私たちの医療は過剰ではないか(10:24)

アイバン・オランスキー(Ivan Oransky)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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映画 『マネーボール』を 観たことがある方や マイケル・ルイスの原作を 読まれた方なら ビリー・ビーンの話を よくご存知でしょう 「君は偉大な野球選手になるだろう」と スカウトは誰もが言いました ビリーの両親にも きっとスター選手に なると言いました

入団契約してどうなったでしょうか ちなみに彼は大学に進学したかったので 契約したくなかったのです 大学と言えば 私を愛する母の勧めに従って私も― 進学したのでした さて 彼はあまり活躍できず とても苦労しました 数回のトレードを経て キャリアの大半を マイナーリーグで過ごし 結局オークランド・アスレチックスの ゼネラル・マネージャーになりました

マネジメントを任されるようになることは ―私も任されていますが 皆さんは成功だと思うでしょう でもはっきり言って 大リーグで成功したい若者からすれば 管理職になるなんて 成功ではなく敗北です

今日 皆さんにお伝えしたいのは 我々の医療システムは 患者や他の人たちの健康状態の将来を 予測するのが実に苦手だということです ビリーの将来を予測した あのスカウト達と同じです しかしこの国では毎日 何千人もが 病気の予備群と 診断されています

高血圧予備群とか認知症予備群とか よく耳にします 不安症予備群もあります さっき楽屋にいた自分の自己診断です (笑)

私たちは無症状の健康状態にも 言及します 無症状のアテローム硬化症 つまり動脈硬化症は 明らかに心臓発作に つながる可能性が高いです 傑作なのは「無症候性ニキビ」です 無症候性ニキビを検索すると あるウェブサイトに 最も治療しやすいニキビと書かれています (笑) 膿や発赤や 炎症もありません そもそもニキビでないかもしれません

こういった現象全体を指す言葉があります pre- が付く言葉で preposterous (本末転倒)です 野球では 試合は試合前から シーズンはシーズン前から 続いています しかし 先の予備群たちは違います 常に先に進むわけではありません まるで多くの試合が 雨天順延ばかりのような事態です

癌になり得る病変は 必ず癌になるとは限りません それなのに たとえば無症候性骨粗鬆症 つまり骨が痩せる病気の 予備群である いわゆる骨減少では 1カ所の骨折を予防するためには 270人の女性を3年間も 治療しなければなりません これに骨減少症と診断された 女性の数を掛けると その数は膨大です

おかしくないですか これらの予備群の治療薬の コストと副作用はどうでしょう 毎年 2兆ドル以上も ヘルスケアに費やしているのに 控えめに見積もって 毎年10万人が 元々の体の状態が理由ではなく 施された治療とそれによる 合併症で死亡しているのです

この国ではあらゆるものが 医療の対象とされてきました ここで女性の皆さんに かなり残念なお知らせです お気づきでしょうか 皆さんの人生の さまざまな状況が 医療の対象とされてます

例えば ストライク1 思春期を迎えると 毎月1度訪れるものも 医療の対象となる― 健康状態です つまり治療が必要です

次にストライク2 妊娠すると また医療の対象です 妊娠にはハイテク医療が必要です さもなければ どこかに問題が生じるかもしれません

そしてストライク3 閉経です ご存知のように数十年間 多くの女性の更年期障害に対し ホルモン補充療法が行われてきました NIH (国立保健研究機構)の資金で行われた 研究の結果が 明らかになるまでです その報告によれば 多くのホルモン補充療法では 治療効果よりも 障害が起きやすいのです

念のため男性も 置き去りにしたくないので― 私も男性ですが― ここにいる皆さんにも 非常に残念な お知らせがあります 視聴しているすべての皆さんも含め 例外なく致命的な 状態といえます すなわち 「死の予備群(pre-death)」と言えます (笑) 誰もが危険因子を 抱えています それは 生きている ということです(笑)

しかし良い知らせもあります ジャーナリストとして 物事を幸せで前向きに 締めくくりたいですから もし私の話が終わるまで 生存できたら― どなたも大丈夫だと思いますが― プリバイバー(pre-vivor: 生存予備群)ですね(笑)

「死の予備群(pre-death)」は私の造語です もし先に誰かが言っていたら 謝罪しますが きっと私の造語でしょう プリバイバーは 私の造語ではありません プリバイバーとはある癌患者の支援団体が 癌発症リスクを持ちながら まだ発症していない人たちは この名前を自称してはどうかと 呼びかけている言葉です みなさんはプリバイバーです

今朝ここに HBOテレビがいました マーク・バーネット プロデューサー こんなのどうですか 「プリバイバー」というリアリティー番組 (笑) 発病したら 島から追放です (笑)

しかし 問題は 我々のシステムは もっぱらこういうことを 促進したものなのです 我々はこのシステムのあらゆる時点で 役割を果たし そして皆に予備群名や時には診断名を 与えることを選択してきました まず医師と患者の関係を考えましょう 医師のほとんどは 出来高払いのため 基本的に報酬を増やすため 治療行為や検査や薬剤の処方などが 過剰になりがちです

患者が来院したら 医師は何かをしたいのです 私たちアメリカ人はそこで じっとしていられず 衝動にかられ 薬を欲しがります 患者は治療して欲しいのです 病態や治療法を聞きたいのです 医師がそうしなければ どこか別の医師の所へ行くだけ これでは医師はやりにくいですね あるいは さらに悪いことに いずれ何かの診断が下されたときに それを検査していなかった医師は― 訴えられます

また製薬会社は 常に適応範囲の拡大や 治療対象者の増加を目指すものです それは確実に利益になるからです また プリバイバーを発案した患者支援団体の様に 病気のリスクや条件を満たすと 多くの人々に思わせると 多くの資金が獲得でき 知名度が上がります

しかし この話は実は ジャーナリスト業に典型的な 特定のプレーヤーを非難する目的で しているのではありません 私たちはみな 責任を負います 私も責任を負います 実は私はヤンキースを 応援していますが つまり最悪の結果の要因になり得るとしても できるだけの 応援をしてしまうのです ありがとう (笑) でも みな責任を負います

私が医学部に行ったときは 「懐疑的に考える方法」とか 「検査をオーダーしない方法」とかの 授業はありませんでした 自分たちの不経済な行動によって こんなシステムになったのです 実際に ジャーナリストの役目は そのインセンティブの解明です 経済学者が言うように 悪いのは人ではなくて インセンティブなのです

それは事実です 医療技術における 『フィールド・オブ・ドリームス』のシステムです つまり いたる所にMRIを増設し 各病院に手術ロボットを設置して 「誰もがロボット手術を受けるべきだ」 と語るのです 「それを作れば 彼らが訪れる」という システムを作ってきたのです さらに 実際に意図的に 行ったほうが良い 行かなければいけないと 信じさせる仕組みもあります

そう考えると ジャーナリストになった自分も含めた皆が 問題の一部であると 私は気づきました 私は全ての危険因子を医療の対象にして 原稿を書き 原稿を依頼し続け 毎日 不要な心配を煽っていました

しかし 抜け出す方法があります 先週 私が内科医に 診てもらったとき こんなことを言われました 彼に言われたことは ここにいる皆さんからなら 無料で教えてもらえたかもしれませんが こういう話のために 彼のところに通っているのです 「体重を減らす必要がありますね」 そう 彼は正しいのです 私はもう十年間も 正真正銘の高血圧です 父と同じ年齢で罹りました それは本物の病気で 高血圧予備群ではなく まさに高血圧症です

彼は正しいのです でも彼は 肥満予備群とか 糖尿病予備群などとは言わず 「このスタチンの服用を開始して コレステロールを下げろ」とも言わず 「外に出て減量しましょう 少ししたらまた来てください もしくは 電話で様子を教えて くださいね」と言いました 私はその通りにするつもりです 私はその通りにするつもりです

ビリー・ビーンも同様のことを 学びました 彼は自分が選んだ選手のなかで 彼にとって本当に役立った選手を見て 学びました ヤンキースの様な金持ち球団が 欲しがるような ホームラン狙いで 全部の球を打ちに行く選手は違う ということを学んだのです 四球を選んで出塁するタイプの選手を 見極めてスカウトすべきだと 学んだのです 四球での出塁も 価値があるのです 医療システムにおいても 私たちが明らかにすべきは それが本当にいい投球か 見逃して振るべきでないものか? ということです ありがとうございました

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このプレゼンテーションについて

糖尿病予備群、癌予備群など今や予備群は蔓延しています。ロイター通信のヘルスケア担当編集者のアイバン・オランスキーは、不合理な「予備群」が問題だと警告しています。このTEDMEDでの魅力的な講演では、野球から学んだ重要な教訓を用いて、ヘルスケアの分野での問題の解決について語ります。

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