないかい?」 ここに植物があります。南アフリカの昆虫は これが大好きで そこにある花蜜をもらうために 口吻を長くするよう進化してきました。こちらは模倣版です 先ほどの植物を真似しています。長い口吻を持つハエがいますが 模倣版の植物からは花蜜を得ることができません 花蜜を持っていないからです。ハエは 模倣の植物から 花蜜を得られないだけでなく よく見るとわかりますが 頭のところに少し花粉が付いていて それを他の植物に運ぶことになります。植物学者がやって来て 捕まえてしまわなければ の話ですが。

観衆:(笑)

欺きは植物界の至る所で行われています この花には黒い点々があります 私たちには黒い点に見えますが ある種の昆虫のオスには 可愛くて追いかけ甲斐のある 2匹のメスのように見えます (笑) オスがやってきて とまると 花粉の中に突っ込んで もちろんそれを運ぶことになります 「一家に一台の電子顕微鏡」で撮った写真を見ると あるパターンが見えてきます 三次元のパターンです それは見栄えが良いだけでなく 昆虫を心地良くさせるのでしょう。

こうした電子顕微鏡の写真から - このランは昆虫を模倣していますが - 私たちの目には 植物は部分ごとに 違う色と質感を持っているように見えますが 昆虫は 随分と違った質感を 感じているかもしれません この植物は ある種の甲虫のような 光沢のある 金属っぽい表面を模倣しています 走査型電子顕微鏡を使うと 表面はこんな感じに見えます 甲虫の表面とはずいぶん違います 時には 植物全体が 私たちの目にも 昆虫のように見えることがあります これは飛んでいる動物のように見えます 素晴らしいですね。

これはオンシジュームという賢い植物です 油断のならない花です この花は ある種のハチにとって 別の獰猛なハチのように見えるので 追い払おうと何度も頭をぶつけてきて 花粉だらけになります 他の例を挙げると この植物は 昆虫が好きな 食べ物をたくさん蓄えている 別のランを模倣していますが 自らは昆虫に何もあげません 2段階でだましているのです 素晴らしい。

観衆:(笑)

イランイランノキです いろいろな香水に使われています 先ほど 誰かからこの匂いがしました 花はそんなに派手でなくてよいのです 昆虫に向けて 素晴らしい香りを放っています この花は そんなに良い香りではありません 本当に嫌な臭いがして 死肉のように見える姿に 進化してきました ハエはこれが大好きで 花に飛び込んでは受粉させます このツイストアラムは 「死んだ馬アラム」とも呼ばれています 死んだ馬の臭いは知りませんが それと似たような臭いがするのでしょう ひどいものです クロバエはたまらなくなり この花に飛び込んで ずっと中に潜り込み よい死肉だと思って 卵を産みつけますが 食べるものがないので 卵は死んでしまいます 一方で植物は恩恵を受けます 毛が開いて ハエは次の花へと飛んで 受粉させてくれるからです - 素晴らしい。

これはマムシアルムで 「ロード&レディ」や「カッコー・パイント」とも呼ばれます 先週ドーセットで撮った写真です この植物は 周囲より 15度ほども高い熱を発します 驚くべきことです 見下ろすと 花軸の小さな花のところにダムのようなものがあります ハエが熱に惹かれてやってきます 熱が化学物質を発して ハエはこの入れ物に捕われます そしておいしい花蜜を飲み 体がネバネバしてきます 夜には 降り注ぐ花粉に 体が覆われ さっき見た毛がしぼんで 花粉に覆われた虫は外に出ることができます 素晴らしい仕組みです。

そして私のお気に入りがこちら フィロデンドロン・セロームです ブラジル出身の方はこの植物をご存知でしょう これは本当にすごいんです このペニスのようなものは 30センチほどの長さがあり 私の知る限りでは 他のどの植物もしないようなことを行います 花が咲くときに - 真ん中にあるのがそうです - 2日間に渡って まるでほ乳類のように 新陳代謝をするのです 植物にとっての食べ物である でんぷんの代わりに この植物は脂肪のようなものを摂取し 小さな猫が 脂肪を燃やして代謝するのと 同じぐらいの速度でそれを燃やします 重さが同じだとすると ハチドリの2倍のエネルギー出力です 全く驚かされます とても変わったことをしています 2日間に渡って 摂氏44度ほどまで自らを熱くするだけでなく その温度を一定に保ちます 熱を管理するシステムを持っているので 温度が一定になるのです どうしてこんなことをするのでしょう? 多分知らないと思いますが ある種の甲虫は この温度での交尾を好みます 中に入ると 準備万端なのです (笑) そして植物は虫に花粉を浴びせかけ 外に出た虫は別の花に受粉します 何と素晴らしいことでしょう。

受粉の媒介をするものとして思いつくのは 大抵が昆虫ですが 熱帯では 鳥や蝶も受粉を取り持ちます 熱帯の花は多くが赤い色をしています 蝶や鳥は 私たちと同じように 赤がよく見えるからです でも光の波長で考えると 鳥や人間は 赤 緑 青を見ますが 昆虫は 緑 青 そして紫外線が見えます いろいろな色調の紫外線です 私たちには見えない何かを見ているのです それが何なのか 見たいでしょう ええ 見ることができます 昆虫は何を見ているのでしょうか? 先週ドーセットで ロックローズ つまり ハンニチバナを写真に撮りました どこにでもあるような 小さな黄色い花が 一面に咲いています 可視光の下ではこう見えます 赤色を除くとこうなります ほとんどのハチは赤が見えません それからカメラに紫外線透過フィルターをつけ 特定の紫外線の波長を 長時間露光すると こんな写真ができます ねらいを定める場所が一目瞭然です。

ハチの目に映るものを 正確に知ることはできません 私がこれを赤と呼ぶ時に 何を見ているのか 正確には知ることができないのと同じです 人の心も読めないのだから 昆虫の心は なおさらわかりません でも色のコントラストはこんな感じに見えるでしょう 後ろの方がたくさん立ち上がっていますね ここに別の小さな花があります 紫外線の波長が違うので 受粉の媒介者の目で見るには 別のフィルターが必要です こんな感じに見えるはずです 黄色い花は全て このような特徴を持っていると思うかもしれませんが - 撮影は花を傷つけないように行いました ただ三脚に取り付けただけです 抜いたり切ったりはしていません - それで 紫外線を当てた この写真を見て下さい 日焼け止めの成分にも使えそうです 紫外線を吸収すると 日焼けを防げますから この花の化学物質は役に立つでしょう。

最後に この月見草は ノルウェーの ビョルン・ロースレットからもらいましたが 隠れたパターンを持っています 隠れたものには心惹かれます 詩的なものを感じます 紫外線透過フィルターで撮った写真です このフィルターは 宇宙飛行士が 金星の写真を撮るために使います 正確には金星の雲です それが主な使われ方です 知っての通り ビーナスは愛と豊穣の神で それは花にも通じます 花は多大な努力を払って 受粉の媒介者を呼び寄せようとしますが 人間は 花を広大な大地いっぱいに植えたり 生まれる時や死ぬ時 そして特に結婚の際に 花を贈ったりします 結婚というのは 遺伝物質の移動経路を ある生命体からもう一つの生命体へと 定めることなのです。

どうもありがとう。

観衆:(拍手)

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このプレゼンテーションについて

見事な画像を使ったこのトークでジョナサン・ドローリが語るのは、地上に25万種類以上も存在するという「花を咲かせる植物」がいかにして昆虫を惹き寄せて花粉を運んでもらえるように進化してきたのかということです。”着地場所”を設けて昆虫を招いたり、紫外線に輝く色合いを纏ったり、手の込んだ罠を作ったり、発情期の昆虫のそっくりさんになったり、その方法は様々でした。

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