初めて選挙を行う国での予期しなかった挑戦(10:51)

フィリッパ・ニーヴ(Philippa Neave)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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偉大な哲学者 アリストテレスは言いました 存在しないものに与える言葉はない ゆえに言葉が与えられないものは 存在しないのだと 選挙について言えば 民主主義が確立した社会にいる私たちは 選挙が何なのかわかっています 選挙に関する言葉があり それを知っており 投票所が何か 投票用紙が何かも知っています では 民主主義が存在しない国では どうでしょう 民主的な社会を築くために 必要な概念を表す言葉がない国のことです。

私は 選挙支援の仕事をしています 新たに民主主義が芽生えた国々に行き 選挙の運営をサポートしています 多くは その国で初めての選挙です 仕事のことを話すと よく こんな風に言われます 「つまり あなたは世界中を行脚して その国の人々には扱いきれない― 西洋の民主主義を押し付ける 例の人々の一員ですね」と 国連は 誰にも何も押し付けたりはしません 本当です 私たちのやっていることは 1948年に採択された 世界人権宣言の21条に しっかりと裏付けされたものです 「すべての人々は 政府を選ぶ権利を持っている」。

これが私たちの仕事の基礎です 私はパブリック・アウトリーチが専門です 専門用語なので ご説明しましょう 簡単に言うと 情報を伝えるための活動を デザインするという事です それによって 選挙の経験がない候補者や有権者に いつ どこで どのように登録すればいいのか いつ どこで どのように投票すればよいのか また 投票がなぜ大切なのかを 伝えるのです 私は女性に向けた活動も考えています 彼女たちに 選挙に参加できるんだと その権利があるんだと 知ってもらいたいからです 若い世代にもです 障がいのある人も 全ての人に知ってほしいのです 私たちはそんな思いで働いています。

それは必ずしも簡単なことではありません 何年もこの仕事に携わって 何度も直面していることですが 伝えるための言葉が足らないのです では どうしたらよいのでしょう?

アフガニスタンの例です アフガニスタンは 識字率が非常に低い国です そこで難しかったのは 2005年のことですが 私たちは1日に 2つの選挙を行ったのです なぜなら 物流管理が非常に難しく それが効率的だと考えたからです その点では成功でしたが その一方で 同時に 2つの選挙を人々に説明するのは いっそう大変なことでした そこで このように絵をたくさん使いました でも実際の投票になると 問題が発生しました なぜなら とても多くの立候補が あったからです 1つ目の選挙では 52議席に対して 300名の立候補がありました 国民議会の下院 人民議会(ウォレシ・ジルガ)の選挙です さらに 県議会の立候補者はなお多く 54議席に対して330名でした そのため投票用紙のデザインも こんな風になりました 新聞紙くらいの大きさです これが人民議会の投票用紙です (笑) そして これが県議会の投票用紙です さらに多いですね このように 記号などを沢山使って 判りやすくしました。

南スーダンでは 違った問題に直面しました 他の国とは まるで違っていました 当然 投票なんてしたことがない人ばかり そして識字率はとてつもなく低く インフラはあまりにも貧しいものでした 例えば 南スーダンの面積は だいたいテキサスぐらいです なのに 舗装された道が 7kmしかないんです 全国でたった7kmです しかも 私たちの飛行機が着陸した ジュバ空港の 舗装された滑走路の長さを含めてです だから選挙の資材を運ぶにしても とんでもなく労力が要るんです 人々は 投票箱がどんなものかも 知りませんでした これからするのは とても複雑なことでしたから 言葉でのコミュニケーションが不可欠でした しかし この国には 132もの言語があったのです それは途方もない挑戦でした。

2011年には チュニジアに行きました 「アラブの春」の時期でした その地域では 大規模なデモ活動が展開され 人々に新たな希望を与えていました リビア、エジプト、そしてイエメンでも起こり まさに巨大な歴史の転換期でした 私たちは選挙委員会と膝を突き合わせ 来るべき選挙について 様々なことを語り合いました そこで彼らは 私の聞いたことのない 用語を使っていました イラク人やヨルダン人、エジプト人と 仕事した経験があるのに ふいに知らない用語に出くわしたのです 私は思いました 「なにか おかしいぞ」と きっかけは 「監視人(Observer)」に 当たる言葉でした 私たちが 選挙監視人について 議論していた時 選挙委員長が「監視」をアラビア語で 「ムラハズ」と表現しました 「気づく(Notice)」という意味ですが 受け身のニュアンスがあります でも 例えて言うなら 彼のシャツが青色なのに「気づく」のではなく 青色なのか そうでないか 自ら行って ちゃんと確かめるのが 選挙監視人の役目ですよね それはとても積極的な役割です あらゆる選挙規約に従い 選挙を監督する機能を持ちます さらにエジプトでも 新たな事実に気が付きました 彼らは監視人を「ムタビ」と呼びます 「従う(Follow)」という意味です 「監視人」が 「従う人」と表現されています これも正しいとは言えません すでに受け入れられ 使われている表現があるからです それは「ムラキブ」です 「監督者(Controller)」という意味です これは正しく概念を押さえています 1つのことを三者三様 別の言葉で表すのは よくないことです 私は同僚たちと一緒に考えました 言葉が歪みなく伝わるように 手助けすることが 私たちの役割なのではないかと そのために アラブの地域の人々が参考にできる 用語集を作ろうと思い立ちました。

そして 実行に移しました 同僚たちと協力し 「アラビア語選挙用語集」を 作ることにしました 私たちは8ヶ国で作業を進めました 民主的な選挙を行う場合に 知っておくべき知識の基本となる 481個の用語を選び それらを定義しました そしてアラブ人の同僚と協力し どのアラビア語を充てるべきか 話し合いながら決めていきました アラビア語が非常に豊かであることも 問題の一つでした ただ アラビア語は 22ヶ国で話されていますが もちろん標準語があります 標準語はアラブ地域全体で使われており 新聞やテレビなども標準語です とはいっても 国が異なれば 日常で使われている言語ですから 方言も 口語表現も 異なるのは仕方がありません その状況が 問題をいっそう複雑にしていました これはある面において 言わゆる 言語の未成熟さの問題でした 新しい言葉 新しい表現が 次々と誕生していたのです。

私たちは 用語を定義していきました アラブ各地に 8名の現地スタッフがいたので 原稿を送って チェックをしてもらいました 「この定義は理解できますし 賛成です でも 私の国ではこう表現します」 私たちの目的は用語の統一や それを強制することではなく お互いの理解を深める 手助けをすることでした ですから 例えば この黄色の部分には 各国で使われている異なる表現を 載せています。

3年かけて これが完成したことを 嬉しく思います 原稿を仕上げて 実際に現場に持っていき 各国の選挙委員会のメンバーと 議論し推敲を重ねて 2014年11月に カイロで出版に至りました 反響は大きく 今日までに1万部が出版されました 3千部のPDFがダウンロードされました 最近 ある同僚から連絡がありました ソマリアでも これを使うことを決め この用語集のソマリア版を作るそうです ソマリアには選挙用語がないからです とても嬉しい知らせでした そして 新たに発足した 「アラブ選挙運営組織」では アラブ地域での選挙の運営を 整備する活動を行っています そこでも この用語集が使われています 最近では アラブ連盟が立ち上げた 「全アラブ選挙監視ユニット」でも この用語集が使われています とても嬉しく思います。

この用語集の内容はとても高度です 複雑で 多くの専門用語を含みます 普通は この中の 3分の1も知っていれば十分です でも 中東の人々は 私たちが受けるような あらゆる市民教育の機会を 奪われてきました 私たちは学校で習うことですが 中東では本当に そういった教育はないのです 私は 選挙について知ることは 全ての人の権利だと思っています だから 一般の人向けの 選挙用語集もあったら良いのではと 考えているところです 私たちには それをするための 基礎がすでにあるわけですし さらにテクノロジーがあります 通信アプリで コミュニケーションがとれます ビデオやアニメーションもあります そのようなツールを駆使して これらのアイデアを 初めて彼らの言語で 伝えることができるのです。

中東での 多くの悲惨な出来事や 混迷極まる戦争や テロの脅威や 宗派間の争いといった暗いニュースを 聞かない日はありません ですが 現地の普通の人々の考えは 私たちに聞こえてきません 人々は何を望んでいるのでしょう? 彼らに手段を 言葉を 与えましょう 物言わぬ多数派の声が届かないのは それを表現する言葉がないからです 物言わぬ多数派は 知るべきです 今こそ 彼らが新たな知識を取り込むための ツールを提供する時です。

彼らが黙り続ける必要などありません 彼らが声を上げるため 力を貸しましょう。

ありがとうございました。

観衆:(拍手)

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このプレゼンテーションについて

これまで選挙をしたことのない国の人々に、投票のやり方を教えるとしたらどうしますか? これは、民主主義が芽生え始めた国々で直面する大きな課題です。そして、その最大の障壁の一つは、選挙について伝えるための言葉が存在しないことです。どんなことも、それを説明する言葉がなければ理解することはできません。この示唆に富むトークでは、選挙の専門家であるフィリッパ・ニーヴが、民主主義の最前線での経験を交えながら、選挙にまつわる言葉の溝を埋めるための解決策について語ります。

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