2015年「パリ協定」に至るまでの歩みと裏話(14:51)

クリスティアナ・フィゲレス(Christiana Figueres)
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対訳テキスト
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私たちに楽観主義が必要な理由が もう1つあります。気候変動です。信じられないかもしれませんが 事実を言いましょう。

2015年12月12日のこと パリにて 国連の名のもとに集った195ヶ国の政府が 満場一致で――政府に関わった経験があれば どれだけ難しいことかわかりますね―― 195ヶ国の政府が満場一致で 世界経済の流れを変えて 最も弱い立場にいる人々を守り 人類全体の生活水準を上げる という構想を採択しました。見事な成果だと言えます。

観衆:(拍手)

しかし この成果は ほんの数年前の状況を考えると さらに凄いことであるとわかります。2009年 コペンハーゲン会議を 憶えている方いますか? 当時、気候変動に関する合意を目指し 何年も努力した結果、今回と同じ政府が コペンハーゲンに集結しましたが 結果は惨めなものでした。

なぜそうなったのかって? 理由は様々ですが、主に 世界に根深く染み付いた 南北世界の分離が原因です。この失敗から6ヶ月後、私は 世界気候変動に関する交渉を 率いる役に任命されました。新しい仕事を始めるタイミングとして これ以上のものはありませんよね。気候変動に対する 世界の意識はひどいものでした。国際協定が可能になる日が来るなど 誰も信じていませんでした。事実 私もその一人でした。TEDという素晴らしい場の外には 口外しないと約束いただけるのなら、幸いにも歴史に残らなかった ある秘密を明かしましょう。
就任してから初の記者会見で こんな質問がありました「フィゲレス事務局長、全世界の合意が達成されることは この先あり得ると思いますか?」すると私は 思わず こう口走ったのです。

「私が生きているうちは無理ね」

この狂ったコスタリカ人の 新しい女上司に 恐れおののく広報チームの引きつった顔は ご想像に難くないでしょう。私自身も恐怖を感じました。自分自身に対してではありません。こんな自分には慣れてますから。何が怖かったかって、たった今自分が言ったことの結果、我々の子供たち全員が 生きていかなければならない世界に これから起きることの深刻さです。正直言って、私にとって 最悪の瞬間でした。ちょっと待って 今のはナシ! と思いました。「無理」という言葉は 事実を指すのではなく、発言する人の態度です。単なる態度であるに過ぎません。私は その時その場所で 自分の態度を改めよう、気候変動に対する世界の態度を 変えるために尽力しようと決めました。

ここで少し 想像してみてください。もしも仮に 地球を救うのが仕事だと言われたら あなたならどうしますか? ご自分の職務責任に 加えてみてください。この仕事では 一切の責任が自分にあり、しかし権限は一切ないのです。あらゆる意思決定において 決定権は各政府に委ねられていますからね。

皆さんならどうするか ぜひ知りたいものです。仕事初日の月曜日に 何をしますか? 私は――パニックに陥りました

観衆:(笑)

一息ついて やはり取り乱しました。この問題の解決法が全くわからない ということに気づいたからです。でも 解決法は全くわからないけれど、1つだけわかることがあるとも気づきました。気候変動に関する談話の雰囲気を 変えなければいけないということ。楽観なしでは 勝利は絶対に 得られないものだからです。

ここでは 単純に「楽観」と称していますが、この言葉を より広義で捉えてみましょう。この言葉に 勇気、希望、信頼、結束 という意味合いも含め、人類の運命を変えていくために 一致団結し助け合うことは可能だと 根本的に信じることも「楽観」の解釈に加えましょう。こういう解釈がなければ コペンハーゲンで起きた膠着状態から抜け出すことは できないと思いました。それから6年間、私は頑なに ひたすら 制度に楽観主義を注入しました。報道陣からの質問が何であっても。私の質疑応答も上達しましたよ。その逆がどれだけ証明されても 構わずにです。それはもう 悲観的な証拠は たくさんありますからね。それでも ひたすら 楽観を説き続けました。

すると間もなく 様々な分野で変化が 見られるようになりました。何千人もの人々の力によるものでした。この会場にも たくさんいらっしゃいます。そんな皆さんに感謝です。TEDの皆さんは きっと 目覚ましい変化を見せた最初の領域が何か 予想がついていることでしょう それは・・・ テクノロジーです。クリーン・テクノロジー、特に再生可能エネルギー技術では 価格が手頃になり、できることも増えてきました。おかげで、こんにち 既に建設が始まっている太陽熱発電所には都市全体の電力をまかなう力があります。スマートビルディングや モビリティ(交通手段)の改善努力も 忘れてはなりません。技術面でのこの進歩のおかげで 我々が理解できるように なってきたことがあります。経済の方程式が変化したということです。なぜなら 我々の 認識が変わったからです。確かに気候変動は 巨大なコストをもたらし、確かにリスクは増幅していますが、経済的な利点や 本質的な利益もあります。クリーン・テクノロジーの普及で 空気がきれいになり、人々は健康になり 交通が発達し 都市は住みやすくなり 電力の供給力が向上し 発展途上国での 電力普及率も高まるからです。まとめると、今の世界より 良くなるということです。

これを理解したうえで— 皆さんの中には 当事者もいるでしょう— 創意工夫や興奮が広がっていく様子を 実際に見てきたはずです。まずは地方自治体に始まり 民間セクター、産業のトップ、保険会社や 投資家、市のリーダーたち 宗教界などに広がったものです。こういった人々全てが この取り組みを自分ごととして捉え始め、自分たちにも有益な取り組みだと 理解し始めたからです。

この熱気は 意外な人たちにも伝染しました。例えば 巨大な石油・ガス会社のCEOが 去年の初めに会いに来て こう言いました――当然 非公式にです。
「我が社をどうやったら 変えられるのかはまだわからないが 変えると決めました。事業を長い目で見据えることが 大事だと考えています。」このように 経済の方程式も変わりました。これに続き、世界中の広い支持によって 各国政府も まもなく目を覚ましました。気候変動は自国にとって重要だと 気づいたのです。そして、各国に対して、自国の利益に基づいて 世界中での取り組みに どのような貢献ができるかを たずねたところ 195国中 189国が 気候変動計画を送ってくれました。その国の利益に基づき、その国の優先事項と一致し その国のサステナブル(持続可能)な 発展計画と矛盾のない内容でした。

さて、各国が国家としての 主な利益を守れるとなって 初めて、共通の道のりに向かって 足並みを揃える準備ができたのでした。おそらく数十年越しにはなりますが、その数十年で 新しい経済が実現します。炭素燃料を抜け出し 逆境に強い経済になるのです。現時点で 現在各国が 設定している削減目標は、気候を安定化させるためには 不十分ですが、これはまだ第一歩に過ぎず、これから改善していくでしょう。各国による努力の 測定、報告、証明には 法的拘束力があります。我々がこれから5年ごとに 今回定められた目標に向けて 全体での進捗確認を行っていく指標にも 法的拘束力があり、炭素燃料から脱却し、これまで以上に 逆境に強い経済を作るまでの道のり自体にも 法的拘束力があるのです。

そして ここからが大事な部分ですが、今までは ごく一握りの国々が ごくわずかな 短期間の 排気削減公約を実行するのみで、全く不十分であったのみならず、大部分において 重荷であると 受け取られていました。これからは 世界中全ての国が それぞれ異なる度合いで 産業ごとに異なるアプローチを 採りながらも、全国家が共通の目標に向けて貢献し 地球環境を守りながら 堂々と前に進みます。これらが一旦出揃って 皆の考え方が変わったからこそ、各国政府はパリに出向いて パリ協定を採択することができたのです。

観衆:(拍手)

さて 振り返ると、この6年間の中で私の目にまず浮かぶのは パリ協定が採択された日のことです。その場に溢れていた歓喜は言葉では表し尽くせません。5千人が席から飛び上がって、泣いたり、拍手したり 叫んだり、怒鳴ったり、歓喜と 信じがたいという気持ちが 入り混じっていました。本当にたくさんの人々が 何年も力を尽くしてきたことが やっと現実になったからです。

直接関わった人々以外にも 変化が現れました。何週間か前に 同僚が、愛する妻へのプレゼントにと タヒチ産のパールを選んでいました。やっと決まって いざ買おうとしたら店員がこう言いました。「今 お買い求めになって 大正解ですよ。気候変動のせいで この真珠が まもなく絶滅するかもしれないのです」店員は続けて、「でも ご存知ですか。つい最近 政府間で起こった 決定事項のおかげで 絶滅を免れるかもしれません」なんと素晴らしい証でしょうか。多分、おそらく希望が――チャンスが残っているという証です。これから先やることは山積みだと私が一番わかっています。気候変動への対策は 今始まったばかりです。事実、我々の努力を 確実に、特に向こう5年間は 倍増しなければなりません。重要な5年間ですから。しかし 過去6年の間に、当初は不可能だったことが 今や止まらない勢いになりました。これを可能にしたのが 楽観主義です。楽観によって 対立姿勢が協力体制に変わり、国家や地域の利益と世界のニーズは 必ずしも相反するものではないと理解し、そう理解することで、両方を引き合わせ 調和のもとに一つにできるという 認識が生まれました。

この先を見据え、今世紀我々が注意を向けるべき 他の地球規模の問題――つまり、食糧問題、水の問題、住宅問題、強制移住などの問題を考えるとき確実に言えるのは、これらの問題の解決法が まだわからないということです。しかし 気候変動で成し遂げたことを 参考にすることはできます。そして、誰かが得すれば誰かが損するという ゼロサム的な考え方――人類が今まで教え込まれてきた、勝ち負け的な考え方を改めるべきであると 気づくことでしょう。この地球が我々によって 限界にまで疲弊してしまい、更に 人同士の繋がりが 希薄になりながらも、それでいて相互依存性が 高まりつつある今の世の中、もはや誰かの負けが 誰かの得になることはありません。皆が敗者となるか、皆が勝者となり得るか、このどちらかです。しかし、共に勝ちを選ぶか 負けを選ぶかは我々次第です。全員の利益を失うか、共に生きるため 力を合わせて 益を得るかを決めねばなりません。一度やり遂げたのですから、再びできるはずです。ありがとうございました。

観衆:(拍手)

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このプレゼンテーションについて

自分の仕事が地球を救うことだと言われたら、どうしますか? 2015年12月開催の国連気候変動パリ会議(COP21)を率いる役目に任命されたとき、クリスティアナ・フィゲレス事務局長は当初、誰にでもありがちな反応をしました。195ヶ国のリーダー達をまとめ、温暖化対策の合意にこぎつけることは不可能だと考えたのです。フィゲレス事務局長がどのようにして、自身の疑う心を楽観に切り変え、気候に関する歴史上最も重要な合意の世界的な達成に貢献するまでに至ったか、お聞きください。

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