J・J・エイブラムスの謎の箱(18:02)

J・J・エイブラムス(J.J. Abrams)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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今日お話したいのは……スライドを出すのでちょっとお待ちを……では始めましょう。今日お話したいのは、ポリペプチドの構造についてです……(笑)
いろんな人に“LOST”のことを聞かれます。「あの島はいったい何なの?」この質問は通常こう続きます。「いやマジであの島はいったい何なの?」(笑)

どうして謎だらけなのか? 謎のいったいどこに引付けられるのか? TEDで何について話そうかと考え、それで親切なTEDの担当者に聞いてみました。
「ねえ 何について話したらいいんだろう?」彼は言いました。
「心配しないでください。すごいものでさえあれば何でもいいんです」(笑)
すごく勇気づけられましたね。この会場にいるのならお礼を言っておきます

何について話そうかとずっと考えていました。どうして謎ばかり扱っているのか? それを解き明かそうと思いました。自分のやっていることについて、その理由を考え、そうして祖父のことを思い出しました。私は祖父のことが大好きでした。名前はハリー・ケルビンです。母の父で、1986年に亡くなりました。すごい人でした。彼がすごかった点をひとつお話しましょう。
彼は、第二次大戦後に電器屋を始め、余剰部品や組み立てキットを学校に売ったりしていました。すごく好奇心が強い人で、子供だった私のところにラジオやら電話やらを持ってやってきました。そしてふたを開け、ねじを外し、中の仕組みを見せてくれました。みんな当たり前のことみたいに思うかもしれませんが、でも子供にはすごい贈り物だったのです。中を開けて、どうやって動くのか、なぜ動くのか、それが何なのかを見せてくれるのです。彼はいろんな意味で究極の分解屋でした。祖父は分解するばかりではありません。様々な技術に対する興味を私から引き出しました。たとえば活版印刷とか。私は印刷というものに夢中になりました。シルクスクリーン印刷に、製本に、箱作りに夢中になりました。子供の頃の私は、しょっちゅう箱やなんかをバラしていました。

昨日の夜も、ホテルの部屋でクリネックスの箱を分解しました。ただ見ていたのです。なんと言ってもこれは――とても美しい。本当に、これを見れば箱の仕組みがわかります。ここにいるリーブズとは何年か前にブックフェアで出会いました。彼は飛び出す絵本を作っていました。その紙のエンジニアリングに私は夢中になりました。折り目があり、印刷があり、のりしろがあり、会社の登録商標があります。本当に箱が好きなんです。そうして私の祖父は、こういったものに私を導いてくれたのです。それに道具も与えてくれました。芸術家のパトロンみたいに、何かを作るようにと励ましてくれました。私が10歳の時にスーパー8mmカメラをくれました。1976年当時にはそれは普通のことではありませんでした。10歳の子供が8mmカメラを使えるなんていうのは。それほど彼は太っ腹だったのです。信じられないくらいでした。何もせずにそうしてくれたわけではありません。電話してこんな風に言うのです。
「あのね、おじいちゃん。どうしても8mmカメラがいるんだ。わかんないかもしれないけど、映画を作りたいんだ。いつか僕はTEDに招待されるよ。これは言ってみれば……」(笑)

そして私の祖母がまた最高の人でした。こんな風に口添えしてくれるんです。
「あなた、ドラッグよりはいいじゃない。この子がやろうとしているのは……」ほんとに素晴しい人でしたね(笑)。
そうして私は8mmカメラを手に入れました。祖母のおかげもあって、14歳の時にはシンセサイザーを手に入れました。そういったものを使っていろいろ作りました。私にとっては夢のようでした。祖父は、私が夢中になった他のことにも付き合ってくれました。
たとえば手品です。ルー・タネン マジックショップという、ニューヨークの手品用品の店に行きました。ミッドタウンにある小さなみすぼらしいビルでしたが、エレベータに乗って、そして扉が開くとそこは小さなマジックショップです。まさに魔法のような場所でした。いろんな手品のタネを仕込みました。たとえばこんなのです。こういう具合に(注:ぜひ動画をご覧ください!)。ほら、ここまではいいんですが、この後動けません。どうにか後始末をしなきゃいけません。
「あれ こんなところに私のコンピュータが!」みたいに(笑)

私がそのマジックショップで買ったものの1つがこれです。タネンの謎の箱。こんな説明が書かれていました。50ドル分のマジックが入ってたった15ドル、お買い得です(笑)
これを買ったのは何十年も前のことです。よく見てもらえれば、全然開けてないのがわかるでしょう。でもずっと持ち続けています。私のオフィスの棚にいつも置いてあるのですが、これを見て、どうして開けてしまわないんだろうと思いました。どうしてずっと取ってあるのか? 私は家に何でもため込むタイプではありません。しかし、なぜかこの箱は開けずにいました。そしてここに鍵があると感じました。今まで話したことのない話をTEDですることについてです。よそでは退屈されてしまうでしょうから、この箱には何かあるのかもと思い始めました。大きな「はてな」マークのあるデザインが気に入っていています。どうしてこの箱を開けなかったのだろうと考えていて、それが私にとって大事なものを表していることに気が付きました。この箱は私の祖父を表しているのです。TEDでは泣いてもいいのかしら? だって……大丈夫、泣きやしませんよ ただ…… (本当に泣きそうな様子―笑) この箱は無限の可能性を表しているのです。希望を表しています。潜在的なものを表しています。この箱が気に入っているのは、私が何をするにせよ無限の可能性に、潜在性の感覚に惹かれるからなのです。それに、謎はイマジネーションを引き出すことに気づきました。そんなにすごい考えではないかもしれませんが、時として謎が知識より価値を持つ場合もある、そう思うようになって、謎に対してすごく興味を持ちました。

そして“LOST”などのことを考え始め 気がつきました そこら中に謎の箱があるじゃないか! “LOST”の制作でデイモン リンデロフと私は 彼といっしょに作ったのですが このシリーズの制作は ごく短期間で行うことを求められていました 11 週間半の間に― 脚本、キャスティング、スタッフ割り、撮影、編集、ポストプロダクションをやって 2時間のパイロット番組に仕立てるのです あんまり時間がなかったのです そしてあの可能性の感覚 これはどうなり得るか? 展開している暇がありません これはできないとか ここは変えろと 口をはさむ人がいるものですが そんなことをしている暇はなかったのです 信じられないくらい そうしてこの番組ができました ご覧にならなかった人や― ご存じない方のために 番組を一部お見せしましょう。 どんなものを作ったのか わかっていただけるように――

「助けて! 誰か助けて! 助けて! 助けて!」 「この人をここから運び出して! エンジンから離れたところに! ここから運び出すんだ!」 「陣痛がするの!」 「妊娠何ヶ月ですか?」 「まだ8ヶ月よ」 「予定日までどれくらいですか?」 「わからないけど 始まったみたい」 「おい! おい! そこから離れろ……」

10年前にこれをやろうと思ったら スタントマンを1人殺す必要がありました 実際に (放り込むような身振り―笑) 難しかったのです テイク2を撮ることになったら大変です 驚くのは こんなことができるようになったということです 驚くほどのテクノロジーを使えるようになったのです 何でもできるんだとわかったのです 以前にはできなかったことです 書いたとしても こんな風に撮れはしませんでした 私にとって驚くべきことは 創作のプロセスにあります テクノロジーは圧倒的なくらいにインスピレーションを与えてくれます 真っ白なページは「謎の箱」だということに気がつきました 何か素晴しいもので埋めてやる必要があるのです

“普通の人々”の脚本を昔よく見ていました あの脚本のロマンスは素晴しく 私を奮い立たせます 私は自分のページを埋めたいと思いました あの脚本のような精神と思考と感情で 私はAppleコンピュータが好きです 夢中です Appleコンピュータは あのPowerBookは 私に挑んできます こんな風に言ってくるのです 私にふさわしいどんなことを書いてくださるつもり? (笑) 心を掴まれます それから 「クソッ 今日は駄目だ 何も書けない」ということも (笑)

内容という点でストーリーに目を向けると ストーリーの中の 謎の箱に引っかかります テレビ番組には基本的な疑問があって 最初の場面はティーザーと呼ばれています 文字通り 大きな疑問ということです 見ている人は引き込まれ そしてもちろん 次の疑問が現れ それがずっと続いていきます たとえば“スターウォーズ”では ドロイドが謎の女性に会います あの人は誰? わかりません 謎の箱です! それからルーク スカイウォーカーがそのドロイドを手に入れ ホログラム映像を見ます そして あれはメッセージだったんだとわかります 彼女はオビワン ケノービを探しています 彼が唯一の望みなのです しかしオビワン ケノービとはいったい誰なのでしょう? 謎の箱です! それからルークはベン ケノービに会いに行きます ベンは実はオビワンだったのです なんとまあ! そんな具合に引き付けられていきます…… (笑) あの映画を見ていないの? (笑) 有名なのに! それはそれとして……

そういうわけで この謎の箱というやつに 私は惹かれるようになりました それからイマジネーションという意味での謎があります 情報を出さずにおくということです それを意図的にやることで ずっと引き込まれるものになります “ジョーズ”のサメのように もしスピルバーグの機械仕掛けのサメがちゃんと動いていたら あんなに怖い映画にはならなかったでしょう 見せ過ぎることになるからです “エイリアン”では決してエイリアンの姿を見せません だから怖いんです! ロマンチックコメディの“卒業”にさえ あのデートの場面があります 車の中にいて 周りがうるさく 屋根を閉めます 彼らはそこにいるのに 話していることが聞こえません! ひと言も! でもこれは最高にロマンチックな場面です 聞こえないからこそ魅力的なのです 私にとってはそうでした

そして最後にこのアイデア 一種のパラダイムみたいなものですが 謎の箱をすこしばかり展開してみましょう 渡されたと思っているものと 本当に渡されているものの違いです これはとても多くの映画や物語に見出せます たとえば“E.T.”というのは 何の映画でしょう? エイリアンと子供が出会う話でしょうか? 違います “E.T.”は離婚の話なのです 傷心の― 離婚によってゆがめられた家族の物語です そして子供は道を見出せずにいます “ダイハード”は? 高層ビルで繰り広げられる ものすごい冒険アクション映画でしょうか? 離婚の危機にある男の話です 彼はしょぼくれてロサンゼルスにやってきます 素晴らしいシーンが描かれています 映画史上最も劇的な― というのではありませんが すごくいいシーンです 30 分かけて人物が描き出されるのです みんなが期待しているものが始まる前に

“ジョーズ”のような映画を見るとき みんなが期待するシーンは何でしょう? “ジョーズ”に対してみんなが期待し 記憶するのはこういうシーンです 彼女は食べられてしまいます サメがいるのです でも“ジョーズ”というのは 一人の男の物語なのです 世界の中で自分の居場所を求め 男らしくあろうとし 家族とともに 新しい町でどうやっていこうかという話です これは私の大好きなシーンです 皆さんが“ジョーズ”のことを考えるときに思い出すシーンではないでしょうが でも素晴しいシーンです

「おいで キスしておくれ」 「どうして?」 「パパに必要だからさ」

「どうして? パパに必要だからさ」 最高のシーンでしょう? ねえ? だから“ジョーズ”のことを考えるとき 人物の作りこみのようなこと それこそが箱の中身なのです 続編やら猿まね映画を作るとき みんな間違った部分をまねているわけです サメや怪物をまねるべきではないのです 何かをまねるとしたら 人物です 大切なところをまねるべきです 自分の内面を見て 中に何があるのかを見るのです 究極的には 謎の箱というのは 私たちみんなだからです

それから配給 映画館よりも大きな謎の箱があるでしょうか? 映画館に行って 何かを見られることにとても興奮しています 照明が消える瞬間が一番いい場面というのは良くあることです そして満たされます あの 期待に胸をふくらませる感覚に そうして映画が進んでいくと何かが起こり 「ああ」と思い 別なことが起きて 「うーん」と呻り そして素晴しい映画であれば 映画にひたり 身をゆだねようと思います

私にとっては それがテレビだろうと iPod や コンピュータや 携帯電話だろうと 同じなのです おかしいんですが……前に言った通り私はAppleファンで 1 年ばかり前に 朝 ネットでスティーブ ジョブズの基調講演を見ようとしていました 私は毎回見ています 彼が現れて ビデオiPod のプレゼンをしたのですが 彼の後ろの― 巨大なiPod は 何を表示していたか? “LOST”です! 私は知りませんでした! そしてひと回りしたんだと気づきました テクノロジーから霊感を得て私が作った作品が 今度はそのテクノロジーを売るのに使われている こいつはすごい (笑)

あといくつか かいつまんでお見せしましょう 何とも関係のないものを1つご覧いただきます これはネットで公開されている映像で 5、6 年前に作られたものです 視覚効果の仕事の経験のある人たちが作ったのですが ここで重要なのは 彼らがこれを作るのに使った謎の箱が 今や 誰にでも手に入るということです 私が気づいたのは 子供の頃 祖父が私にしてくれたことが 今や誰にでも手が届くようになったということ みなさんに私の祖父は もう必要ないのです 欲しいとは思うかもしれませんけど 言っておきたいのは これを作った人はQuadra 950という古いコンピュータを使っていて 解像度が幾分低いですが Infinity という15 年以上も前のソフトウェアを使っているということです それでもハリウッドで作られたような見事な仕事をしています

もっとも大いなる謎は 私の思うところ 次に来るのは何かということです いまや民主化され メディアの制作が あらゆるところで行われています 私が子供の頃には手に入れるために幸運とお願いが必要だったものが 今ではどこにでもあります 驚くほどの可能性に満ちあふれています そして今まで声を出すことのなかった映画の作り手たちのことを考えます これまでは声を出せずにいたにすぎないのです これはすごくワクワクすることです

私は授業や講演なんかをするとき 作家志望の人たちに 「ほら 書きなさい! 手を動かして」とよく言っていました 書くのにはお金がかからないし 誰の許可もいりません それが今やこう言えるのです 「ほら 映画を作りなさい!」 テクノロジーを手に映画を作る 妨げるものは何もないのです 必要なものはお店で売られており 借りるなり買うなりすることができます それは十分に良いものです あの 「しかるべき人々」が使っているのと同じくらい 特権階級がコントロールしているようなコミュニティが最高のものになることはありません これは他のどんな人がいるのか見られる素晴しい機会です

私が“ミッションインポッシブルIII”を撮ったとき 素晴しい視覚効果スタッフがいました ILMが視覚効果を手がけたのです 素晴しかった 彼らと仕事するのは私の夢でした 映画の中から2つばかり シーンをお見せしましょう それからこれ

ええ 私は爆発大好き人間ですとも この映画の中で お気に入りの視覚効果をお見せします トム クルーズが演じる人物が目を覚ましかけています それを悪役の男が起こして 鼻の中に銃を突っ込み 頭に小さなカプセルを撃ち込みます それを使って後で彼を殺せるようにです

お目覚めかい

私たちがこのシーンを撮ったとき 銃を持っていたのはイギリスの俳優エディ マーサンで 素敵な男です 銃を手にし トム クルーズの鼻に入れるのですが それはトムの鼻を痛めました 私はキャリアにおけるこの早い時期に1 つ学んだことがあります トムの鼻を傷つけてはならない (笑) やってはいけないことが3つあります 第2番はトムの鼻を傷つけない ということです 銃を手にしたエディは 素晴しい人なんですが 本当に優しいイギリス人で 「ごめんなさい 本当に痛くしたくないんです」という感じでした もっとうまく見せる必要がありました 思ったようにいかなかったので 何か方法を考える必要がありました 私は座り込んで思い返してみました 祖父にもらった あの8mmカメラを使って どんなことをやっていたかを そして気付いたのです あの手は別にエディの手である必要はないんだって トムの手でもいいんです トムが自分でやれば加減がわかるので 痛めることもありません

それでトムの手にメークをして エディの手に見えるようにしました そしてエディの服の袖に通し あの手ができあがりました もう一度お見せしましょう あれはトムの手なのです だからトムは一人で二役演じたわけです (笑) 余分のギャラを要求することもなく 見てください もう一度 トムがいて 目を覚まします ぼんやりしていて もがいています トムの手 トムの手 トムの手 (笑) そういうわけで…… (拍手喝采) どうも そういうわけで 映画をうまくいかせるには最高のテクノロジーが必要 というわけではないのです そして祖父に敬意を表し 謎の箱は開けずにおきます どうもありがとう (スタンディングオベーション)

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このプレゼンテーションについて:

J・J・エイブラムスが見えない謎に対する愛着について語ります。彼のこの情熱は、「クローバーフィールド」、「LOST」、「エイリアス」をはじめとする映画やテレビ作品にはっきりと見て取ることができます。この謎に対する愛着を、彼はその不思議なはじまりへとたどっていきます。

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