結び目と手術の物語(12:21)

エド・ギャバガン (Ed Gavagan)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私たちは朝起きて、着替えて靴を履き出かけていきます。帰宅したら服を脱いで眠りにつき、また起きて同じことをするでしょう。こういった予想やリズムがあるから生活や行動のシステムをつくれるし、先を予測することができます。私のように、ニューヨークに住むというのは、多くの人と共にたくさんの事を同時に接近した状態で行っているのは、まるで人生にトランプ一組の中から新たな手札を配られるようなものです。それが対置になるなどとは思わないのです。ただ、そんなことが起こるわけないと思うのです。まさか自分が道を歩いていて、どちらかの一方の道を選んだことで自分の人生が永久に変わってしまうとは思わないのです。

ある夜、私はアップタウンの電車に乗っていました。地下鉄に乗るときはいつも少しだけ慎重になります。ヘッドフォンを聞きながらぼーっとしたり、本に没頭したりはしません。そして電車に乗って周りを見渡し、ある2人連れに気がつきました。大学生くらいの年で、学生のように見える子たちです。男の子と女の子で隣り合わせに座っています。女の子は脚を男の子の膝にもたせかけています。そして2人は...小さくて奇妙なものを持っているのです。彼らは結び目をつくっているのです。片手で結んでいきます。左手で、右手でと、すごい速さで結んでいきます。女の子はそれを男の子に渡し、彼も同じことをします。私はこんな光景は見たことがありませんでした。まるでマジックの練習をしているかのようでした。

次の駅で1人の男性が乗車してきました。客員教授のような出立ちでした。パンパンになった革の肩掛けかばんに、長方形のファイルケース、パソコン用かばんを持ち、革のパッチのついたツイードジャケットを着ていました。そして、例の2人組を見てすぐさま彼らの前に座り込み、話し始めました。

「いいかい、こうしたらいいんだよ。ほら、こうすれば...」 と、2人からひもを取上げて、すぐさま結び目をつくり始めたのです。彼らよりもはるかに上手でした。結局、その2人組は医学生で、最新の縫合技術の講義を聞きに行く途中で、後から乗ってきた男性がその講義をする教授だったのです(笑)。

そして、その教授はこう話し始めました。「違う、ここがとても重要なんだ。いいかい、こういう結び目をつくりたいときは、こういう風にほら、全てを同時にしなくちゃいけないんだ。目の前の情報を全て把握しないといけない。臓器が邪魔になることもあるだろうし、手元が滑ることもある。そして、非常に重要なのは、こういったことを、習性を超えて左手右手どちらでもこなし、指を見なくてもできるようにしなくてはならない。それを聞いた瞬間、急に地下鉄の車両からある夜へとタイムスリップしました。

その夜、私は救急車で運ばれていました。
私が刺された歩道からマンハッタンにある聖ヴィンセント病院の治療室まで何が起こったかというと、まず、ブルックリン出身のギャング達がやってきました。ギャングのメンバー3人の入会儀式として誰かを殺さねばならなかったのです。そして たまたまその夜、ブリーカー通りを歩いていたのが私でした。そして 彼らは無言で私に襲いかかりました。ラッキーなことに、私はノートルダムにいた時ボクシングチームにいたので、本能的にさっと両拳を上げました。右にいた男は刃渡り25センチのナイフを持っていました。男は私のひじの下を刺し、上へ切り込み、下大静脈を切りました。もし解剖学を知っていればご存知でしょうが、あまり切られていい場所ではありません。もちろん上へと切り込まれました。そして、私はまだ両拳を上げた状態でしたが、男はナイフを抜き、今度は首に向かってきました。そして、首にざっくりとナイフで切りこみました。私は右ストレートのパンチを繰り出し、真ん中にいた男をノックダウンしました。もう1人の男はまだ私に襲いかかっており、もう一方の肺を刺そうとしていました。私はその男を殴り、なんとか時間稼ぎをしました。道を走って逃げ、倒れ込みました。救急隊が歩道で私に挿管し、治療室の人たちに、搬送を知らせました。

大量出血をすると、副作用としてトンネル視になります。ストレッチャーに乗せられている時のことを覚えています。5セント硬貨ほどの円錐から覗いたような光景でした。私は頭を動かしていました。聖ヴィンセント病院に着くと、ストレッチャーで廊下を走り抜けました。電灯が次々と後ろに過ぎていくのを見ました。こういった記憶は奇妙なもので、通常記憶されるような場所に保存されず、高解像度で保存されるような場所に記憶されるのです。そして、音響は全部ジョージ・ルーカスがしてくれます (笑)。なので、時々こういう記憶を思い出すのは、他の記憶を思い出すのとは異なります。

そして、治療室に入りました。皆が私を待っており、たくさんのライトがあります。今は少しだけ呼吸ができるようになりました。肺の中に溜まっていた血が取り除かれたからです。さっきまでは呼吸するのがとても困難でしたが、ストレッチャーと共にその苦しさはどこかにいきました。そして私はこう言いました。「何か手伝うことありますか?」(笑)。
看護師はヒステリックに笑い、私は皆を見ようと頭を動かしました。すると、大学時代の記憶がよぎりました。バングラデシュの洪水犠牲者への義援金を集めているときのことです。そして、麻酔医の方を見ました。彼は麻酔マスクを私につけているところでした。「彼はバングラディッシュ人に見える」と思いました。この偶然の2つの出来事から、私は「うまくいくかもしれない」と思いました。

そして、意識が遠のき、医者たちは夜通し手術をしました。手術中、約40パックの輸血が必要でした。腸の3分の1を摘出し、自分でもあるとは知らなかった。盲腸も摘出しました。後に、執刀医は手術の最後にした事は私の盲腸を摘出した事だと教えてくれました。最後まできちんと見てくれてありがたいことでした(笑)。朝になって、意識が戻りました。麻酔が抜ける頃、私の側にいたいと執刀医は告げ、私の生存の確率は約2%だとしました。

目が覚めたとき、執刀医はそこにいました。目を覚ますと、氷のはった湖を打ち砕くような痛みに襲われました。痛みは全身を覆っていましたが、一カ所だけ痛まないところがありました。足の甲でした。医者は、土踏まずをもち、親指で私の足の甲をさすっていました。

私が見上げると、彼は「やあ」という感じでした。私は何が起こったかを思い出そうとし、全てを理解しようとしました。けれど、痛みはただあまりにもひどかった。すると医者が「髪は切らないようにしたよ。サムソンのように、髪の毛のおかげで強さを保っているのかと思ってね。できる限りの強さが必要になるだろうから」と言いました。その頃、私の髪は腰まであり、バイクを乗り回し、結婚もしていませんでした。バーも経営しており――まぁ、昔の話です。

話は戻って、生命維持装置を3日間つけていました。誰もが、あれだけの大層なことをしなければならなかったのだから、私は生存できないだろうと思っていました。だからその3日の間、皆は私が死ぬのか排便するのかを待っていました(笑)。そしてついに私が排便すると、どうにか、外科的に言うと山を越えたということです。えーと(笑)、その日執刀医が来てシーツを私からはぎ取りました。彼の横には3、4人の人がいました。感染症はありません。皆前かがみになり、私をつつき回しました。
「血腫がなく、どうのこうの――顔色を見てみなさい」と互いに話し合っていました。まるで私が復旧した自動車のように、執刀医は「ええ、私がしたんですよ」と(笑)。それは全く素晴らしかった。だって、皆が執刀医にハイタッチをしていたんですから。どれだけ私が回復したかに対して(笑)。まだ身体には縫った跡が残っていて。

そして、後日退院してからは、フラッシュバックや悪夢に苦しめられました。手術してくれた医者のところに戻ってちょっと聞いてみました。これからどうしたらいいのかと。彼は外科医の立場から大体こういうことを言いました。「君、私は君の命を救ったんだよ。今、君は何でもしたいことができるんだ。前向きに進んでいかないと、まるで君は、僕が新しい車をあげたのに駐車スペースがないと文句を言っているようなものだ。ほら、外へ出てベストを尽くさないと。君は生きている。それが重要なことなんだよ」。

すると、ピンポーンと音がして電車のドアが閉まりました。私の降りる駅は次です。私は医学生たちを見て、心の中で「シャツをまくりあげて傷をみせようかな」と思いました。しかし、「いや、ここはニューヨークの地下鉄だ。そんなことしたら何か別の問題になりそうだ」と思い直し、彼らも講義に出なくてはいけないと思いました。電車を降り、プラットホームに立ちながら、人差し指に生まれて初めてつくった傷を感じました。へその緒を切ったときのものです。そして、そのまわりをなぞると、最後にできた手術の傷があります。そして思いました。道でナイフを持ったギャングたちに遭遇したことで、私を手術してくれた外科チームと出会い、彼らの訓練や技術、そしていつだって少しの幸運が無秩序をはねのけてくれたのだと。

ありがとうございます。(拍手)

今ここにいられて本当にラッキーです。ありがとう。

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このプレゼンテーションについて:

ある日、エド・ギャバガンは地下鉄で、結び目を作る練習をしている二人の医学生に出会いました。すると強烈な記憶が蘇りました-それは彼の人生を永遠に変えてしまった衝撃的な瞬間のものでした。犯罪、技術と感謝の忘れられないストーリーです。

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