視覚障害者が世界を自由に探索できるようにする新技術(9:29)

浅川智恵子(Chieko Asakawa)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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目の見えない私には、できないことが沢山あると思われるかもしれません。
大体のところはその通りで、このステージに上がって来るときも、ちょっと手を貸してもらう必要がありました。

でも、できることだって沢山あります。これは、私が初めてのロッククライミングに挑戦しているところです。スポーツは大好きだし、いろんなスポーツができます。水泳、スキー、スケート、スキューバダイビング、ジョギングなどなど。
でも1つ制限があります。誰かの手助けが必要なことです。私は1人でできるようになりたいんです。

私は14歳の時、プールでの事故で視力を失いました。
行動的で自立した子供でしたが、突然盲目になったんです。
私にとって一番つらかったのは、自立性を失ったことです。それまで簡単だったことが、自力ではほとんど不可能になりました。困難だったことの1つに、教科書があります。
当時は、パソコンもインターネットもスマートフォンもありません。それで、2人いる兄弟のどちらかに教科書を読み上げてもらい、点字で自分用の本を作る必要がありました。想像できますか? 私の兄弟にしても、そんなの面白いわけもなく、頼みたい時にはいつもいなくなっていることに気が付きました(笑)。
私のことを避けていたんだと思いますが、そのことで2人を責めるつもりはありません。
ただ、私は誰かに頼らずに済むようになりたいと強く思っていて、それがイノベーションを起こしたいという想いに繋がりました。

時が過ぎ、1980年代の中頃、最新技術に触れるようになった私は疑問を持ちました。なんで、点字の本をコンピューターで作る技術がないんだろう? この素晴らしい技術を使えば、私のようなハンデのある人間を救うことだってできるはずです。そうして私の、イノベーションへの旅が始まりました。

私は、デジタルブック技術の開発に取り組み始めました。デジタル点字エディタ、デジタル点字辞書、デジタル点字図書館ネットワーク――現在では、目の不自由な学生でも、パソコンやモバイル端末を使い、点字や音声を通して教科書を読むことができます。これは驚くことではないでしょう。2015年の今では、みんなタブレットに電子書籍を持っています。でも、点字の本は普通の本よりずっと前にデジタルになっていたんです。1980年代後半――今から30年近くも前の話です。視覚障害者の、具体的で強いニーズが、そんな昔に電子書籍が作られる機会を生み出したのです。
そういったことは、何もこれが初めてではありません。アクセシビリティがイノベーションを刺激することを、歴史は示しています。
電話機は、耳が不自由な人のためのコミュニケーションの手段を作り出そうとする中で生まれました。
ある種のキーボードもまた、元々は障害者のために作られたものでした。

私が関わったもう1つの例をご紹介しましょう。
90年代に、周りの人たちがインターネットやウェブのことを話題にするようになりました。
最初にウェブに触れた時のことをよく覚えています。驚きました。新聞を毎日いつでも読むことができ、自分でどんな情報でも検索することができました。目の不自由な人たちがインターネットを使えるようにしたいと、強く思いました。そして、ウェブページを合成音声に変える方法を見つけました。それにより、ユーザーインタフェースを劇的にシンプルにすることができました。

それが、1997年の「ホームページリーダー」の開発に繋がりました。
最初に日本語用ができ、その後、11カ国語に翻訳されました。ホームページリーダーを作ったとき、多くの人からメッセージをもらいました。特に心に残っているのがあります。
「私にとって インターネットは 世界に繋がる小さな窓です」

これは、視覚障害者にとって革命的な瞬間でした。ネットの世界が障害者の手に届くものとなり、私たちが視覚障害者のために開発したこの技術は、想像をはるかに越えて、様々な使われ方をするようになりました。
車の運転中にメールを耳で確認したり、レシピを聞きながら料理を作ったり。

今では、昔より多くのことを1人でできるようになりましたが、まだ十分ではありません。
たとえば、さっきステージに上がったときも、手助けが必要でした。私の目標は、1人でここに来られるようになることです。ここだけじゃなく、旅行をしたり、皆さんには何でもないことができるようになることです。

では最新の技術をお見せしましょう。
これは、私たちが取り組んでいるスマートフォン・アプリです。

※デモ映像が流れます。

(電子音声) 扉まで15メートルです。まっすぐ進んでください。

(電子音声) 外へ出るには扉を2つ通ります 扉は右側にあります。

(電子音声) ニックがやって来ます。嬉しそうです。

(智恵子) こんにちは ニック! (笑)

(智恵子) どこに行くの? なんか嬉しそうじゃない?

(ニック) 論文が受理されたんだ。

(智恵子) 本当? よかったじゃない!

(ニック) ありがとう。だけど何で僕だって分かったの? それに嬉しそうだとか? (2人が笑う)

※場面転換

(男) やあ

(智恵子) あ・・・どうも

(電子音声) あなたにではなく、電話相手に話しています。

※場面転換

(電子音声) ポテトチップです。

(電子音声) アーモンド入りダーク・チョコレートです。

(電子音声) 昨日から体重が2キロ増えています。チョコレートでなくリンゴにしましょう(会場・笑)

※場面転換

(電子音声) もうすぐ着きます。

(電子音声) 到着しました。

(拍手)

ありがとうございます。
このアプリは、無線標識信号とスマートフォンのセンサーを使って道案内をし、屋内でも屋外でも1人で歩き回れるようにしてくれます。コンピュータ・ビジョンを使って、誰がどんな様子でやってくるのか教えてくれるという部分はまだ開発中です。表情を認識する機能は、視覚障害者が社交的になるためにとても重要です。

様々な技術の融合によって、視覚障害者が世界を見られるようになります。私たちはこれを「認知アシスタンス」と呼んでいます。周りの世界を把握して耳に囁いたり、指への振動で伝えてくれます。欠けている、ないしは弱った五感能力を「認知アシスタンス」は補ってくれます。この技術はまだ初期段階ですが、やがて私は、これのお陰でキャンパスで教室を見つけたり、ウィンドウショッピングしたり、通りを歩きながら素敵なレストランを見つけられるようになるでしょう。
通りで会ったとき、あなたより先に私が気付くとしたらすごいと思いませんか? これは私にとって、そして皆さんにとって、最高の相棒になるでしょう。

だから、これはやり甲斐のある挑戦なんです。そして、この挑戦には協力が必要です。そのため私たちは、研究活動を加速するオープンなコミュニティを作ろうとしています。ちょうど今朝のことですが、ご覧いただいたビデオの中の基本技術をオープンソースにすると発表しました。

フロンティアは現実の世界です。視覚障害者コミュニティが開拓者となって、この技術のフロンティアを探索しています。新しい時代を皆さんと一緒に切り開いていきたいです。
次回このステージに上がるときは、技術とイノベーションの力で、私はきっと1人で歩いていることでしょう。

ありがとうございました(拍手)

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このプレゼンテーションについて:

技術によって生活の質をいかに向上させることができるか? どうすれば視覚を使わずに世界を動き回れるようにできるか? 14歳の時に視力を失ったIBMフェローで発明家の浅川智恵子は、そんな問に答えるべく取り組んできました。笑いを誘うデモ映像で彼女が紹介するのは、視覚障害者がかつてなく自由に世界を探索できるようにする新技術です。そして歴史が示しているのは、優れたアクセシビリティをデザインするとき、すべての人が恩恵を受けるということです。

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