iPS細胞技術を活用した未来の医療について

2021.03.20|text by 岡野 栄之

第7回

『慶應義塾大学アントレプレナー育成コース』

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慶應義塾大学アントレプレナー育成コース

慶應義塾大学ではアントレプレナーの育成を始められると伺いました。

前回、オープンイノベーションへの流れは劇薬だと申し上げましたが、やはりそちら側をする人も必要なので、慶應義塾大学では大学院医学研究科の修士課程にアントレプレナー育成コースを設置しました。慶應義塾大学の良いところは総合大学であるところなので、SFCの環境情報学部の先生方やビジネススクールの経営管理研究科の先生方にも教育をお手伝いいただき、医療系のアントレプレナーを育成します。2021年春の入学者からスタートするのですが、誰も応募してこなかったらどうしようと不安になっていたら、色々な企業の方や社会人の方から応募がありました。
 

注目されているのですね。

そうなんです。東京都の職員も応募していて、オリンピックが終わったらこちらに力を入れたいと言っていました。これで経済活性化に繋がればと思っていますが、私たちはこればかりをしているわけにはいきません。
 

基礎研究も大事ですね。

アントレプレナーで言えば、東京大学もすごいですよね。本郷あたりのビルには東大発のベンチャー企業が色々と入っています。昔の東大生とはイメージが違いますよ。まあ、あのホリエモンだって、東大ですしね(笑)。世界的にも同様で、スタンフォード大学だけでなく、ハーバード大学やMITでもそうみたいです。若い人たちのモチベーションはそういうところで支えられているのでしょう。昔の知的好奇心みたいなものはないのかもしれませんが、それはそれで研究が進めばと思っています。
 

昨今の臨床の現場についてはどのようにご覧になっていますか。

色々なことが混乱しているので、もう少し健全化してほしいです。新専門医制度や働き方改革など、とにかく現場は混乱しています。病院のマネジメントは非常に難しい状況にあります。
 

公的病院の統廃合の問題もあります。

患者さんのことを考えていない発想ですよね。中長期的なビジョンも感じられません。一方で、医師不足ですし、国から増やせと言われても無理な話です。
 

これからは開業することも難しくなるようです。

そういう話を聞くと、優秀な人が医学部に来なくなりますし、それは良くないです。そうすると、医学の知識を活用して色々なことで生きていくことが大事だということになり、ではベンチャーかという話になります。しかし、ベンチャーばかりになるのも困りますしね。私はそちらを推進する側でもありますが、それは大学自体を強くしたいためです。国際的に戦える大学になるためには資金力が必要ですし、それをつけるために考えていることの一つにすぎません。我々としては学生や若い人たちのモチベーションを保ち、さらに上げていかなくてはいけないと思っています。
 

著者プロフィール

岡野栄之教授 近影

著者名:岡野 栄之

慶應義塾大学医学部生理学教室 教授

  • 昭和49 (1974) 年 3月 東京都世田谷区立山崎中学校卒業
  • 昭和52 (1977) 年 3月 慶應義塾志木高等学校卒業
  • 昭和52 (1977) 年 4月 慶應義塾大学医学部入学
  • 昭和58 (1983) 年 3月 慶應義塾大学医学部卒業
  • 昭和58 (1983) 年 4月 慶應義塾大学医学部生理学教室(塚田裕三教授)助手
  • 昭和60 (1985) 年 8月 大阪大学蛋白質研究所(御子柴克彦教授)助手
  • 平成元 (1989) 年10月 米国ジョンス・ホプキンス大学医学部生物化学教室研究員
  • 平成 4 (1992) 年 4月 東京大学医科学研究所化学研究部(御子柴克彦教授)助手
  • 平成 6 (1994) 年 9月 筑波大学基礎医学系分子神経生物学教授
  • 平成 9 (1997) 年 4月 大阪大学医学部神経機能解剖学研究部教授
  • (平成11 (1999) 年 4月より大学院重点化に伴い大阪大学大学院医学系研究科教授)
  • 平成13 (2001) 年 4月 慶應義塾大学医学部生理学教室教授〜現在に至る)
  • 平成15 (2003) 年より21世紀COEプログラム「幹細胞医学と免疫学の基礎-臨床一体型拠点」拠点リーダー
  • 平成19 (2007) 年10月 慶應義塾大学大学院医学研究科委員長
  • 平成20 (2008) 年 7月 グローバルCOEプログラム「幹細胞医学のための教育研究拠点」(医学系、慶應義塾大学)拠点リーダー
  • 平成20 (2008) 年 オーストラリア・Queensland大学客員教授〜現在に至る
  • 平成22 (2010) 年 3月 内閣府・最先端研究開発支援プログラム (FIRSTプログラム)
  • 「心を生み出す神経基盤の遺伝学的解析の戦略的展開」・中心研究者 (〜平成26年3月まで)
  • 平成25 (2013) 年 4月 JST・再生医療実現拠点ネットワークプログラム(拠点A)
  • 「iPS細胞由来神経前駆細胞を用いた脊髄損傷・脳梗塞の再生医療」・拠点長
  • 平成26 (2014) 年 6月 文部科学省・革新的技術による脳機能ネットワーク全容解明プロジェクト(中核機関・理化学研究所)・代表研究者
  • 平成27 (2015) 年 4月 慶應義塾大学医学部長(~平成29年9月)
  • 平成29 (2017) 年10月 慶應義塾大学大学院医学研究科委員長(~現在に至る)
  • 平成29 (2017) 年10月 国立大学法人お茶の水女子大学学長特別招聘教授(~現在に至る)
  • 平成29 (2017) 年10月 北京大学医学部客員教授(~現在に至る)
主たる研究領域

分子神経生物学、発生生物学、再生医学

受賞歴
  • 昭和63 (1988) 年 慶應義塾大学医学部同窓会・三四会より三四会賞受賞
  • 平成7 (1995) 年 加藤淑裕記念事業団より加藤淑裕賞受賞
  • 平成10 (1998) 年 慶應義塾大学医学部より、北里賞受賞
  • 平成13 (2001) 年 ブレインサイエンス振興財団より、塚原仲晃賞受賞
  • 平成16 (2004) 年 東京テクノフォーラム21より、ゴールドメダル賞受賞
  • 平成16 (2004) 年 日本医師会より、日本医師会医学賞受賞
  • 平成16 (2004) 年 イタリアCatania大学より、Distinguished Scientists Award受賞
  • 平成18 (2006) 年 文部科学省より「幹細胞システムに基づく中枢神経系の発生・再生研究」文部科学大臣表彰(科学技術賞)
  • 平成19 (2007) 年 STEM CELLS (AlphaMed Press) より、STEM CELLS Lead Reviewer Award受賞
  • 平成20 (2008) 年 井上科学振興財団より井上学術賞
  • 平成21 (2009) 年 紫綬褒章受章「神経科学」
  • 平成23 (2011) 年 日本再生医療学会よりJohnson & Johnson Innovation Award受賞
  • 平成25 (2013) 年 Stem Cell Innovator Award受賞
  • (GeneExpression Systems & Apasani Research Conference USAより)
  • 平成26 (2014) 年 第51回ベルツ賞(1等賞) 受賞
  • 平成28 (2016) 年 The Association for the Study of Neurons and Diseases (A.N.D.) よりMolecular Brain Award受賞
  • 平成28 (2016) 年 慶應義塾大学よりFaculty Award for Internalization 2016 (Impact factor Most Outstanding Award) 受賞
資格・学位
  • 昭和58 (1983) 年 7月 医師免許(昭和58年5月医師国家試験合格)
  • 昭和63 (1988) 年 7月 慶應義塾大学より医学博士
学術誌編集
  • Inflammation and Regeneration, Editor-in-Chief
  • Development of Growth Differentiation, Editor
  • The Keio Journal of Medicine, Editor
  • Stem Cell Reports, Associate Editor
  • eLife, Board of Reviewing Editors
  • Cell & Tissue Research, Section Editor (2003~2006)
  • Neuroscience Research, Associate Editor
  • J. Neuroscience Research, Associate Editor
  • Genes to Cells, Associate Editor
  • International Journal of Developmental Neuroscience, Associate Editor(2000~2003)
  • Stem Cells, Editorial Board
  • Cell Stem Cell, Editorial Board
  • Developmental Neuroscience, Editorial Board
  • Differentiation, Editorial Board
  • Regenerative Medicine, Editorial Board
バックナンバー
  1. iPS細胞技術を活用した未来の医療について
  2. 07. 慶應義塾大学アントレプレナー育成コース
  3. 06. 研究成果を伝える
  4. 05. 研究者を育てる
  5. 04. 再生医療の現状
  6. 03. アルツハイマー病の解明
  7. 02. 脊髄再生への挑戦
  8. 01. iPS細胞技術研究の意義

 

  • Dr.井原 裕 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
  • Dr.木下 平 がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
  • Dr.武田憲夫 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
  • Dr.一瀬幸人 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
  • Dr.菊池臣一 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
  • Dr.安藤正明 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長
  • 技術の伝承-大木永二Dr
  • 技術の伝承-赤星隆幸Dr