乳腺腫瘍を3倍も発見できるツール、そしてそれを一般に使用できない理由(18:47)

デボラ・ローズ (Deborah Rhodes)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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マンモグラフィーの検診精度という点で、女性は二つのグループに分けられます。
一つは、マンモグラフィーが非常に効果的で、数多くの命が救われるグループ 。もう一つは、全く効果がないグループ。
あなたはどちらでしょう? ほとんどの人は答えを知りません。それは、乳房が政治に影響されやすい器官となってしまったからです。マスコミ・政治家・放射線科医・医用画像会社の語る美辞麗句で、真実が隠されてしまいました。今日は、何が真実か、私の意見を分かりやすく説明します。最初に申し上げておきますが、私は 乳癌を克服した人間ではありません。放射線科医でもありません。特許も持っていませんし、医用画像会社からお金をもらった事もありません。皆さんの票を求めてもいません(笑)

私は内科医です。そして約10年前、この課題に非常に興味を持ち始めました。きっかけは、ある患者の質問でした。彼女は胸にしこりを見つけ、私のところに来ました。彼女の姉は、40代の時に乳癌と診断されました。当時、彼女も私も妊娠しており、彼女の不安を思うととても心が痛みました。幸い、彼女のしこりは良性でしたが、彼女はこう質問しました。
「もし腫瘍ができたら、初期段階のうちにマンモグラフィーで発見できる自信があるか?」と。
そこで、マンモグラフィー画像を観察し、放射線医学の文献を調べました。驚いたことに、彼女の場合、マンモグラフィーで腫瘍を初期のうちに発見するチャンスは5割にも満たないと分かったのです。

1年前の事ですが、米国予防サービス調査特別委員会が、マンモグラフィー検診に関する世界の文献を精査し、40代の女性に マンモグラフィー検診を受けさせないようにと勧告したことでかなりの議論が持ち上がりました。この委員会は相当批判されました。批判していた人のほとんどがマンモグラフィーに疎い人ですが、それでも批判的でした。議会は、このガイドラインを使って保険内容を決定してはならない事を、わずか17日間で可決しました。放射線科医も、委員会のガイドラインに憤慨し、スクリーニングの重要性と、ガイドラインを非難する声明をワシントンポスト紙に発表しました。すると 私利のみを追求しているとして反対に非難されました。でも、私が思うには、放射線科医はヒーローです。マンモグラフィー画像を読影できる医者は不足しています。というのも、マンモグラムの読影は放射線医学の中でも特に難解ですし、乳癌を見逃したら放射線科医が訴えられる事例が他のどの場合よりも多いからです。では、なぜ見落としやすいのでしょう。

火のないところに煙は立ちません。
この火の主な原因となったのは乳腺濃度です。乳腺濃度は、この図において黄色で示した脂肪とピンクで示した結合および上皮性組織の比率の事です。そして、その割合は主に遺伝的に決定されます。40代女性は、3分の2が高濃度の乳房組織を持っており、マンモグラフィーの効果が低い原因と考えられます。確かに乳腺濃度は年齢とともに低下しますが、3分の1以下の女性が、更年期を過ぎた後も濃度を保っています。

では高濃度であるかを知る方法は? まずマンモグラフィーの検診結果を詳細に読んでください。放射線科医は、乳腺濃度をマンモグラフィー画像に写った組織の見え方に基づいて4種類に分けています。濃度が25パーセント未満の場合、脂肪性と呼びます。次の部類は乳腺散在、そして次が不均高濃度、そして高濃度となります。この二つの部類に属すものが高濃度とみなされます。乳房濃度が問題であるのは、羊の皮を被った狼と言えるからです。腫瘍も高濃度の乳房組織も、マンモグラフィー画像には白く写るので、X線ではたいてい違いを認識できません。脂肪の多い乳房の上部にあればこの腫瘍ははっきり見えますが、高濃度の乳房に腫瘍があったら見えにくいというのはおわかりでしょう。ですから、マンモグラフィーを使うと脂肪性の乳房では80%以上の腫瘍を発見できるのに対し、非常に高濃度の場合は40%ほどしか発見できないのです。

残念な事に、乳腺濃度は癌の発見を困難にするだけでなく、実は乳癌の危険性を予知するものでもあるのです。親族に乳癌の人がいるという事よりも強力な危険因子なのです。患者に質問された当時、放射線医学の文献では乳腺濃度の扱いは薄く、マンモグラフィーを受ける女性も検診を勧める医者もよく理解していませんでした。でも、ほかに手立てがなかったのです。

マンモグラフィーは1960年代からありましたが、ほとんど進化していません。2000年にデジタル・マンモグラフィーが認可されるまで革新など 無かったと言えるほどです。デジタル・マンモグラフィーも胸のレントゲンですが、デジタルカメラと同じように、その画像をデジタルで保存し操作する事ができます。米国は40億ドルを投資して、マンモグラフィーの装置をデジタルに変えました。この投資が何をもたらしたでしょう? 税金を2千5百万ドル使って行った調査によると、デジタル・マンモグラフィーは 従来のマンモグラフィーに比べ何にも利点はありません。それどころか、高齢の女性にとっては悪くなったのです。しかし、よい結果が見られる場合もありました。50才未満・閉経前で乳腺濃度が高い女性では、デジタル化によって2倍の癌を発見できるようになりました。それでも60%しか発見できません。
というわけで、デジタル・マンモグラフィーは、この機械のメーカーにとっては 非常に大きな躍進となりましたが 、女性にとっては小さな一歩にすぎませんでした。

では超音波はどうかというと、他の技術に比べ不必要な生検を増やすので、あまり広く使われていません。MRIは非常に感度良く腫瘍を発見できますが、非常に高価でもあります。多大な影響を及ぼしたテクノロジーというのは、どれもたいてい進化するごとに小さく安価になる傾向があります。iPodとステレオを比べてみてください。ところが医療機器はその反対です。機械は大きく、高価になっています。MRIで若い女性を検診するのは、ハマーに乗って買い物に行くようなもので、不必要に大掛かりです。MRIの検診料は、デジタル・マンモグラフィーの10倍です。遅かれ早かれ、医療革新は必ずしも高価であるべきではない事を我々も認めなければいけません。

マルコルム・グラッドウェルは、ニューヨーカー誌で革新について語り、「科学的発見は、たいていの場合ひとりの天才による賜物ではない。むしろ、観点の違う人々を同じ部屋に集め、普段話さないような事を話し合う場を設ければ、大きなアイデアが生まれる」と主張しました。TEDの本質と同じようなものですね。彼はある先駆者の言を引用しています。
「医者と物理学者が顏を合わせるのは、物理学者が病気した時だけだ」(笑)
おかしいですよね。医者はいろいろな問題を抱えながらも解決法が分からず、物理学者は解決方法を持ちながら問題に気付かないのですから。グラッドウェルの記事に添えられていたこの漫画を見てください。革新的思想家の描写ですが、何か気になりませんか?(笑)

では、ここで一つお話ししましょう。私の患者が抱える問題と、ある物理学者の解決方法が、予期せぬ巡り合わせで大発見をもたらした話です。その患者が診察に来て間もなく、メイヨークリニックでマイケル・オコナーという原子物理学者に出会いました。彼の専門は循環器画像で、私には縁のない分野でした。イスラエルで開催された、新しいタイプのガンマ検出器に関する会議から戻ったところでした。ガンマ画像法は、心臓を撮影するために以前から使われており、乳房を撮影する試みもされていましたが、問題がありました。ガンマ検出器は、非常に大きいチューブで結晶シンチレータが一杯入っており、小さな腫瘍を探せるほどまでは乳房に近づけられなかったのです。ガンマ線はX線と違って乳腺濃度に影響されないという長所がありましたが、ガンマ検出器では腫瘍が小さいと発見できません。小さな腫瘍を発見できるかどうかで命が左右されます。腫瘍が1センチ未満の時に発見できれば生存率は90%ですが、腫瘍が大きくなるごとに生存率は急降下します。しかし、マイケルは新しいタイプのガンマ検出器について話してくれました。これがそれです。大きなチューブと違い、半導体素子が層になっており、それがガンマ検出器として作用するようになっています。そこで彼に乳腺濃度の問題を話してみたところ、この検出器なら乳房に近づけ、小さな腫瘍を見つける事ができるかもしれないと判断したのです。

そこでこれを格子状に並べてテープで貼り合わせて(笑)、捨てられかけたマンモグラフィー機のX線受光部をマイケルが取り外して、そこに新しい検出器を取り付けました。その機械をMBI――分子乳房画像装置(Molecular Breast Imaging)と呼ぶことにしました。これが最初の患者の画像です。古いガンマ検出器を使った場合、ノイズにしか見えませんが、この新しい検出器を使うと腫瘍の外郭が見えるようになります。

こうして、原子物理学者と内科医に医用生体工学者のキャリー・ラシュカと二人の放射線科医が加わり、確立されたマンモグラフィーの世界に挑戦することにしたのです。ツールはガムテープでくっつけたこの機械。当初、みんなから相当疑いの目で見られました。というか、疑いどころではありませんでしたが、これならうまくいくかもしれないと信じていたので、少しずつこの装置を改良していきました。これが現在の検出器です。初号機とはかなり違います。ガムテープも使っていません。胸の上部にも検出器を加え、腫瘍の検出精度がさらに高まりました。

どういう仕組みでしょうか? まず患者に放射性トレーサを投与すると、それが急増する腫瘍細胞に取り込まれます。正常細胞には取り込まれません。これがマンモグラフィーとの大きな違いです。マンモグラフィーは、腫瘍を、周囲の組織との見え方の違いで確認しますので、乳腺濃度が高い場合は見分けにくくなります。しかしMBIの場合、腫瘍における分子の挙動が異なる事を利用するので、乳腺濃度には影響を受けません。投与した後、患者の乳房を検出器の間に挟みます。マンモグラフィーを受けた事のある方、マンモグラフィーを経験した年の方は次に何が来るかご存知でしょう。
痛みです。
驚くかもしれませんが、マンモグラフィーは放射線医学界で唯一、連邦法による規制があるのです。法律によると、検診の際に、18kgの車載バッテリーに相当する加重で乳房を上から押さえつけねばならないのです。しかしMBIは、軽くて痛みのない押さえ方で検診します(拍手)。検出器は、画像をコンピュータに送信します。

これがその一例です。左のマンモグラフィー画像ではかすかに腫瘍が見え、周囲は高濃度の組織によってぼやけています。しかし、MBIの画像では腫瘍は鮮明で、二つ目の腫瘍もよく見えます。これは手術をするか判断する際に大いに役立ちます。この例では、マンモグラフィー画像で見ると一つですが、目立たない腫瘍も三つある事が分かりました。そのうちの一つはほんの3ミリです。

チャンスは2004年にめぐって来ました。小さな腫瘍を発見できる事を証明した後、この画像を使って、スーザン・G・コーメン基金に助成金を申請しました。嬉しいことに、彼らはこの無名のグループに賭け、研究の助成金を出してくれたのです。高濃度乳腺の女性1,000人を対象に、マンモグラフィーとMBIを使って検診し、その結果を比べるという研究でした。発見した腫瘍のうち、マンモグラフィーでは25%しか見つかりませんでしたが、MBIでは83%が見つかりました。これが、その研究で使われた画像です。マンモグラフィーでは異常なしでしたが、高濃度組織がかなり写っています。一方MBIでは、吸収率の高い2センチの腫瘍が見つかりました。このケースでは1センチの腫瘍でした。そして、このケースは、メイヨークリニックで働く45才の医療秘書で、若い時に母親を乳癌で失くしており、我々の研究に協力したいとの事でした。彼女のマンモグラフィー画像には高濃度組織が見られますが、MBIでは吸収率の高い心配される部分がありましたが、カラー画像で、このようによく見えます。これはゴルフボール大の腫瘍に相当します。幸い、リンパ節に移転する前に取り除く事ができました。

こうして、この装置を使えば、高濃度乳腺でも3倍もの腫瘍を発見できると分かり、重要な、ある問題の解決を迫られました。放射線の量をいかに少なくするかです。これを達成するために、この3年間、画像化技術をあらゆる側面から見直してきました。その結果、現在の照射量はデジタル・マンモグラフィー1回と同程度にする事ができ、この低照射量で診断できるか研究を続けています。3週間前、67才の女性を検診したところ、デジタル・マンモグラフィー画像では正常と読影されました。しかしMBI画像を見ると、吸収量が多く大きな癌だと分かりました。ですから、恩恵を受けるのは若い女性だけでなく、高濃度の乳腺をもった年配女性も恩恵を受けられます。そして、今ではガンマ線を利用したほかの技術と比べて照射量は5分の1となっています。

MBIは乳房一つに対し四つの画像を撮影しますが、MRIは千以上の画像を撮影します。ですから、放射線科医は何年も専門的な訓練をしなければ、解剖学的に見て正常な組織から、腫瘍と疑われる要注意部分を見つけ出す事ができないのです。しかしMBI画像で腫瘍を見つけるのは、放射線科医でなくとも可能だと思います。でも、そうであるからこそMBIは破壊的だとみなされるのでしょう。MRIと同じくらい正確で、読影はずっと簡単で、コストもほんのわずかです。しかし、乳房画像界では現状維持をしようとする力が働いている理由も理解できると思います。

研究で驚くべき結果を得られたと思ったのに、4誌のジャーナルが論文の掲載を拒否したのです。そこで我々は、論文の再査読を申請しました。拒否した査読者の一人が競合する技術に関与していて、財政的に利害が対立していると強く感じたからです。その後論文は受け入れられ、今月中(注:このプレゼンテーションは2010年12月に行われました)に「ラディオロジー」誌に 掲載される予定です(拍手)。
低照射量で診断できるかという調査はまだ終わっておらず、他の施設でも結果を再現しなければなりません。これは5年以上かかるかもしれません。このテクノロジーが広く受け入れられても、私が金銭的に利益を得る事は全くありません。それは、私にとってとても大事なのです。私はみなさんに真実を伝え続けたいからです。でも、このテクノロジーが受け入れられるようになるには、科学的な裏付けだけではなく、経済的な力や政治的な力に影響される事は分かっています。

MBI装置はアメリカ食品医薬品局(FDA)の認可を受けましたが、まだ広く使われていません。ですから、高濃度乳腺の女性は、利用できるようになるまで、自分を守るために次の事を知っていてください。まず、自分の乳腺濃度を知ること。90%の女性は乳腺濃度を知りません。95%の女性は、知らないでいると癌のリスクが高まる事に気付いていません。コネチカット州はマンモグラフィー検診の後、患者に乳腺濃度を知らせるという義務を課した、最初で唯一の州です。私は先週、シカゴで6万人の人と共に乳房画像の会議に出席しました。患者に乳腺濃度を知らせるべきかという事について激しい議論が交わされた事に私は驚きました。当然知らせるべきです。もし知らないならば、医者に聞くか、マンモグラフィーの検診結果を詳細に読んでください。次に閉経前の女性なら、マンモグラフィー検診を受けるのは乳腺濃度が比較的低い、月経周期の最初の2週間にしてください。また、乳房が継続的に変化しているようであれば画像検診をさらに要求してください。最後に、最も大事な事です。マンモグラフィーの議論は続きますが、40才以上の女性は全員、毎年マンモグラフィー検診を受けるべきです。

マンモグラフィーは完璧ではありませんが、乳癌による死亡率を減らすと証明された唯一の検診法だからです。でもこの死亡率を掲げる事は、致命的でもあるのです。マンモグラフィーの熱烈な支持者たちは死亡率を盾に革新を妨げるからです。乳癌になって何年も経ってから死亡する人もいます。幸いにも、ほとんどの女性は助かります。ですから、どのような検診法であっても乳癌の死亡率を減らせる、と証明するためには10年以上もかかります。現在、その効果を断言できるほど長く使われて来たのはマンモグラフィーだけです。マンモグラフィーの素晴らしい成果とその限界を、今こそ私たちは認めるべきです。乳腺濃度に応じて、個人にあった診断をするべきです。乳腺濃度が低い女性は、マンモグラフィーが最適です。しかし、乳腺濃度の高い女性に対しては診断をあきらめるのではなく、もっと精度の高い検診を施すべきです。

あの患者に初めて質問された時、私たちが身ごもっていた赤ん坊は、今では二人とも中学校に通っています。質問の答えを出すまでとても時間がかかりました。彼女は、自分の経験を皆さんに話してもいいと言ってくれました。生体組織検査で、癌になりそうな事がはっきりと分かった事と、姉を癌で失った事から、彼女は予防的乳房切除という辛い決断をしたのです。私たちはもっと努力できるし、努力しなければなりません。彼女の孫娘や私の娘を救うのはもちろん、皆さんを救うのに間に合うように。

ありがとうございました。

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このプレゼンテーションについて:

物理学者グループと共にデボラ・ローズ博士は、高濃度の乳腺組織を持つ女性にとって、腫瘍の発見に、従来のマンモグラムより3倍も効果がある新しいツールを開発した。このツールによる救命の可能性は相当なものである。ではなぜ一般には知らされていないのだろう? ローズ博士はツールの作成の裏話、一般使用を妨げる政略および経済の絡みについてを語る。

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