探検家が必要な理由(16:29)

ブライアン・コックス(Brian Cox)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私たちは経済的に困難で 努力を強いられる時代を生きています。経済的に厳しいときに まず影響を受けるものの一つが 公共投資だと思いますが、現在 しわ寄せを受けているのが 科学における公共投資です。特に好奇心にかられた科学や探求があてはまります。それがどんなに不合理なことなのか、15分間で皆さんを 説得したいと思います。

状況を把握していただくために お見せしたいスライドがあるのですが、TEDでこれほど見劣りするスライドは初めてかもしれません。ぐちゃぐちゃなもので…(笑) 実は ガーディアン紙から拝借した図で、科学にかかる費用が うまく描かれています。好奇心にかられた科学や探索に 投資すべき理由を説明するには、必要な費用を お伝えするべきだと思いました。科学に充てられる費用はどれでしょう。これは英国政府の支出額で、年間約6,200億ポンドです

科学に充てられる費用は 左に 紫や黄色の丸がありますが、そのなかの 小さな黄色い丸のひとつが 科学に充てられる費用です。6,200億ポンドのうち 年間約33億ポンドです。英国のすべてのものを資金供給します。医療研究や宇宙探査、私が働くCERN(セルン)での粒子物理学研究、工学関連や 人文科学でさえ 科学の予算内に入ります。予算は33億ポンドで、画面の左上に見える オレンジの丸の脇にある 黄色の丸で示されています。これが我々が論じるものです。ちなみに、割合はアメリカや ドイツ フランスとほぼ同等ですが、公共費用で賄われている― 開発研究は GDPの約0.6%です。これが我々が論じるものです。

まず私が言いたいのは、私が出演したドキュメンタリー番組を見れば分かりますが、太陽系や宇宙を探索することで そのとてつもない美しさがわかりました。この画像はカッシーニが 土星の近くから送ってきたものです。私たちが番組を収録した後だったので、番組の中には含まれていません。これはエンケラドスです。左に見える白くて 大きな球体は土星です。実は写真の背景が土星で、三日月に見えるのが イギリス諸島ほどの大きさのエンケラドスです。直径は約500km。小さな衛星です。この写真に 加工はしていません。土星の軌道から直に来た白黒写真です。

この写真の美しさは へりの部分から かすかに見える筋状の煙です。ドキュメンタリー番組では このように描かれています。美しいイメージです。この筋状の煙の正体は 小さな衛星の表面から 噴出している氷です。これだけで美しい光景ですが、この氷を噴出させるにはエンケラドスの地下に 液体の水があると 考えられています。その何がすごいのかと言うと、地球では液体の水が ある場所ならばどこでも 生命が宿っています。ですから、地球から12億kmも離れた衛星の地下に液体があると 強い証拠が得られるのは 目を見張ることなのです。つまり 太陽系で 生命が宿れる環境かもしれないということです。今のはCGですので、もう一枚 エンケラドスをお見せします。カッシーニが下を通ったときの写真です。ゆっくりとエンケラドスの数百km上空を通りました。これも氷が噴出している本物の写真です。息をのむ美しさですが――

太陽系に生命体が存在する最有力候補はおそらく、木星の衛星、エウロパだと言えます。木星システムまで飛んでいき、この衛星が ただの石ではないことを確かめました。エウロパは氷の衛星です。画面では表面しか見えませんが、氷は おそらく何百kmもの厚さがあります。エウロパが木星の磁場と相互作用する仕方を 測ることによって、また 氷の割れ目が 動いているのが画像でもわかることから、我々の推測では、エウロパの表面全体が 液体の海で覆われていると見ています。氷の下に 衛星全体を覆う液体の海があって、何百kmにもなると考えられています。その液体は塩水で 地球の全海水量よりも多いと 考えられています。ですから 木星の小さな衛星エウロパが、我々が知る衛星や地球以外で生命が発見される最有力候補なのです。実にすばらしい発見です。

太陽系探査により 太陽系の美しさがわかりました。また 宇宙で我々以外に生命体が存在するのかという深遠な疑問の答えを見つける手助けにもなったかもしれません。探求や科学には 不思議の追求以上の 意味があると言えます。これは非常に有名な写真で、私にとって初めてのクリスマスイブ、1968年12月24日に撮られたものです。私は生後8か月でした。アポロ8号が月の裏側に行ったときに撮影された、月面から昇る地球です。1968年を救った写真だと多くの人が言う有名な写真です。緊迫した年だった1968年は、パリの五月革命が起き、ベトナム戦争の真っ最中でした。多くの方が この写真を語る理由は、アル・ゴアがTEDで何度も言っていますが、おそらくこの写真が環境運動の始まりだったからです。私たちが初めて地球を見たからです。それはがっしりと動かない不滅の場所ではなく、とても小さくて脆弱そうに宇宙の暗闇に浮かんでいる姿でした。

また あまり触れられていませんが アポロ計画による宇宙探査は 経済に大きく貢献しました。宇宙探査が偉大な業績となり、このような写真が撮れたのは 素晴らしいと 主張できますが、巨額の費用もかかりました。実は、アポロがもたらした経済効果を巡って 多くの研究が行われました。最大の研究は1975年に行われ、アポロに費やされた1ドル毎に対して14ドルが 米国経済に還元されたとの結果が出ました。ですから アポロ計画は インスピレーションや 工学技術の進歩や 若手の科学者やエンジニアたちを刺激することで 14倍もの利益を生みました。探索は元がとれるのです。

科学的発見や技術革新を駆り立てる角度から見てみましょう。何の意味もないように見えるこの写真は 水素のスペクトルです。1880年代や1890年代には、たくさんの科学者や観測者が 原子から出る光を観察し こんな奇妙な写真が撮れました。プリズムを通すと分かるように、加熱された水素は単に白一色に 光るのではなく 決まった色をした光を放ちます。赤や 薄い青や 濃紺の光です。これが原子構造の説明につながります。原子には 中心に核があり、電子が周りを回っています。電子が存在できる場所は限られています。近くの軌道に移動して 元の軌道に戻ってくるとき、決まった色の光を放ちます。

ですから原子は熱せられると 個々に決まった色の光を放出します。それが原子構造を 説明する量子論の 発展を導いた推進要因のひとつでした。これは注目に値する写真です。太陽のスペクトルですが これは光を吸収している、太陽周辺の大気の中にある原子の写真です。繰り返しますが 電子の周回軌道が変わるとき 決まった色の光を吸収します。スペクトルの中の黒い線の数を見てください。ヘリウム元素は 太陽の光を観察するだけで発見されました。このような黒い線が 未知の元素を表しているからです。そこからヘリウムの名がつきました。太陽の神ヘリオスからついた名前です。

難解な響きですが 実際に難解な調査でした。しかし 量子論によってすぐに 物質中の電子の性質が明らかになりました。例えばシリコンなどの物質です。トランジスタをつくれるのですから シリコンの振る舞いは 完全に量子論に従っています。ですから好奇心のままに 原子構造を理解しようとしなければ 量子力学は生まれなかったでしょうし。トランジスタもシリコンチップも生まれず、現代の経済を支える基盤となるものは 生まれなかったのです。

この話には意外な展開がもうひとつあります。私たちがつくった番組の中で 物理の法則は普遍だと強調し続けました。物理学の素晴らしさのひとつは、地球上の ものの特質を理解すると、他の惑星に限らず もっとも離れた星や 銀河にも応用できることです。原子の構造を見るだけで 得られる量子力学の 驚くべき予測のひとつは、トランジスタを説明する同じ理論ですが、太陽の1.4倍以上の 質量がある星で 寿命を全うした星は存在しないことです。星の質量に課せられた限界です。望遠鏡で空を観察すれば、太陽の1.4倍以上の質量で 死んだ星はないことを 調べられます。非常に驚くべき予想です

それだけの質量をもつ星があった場合、このようなものが見られます。銀河系に似た銀河の写真です。太陽のような星が 1兆も存在します。宇宙にある何十億もある銀河のひとつです。銀河核には何十億もの星があるので こんなに明るく輝いているのです。これは約5千万光年離れている、私たちの近くの銀河のひとつです。でも そこにある明るい星は その銀河に属する星で その星も 5千万光年離れています。その銀河の一部で 何十億もの太陽を含み、銀河の中心であるかのように 輝いています。1a型の超新星爆発です。これは驚くべき現象です。そこに存在するのは、炭素と酸素で構成された矮星で、質量は太陽の約1.3倍です。周囲を回る 連星が存在します。大きなガスの星です。その連星から ガスを吸い取り、チャンドラセカール限界がくると 爆発します。太陽の十億倍もの明るさで約2週間 輝いて、宇宙に莫大の量のエネルギーと 化学元素を放ちます。それが炭素と酸素で構成された矮星です。

ビッグバンが起きたとき、宇宙には炭素と酸素は存在せず、第一世代の星に 炭素と酸素はありませんでしたが、星の中で炭素と酸素が生成され、凝集した状態から このような爆発で宇宙に戻り、惑星や星や新しい太陽系を 形成して 人間を生み出しました。これは 物理の法則がもつ力や特長や普遍性の見事な証拠だと思います。なぜなら 地球で原子の構造を理解し 超新星のプロセスを 理解できるからです。

思わぬ偶然を語るアレクサンダー フレミングの言葉を紹介します。“1928年9月28日の明け方に 目を覚ましたとき、世界初の抗生物質を発見することで すべての薬に大変革を起こすつもりはなかった” 原子の世界を追究する人たちは、トランジスタを発明するつもりはありませんでした。彼らは超新星爆発の仕組みを 説明するつもりは もちろんありませんでしたが、結局 その仕組みによって 宇宙における生命の成り立ちが 説明されることになりました。よって 思わぬ偶然による発見は大切だと思います。そこから美しさや極めて驚くべきことが出てくる可能性があります。また 宇宙において地球が持つもっとも意味のあることや、地球の価値とは何かを 教えてくれると 思います。

この地球の写真には目を見張ります。土星のように見えるのは 土星だからなのですが、カッシーニが撮影したこの写真が有名なのは、美しく荘厳なる土星の輪が理由ではありません。輪の向こうに淡い小さな点が 浮かんで見えるからです。引き伸ばすと 見えますね。これは衛星に見えますが、地球の写真です 土星の写真に収められた地球です。12億km離れた場所から撮影した地球です。地球とは奇妙なことに 離れれば離れるほど 美しく映るように思います。

でも 地球を一番離れた場所から捉えた一番有名な写真はボイジャーが撮りました。大きさがわかるように正面に私が立っています。ボイジャーは小さな探査機で、現在 地球から160億kmも離れた場所で 20ワットの出力で信号を送り、未だに交信を続けています。木星と土星と天王星、海王星までたどり着き、この4つの惑星を観測した後、私が尊敬している カール セーガンが すばらしいことを思いつきました。ボイジャーの向きを変え、訪れた場所の写真を撮るのです。そして この地球の写真を撮りました。“かすかな青い点”と呼ばれていますが、光のすじに重ねて地球が見えます。64億kmも離れた場所から捉えた地球です。

セーガンの言葉を 紹介します。彼が撮った写真を これだけ美しい表現で言い表すことはできません。
“この点を もう一度よく考えてごらん。ここにある我が家だ。私たちだ。ここに愛する人がいる。耳にしたことがある人たちみんな、今まで生きてきた、みんなが住んでいた場所、喜び 苦しみ 数え切れないほどの宗教、イデオロギーや経済主義、狩猟者も採集者も、ヒーローも弱虫も、文化の創造者も破壊者も、王様も農民も、愛し合う恋人たちも、母親や父親、望みある子どもも、発明者も探検家も道徳ある先生も汚職にまみれた政治家も、スーパースターも一流の指導者も、人類史上名を残す聖人も罪人も、太陽光に浮かんだ塵の中で暮らしていた。天文学とは人を謙虚にし、人格を形成する経験だ。自負心の愚かさを教えてくれるのは、この小さな世界を遠くから写した写真の他にないかもしれない。人間がお互いに親切心で歩み寄り、唯一の家であるこの青い点を大事にすることが 私たちの責任なのだ”

科学と探求の力を表現する 美しい言葉です。宇宙を知り尽くしたという声は これからも聞かれるでしょう。でも ペニシリンやトランジスタだって 研究がなければ生まれなかったのです。経済的に厳しい現在も 宇宙探査はもう必要ないとおっしゃる方々はいます。

最後に私が尊敬する方の 言葉を紹介させてください。19世紀初頭に 科学の研究をしていたハンフリー・デービーで、彼は常に非難されていました。19世紀への変わり目に見られた傾向は 開発と利用以外にありませんでした。彼は言いました。“科学は尽きたという見方、大成功を収めたという見方、自然の神秘は判明したという見方、手に入れるべき新世界はないという見方。このような思いは 我々の心の進展に致命的である”

ありがとう(拍手)

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このプレゼンテーションについて

経済が厳しくなると、まず予算が削られるのは、宇宙探査や大型ハドロン衝突型加速器のような科学調査計画につぎ込まれる費用です。我々人間の存在を心から理解したり、技術革新を駆り立てる要因となることから、知的好奇心から生まれる科学は投じた費用にふさわしい価値があると、ブライアン・コックスが説明します。

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